濃緑色の大型の機体。
「やはり・・・ゲイルストームか。ビームバズーカセット」
「マスター、冷却が不十分です、今発射すれば砲身が焼き付き次弾が撃てません」
「あの重装甲を片付けるにはこいつでないと無理だ」
出来れば短時間で決着を付けたい。
こちらの状況もあるが、何より相対する相手が殺す事を嗜好する快楽主義者だという点が大きい。
曰く、一人のターゲットのために過剰ともいえるミサイルで村ごと焼失させた。
曰く、敵ごと仲間を撃った。
曰く、曰く、曰く・・・
そして・・・こいつは
悪い噂など腐るほどある。
よくも手が後ろに回らぬものだと思うほどに。
政府組織が裏にあるという噂は間違いではあるまい。
古代では私掠船などを代表に、政府が海賊を雇い敵国から略奪するなど当たり前に行われていた。
珍しいことなどではない、同じ立場の者などいくらでもいるだろう。
だが、こいつはその中でも常軌を逸した殺戮狂だ。
何をするのか分からない相手に時間はかけたくはない。
核でも平然と使いかねない相手に長期戦を挑もうなど誰が思う。
「いくぞ、ゲイルストーム!!」
裂帛の気合の中に明らかな殺意が含まれていた。
「ますたー、捕捉されています」
「ふん、大層な荷電粒子砲だな・・・だが」
もし見る者があったなら、それが浮かべた笑みに間違いなく悪意の塊を感じるだろう。
「そんなデカブツ、撃てても後一発が限度だろう!!」
腕部に内蔵されたミサイルの群れは先ほどのミサイルよりも幾分小型。
先の物が槍ならば、これは天を舞う鷲を射落とすための矢に見えた。
「小型ミサイル接近!!」
「全て射線上、このまま纏めて撃ち抜く!!」
光の奔流が迸る。
ビームバズーカ、本来は対戦車ロケット弾の固有名称だったバズーカの名を冠するフレスベルクの最大威力の兵装。
型自体は旧式ではあるが、威力の点では申し分の無いものだ。
その点で言えば、砲の名が相応しいが、人型のFGが単体で扱う兵装故にバズーカの名を冠した・・・という
が、真相は開発者の趣味によるものだろう。
アルスは使い勝手は悪い兵装の、唯一この威力には絶対の信頼を置いている。
それゆえに驚愕を禁じえなかった。
ミサイルを飲み込み、蒸発させた瞬間、ビームは急速にその威力を衰えさせたことに。
「ビームミサイルか!?」
正確には対ビームミサイル。
それ自体には推進装置以外、炸薬の類もなく完全な金属の塊、たいした破壊力は無いがビームによって蒸発したミサイルは重金属粒子の雲となり、ビームを大幅に減衰させてしまう。
そう思い至ったとき
「マスター、新たにミサイル接近」
後手に回ったか。
即座に脚部に内蔵された小型ミサイルを放ち迎撃。
直後に生じた爆風に煽られ、体勢を崩し失速する。
立て直しが無理と判断し、飛行型から人型へ変形し、強引に着陸を強行した。
激しい衝撃がコクピットを揺さぶる。
幸い機体各部には異常はない。
「フレス!!」
「生体反応に変化なし。正常です」
少女のことだ。
思わず笑みが零れた。
よくも言わずに、こちらの求めた答えを返せると。
AIとはいえ・・・こいつは頼もしい相棒なのだ。
「いくぞ、フレス」
「ラジャー」
「ふふん、可変型とは珍しい・・・だが、その分脆そうだ」
機体の中央部が割れ、歪な砲塔が姿を見せた。
否、砲塔ではない、機体自体が砲塔となったと表現するべき威容。
まるで腹に口があるかのような、不気味な姿を曝け出した。
「まあ、こいつの前では頑丈だろうが関係ないがな」
「砲内空気排出開始」
「空気を排出?まさか・・・陽電子砲か!?」
「対象エネルギー反応増大中」
「正気か!?大気圏内で使っていいようなものではないぞ!!」
ビームソードの発信機を取り出し、加速をかける。
「すまんが、我慢してくれよお姫さまぁ!!」
多少の機動ならなんとかなると踏んで加速する。
ギリギリ発射前に間に合うはずだ。
「突っ込んでくるか、まあそれしか手はあるまい」
高硬度の性質の違う超合金からなる装甲の上にビーム粒子を高効率で阻害する半粉末硬化装甲から形成される複合装甲。
並みのビームではたいした効果を上げることも出来ず、機関砲や通常ミサイルなどではほぼ無効化されてしまう。
また装甲は電磁力により若干浮遊しており、機体本体と隙間を空けることで着弾時の衝撃伝達を防ぐことが出来る。
エネルギーを喰う以外は、重量すら気にすることのない理想的な増加装甲といえる。
先のビームバズーカならば、なるほどそれでも致命的な損害を与えることが出来たろう。
だが重金属雲が立ち込めるこの場では威力は減衰され、この機体を損壊たらしめるには足りない。
何より先の一撃で砲身は焼き付き、既に使用は不可能。
ならば今この時、このゲイルストームに有効なのは、力場により荷電粒子を限定空間に循環させることで高密度、高威力と成すビームソードしかない。
だが・・・
「あの位置からでは間に合わんだろうな」
この陽電子砲は、陽電子を蓄積した後、分離した電子と対消滅させその時に生じるエネルギーを指向性を持って機体前面に放出させるもの。
射程は機体前面の視界に納まるほぼ全てに及ぶ。
「詰みだ」