「どうすっかなーー、これ」
男はそうぼやきながら辺りを見回す。
いけどもいけども遥か彼方、地平線の果てまで砂に埋め尽くされた砂の海。
不毛の大地、砂漠である。
「困ったな〜〜〜」
大げさな動作で頭に手を置き、これは困ったとジェスチャーする。
もっとも口調自体に困ったという感じは微塵も無いが。
大きく息を吸って
「どう見ても・・・」
吐き出すように呟いた。
「厄介事だよな」
男の視線の先
砂の世界であるこの地
いくらか見受けられる、精根逞しい植物を除いた異物
白煙を上げ横転した、ざっと30mはあろうかという大型の輸送車両だった。
「医療器具・・・か?なにか物々しいな」
散乱した積荷から、だいたいの予想はつく。
正確には自分の足元に転がっている積荷からなのだが。
年の頃は17、8程だろうか?
見目は美しい部類に入るだろう。
艶やかな黒・・・俗に烏の濡れ羽色と称されるような美しい髪は腰の辺りまで伸びている。
素肌に丈の長い病衣を羽織っただけという、目のやり場に困る格好だ。
詰まるところ・・・積み荷は女の子だったわけだ。
そう遠くない場所に、人がちょうど納まりそうなカプセルも転がっている・・・
車両が横転した際に、投げ出されたのだろう。
そして散らばった荷物の中に物々しい医療器具?の類も見受けられる。
ここから推測されるに・・・
「生体実験か」
この砂漠のどこかで、生体実験が行われているというのは裏では有名な噂だ。
そしてその実験を行っているのが政府組織というのもだ。
「こんなご時世だしな・・・」
国家だ政府だと言ったところで、一昔前に起きた大戦争から立ち直っている所など皆無。
辛うじて国家としての体制を保っている国となれば、文字通り片手で足りる。
人さえも残らず滅びた国、国家としての機能を果たせぬほど疲弊した国、そんな戦渦の冷めやらぬ地域の方が多く、現在の世界情勢は無法。
まさに文字通り、法などあってないようなもの。
残ったいくつかの国が他国への牽制や疲弊を狙い小競り合いを続け、軍は略奪者となり、戦力の補強・増強のため非人道的に分類されるものも含めて様々な実験に手を染める事例も珍しくない。
そんな情勢で治安など良かろうはずもない。
武器の所持、入手、管理も割りと簡単、遂には犯罪者に賞金が懸けられるようになる。
当然、賞金稼ぎなんてことを職業にするものも現れる。
そしてこの男もその一人だ。
もはや大昔の西部劇。
もっとも、武器にするのはもっぱら銃ではなく・・・
「フレス、どうだ?」
「生体スキャン完了。異常なし。意識がないのは薬物によるものです。安静にしていれば間もなく目覚めるかと推測されます」
男の背後にそびえ立つ白銀の巨人が流暢に答えた。
身の丈は15m程。どことなく猛禽類を連想させるフォルム。
翼のようにも、剣のようにも見える、細身の外見に似合わぬ両肩の巨大な盾。
機械の巨人
そう、武器にするのは銃ではなく人型の機動兵器なのだ。
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「さすがに・・・狭いな」
どちらにしろ少女を砂漠に放置しておくわけにもいかない。
機体の中に運び込んだのだが、言葉通り狭い。
別に狭苦しいコクピットに少女と一緒に入っているわけではない。
この機体は戦闘用であって、運搬用ではないのだ。
工具、寝具、非常食、医療品などを収納するためのスペースがコクピット背部に設けられているが、申し訳程度が頭に付く。
棚などを外し、クッション代わりに毛布で包み押し込んだが、人一人放り込めば荷物を置く場所などない。
仕方なくコクピットの方に持ってきたのだが。
「取り敢えず、機材は毛布で包んで固定するか」
衝撃吸収のための機構は無論、装備されている。
だが最新鋭の機構とはいえ、完全に衝撃を殺せるわけではない。
ましてこの機体・・・現行では最速を謳われる機体が戦闘機動を行えばコクピット内部はシェーカーの様相を呈するだろう。
ちゃんと固定しておかないと、コクピット内部を跳ね回って非常に危険なのである。
「あーーー、非常食は今食っちまうかな。工具も帰ったら新しいの買うことにして、ここらに置いてくか」
「マスター、『帰ったら』というのは死亡フラグだそうです」
AIの声がコクピットに響く。
「うーん・・・AIの学習に娯楽番組とか混ぜたのまずったかな・・・」
「それとこういう状況で出会った異性とは、74.8%の確立で恋に落ちますが99.8%の確立で大きなトラブルに巻き込まれます」
「どっから出たんだ、その数字は?」
「主な参考資料は」
「言わなくていい・・・」
「しかしマスター?運命的な出会いとは思いませんか?」
「思わんよ・・・運の良い娘だとはおもうが」
輸送の途中でたまたま車両が事故を起こし、たまたま車外に投げ出され、たまたま無傷で、たまたま自分が発見した。
こんな砂漠の真ん中だ。見つけるのが30分も遅ければ命に関わっていただろう。
さらに言うならば輸送員が死んでいたのも含まれる。
生きていれば自分が回収することもなかったわけだし。
「ま、運が良ければ最初から生体実験の被験者にはならんか」
「機体情報照合完了・・・FGCA15−Cふれすべるくト確認」
「ああ・・・あの近頃調子付いてる若造か・・・アルス・マグナとかいったか?」
「通常もーどカラ戦闘もーどヘ移行」
「んじゃ教育してやるかぁ・・・人の獲物かっさらうとどうなるかなぁ!!」
次回 死の嵐と大鷲に続く