金枝篇きんしへん

The Golden Bough

イギリスの社会人類学者ジェームズ・フレイザーが半生を費やした研究書。
完成までに実に40年以上の時を掛けている。
魔術書っていうより、各地の伝承等を纏めた学術書である。

1890年に初版として2巻。研究を進め新たな部分を書き足して刊行し直し、1900年に3巻本の第二版、1911年に完成版の全11巻の第三版が出された。
更に1914年に索引・文献目録、1936年に補遺が追加され、この2巻を合わせて全13巻となる。
また1922年には、一般の人にも読んでもらいたいと思ったフレイザーが膨大な例証や参考文献を削って一冊に纏めた簡約版が刊行されている。

日本では初版金枝篇が筑摩書房から全2巻、簡約版が岩波文庫から全5巻で発売されている。
完全版に関しては国書刊行会より2004年から刊行しているが、まだ途中で止まっている。

イタリアのネミの村にある、聖なる湖ネミと、切り立った崖の真下にある聖なる木立アリキアあり、その木立に生える宿り木は神聖視されていた。
これが誰も折ってはならぬとされる金枝である。
例外は逃亡奴隷だけである。

この逃亡奴隷だけが森の神を讃えるの祭司である森の王になれる。
その条件は金枝を持ってくること、そして現在の森の王を殺すことである。

何故に殺さねばならないのか? どうしてこのような風習があったのか? という祭司殺しの謎 を説明するために、フレイザーは膨大な資料を読み漁り、時に口伝から収集した夥しい例証を調べまわった。
ヨーロッパのみならずアフリカ、アメリカ、アジア、さらには日本に至るまでの風習が網羅されている。

というか、日本では雨乞いの儀式で雨が降らなかったら御神体を田んぼに投げ込むとか、天皇の使用した食器は一度使ったら廃棄しなければならないとか、アイヌ民族に関しても長々と言及しており、この人当時手に入るほぼ全ての文献に目を通してるんじゃないかと思わせる程である。

民俗学、宗教学、神話学、呪術、魔術研究の基本中の基本書とされるが、1920年代から実際に現地に入って研究するフィールドワークが主体となり始めており、文献調査がメインの金枝篇は時代遅れだの批判も少なくない。

また未開社会より現代社会が上だと序列を設けるような思想も時代背景的に仕方ないとはいえ批判の対象となっている。
たまにヨーロッパ文化以外を未開だと見下してるという人もいるが、フレイザーは自分達の先祖も未開人、ちゃんと科学的検証してなきゃみんな未開人だよとしているので、ちゃんと読んでないのがバレバレである。

また多くの情報源を文献に頼っているため、信憑性に欠けるという批判もあるが、少なくともそういう文献があるのは事実である。
流石に突飛な話も多くはあったが・・・・・・

批判はあるが、各地の古代信仰・呪術をこれだけ蒐集・総合したのは古今東西に皆無であり、それだけでも非常に高い資料的価値を持つ。

個人的には後半に記載のあった、魂を他所に移す話が興味深かった。
他の物品に魂を移すことで、その物品が壊されなければ不死となる各地の伝承が数多く収録されており、北欧神話のバルドルもまた命をミストルテインに移していたという発想は面白いと思う 。

創作作品では、様々なSFやファンタジーに影響を与え、映画『地獄の黙示録』も影響を受けている。
他にもエウレカセブンでも金枝篇は登場している。

他に直接的に金枝篇が登場しているわけではないが、ワンピースのウェザリアで登場した、1つ解くとそよ風を呼び ―2つ解けば強風を呼び・・・・・・!! ――3つ解くと・・・突風を呼ぶ!! という風の結び目だが、金枝篇に記載のあるフィンランドの妖術師に似たようなものがある。

フィンランドの妖術者は、無風で困っている船乗りたちに風を売った。
風は三つの結び目に封じこめられてあって、第一の結び目を解けば適度の風、第二の結び目を解けば強風、第三の結び目を解けば暴風が吹くのであった。

狼と香辛料の冒頭の麦刈りの儀式も金枝篇に記載されている風習である。
この風習の例証を読むと・・・・・・ホロはロレンスの嫁確定でいいわけだな。

クトゥルフ神話では魔道書に混じって登場する定番の一冊だが、民俗学、宗教学、神話学、呪術、魔術研究入門には読んでおいた方がいい一冊だから合ってもおかしくはないが、テーブルトークRPGでは魔道書扱いで読むとSAN値が下がる・・・・・・

何かしらの暗号で邪神連中の事が書いてあるという解釈でいいのだろうか?