反魂香(はんごんこう)

返魂香とも書く。

焚くとその煙の中に死者が現れるというお香。

中国の故事、白居易『李夫人詩』にその名がある。

前漢の武帝 (前156〜78) は、自分に仕える楽人の李延年の妹を見初め妻とした。
美しい李夫人を深く愛した武帝であったが、李夫人は若くして病気になり、亡くなってしまった。

その悲しみは深く、妻の肖像画を眺めるが物も言わず微笑みもしない絵は、逆に武帝の心を締め付ける。

そんなある日、死者を招く方士(道士)の事を聞き、宮中に招いた。
道士は霊薬を調え、玉の釜で煎じ練った反魂香を、金炉で焚きあげた。
九華の帳の中、夜も深けるころ、死者を呼ぶ香の煙の中に、人の姿が浮かび上がった。

だがその姿は朧で、遥か彼方に霞みすぐに消えてしまった。
あれは亡き妻だったのだろうか?そうではなかったろうか?
帳越しに見え、語り合うこともなく瞬く間に消えてしまってはなんともならない・・・
結局反魂香は武帝の悲しみは癒すことが出来なかった。

日本でも江戸時代に反魂香を題材にした落語がある(別に現在もあるのだが

筋は妻を亡くした男が反魂香のことを知り、薬屋で反魂丹を買い付けた。
さっそく男は妻に会おうと反魂丹を火にくべた。

煙の中、今か今かと妻の現れるのを待つと戸口を叩く音がする。
妻が帰ってきたと喜び勇んで戸を開けると、そこにいたのは反魂丹の煙を火事と勘違いした近所の住人であった。

ちなみに反魂丹とは、木香、陳皮、大黄、黄連、熊胆などを製した丸薬 で、胃もたれ・食べ過ぎ・飲み過ぎ・消化不良・胸やけ・消化促進・胃部や腹部の膨満感・はきけ・むかつき・胃のむかつき・二日酔い・悪酔いのむかつき・悪心・胸つかえ・嘔吐・食欲不振・胃弱に効く・・・

ぶっちゃけ胃腸薬の商品名である。

死者を呼び出すお香と、胃腸薬では使い方が違って当然である。

元禄頃から富山の薬売りが全国に広め、江戸では芝・田町の堺屋長兵衛が売出し一手に販売した。
言い伝えでは、元禄3年(1690)に江戸城に参勤した三春城主秋田河内守が腹痛を起こした折、富山藩主前田正浦公がこの薬を勧め、薬効の高さに他の諸大名からも自領での販売を申し入れられたという。

因みに現在も販売されている。

反魂丹の由来としては富山の民話で14世紀の初め、松井源長という武士の母が重い病気にかかり、八方手を尽くしあとは神仏に頼るしかないと、立山に登り一心に祈願し たところ、夢の中で阿弥陀如来から製法を授かったという。

しかし時すでに遅く、母は亡くなってしまった。
悲しむ源長はせめての慰めにか、薬を調合し死んだ母に飲ませたところ、母は生き返り病気も治っていたという。
反魂丹とは魂を呼び戻す薬という意味です。

ただ生き返った母親は、阿弥陀如来にまだ来るのは早いと追い返されたと言ったそうなので、薬は病気を治しただけで蘇生は阿弥陀如来がおこなったものなのかもしれません。

その他創作作品では人形浄瑠璃の題目にも使われ、女神転生シリーズでは蘇生アイテムとして登場している。
またコミックでは地獄先生ぬ〜べ〜や夢幻街でも登場している。

なお・・・お香なのであって飲み薬などの類ではないので、用法には気を付けよう。
飲むなら つ反魂丹