3人の者が街道の側を歩いている。 少し前に多くの者が離れていった地へ向かって・・・
1人の生まれ故郷・・・そして、今は魔物の巣窟となった地へと。
野外探索の技を得意とするハイルティが斥候となり、そこから少し離れてソディアスとラフドーが続く。

一行は、魔物達の目から隠れるため、街道を少し外れた草叢の通ってリエッドウェイまで向かっていた。
馬を使わず、まして草むらの中を進んでいるため、時間がかかってはいるが、
そのおかげもあって、今まで魔物に発見されることもなく進むことができた。
「この調子だと・・・着くのは夕方か・・・」 ソディアスがそう呟く。
「心配する事はないはずだよ。 教団が狙っているのは邪神の復活のはず・・・
 それを阻止するための封印がリオスファーには幾つもあるからね。
 そちらを押さえたって噂もないし、邪神より先に甦るという強力な下僕が
 現れたって話も聞かないからおそらく間に合わないってことはないはずだよ。
 それに、街の人たちもおそらく潜伏もしているだろうし・・・
 ソディアスが心配するような事態にはなっていないはずだよ        」
・・・と少し引き返してきたハイルティが答える。
  ハイルティとて心配がないわけではないのだが、ソディアスを安心させるため
  余裕を装っているのである。

3人がそんな話しをしていたときである。 地面が突如、不自然な動きを見せはじめた。
「!・・・気付かれたか?」
素早く辺りの様子を探ると、何者かが隠れているのが分かる。
向こうもそれに気付いたのか姿を現し襲いかかってきた。
「妖魔じゃ! 迎え討つぞ、ソディアス、ハイルティ!」

敵の妖魔の数は3体・・・そのうちの1体は細身ながら他の者とは明らかに異なる瞳の輝きを秘めていた・・・
その妖魔が気合いの声を発するとともに、地面を何らかのちからが流れてゆく。
そしてハイルティたちの周囲の地面がうねりをあげ彼らの動きを封じようとする。
「そうはさせない!」
だが、彼らを縛る一瞬前に素早く魔法に反応したソディアスが飛び出し細身の妖魔に切りつける、
だが、敵も身軽さを活かし浅手だけでしのいでいた。
そして、一人突出したソディアスに対して他の妖魔たちが襲いかかろうとした。
しかし、それ襲撃は半分しかおこなわれなかった。
射手たるハイルティの放った矢によって、深手を負い動けなくなっていたのだ・・・
さらに、その弓の一閃によって怯んだもう一体に対しても、
追いついたラフドーの斧が突出した者への襲撃をついえさせていた
それで戦いの行方は決したと言ってもいいだろう・・・
ソディアスとラフドーの刃に加え、機を見て打ち込まれるハイルティの矢が
敵の戦力を着実に削いでいき、決着がついたのだから・・・

3人は、他の敵に気付かれぬよう先ほどの魔物の始末をし、
リオスファー最大で“あった”都市、リエッドウェイへと足を進めて行った・・・



3人がリエッドウェイの街に到着したころには、すでに夕暮れの太陽が街を赤く染めていた・・・
だが、それは幸いだったのかもしれない。 ここに住んでいた人々を流れる赤きものの
無惨に散った姿を見せずに済んだのだから・・・
「・・・ソディアス、まず何から確かめるのじゃ?」
ラフドーが、沈んだソディアスに対して声をかける。 
しかし彼は答えない・・・それを言うことをためらっているように見えた。
「絶望を知ることを恐れては希望を知ることは出来ない・・・わしが若いころ、
 面倒をみていた奴に行った言葉じゃ。 今のおまえにもあてはまるのではないのか?」
その言葉を聞き、心にとどめてから少ししてソディアスは答えた。
「屋敷のほうに行こう・・・ぼくを生んだ父と母、それに妹のフィリンの住んで“いる”あそこへ・・・」
(やっぱり、忘れられないんだな・・・生みの両親が育てなかったことを・・・)
ハイルティはふとそんなことを思うのであった・・・
そう、リエッドウェイの街は十数年前には圧制下にあり、その環境では育てられないと考えたソディアスの両親が
エターナリアの村に住む知り合いのエルフの元にソディアスを預けたのだ。
その後に革命が起こり、その中心の一部を担った両親は裕福となり、今の屋敷に住んでいるのだが
そんな運命をたどったソディアスは生みの両親にはなつこうとはせず、
育ててくれたエルフの女性を自分の母親のように思うようになっていた・・・
しかたなく生みの両親はそのままソディアスを預けることにし、現在までに至っているのである。
そんな経緯があってか、ソディアスは生家の家名を名乗らず、
数多くある伝承に伝えられる言葉の中から自らの性質に近き“ミグライド”を名乗っているし
もはや生家との関係もほとんど絶っている・・・のちに生家に生まれた娘“フィリン”を
妹と呼び、兄妹のように接しているのをのぞいて・・・

屋敷の中は、荒れていた・・・しかし、争いが激しかったとは思えないような荒れようであった。
そんな屋敷の中で希望を求めてさまようソディアスたちは、何者かの気配を感じとった。
「気付かれたか?」 ハイルティがそうつぶやきながら相手の気配を探る。
薄暗い屋敷の中では相手の姿も詳しくは分からないが、相手もこちらの存在には気付いているようだ・・・
「行くのか?」 「うん」 短い言葉で仲間の意志を確認した3人は、
身構えつつ相手との距離を詰めていった・・・そのとき、相手からの声が届く。
「待て、俺は敵じゃないはずだ・・・お前たちが邪神の手先じゃないんならな」
そういって、1つの人影が現れる。 お互いに身構えたままではあるが・・・
「味方・・・だというのか? お前さんは一体・・・」
「先におまえらのことを話してくれないか? そうじゃないと、この人数じゃ安心して話せないからな」
一見探索者風のその現れた若者は、冷静にそううながした。
それに答え、ハイルティたちが事情を話すと、相手も自らの素性を語りだした・・・

「俺はスティーン。 見ての通り探索者だ・・・今は
 反邪神を掲げ、各地に散らばる抵抗組織とともに活動している・・・」
そこまで彼が言ったところで、ソディアスが口をはさむ。
「抵抗組織・・・すると、フィリンは・・・街のみんなは無事なのか?」
「この街に住んでいた者たちは、かなりの奴が命を落としたが半分以上生き残っているのは間違いないはずだ。
 それと、お前には残念だが・・・領主夫妻は死んだ・・・教団の手先の魔物に殺されたらしい・・・」
「そんな・・・」 ソディアスが絶望を込めた呟きをもらす・・・が、
スティーンはさらに語った。 僅かな希望を与える言葉を・・・
「だが、その領主の娘が死んだって話は聞いてない。 俺もこっちに来たばかりなんで
 詳しいことは分からないがどこかに身を潜めてるのかもしれない・・・」
「こっちに来たばかり? というと・・・」
ハイルティの言葉に、スティーンは自身の事情を語る。
「俺自身も奴らには恨みがあるんでな・・・
 教団の奴らを追って、このリオスファーまでやって来たってわけだ。」
そこで一旦言葉を区切ってからスティーンは再度語り出す。
「・・・それよりだ、屋敷の庭の一角に抜け道を見つけたんだが、調べに行くのを
 手伝ってはくれないか? 一通り調べてから応援を頼もうかと思ってたんだがな」
「うん・・・行こう」
彼の問いかけにソディアスは応じた・・・自らの僅かな希望を確かめるために・・・

「行くぜ」 スティーンは開いたその抜け道を指し、残りの3人を促す。
4人は、その暗き通路へと足を進めていった・・・
「暗いが大丈夫か?」 スティーンの問いかけに3人は大丈夫と答える。
ソディアスとハイルティは、精霊のちからを感知できるだけに
隠れてない相手ならば如何に暗かろうと「見る」ことができるし。
ラフドーも、洞窟や坑道に慣れたドワーフである以上、暗闇でも支障はないのだ。
そんな4人が通路を進んでゆくと、動き出すものがいた・・・
「小型の魔法像・・・って、こっちは敵か?」
ソディアスはそう判断した。 フィリンも魔術を多少は扱えるが、
この手の類は得意でもないしする性格でもない、そう考えたからだ。
敵の魔法像は2体・・・ラフドーが前に進み出ようとしたが、ソディアスが引きとめる。
「ぼくが先に回り込む、小父さんはそのあとに・・・」
そう言ってソディアスが進み出ようとすると、今度はスティーンも動きだした。
「俺も動きには自身がある。 機を見てどちらかが回り込もうぜ」

その戦いはあっけないものだった・・・
片手の短剣ともう片手の短き魔法棒とを使ったスティーンのフェイントのおかげで
容易に回り込むことに成功したソディアスとスティーンの2人が、
反対側のラフドーとともに挟撃をかけ、一気に粉砕したのだ・・・
その戦いの後、
「きみは、魔術も使えるの?」 というソディアスの素朴な疑問に
「まあ、少しだけだがな。 機会があったら見せるさ」 と、スティーンも軽く答えるのであった。
もっとも、すぐ後にその機会が来るとは思ってもなかったのだが・・・

4人がさらに進んでゆくと、途中から道が舗装され、その先には邪気がうずまいていた。
どうやら、この場所と地上とをつなぐために先ほどの通路があったようだ。
その道を進んで行くと、少し開けた場所に出た・・・周囲にはいくつかの牢獄がある。
その牢獄の主のほとんどは、すでに朽ち果てた骸であったが、
たった1つだけ、命ある者が捕らわれし牢獄があった・・・
「ねえ、しっかりして! 今助けるよ。」
ソディアスが声をかけると、その牢に捕らわれていた赤髪の少女は目を覚まし、
知られぬ言葉で短く答える・・・その後、記憶を手繰りよせるかのかのように静かに問うた・・・
「ここは?  あなたたちは・・・誰?」
「俺達は、あんたを捕まえてた教団と対立する者だ」
そう答えながら、スティーンが牢の鍵を解き放つ・・・そして、少女に出るように促す。
「教団・・・?  そう、わたしはあのひとたちに追われてて・・・」
「何か奴らに狙われる心当たりはないのかい?」
今度はハイルティが問う・・・しかし、少女は苦しげな表情を浮かべて
「・・・・・・わたし、古い何かの建物の近くにいて・・・外からあのひとたちがやってきて・・・
 それしか覚えてないの・・・あとは何も、自分が誰なのかも・・・」
と、ぽつりぽつりと答えただけだった・・・
「まさか、記憶を消されてしまったのじゃろうか? 何かを知ろうとして・・・」
「本当に何も分からないの? 自分の名前さえも」
ラフドーとソディアスとが、何気なくつぶやく。 しかし、それが意外な効果をもたらした。
「名前?・・・」 その少女は一瞬の沈黙のあと、思い出したかのように語りだした。
「そう・・・わたしは、リブライア。  リブライア・エストーヌといいます。
 あの教団のひとたちは、わたしのことを“あの忌まわしきちからを秘めた者”と呼んでいました。
 そのちからがどのようなものかは、わたしにも分からないのですが・・・」
その少女、リブライアはそこまで言って言葉を濁した・・・
とそのとき、4人が入ってきた方から、足音が響いてきた。
5人がその方向を見ると、その通路から教団の者らしき男が現れた。
「ほう・・・まさかここに乗り込んでくる輩がおるとはな・・・
 だがここから外には出さん。 深く入り込んだ自らを呪うがいい!」
そう言い放つと男は身構えつつも暗黒の呪術を唱え出した・・・

「ちっ、勘づかれたか。」 スティーンがそう呟きながら、素早く身構える、
それとともに、こちらも素早く魔法を唱え出す。
他の3人もそれにならい、身構えてゆく・・・
だがしかし、4人が動き出す前に敵の呪術が完成し、5人のもとに生命を傷つける衝撃が走った!
だが、そのちからが完全に効果を発揮する前に、薄い光が5人を包み、呪術のちからを弱めた。
くっ・・・助かったよ。 スティーンさん」
抗魔の魔法を使ったスティーンにソディアスが礼を言う。
「油断するんじゃねえぞ、こいつなかなかやるようだからな」
そう返したあと、再び魔法を唱え出すスティーン。
一方、ソディアスもまた、魔法を唱え出す。 だが、それに敵の嘲笑が飛ぶ。
「馬鹿め、風も吹かぬこの地下神殿で風精の魔法を使うだと?  ・・・な、なに!?」
その教団信徒の予想に反して、ソディアスは風の刃をたたき込んだ!
さすがの敵も、ソディアスが通常の精霊術師と違い、
風精のちからをその身に宿していることは予想もつかなかったらしく、そこ刃をまともに受ける!
その隙をついて、スティーンの魔力を得た斧を構えたラフドーが斧を振るう。
狙いは違わず、その斧は信徒の胴に深手を追わせた。
だが、致命傷にさえなりかねないその深手を負ってもまだ、信徒は動きを鈍らせない。
そして、人間に近きその体格からは想像もつかぬほどの力で、ラフドーに鎚鉾を叩きつける!
「ぐはっ・・・なんじゃと? まだ・・・動けるというの・・・か・・・」
崩れゆくラフドーが見たものは、伝説に伝えられる魔族へと姿を変えつつある信徒の姿であった・・・
そして、その魔族に止めを刺されるかと思っていたラフドーにその最後の時はおとずれなかった。
そして、変わりに届いたのはソディアスの怒号と、激しく何かが叩きつけられる音と、
透き通った声の詠唱だった。
気がついた彼の目に入ったのは、傷の大半がいやされている己の身体と、
魔族の攻撃で吹き飛ばされたソディアス、
そして先ほどの透き通った声でいやしの魔法を唱えるリブライアの姿であった。
「お前さんは、いやしもつかえるのか?」 そう問いかけるラフドーに対し、
リブライアは軽くうなずき、ソディアスの傷を治してゆく。

しかし、回復したソディアスたちが攻撃をいくら攻撃を加えても
次々と再生していく魔族になかなか効果を与えられず、徐々に押されつつあった・・・
「まずい、このままじゃ・・・」 「せめて、もう少し動きを鈍らせられれば・・・」
ソディアスとハイルティが口々に音を上げそうになる。 だが、それを聞いたスティーンが
「一瞬だけならやれないこともない・・・それで出来るか?」 と問いかける。
それを聞いてソディアスはスティーンの考えを理解したのか魔族にフェイントを掛けに行く。
そして、そのソディアスを援護するラフドーといやしに備えるリブライア
その脇で、ハイルティとスティーンが機をうかがっている・・・
「今だ!」 スティーンの叫びに反応し素早く飛び退く2人。
その一瞬後に、スティーンの放った魔法煙によって、魔族の構えがふらつく。
一方、ハイルティのほうも、弓を構えつつ詠唱を続ける。
そしてその詠唱に呼応し、構えた矢に光が集まってゆく・・・
「これで終わりだ!」 ハイルティが気合いの声とともに、その光輝く銀閃を放つ!
狙いは違わず、その銀閃の矢は魔族の胸を貫いた!
「ぐ・・・ぐあぁぁぁ」
魔族の絶叫が響き、かの者の姿が塵と化してゆく・・・
「か・・・勝ったのかな?」 ソディアスがつぶやく。
だがしかし、すでに安心できない状況が近づいていた!


安堵した一行に向かって、幾体もの魔獣が地下神殿の奥からやってきたのだ!
「まずい、逃げるぞい」 ラフドーの声に従い、5人は外への道を走った。
屋敷の外に逃れ、隠れ場所を探す5人の前に、
突如道端を扉のように開き、中へと手招きする者が現れる。
5人は、彼の案内に従い、その穴へと潜り込んだ!
一瞬の後、通り過ぎる魔獣たちの足音が過ぎ去っていく。 どうやら逃げられたようだ・・・
5人はその穴、すなわち抵抗組織の隠れ家の奥へと案内される。
とそこで、ソディアスは聞き慣れた、忘れることの出来ぬ声を耳にした・・・
「!・・・おにいちゃん! 無事だったんだね」
ソディアスが振り返ると、そこには・・・