クラーケン

Kraken

北欧伝承に登場するの海の魔物。

ノルウェー近海やアイスランド沖付近に出没したとされる。

正体や姿は不明だが、一般的に巨大な烏賊や蛸、他にはシー・サーペントやドラゴンに海老や鯨、海月にヒトデなどが候補に挙がっている。

クラ−ケンという名前は竿、棒、柱などを意味する北ゲルマン語群のクラーケkrakeに -nが付いた定冠詞形だとされる。
英語の湾曲した杖crookや、捻じ曲がった、曲がりくねった、変わり者、奇形なを意味する、クランクcrankと同根とみられている。

別の説では古ノルウェー語で極地を意味するクラークに由来するともされる。

北欧のエッダなどに似たような怪物はいるし、中世付近でも現在のクラーケンに近い怪物の話もあるのだが、クラーケンという名はないため、割と近年になって用いられるようになったもののようだ。
最初にこの名が出たのは、ポントピタン司教が1752年に出したノルウェー博物誌ではないかと思われる。
司教はクラーケンを巨大なヒトデと推測していたようだ。

ただ1735年刊カール・フォン・リンネの自然の体系にも、その名が出ているという話も聞いたが、こちらは未確認のため確かではない。

ノルウェー博物誌では、クラーケンは1マイル半(約2414m)ほどもあり、とても全貌を知る事はできないという。

クラーケンを説明する際には、1801年フランスの軟体動物学者ピエール・デニス・ド・モンフォールによって描かれた、船に襲い掛かる大蛸がよく使用される。 彼の著書、軟体動物詩によってクラーケン=蛸のイメージが広まった。

姿や正体は伝承においてさえ、はっきりとした事が分かっていないが、唯一の共通点は途轍もなくデカイということであり、中には島と間違えて上陸したらクラーケンだったという話もある。

またスミを吐いて海を染めたという報告もある。

伝承では海が凪いで、海面が泡立つのがクラーケン出現の前触れだという。

クラーケンは船を破壊し、乗っている者を全て喰らってしまうと語られ、戻らない船はクラーケンの餌食になったと信じられていた。

クラーケンとは魔物であると同時に、海難をも意味していたということだろう。

この様に凶暴な逸話も多いが、いくつかの話には穏やかな一面も覗かせている。

クラーケンは、魚を惹きつける体臭かなにかを発しているようで、その周囲には大量の魚が集まるといい、漁師達は豊漁が約束されると伝えられている。

他にはアイルランドの聖ブレンダンやミダロスの司教が、島と間違えてクラーケンの体に上陸してミサをあげたが、終わるまで大人しく待っていたという話もある。

様々な逸話が語られるクラーケンであるが、その正体は近年になってダイオウイカの類ではないかといわれるようになった。

ダイオウイカArchiteuthisは最大級の頭足類であり、平均全長約10mほど。
最大の記録は13m、推定では全長20mにも及ぶかもしれないとされている。

またダイオウホウズキイカMesonychoteuthis hamiltoniという種もあり、この種が現生最大とされ、14mの個体も発見されている。

烏賊や蛸は非常に好奇心が強く、知能も高い(蛸が軟体動物で一番賢い)
また凶暴で、攻撃性も高い。

日本では烏賊という字を書くが、これはイカが烏を襲う所を目撃したという話に由来し、烏の賊と書いてイカとするようになったという説がある。

蛸も時には鮫すらも捕食するほどで、ダイバーに襲い掛かることもある。

巨大な烏賊や蛸の類が、船に襲い掛かったとしても然程おかしくはない。
実際に1930年代、ノルウェーのタンカー、Brunswick号がダイオウイカから攻撃を受けたと報告している。
最終的には、スクリューに巻きこまれたとの事だ。

また2003年1月に大西洋沖で世界一周ヨットレースに参加していたジェロニモ号も、異常な振動を感じた船員が窓から様子を見たところ、巨大な触手が貼りついていたのを目撃し、船体を急反転をさせたところ触手を離したが、その持ち主は巨大な烏賊だったという。

海中では対象の大きさや姿を把握するのは困難であり、例えば鮫なども実際は数mなのを数十mと錯覚した報告も珍しくない。
クラーケンの巨大さは、こうした事情からだろう。

またモデルはダイオウイカのみとも限らない。
鮫、烏賊、蛸、鯨などその性質も様々である。
巨大な海洋生物の目撃例、またその生物による襲撃、当時の迷信や信仰、原因を知ることなく海に消えた船舶への憶測など様々なものが合わさって生まれたイメージこそがクラーケンの正体なのかもしれない。

クラーケンの名前はアメリカ海軍のバラオ級潜水艦の一隻にも付けられている。

その他、創作作品においてはRPGなどで中ボスや、中堅どころの敵などに用いられることが多い。

デモンベインにおいては巨大ロボットの名に。
また柴田亜美 著のフリーマンヒーローにおいて、主要キャラにクラーケンがいる。
一応、烏賊ではあるが、半分竜の血が混じっている辺り、伝承に近い・・・のかもしれない。

また烏賊や蛸の他にドラゴン説もあるクラーケンだが、ここからクトゥルフを連想できる。
こう思ったのは自分だけではないようで、栗本薫 著の魔界水滸伝でクトゥルフをクラーケンと呼ぶ場面がある。 

また映画では、2006年の巨大烏賊によるアメリカのパニック映画Deadly Waterの邦訳名がクラーケンフィールド/HAKAISHINである。
この映画では、クラーケンをスキュラとも結び付けている。