禹歩うほ

道教における呪術的歩行術。

時代が下ると反閇という歩法の基になった。

伝説によれば古代中国夏王朝の始祖、禹が伝えたとされる歩行術・・・だから禹歩である。
一説では禹は治水事業に奔走したため足を悪くし、その不自然な歩行の仕方が基になったともいわれる。

禹歩の最古の記述は抱朴子に見られる。

抱朴子によれば魔除けや清めの効果があり、山べの入山、霊山での仙薬採取、兵や避け悪霊を退ける、鬼神召喚、病の治療、長寿の祈願、地鎮など様々な場面で用いられ、バリエーションも数多い。

抱朴子には二種類の禹歩があり、仙薬篇では

禹歩法。前擧左、右過左、左就右。次擧右、左過右、右就左。次擧右、右過左、左就右。如此三歩、當滿二丈一尺、後有九蹟

とある。

訳すとまず左足を前に、次に右足、そして前に出た右足に左足を揃える。
今度は右足を前に、そして左足、前に出た左足に右足を揃えると、先程とは左右逆の歩行を行う。
次に原文だと右足なのだが、その後の記述を見ると、右足を前に出し、前にある左足を過ぎて右足を前にという訳の分からん事態になるので、注釈で右ではなく左とされている。比喩表現と考えると面白いかもしれない。

取り敢えず、注釈通りにいくと左足を前に、次に右足、そして前に出た右足に左足を揃え、これで1セット三歩となる。

これを行うことで二丈一尺の長さにわたって九つの足跡がつくことになる。

登渉篇では

禹歩法、正立、右足在前、左足在後、次復前右足、以左足從右足併、是一歩也。次復前右足、次前左足、以右足從左足併、是二歩也。次復前右足、以左足從右足併、是三歩也。

正して立ち、右足を前に、左足を後に。次にまた左足を前にし、次に右足を前にし、左足を右足に併す、是れで一歩。
次にまた右足を前にし、次に左足を前に、右足を左足に併す、是れで二歩。
次にまた左足を前にし、次に右足を前にし、左足を右足に併す、是れで三歩なり。

その他

青木北海の禹歩僊訣によれば、臨・兵・闘・者・皆・陳・列・前・行の九字を唱えながら行うのが最良であるという。
同書では禹歩は心身を正す効果があり、天と人が感応し合って、自然と邪は去り正は成され祈願する事は必ず成就するという。

秦代の医学書『五十二病法』によれば、禹歩で踏んだ土は薬になるとされていた。

創作作品での描写

まず、左足を踏み出し、次に右足を前に出し、左足を右足にそろえて立つ。
次には右足を先に出し、左足を踏み出し、右足を左足にそろえる。
そしてまた、次には左足から先に踏み出してゆくという、同じ歩き方をくり返している。
禹歩、と呼ばれる、悪霊や邪気を祓う方術である。

――夢枕獏 陰陽師 付喪神の巻177Pより