ヴァリトラ

Varitra/वृत्र

ヴリトラVritraと発音した方が、より原典に近い・・・のだがヴァリトラの方が好きなのでここではそっちを使わせてもらいたい。
名の意味は障害、遮蔽物。
リグ・ヴェーダに登場するインド神話最大の竜神。
アスラの王ともいわれる。

水をせき止め、干魃や嵐を呼び、植物や動物の成長を遅らせる停滞の力を持っていた。
つまり天候を操れるんですね。

カシュヤパというアスラ(まあ悪魔と考えればよし)が、インドラによって2人の息子を殺されて嘆き悲しむ妻のために、ヴァラという息子を造った。
しかし、この息子もインドラ神によって殺されてしまう。
怒りに燃えたカシュヤパは祭祀を行って神々に祈った。
宇宙なる神よ、どうかわたしにインドラを殺すことができる生き物を授けたまえ。
この願いが聞き入れられ、祭祀の炎の中から巨大な生き物が出現した。これがヴァリトラである。
黄色く濁った鋭い目、裂けた口からに牙、漆黒の皮膚を持つ龍の姿であったという。

しかし神と敵対してる一族の頼みを神が聞いた?
これはアスラが完全悪でないことの証明でしょう。
敵対してるものを悪魔に仕立て上げる例は、枚挙に暇がありません。
そもそもカシュヤパは悪魔というより創造神に近く、神々も生み出しています・・・まあ悪魔も作ってしまったので敵対することになってしまったわけですが。

もう一つはトバシュトリという神に生み出されたという説。
人間の父であり、鍛治の神でもあったがさらに上の権力を欲し、インドラを殺すためにトリシラスという子を作ったが、インドラに殺されてしまう。
復讐のために儀式を行い8日目に炎から現れたのがヴァリトラである。

ヴァリトラはインドの厳しい風土・嵐の象徴化だとされる。

さてヴァリトラの力は凄まじく、神々すら凌ぐほどであった。
ヴァリトラと対峙すると神々は最高位の数人を除き、地の果てまで逃げ出すほどであった。

な、情けなさ過ぎる・・・烏合の衆にもほどがある。

逆立ちしても勝てないと知ると和平を申し込む。
しかしヴァリトラはインドラ神が自分にひざまずくまでは、決して許さんと言い張る。
誇り高いインドラ(プライドだけは高いご様子)がこの要求を受け入れるはずもないが、戦ったところで勝てる見込みもない。
そこで自分の地位と名誉を守るためにインドラの持つ所有地の半分を明け渡すことを条件に、和平を申し込んだ(ただの小賢しい男だな)。

まあそこまでするならと、ヴァリトラも聞き入れる。
インドラの宮殿に招かれたヴァリトラは、最高の賓客としてのもてなしを受け、神々からはその力を褒め称えられた。
またインドラと兄弟のちぎりをかわし永遠の友情を誓い合う(結構単純・・・根はいいやつのようだ)。

だがこれも全てはインドラの策略だった。
油断させて殺してしまおうというのだ(卑怯にもほどがある

ある日インドラはもっとも美しい女神ラムバーをヴァリトラに紹介する。
もし気に入ったのならこの女神をさしあげようと言う。
ヴァリトラはすっかりべた惚れしてしまい、彼女の望みを全て叶えることを条件としてラムバーと結婚する。

森の奥で幸福な生活をおくっていたヴァリトラであったが、あるときラムバーにスラー酒を勧められる。
ヴァリトラが飲むことを固く禁じたものだったが、妻の望みを叶えるために彼は酒を飲み干す。
すると酒の強さにヴァリトラは酔い潰れてしまう。
彼が動かなくなったのと確認して、ラムバーはインドラを手引きする。
インドラの卑怯者は倒れているヴァリトラに近寄ると、山をも砕く一撃を頭に叩き込み・・・

ヴァリトラを倒し自分の領地を取り戻したインドラはヴァリトラハン(ヴァリトラを殺す者)という称号を与えられる。
ちなみにこの神らしからぬ手口に対して非難する者は誰もいなかったそうだ・・・
卑怯者の軍団というわけか。

憎しみによって産まれたヴァリトラが初めての友情と愛を信じてしまったがために、結局それに裏切られてしまう・・・哀れにもほどがある。
北斗神拳はインドラの化身とか謳っているが、ケンシロウやめとけこんな卑怯者の化身名乗るの。

自分にはこういう話に思える。

敵とはいえ無用の殺戮が過ぎるインドラの所業を見かねたヴァリトラが、カシュヤパに力を貸しインドラたちと戦い追い詰める。
インドラたちは和平を申し込むが、キサマの所業を土下座して詫びるまで許さんと立腹。
ヴァリトラがそんなに強いのなら、皆殺しに出来るはずだしそれをしないというのは心から謝れば許してやるってことか?いいやつじゃないか、ヴァリトラ。義を見てせざるは勇なきなりか。
どうみても正義と人情の人(?)にしか思えん。

ヴァリトラの男らしさに比べて、インドラの小物っぷりときたら。

さて一応正々堂々戦って倒したという説もある・・・が、この話を知っていると捏造したとしか思えないな。
ではその話を・・・

生まれ出たヴァリトラは天空の牡牛を盗みだし、何処かへ隠してしまった。
それによって、地上に雨が降らなくなり干上がってしまう。
花は枯れ、鳥は空をすて人は微笑みなくす・・・かは知りませんがたいそう苦しみ、それを嘲笑うかのようにヴァリトラは破壊の限りを尽くした。
 人々は天に祈り、その願いを聞き届けたのがインドラである。
彼は大量の神酒ソーマを飲み干し(牛百頭分とも)、ヴァジュラをその手にヴリトラに戦いを挑んだ。
激戦に次ぐ激戦の末に、ヴァリトラの唯一の弱点を発見する。
咆哮をあげた刹那、インドラはヴァジュラをその口の中に撃ち込み、遂にヴリトラを倒すのである。

しかしヴァリトラは何度も蘇り、その度にインドラと対決する。
これはヴァリトラは雨を封じる悪魔で、インドラの雷で倒され雨が戻る・・・つまり毎年の乾季から雨季への季節の移り変わりを表したものとされる。

ちなみにもう一つ説がある。
こっちはやはり騙し打ち。

地上の7つの川を占領し、太陽を暗黒に包んで地上を飢饉におとしいれたヴァリトラと戦ったインドラだが、あっさり飲み込まれてしまう。

このときは仲間の助けで、ヴァリトラが欠伸したところを抜け出してくる。

ヴァリトラの力の強大さに困ったインドラがヴィシュヌ神に相談を持ちかける。
ヴィシュヌ神が言うには和解しろとのこと。
ヴァリトラはそれを呑む条件として昼であれ夜であれ私を殺さないこと。乾いた物、湿った物、またいかなる武器によっても殺さないことを承諾させる。

これではヴァリトラを倒せなくなると案じたインドラであったが、ヴィシュヌ神が承知しろというのでやむを得ず承諾する。

そうしてあるときヴィシュヌ神はインドラを海岸に連れ出し、今は暁の時で、昼でも夜でもない。また波が立てる海の泡は、乾いても湿ってもいないから、あなたはこれをヴァリトラに投げるといい。 私が泡の中に潜り込んで手助けをしようと持ちかける。

早速泡をつかんでヴァリトラに投げつけ、ヴィシュヌ神の力が加わった泡により、ヴァリトラはあっけなく死んでしまう。
ああ、小難しいこと言わずに素直に自分に一切害をなすなとすればよかったのに。

ちなみにその後、インドラはこの話では珍しく卑怯卑劣な手段だったと認めたようで、自分の行いを恥じ世界の果ての海の中に隠れてしまったという。
まさしく穴があったら入りたいである。

またヴァリトラは水を司る土着の神であり、その神を倒し地位を奪うことで土着の人たちの信仰を広げようとしたともいわれる。
アーリア人が土着の人たちを戦いにより制圧していった姿がインドラとヴァリトラの戦いであるとされる。

またこの戦いは当時の戦士階級と神官階級の確執だともされる。