干将・莫耶(かんしょう・ばくや)

干将は中国の伝説に伝わる刀工。莫耶はその奥さんの名前。

干將・莫邪とも。

春秋時代(前770〜475)の呉の国の人。時期としては孫子と同年代の紀元前500辺り。

逸話については諸説あり、様々なバージョンが存在する。

あるとき刀工として有名な干将は、呉王の闔閭(こうりょ)に命じられ(楚の王という話も)宝剣を鍛えた。
各地から 最高の材料を集めた。

日本の太平記、今昔物語では王妃が産んだという蒼い色の金属や鉄塊だとされる。

だがどうしても金属が上手く混じり合わず、年月ばかりが過ぎていく。

年月に関しては三ヶ月とも三年とも。

どうしても上手くいかない中、妻の莫耶と話しているとき干将の師匠が剣を打つとき、いつも妻を同伴していたことを思い出す。
自分は1人で打っている、それがいけないのかもしれない。
師に倣い、干将は妻と作業場に行きました。
莫耶の髪と爪を炉の中に投げ入れたところ、金属は上手く交じり合い陰陽二振りの宝剣を鍛えることができた。
陽剣を干将、陰剣を莫耶と名付け、王に献上したところ非常に喜び愛用したという。

というのが一番ハッピーな結末。

もう一つの話は、妻・莫耶が夫の制止する間もなく炉の中に飛び込むというもの。
干将は鍛えた陰陽二本の剣の内、莫耶だけを献上し、干将は自分の名前のついた剣を一生大事にしたという。

・・・普通は妻の名を付けた方をと思うのだが・・・・・・古代中国の風習ではそういうものなのだろうか・・・

中には話によっては一振りしか献上しなかったことがばれて(製作期間が長すぎたためとも)、干将は死刑に・・・
ちなみに莫耶もこのとき殺されたという話と、事前に干将が逃がしたという話がある。

やがてその子供がもう一振りの剣を手に壮絶な結末の仇討ちを果たす。

太平記では始皇帝暗殺未遂の時に使われたのが干将だとされる。
後に張華と雷煥という者がこの夫婦剣を発見し、皇帝に献上するための輸送中に延平津で自ら鞘から抜け、雄雌の龍となり河に沈んだとしている。

また拾遺記では銅や鉄を食べる化け物兎が武器庫を荒らして捕まり、その鉄のような胆嚢、腎臓から作られたという話もある。

また封神演技では黄天下の宝貝として莫耶の宝剣が登場している。

形状

ほとんど記述がないが干将は黒ずみ亀甲模様があり、莫耶は薄く曇ったように見える剣だったという。

推測するならば時代的に青銅や銅製で、幅広い肉厚のある剣だと思われる。

日本では太平記、今昔物語に登場しているが、知名度はそれほどでもないが中国では有名な話のようだ。

松尾芭蕉の詩にも名前が登場しており、

谷の傍に鍛治小屋と云有。此国の鍛治、霊水を撰て爰に潔斎して劔を打、終月山と銘を切て世に賞せらる。彼龍泉に剣を淬とかや。干将・莫耶のむかしをしたふ。道に堪能の執あさからぬ事しられたり。

という詩がある。

創作作品においては登場は稀。
特にRPGではまったく登場しておらず、調べたところスターオーシャンブルースフィアに登場しているという記述を見たぐらいである。

ただ、ノベルゲームFateに主人公や主要キャラが魔術で生み出したレプリカを主武装として使用したりしており、そのためプレイヤーの間で知名度が上がっている。
その作品では大振りの鉈のような形状であった。

他にはコミック「うしおととら」にもこの話が引用されている。
この作品のラスボスでもある白面のもの(九尾の狐)を倒す剣を鍛える際に、鍛治師家族の兄が髪と爪を炉に加え干将・莫耶を作るという話から、家族は剣を鍛えるが白面には通じず両親は死亡。
もうひとつの邪法として女を人身御供として炉に捧げ鐘を作ったという話から、妹が身を投げる。
残った兄は白面の憎悪とともに刃を打ち、やがてその身は槍の柄に変じて、この作品のキーアイテム獣の槍へと変貌した。

ちなみに剣や鐘を打つ際に、人間を生贄にしたという話はちらほら見受けられる。
科学的には人間の体の燐などが作用して上手く混ざるようになるらしい。