ルーン
rune
ルーネとも。
魔術文字としてゲームやコミックなどエンターテイメントで大々的に扱われているので有名ですね。
これはそのために創作された文字ではなく、実際に北欧圏などで実際に使用されていた古文字である。
北欧圏などと書いたが、学問的には現在のデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、イングランド、ドイツ、ポーランド、ロシア、ハンガリー辺りで使用されていた文字なのだ。
乱暴にゲルマンの一括りで表すこともある。
歴史はかなり古く、考古学においては2世紀には存在していたという。
使い方などしっかりしているなどの理由で、発祥はさらに1世紀は遡るだろうとされている。
もっとも19世紀の説では発掘された碑文などに4世紀以前のものがなかったため、3世紀ごろが起源とされていた。
現在も新たに碑文などが発掘されたりしているので、もっと古いということも在り得るだろう。
ということで一言でルーンといっても、その内容は長い時間をかけて変化しているので、簡単に説明するのはかなり難しい。
そこで順に解説していきたいと思う。
f | u | þ th |
a | r | k | g | w | h | n | i | j | ï | p | z R |
s | t | b | e | m | l | ŋ ng |
o | d |
これがルーン文字である。
とはいえ同年代の文字でもバリエーションが存在しており、標準というものがなく、あくまでも復元型にすぎない。
順番だが13と14文字目、23と24文字目が入れ替わったりもする。
直線と斜線で構成されているのは、主に木などにナイフで刻みつけて表記していたため、木目と紛れて読みにくくなりがちな横線や、刻み難い曲線が避けられたためと考えられている。
これは後世にフウスアルクfuthark、もしくはフサルクと呼ばれる。
最初の6字をとったもので、日本ならあいうえお、あかさたな、いろはにほへ、のようなものだ。
この24文字を共通ゲルマンルーン、ゲルマンフサルク、古フサルクや24文字フサルク、ルーンと呼ぶこともある。
この他にシュルベル、ヴァッスティーナ、ブレザ、シャルネーのフサルクという変種がある。
シュルベル |
||||||||||||||||||||||||
ヴァッスティーナ |
? |
|||||||||||||||||||||||
ブレザ |
? |
? |
? |
? |
? |
|||||||||||||||||||
シャルネー |
? |
? |
? |
? |
? |
?の部分は欠損していたり、物品に刻み切れずに省かれたりして確認できない状態だったためである。
発見地 | 物品 | 年代 |
スウェーデン・ゴットランド島シュルヴェル石碑 |
墓石 |
西暦400〜450年頃 |
スウェーデン・オェステルヨータランド州ヴァッステーナ |
ブラクテアート(浮き彫りを施した円形の金属飾り) |
西暦450〜550年頃 |
ユーゴスラビア・ブレザ教会 |
大理石の柱 |
5世紀頃 |
フランス・ソーヌエロワール県シャルネーの墓地 |
ブローチ |
6世紀 |
そしてこれの他に音声変化の結果と他ルーンによる代用で数を減らしたと思われる16文字のルーン や、他部族との交わりで新しく考案されたと思われる28文字〜31文字のルーンや、写本ではあるが33文字のルーンが確認されている。
f | u | þ | o | r | c | g | w | h | n | i | j | è | p | x | s | t | b | é | m | l | ŋ | œ | d | a | æ | y | ea | g | k | k |
アングロサクソンルーン。 共通ルーンに必要が生じて、地方などで考案され増えたと見られる。 29〜31文字目は最後期に作られ、イングランド北部・北西部で使用されていたと見られる。 |
f | u | þ | ą o |
r | k | h | n | i | a | s | t | b | m | l | R |
長枝ルーンもしくはデンマーク形ルーン。 とはいえ、デンマークだけで使用されていたものではない。 楷書体のようなものとして考案されたのではといわれる。 |
f | u | þ | ą o |
r | k | h | n | i | a | s | t | b | m | l | R |
短枝ルーンもしくはスウェーデン・ノルウェー形ルーン。 とはいえ、それ以外の場所でも使用されている。 草書体のようなものとして考案されたのではという説もある。 |
両者は共通ルーンから7〜9世紀頃に変化した物と見られる。
厳密に区別されたわけではないようで、両者が混じったものも見受けられる。
ルーンの起源
ルーンの起源はハッキリしていない。
まあかなり古いものだし、代表的な説をかいつまんで上げよう。
全て網羅して、詳しく解説したら本何冊分になるか分からんし・・・
そこまでやる時間も気力もないんで・・・読む方も大して面白くないし、大変でしょ?
神話ではオーディンが首を吊って生死の境を彷徨い、会得したものとされる。
んー、突如閃いたのか、既に失われたものを死の世界から学びとったのか・・・
L. F. A. Wimmerによって提唱された。
ルーン文字は徐々に発達したものではなく、初世紀頃に考案されたものだという。
この説ではラテン文字の模倣ではなく参考にされたものであり、ラテン文字から由来しない文字はスカンジナビア由来のものであろうとしている。
ギリシャ文字説
スウェーデンの学者 Otto von Friesenによって提唱された説。
ルーン文字の起源はゴート族が関わっており、ギリシャ文字から多くが由来している。
そしていくつかのルーンはラテン文字に倣っているというものである。
ゴート族の傭兵が創り出したというものであり、発祥の地域と時期は3世紀頃の黒海あたり。
そしてここからスカンジナビアへ伝わってとしている。
こちらも徐々に発達したものではなく、特定の者が考案したのであろうとしている。
北イタリア文字説
C. J. S. Marstrander と M. Hammarströmによって提唱された説。
ルーン文字の四分の三が実に北イタリア文字と形状において類似しているとしており、ラテン文字によっておおよそ初世紀頃に北イタリア文字は廃れてしまったが、その時期頃にそれらを祖としてルーン文字が出来上がったと考えられる。
この説が現在のところ有力な説である。
ルーン文字の書式
基本的な文字は横書きなら左側から右に向かって読み書きしますね。
これに対してアラビア語やヘブライ語は右から左へ向かって読み書きします、日本語も戦前はこちらでした。
縦書きの場合は右から左に進み、モンゴル文字では縦書きの行が左から右へ進みます。
このように言語によって書式も違ってきます。
ではルーンはどうかというと特に決まっていないようで、右から左、左から右どちらの書式もあります。
犂耕書式、牛耕式、英語ではブストロフェドンboustrophedonという書式がとられることもあります。
これは1行ごとに書く方向を逆にする書き方で、左から始めたら次の行は右から、またその次の行は左からというように、ちょうど牛が犂を引いて畑を耕す時のように行を進める書き方を言います。
この方式で書かれた言葉としては、古ギリシャ語やヒッタイト象形文字などがあり、エジプトのヒエログリフなどは左から書かれる文字と右から書かれる文字が鏡写しのように左右逆にされたものもあります。
ルーンもどういう方式があるのか、はたまた形があってればそこら辺はOKなのか、同行のなかでも文字が上下左右が逆になることもあります。
もしかするとなんらかの意図があるかもしれませんね。
そこら辺シナリオに盛り込めると面白いかもしれません。
合字
スペースの節約や、デザインのために文字を合体させることがあった。
これを合字ルーンbind-runeと呼ぶ。
例えばの二文字をという風に記載したりだ。
他にも繰り返す文字や文字グループは省いたりもしている。
同じ文字が続く、が2個続くなら一個だけしか記載しないなどだ。
またルーンにはそれぞれ単体で固有の意味を持っていたと見られ、は人や男という意味があると考えられている。
だから男という意味の単語を綴らずに、一文字で表していると見られるものもある。
現在推測されているルーンの意味は後述するとしよう。
魔術文字
ルーンとは本当に魔術文字か?
結論を言えばNOである。
ルーン文字は当時は普通に使われていた文字である。
そりゃあ、当時は魔法だとかが本気で信じられていた時代ですから、何かの宗教儀式でも使われたでしょう。
お呪いにも使われたでしょう、現にいくつかの物品にその手のが見られます。
しかしだからといって魔術文字とは言えません。
だってそれくらいはどんな言語でも行われてますから。
例えば日本でもお守りに○○祈願とか安全とか書きますよね。それと同じです。
現にキリスト教に弾圧されていませんから・・・
碑文にはローマ字とルーンが混ざったものもありますし、それとともに十字架が刻まれたものも存在しています。
廃れたのはローマ字などの他の文字が幅を利かせたからと見られています。
だいたい1400年代くらいであらかた衰退して、趣味的な文字になったと見られます。
では何故魔術文字とされるようになったのか?
現在は廃れてしまった初期の説に、ルーン文字を使っていた者は基本的に口伝で情報を伝え、ルーン文字は宗教・呪術的なものにのみ使用されたという説。
物品に彫られていたルーンが、加護とか豊穣などお呪い的な意味の語が彫られていたためなど・・・まあ色々あって、いつの間にかそういう方面の文字と認識されたようです。
中世後期のスカンジナビアの小説ではルーンを魔術文字として使用しているのも多く見られるようだ
ちなみにルーンは古英語などでRUN。意味は神秘、秘密、助言。
最初にルーンという語が出たのは、350年〜400年頃のノルウェイの石碑にて、このルーンを彫ったと刻まれている。
さすがにこの語源までは分かっていない。
ルーンの意味
ルーン | ラテン文字転写 | 名称 | 意味 | 発音 |
---|---|---|---|---|
f | フェフ fehu | 家畜(財産)、富 | [f],[v] | |
u | ウルズ ūruz | 野牛、また野牛が象徴する雄の力、生殖力も意味するとも解釈される。 | [u] | |
þ | スリサズ þurisaz | 巨人、怪物 | [θ],[ð] | |
a | アンサズ ansuz | 神 | [a] | |
r | ライズ raidō | 騎乗、乗り物。 | [r] | |
k | ケナズ Kenaz | 古英語形 cén (松、松明)、古ノルド語形 kaun (腫れ物) | [k] | |
g | エオー gebō | 贈り物。 | [g] | |
w | ウンヨー wunjō | 喜び | [w] | |
h | ハガラズ hagalaz | 霰。 | [h] | |
n | ナウシズ naudiz | 欠乏。必要。窮境。 | [n] | |
i | イサ īsa- | 氷。 | [i] | |
j | エオー jēra- | 年。豊年 | [j] | |
ï é | アイワズ īhwaz eihwaz | イチイの木。 | [i]と[e]の中間([ı]) | |
p | パスロー perþ-? | 不明 | [p] | |
z R | アルイズ algiz? | 不明、鹿という説あり | [z], [r] | |
s | ソウィロ sōwilō | 太陽。 | [s] | |
t | テイワズ tīwaz | テュール(北欧神話の軍神) | [t] | |
b | ベアコノ berkanan | 樺の小枝。 | [b] | |
e | エイワズ ehwaz | 馬。 | [e] | |
m | マナズ mannaz | 人間。男。 | [m] | |
l | ラグズ laguz | 水。 | [l] | |
ŋ ng | イング ingwaz | 神または英雄の名前? 一説には豊穣神フレイの呼称 | [ŋ], [ŋg] | |
o | オソロ ōþila- | 世襲の土地、領土 | [o] | |
d | ドゴズ dagaz | 日、昼間。 | [d] |
これらはあくまでも、中世以降に記されていた写本からの参考である。
ほとんど廃れてあらかた死語というか死文字になっていたルーンを、多分こうだろうと推測したものに過ぎない。
いや、まあ学者がやってるんでそれなりには近いと思うんですけどね。
ではここで一旦筆を置かせて頂きます。