妙法蟲聲經みょうほうちゅうせいきょう

殊能将之著、小説『黒い仏』にて登場したネクロノミコン仏典版である。
というか年代的にネクロノミコン執筆前なので、アル・アジフ仏典版というべきか。

平安時代前期の天台宗の僧である円載が元慶元年(877年)に帰国する際に観音像に模したニャルラトホテプの像と共に日本に持ち帰ろうとした物である。
円載の乗った船は史実通りに沈んでしまうが、翌年の元慶2年(878年)6月19日にニャルラトホテプ像とその他の物が納められた木箱が福岡県糸島郡二丈町阿久浜へと流れ着いたのが発見される。

漁師に発見された像は、土地の高僧である網哲のもとに持ち込まれ、これを本尊として阿久浜の山中に安蘭寺を開基。
ニャルラトホテプ像は黒智爾観世音菩薩、通称クロミ様として祀られることになった。なお、クロミは弥勒の逆読みでもある。

妙法蟲聲經の存在自体は伝えられているので、像と共に納められていたものと思われるが、その後の行方がようとして知れない。
近年になって安蘭寺に巣食った妖魔が探偵に捜索依頼した際に、探偵は安蘭寺の北西にある岩礁にあるのではと推理したが、その結果は語られていない。
また元々のルーツも判明しておらず、どのような経緯で仏教経典に訳されたかは謎に包まれている。
だが円載が手に入れ日本に持ち帰ろうとした事を考えると、少なくともネクロノミコンとしてギリシャ語に訳される前にアル・アジフが中国に流れていたのは確かだろう。
あるいはニャルラトホテプが過去に遡って、悪戯したのかもしれない。

内容に関しては朱誅朱誅に関して記載されているらしい。
朱誅処、あるいは朱誅朱誅処とは実際に仏教で語られている地獄で、羊やロバ相手に獣姦したものが落ちる地獄である。
因みに牛や馬相手だとまた違う地獄に落ちるらしい、違いが解らないがまあ気にするな。

朱誅朱誅処では鉄の蟻に貪り食われるとされるが、ここでは朱誅朱誅とは地獄の悪虫の名前で虫というより龍に近く、朱誅楼や朱誅龍とも呼ばれるとされる。
朱誅龍とは即ちクトゥルフである。

また朱誅朱誅とは中国語読みでチューチューチューチューになり、虫の鳴き声の擬音。
妙法蟲聲經とは虫の声のお経を意味するのだ。

不倶隷 目楼那訶 朱誅楼 楼楼隷 阿伽不那瞿利 不多乾ふぐれい もくろなか しゅちゅろ ろろれい あきゃふなくり ふたけん

 ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん

 

なお阿久浜はアーカムを捩ったもので実在はしていないが、二丈町自体は2009年までは存在していた。
2010年1月1日に隣接する前原市と志摩町に新設合併し、現在は糸島市となっている。

因みに安蘭寺はクトゥルフの英語表記の一つCthulhuを逆にしたUHLUHTCのアルファベットをそれぞれ6字づつずらしたものである。
U→A、H→N、L→R、U→A、H→N、T→Z、C→I
安蘭寺ANRANZI