錬金術

Alchemy

アルケミーAlchemy→錬金術、アルケミストAlchemist→錬金術師と訳されたため、金を作り出すための学問と誤解されているが、それは一側面に過ぎない。では錬金術は本来どういったものか・・・

まず語源だが錬金術を表すAlchemyという英語はアラビア語に由来し、アラビア語の定冠詞alと金属を変容させるの意であるchemyからなる。

chemyは化学Chemistryの語幹であり、これは語源的にも錬金術と化学が近しいものであることを示している。

chemyの語源には有力な説が二つあるので、紹介しよう。

エジプト語源説・・・chemyはエジプトの古語であり「黒い土地」を意味するkhemから派生したと言われる。
従ってalkhemとは黒い土地の技を意味する。古代において黒い地とはすなわち、エジプトである。
エジプト語のkhemはナイル川のもたらす豊穣の黒土を意味し、万物が生まれる聖なる始原であると考えられた。

ギリシャ語源説・・・植物の汁という意味を持つKhumosから来ているという説。

蛇足だがギリシャでも始原の混沌(カオス)から生じた暗黒の夜(ニュクス)が宇宙の母だとする思想があり、エジプトではこれらの思想が暗黒の死から蘇る最高神オシリスの神話と結びつき、そのオシリスは変幻する黒い金属「鉛」と同一視された。

これがさらに知識体系という意味のラテン語NOMYEと融合してALCONOMYEとなり、ALCHEMYとなったという。
さらにその後、定冠詞AL-の落ちたCHEMYという形になり、専門家という意味の接尾語ISTを伴ってCHEMIST(錬金術師)となったり、CHEMICと形容詞化した上で属するという意味の接尾語ALを伴ってCHEMICAL(錬金術の)となったりした。

近代、錬金術から派生した化学が、生みの親たる錬金術を駆逐すると、それぞれCHEMIST(化学者)、CHEMICAL(化学の)という意味に取って代わられ、もともとの定冠詞ALのついた形Alchemyへと落ちついたという。

錬金術は、エジプトやバビロニアの冶金術を源流にギリシアの自然哲学、ヘルメス思想とが、時代の変遷と共に文化的に融合されて形成された技術が錬金術である。

 要約すると錬金術は、金属精錬技術に哲学思想が加わり、その思想によって従来の技術が解析された上で、更に思想と技術とが洗練発展して行ったものだと言うことができる。その歴史は、古代のアレクサンドリアの錬金術、アラビアの錬金術、後期中世ヨーロッパ、ルネサンス期以降の近代に大別してその変遷を辿ることが出来る。

根源

錬金術の始まりは、ギリシア哲学でそのなかでも特にアリストテレス哲学が大本とされます。
これは物質を質量と形相で表す考えで、質量は物質の本質、形相は物質の特徴を指す。
つまり質量に形相を+・−してやることで、物質は様々な別の物質に変わりうるという考えである。
これが錬金術の基本物質観である。

ちなみにギリシア哲学から土、水、火、風(空気)の四元素と、その相互変換の理論が生まれたという。また惑星と金属との照応の思想も成立していた。

次に技術的な発祥だが、エジプトやメソポタミアの科学技術・治金技術が発祥というのが通説。
紀元前16世紀辺りの古文書には石鹸の製造法まで記されていたそうだ。
また電池と思わしきものも発掘されている。さらに銅鉱石から銀を抽出する製法が前13世紀の文献に記されている。

1828年にエジプトで発掘された「ライデン・パピルス」「ストックホルム・パピルス」には宝石の作成法や、着色法・金属変性法などが掲載されていたという。

すでにこの当時、金属精製の基本的技術は修得されていたようだ。
これらの職能技術者が、ギリシャの自然哲学、占星術、魔術、神学を含むヘレニズム的知識の影響を受け、エジプトはアレキサンドリアにおいて発祥したと言われる。そして実用的技術者から学究的な道へ進み、後の練金術となったとみられる。

またこの頃の錬金術師は女性が多かったようだ。
というのも、初期の錬金術は台所の片隅で、台所用品を用いて行われていたらしいのだ。
ユダヤ人のマリアという、錬金術師は、現在でも使われている台所用品をいくつか考案したという。
一説によると、ソースを作る時に使用される湯煎鍋が、バン・マリーと呼ばれるのも彼女の名前に由来しているらしい。

アラビア錬金術

前述したアレキサンドリアの錬金術が現在の錬金術へと発展した・・・というわけではない。

この技術がペルシャなどに伝わり、発展していくことになる。
そして五世紀頃に、ネストリウス派キリスト教が東方はアラビアまで移動し、錬金術も伝わることになったとされる。

ちなみにこの後、西洋錬金術は定着したキリスト教が古代ギリシャ思想を異端視し、錬金術も他の魔術と同様に排斥して途絶えてしまい、復活は千年ほど後のことになる。

というわけで、錬金術はアラビアで本格的発展を遂げることになる。ある意味では錬金術の発祥はアラビアともいえるかもしれない。
錬金術用語の多くがアラビア語が元になっているのも、いい例だろう。

アルケミー・アルコール・アランビック・エリクサーなどは、アラビア語からそのままラテン語になったものである。

また発祥地であるエジプトやそれを受け継ぐヨーロッパ以外の文化圏でも、錬金術的思想と実践は古くから行われ、中国では「練丹術」と呼ばれるものもある。これに関する最も古い文献は、前 144年、時の皇帝が発布した勅令で、黄金を作り貨幣を鋳造した者は死刑に処すという警告が盛り込まれている。またインドにも、紀元前2世紀頃に書かれた錬金術関係の資料が残っている。

地中海域とアジアの中間地点であるアラビアは、これら東西の研究を取り入れて再構築する形となったわけである。

西洋錬金術

ヨーロッパで錬金術が盛んになったのは13世紀以降になる。

初めのうちはエジプトやギリシャの思想を異端視し排斥していたキリスト教も、組織体制が整うにつれ、哲学や自然科学の技術を求めるようになった。
アラビアの影響こそ受けないものの十一世紀頃には染色技術や金属精錬の方法を記した書物が出始めたという。

その後、アラビア文献のラテン語訳が進められ、12世紀ルネサンスと呼ばれる、12〜13世紀に、錬金術思想への感心がヨーロッパで異常に高まる動きを見せる。

アルベルトゥス・マグヌス(後に列聖)は科学者として錬金術に取り組んだといい、その弟子である中世最大の神学者トマス・アクィナスも錬金術に取り組むことはなかったが、錬金術を魔法ではない(キリスト教にとって)、合法的なものとしている。
これは当時のキリスト教の知識欲求やそれに伴う、錬金術への寛容さを示しているだろう。

とはいえ16世紀になると魔術的なものと結び付けられ、弾圧を受けるようになる。

ルネサンス期の15〜16世紀、後にヨーロッパ各地に広がる知的欲求の波はまずイタリアに始まり、その分野は魔術にまで及んだ。
キリスト教にて、十二世紀ルネサンスにおいては魔術は否定され、錬金術は科学技術として許容されたのに対し、ルネサンス期には魔術もそれが神に帰するものであれば白魔術として認められたという差も、この知的欲求の高さとそれゆえの寛容さの差の顕著な例と見て良いだろう。

だが、前述したように十六世紀は、錬金術が神秘哲学と結びついて教会に弾圧され始めた時代である。

パラケルススに代表される、科学的な見地から錬金術を研究するものがいる一方、神秘哲学に傾き、魔術などと結びついて行く動きも大きかったのである。

薔薇十字団

17世紀に錬金術は新たな発展を遂げる。

薔薇十字団というドイツの秘密結社(いわゆる魔術結社というやつ)に取り込まれ、各種の魔術と結び付き影響を与え合うことになった。

現代

現代に入り科学技術の発展もあり、魔術的なものも廃れ錬金術は古い科学技術とされ廃れていくことになりました。

とはいえ、その後も芸術分野にインスピレーションを与えるなど、精神分野面において大いに貢献しているといえる。

そして現在も錬金術は研究されており大きく三派に分かれる。

まず科学者・・・金属の変性など錬金術を科学的に解明しようとする人々。昔の技術を研究する一種の考古学といえるかもしれない。

神秘哲学者・・・錬金術の魔術的な面を受け継ぎ、哲学や宗教的なものを研究する人々。
上記の二者は所謂、錬金術そのものの研究者である。

そして最後は錬金術の最高峰と呼べる、アルス・マグナに至ろうとする人々である。
つまり大真面目に錬金術やってる趣味人である。
ま、黒魔術儀式やってるやつがいまだにいるから、どっかにいるだろう・・・たぶん。

要約すると科学的な錬金術、哲学的な錬金術、そして両者を総合した錬金術によって精神的高みへ至ろうとするものとなる。

錬金術の理論

以上で、錬金術が様々な文化や技術、宗教の影響を受け発展したものだと分かる。

当然その思想や技術なども多様になる。いうならば、それら全て纏めて錬金術といえる。
ここでは、その中で有名な思想や理論をいくつか上げてみる。

ヘルメス学

ヘルメス思想とも。錬金術を錬金術たらしめるもの。
西洋に伝わった錬金術書はギリシャ神話のヘルメス神が書いたものとされるものがいくつかある。
キリスト教の中で異教の神の技を伝えるわけにもいかず、ヘルメス・トリスメギストスという架空の人物の著書とした。

そもそも、一〜二世紀のエジプトはローマ帝国の支配下にあり(ヘレニズム時代)、知的中心地であるアレクサンドリアをはじめとして人々はギリシア哲学、特にプラトン哲学の教えを受けていた。
だがそれに飽き足らずに、プラトン哲学を軸に独自の教説を打ち立てようとする動きが生じた。
最初は秘密裏に組織されたグループによって口頭で伝えられたが、やがて次第に筆記されるようになる。
そうして3世紀頃に成立したのが前述した「ヘルメス文書」の数々とされる。
ヘルメス文書はその種類も神学、占星術、魔術、錬金術、医学等多様で、内容は極めて神秘的、寓意的なものである。

そしてヘルメス思想という言葉は、神々の書記役であり学術の神とされたエジプト神トートと同一視されるギリシャの知恵の神ヘルメスに由来し、ヘルメスとトートは魔術師の守護者、錬金術の神とされる(合わせてヘルメス・トートとも呼ばれることも)。それゆえ、この思想を記した書物はヘルメスの名が冠されたり、ヘルメスが書いたとされ、ヘルメス文書と総称される。

その思想は 事物の秩序的連鎖を主眼とし、秩序的に上位のものの模倣として下位のものが生じるという考え方。
大宇宙と小宇宙が照応し、万物に親和力が生じるとする思想である。

それらの書物に記された錬金術を研究するのがヘルメス学である。これは一種の哲学思想といえる。

三原質・四大元素・七金属

パラケルススによれば、世界の資源は原一体(ユニテ)、すなわち万物の第一質量(イリアステル)としています。
これを、女性的原理と男性的原理に分け、この両原理の結合によって、カオスとイデアスが出来ます。
これによって、質量(ヒューレー)が作られ、この質量が光の作用で、三原質(硫黄・水銀・塩)に分かれました。

第一質量

硫黄

男性

能動

不揮発性

水銀

女性

受動

揮発性

特に硫黄と水銀が物質の正反対な性質を象徴するものとして、錬金術において重要とされます。
ただし、硫黄や水銀といっても、実際の硫黄や水銀ではなく、ようするに錬金術的なグループのことである。
硫黄に代表される物質の形相を決める力、水銀に代表される物質の質量、塩に代表される物質の運動、これらが結びつく事であらゆる物質は作られるとしています。

更に、これによって四大元素と三原質との関係も説明する事が出来ます。

第一質量

硫黄

可視的・個体的状態

隠秘で微細な状態

第五元素

エーテル

水銀

可視的・液体状態

隠秘で気体である状態

そして錬金術師は七種の金属を区別していました。その中でも、金と銀は完全な金属であり太陽と月に結び付けられ、その他の金属は不完全で惑星に結び付けられていました。

金属

惑星

太陽

火星

水銀

水星

木星

金星

土星

錬金術師によれば全ての金属は同じもので、その形相によって異なるだけとしている。
卑金属とは金属が病んだ状態であり、その病を治せば金属は金や銀になると考えたのである。
科学的には全てのものは、粒子で構成されるので別に荒唐無稽な考えとはいえない。

また錬金術の材料を表す記号があり、一種の速記法のようなもので、体系化されたものではなく、この七つの金属の記号以外は錬金術師によって様々で、同一人物でさえ同じ事柄に違う記号を使うこともあるとされてます。

神秘的錬金術

これは自らの魂を高め至高の知恵を得るのが錬金術という思想。
また賢者の石を重要視しているが、これは修行の一環に過ぎず、賢者の石を得るというのは至高の高みに至った証拠と考えている。
つまり、卒業証書のようなものか・・・

アルス・マグナ
ars magna

アルスはartの語源で、技・技術、マグナは大きいといった意味。

大いなる秘法あるいは王者の法と訳される。

原型となった思想は、スペインのマジョルカ島出身の数学者・神秘主義詩人・フランチェスコ会士ライムンドゥス・ルルス(1235〜1315)。

彼の趣味は(待て!)イスラム教徒の改宗で、そのためにアラビア語をマスターし、イスラム神学やイスラムの学問を学びまくっていた。

そんなルルスがイスラム教徒を論破してやると、夜も寝ないで昼寝したかどうかは知らないが、6系列×9個の文字を組み合わせた円盤表を考案。
文字を円形図表にして、回転させて変化する文字の組み合わせから独自の神学論を展開させた。
この機械論的な思想は、後世に多大な影響を与えることになる。

記憶術や数字占いにも影響を与え、一説では現代のコンピューターの元となった自動計算機考案の源泉ともされる。
また錬金術にも多大な影響を与えることになった。

特に彼の考案した円盤表で、原理や工程を組み合わせて体系付けることができるようになった。

ルルス自身はイスラム教徒の投石で命を落とすことになるが、彼の死後に錬金術にはまった弟子達がこの思想の影響を受けて理論を展開していくことになる。
そして100年も経つころには遺言という形で彼の名前で錬金術の本が何種類も出回ったり、伝説を捏造されたりで彼自身が錬金術師にされてしまった。
イスラム教徒改宗のためとはいえ、錬金術のメッカともいえる地域の文化を学んでいたことも大きいだろう。
ルルス自身は錬金術うさんくせえなあーと思っていたようなので、草葉の陰で泣いているかも知れない。

そんなこんなで彼の影響を受けて、だいたい15世紀ぐらいに誕生した思想。
様々な思想がある錬金術のなかで、神秘思想の強い最も野心的な秘儀といえる。

最高度の錬金術によって神人合一を図る、あるいは神的存在になることを目的とした秘法。
つまり神と同じ存在になる、もしくは神と一体になれる方法ということ。17世紀に盛んになった。

その方法は魂を浄める現世的体現として禁欲修行を行いつつ、賢者の石を作り出し(この過程も魂を高める修行となる)、その賢者の石の作用によって霊的な肉体(天使の体とも)を得て智恵、力、不死の三つの恩寵を賜り、神と交わり一体化するのだという。

ドイツ貴族の錬金術師フォン・エックハルツハウゼン著『聖檀の上の雲』では、復活は三つの次元にわたって行われ、第一に理性の復活、第二に意志の復活、最後に身体の復活である。
第一、第二の復活を行ったものは多いが、身体の復活まで至った者は少ない。
ここまで至った錬金術師は、賢者の石によって天使の肉体を与えられ、知識・力・不死の恩寵を得ます。
そして、望むままに神と交わり、神と一体化でき、生きたままで救われているので、最後の審判を受ける必要すらない。
しかし更に先はあります。この状態の錬金術師が次に求めるものは、宇宙の再生。堕落した世界を再生し、救いをもたらすとしている。

ちなみに自分のシナリオでは、単純に秘められた潜在能力という意味合いで使われます。

錬金術詐欺

錬金術を詐欺だと考える人も少なくない。他にも=金儲けとしたりする人もいる。

中世以来、詐欺の代名詞となったのも否定できない歴史だ。
まあ、いつの時代も錬金術に限らず、利用できるものは何でも使って詐欺を行うクズは存在するものだ。

ちなみに、金を作るのは前述の通り、通過点に過ぎない。
そもそも金を作れるなら資金に困ることはないし、作れない未熟者に出資する奇特者がそんなにいるとは思えない。

ではどういう手口で詐欺を行ったか・・・一般的な手口としては、まず金を目の前で作る。
もちろんトリックである。まず、鍋に金を入れ蝋で覆う。
そしてばれないように、蝋に鍋の底と同じに見えるように細工する。
後は火にかければ蝋が溶けて金が出てくる、あたかも作り出したように。
もちろん適当な材料を入れ誤魔化しもする。溶けた蝋と混ざりばれないようにする目的もある。

そして「大規模に行える施設を作ろう」などと言って、資金を出させるのだ。よくやるものだ・・・まさしくクズの所業である。

現在は錬金術詐欺と呼び、はっきり区別される。

最後に

纏めると、錬金術とは科学・哲学・魔術・宗教・医術・哲学その他様々な学問を総合した学問といえる。
そういった意味では錬金術は現在も発展を遂げているといえる。

これで、錬金術についての解説を終わるが、あくまでも歴史的・思想的なものをなぞったに過ぎないことを述べておく。
様々な文化・技術・思想などが入り混じった錬金術のすべてはとても語りつくせるものではないからだ。
錬金術師当人や研究者によっても解釈が違うのも大きい。そしてその目的すらも。

ある者は精神的に自分を高めるため、ある者は好奇心のため、ある者は金儲けのため・・・だが創作作品にとっては非常に料理のしがいのある題材ともいえる。

金の作成は可能

なんども述べるが、金を作るのは一側面に過ぎない。

とはいえ、実際に作れないか・・・作れるわけ無いじゃんと思った人、あんたは無知だと言っておこう。
というか、作れないなら今存在してる金はどうやって出来たの?

一般的には現在の金属は、超新星爆発の時に核融合で出来たと考えられている。
まあそれを起こしたり、意図的に狙って金属を作るのは無理だが。

理論的には可能ではあるが、実際に出来るか・・・現在の技術では不可能。

だが他の技術を使えば、金を作成することは現行技術で出来るらしい。

原子の原子核にγ線を当てると、中性子が一個はじき出され、原子番号が一つ下の物質になるというのだ。

だから原子番号80の水銀にγ線を当てると、原子番号79の金になると言われている。
ただし、これを実践するのに電気代だけで150億円以上するという・・・儲けでないね・・・
なお、この現象は原子核崩壊と呼ばれ、半減期が数万年とかいうふざけた長さを誇る放射性物質の短期無害化などに役立てるためなどに研究されている。