会社(使用者)の安全(健康)配慮義務
会社(使用者)は、賃金の支払い義務のみではなく、労働者の生命、身体、健康などを危険から守るよう安全(健康)配慮義務をおっています。

川村法務事務所
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安全配慮義務の基礎知識

安全への配慮

労働契約法第5条

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする。」と定められていますが、これは、安全配慮義務を明確に規定したものと考えられます。
労働契約が締結された場合に、使用者は、その労務の対象として賃金の支払い義務を負いますが、使用者はその義務以外にも労務を提供する過程おいて労働者の生命、身体、健康などを危険から守るよう配慮すべき安全配慮義務を負うということであり、これは労働契約に特別に定めがなくとも当然に使用者に安全配慮義務があることを定めた規定です。

労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)に関する判例 (川義事件 最高裁第三小法廷昭和59年4月10日)

この判決は、宿直勤務中の社員が窃盗(元同僚)に殺害された事例で、労働者が労務提供のため設置する場所や設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解するのが相当であるとされ、会社に盗賊防止等に関する安全配慮義務違反があるとして、損害賠償請求が認めらたれ事例です。
判決理由は以下のとおり(一部抜粋)
通常の場合、労働者は、使用者の指定した場合に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、A一人に対し昭和五三年八月一三日午前九時から二四時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もって右物的施設等と相まって労働者たるAの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったものと解すべきである。
 そこで、以上の見地に立って本件をみるに、前記の事実関係からみれば、上告会社の本件社屋には、昼夜高価な商品が多数かつ開放的に陳列、保管されていて、休日又は夜間には盗賊が侵入するおそれがあったのみならず、当時、上告会社では現に商品の紛失事故や盗難が発生したり、不審な電話がしばしばかかってきていたというのであり、しかも侵入した盗賊が宿直員に発見されたような場合には宿直員に危害を加えることも十分予見することができたにもかかわらず、上告会社では、盗賊侵入防止のためののぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の物的設備や侵入した盗賊から危害を免れるために役立つ防犯ベル等の物的設備を施さず、また、盗難等の危険を考慮して休日又は夜間の宿直員を新入社員一人としないで適宜増員するとか宿直員に対し十分な安全教育を施すなどの措置を講じていなかったというのであるから、上告会社には、Aに対する前記の安全配慮義務の不履行があったものといわなければならない。そして、前記の事実からすると、上告会社において前記のような安全配慮義務を履行しておれば、本件のようなAの殺害という事故の発生を未然に防止しえたというべきであるから、右事故は、上告会社の右安全配慮義務の不履行によって発生したものということができ、上告会社は、右事故によって被害を被った者に対しその損害を賠償すべき義務があるものといわざるをえない。



電通事件(最高裁平成12.2.24))

この事件は、労働者が入社後約1年5ヶ月後に自殺し、このことについて両親が会社に対し損害賠償請求を求めたものです。
第一審 使用者責任を認め、1億2,600万円の支払いを命じた。
第二審 労働者の性格等を根拠に3割を減じた。(過失相殺を類推適用)
最高裁 高裁(第二審)判決を不当として、高裁に差し戻し、和解。1億68,000,000円の支払いが成立。

概要
労働者は、健康で明朗活発、責任感があり完璧主義の傾向もあった。
労働者は両親と同居。
労働者は、恒常的な長時間労働による睡眠不足により、心身共に疲労困憊し、顔色が悪く、目の焦点も定まらないようになった。上司はそのようすに気付いていた。
労働者は、平成23年8月23日、イベント実施に当たるため上司の別荘に行ったが、このとき、労働者の言動に異常があることに上司が気付いた。
労働者は、イベントが終了し27日午前6時頃帰宅。
弟に病院に行くと話し、午前9時ころ職場に体調不良のため休む連絡を電話でしたが、午前10時頃、自宅浴室で自殺しているところを発見された。

判決要旨 一部抜粋
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う樋籠心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容にしたがって、その権限を行使するべきである。
しかしながら、企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態き使用者として予想すべきものということができる。
したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するにあたり、その性格又はこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。




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安全(健康)配慮義務の内容

安全配慮義務の具体的な内容については、それぞれ具体的な状況によって判断されることになりますが、一般的に考えられる内容としては、
1.業務を行う施設、設備、機械器具、材料等に不備な点や欠陥によりおこりうる業務災害等の防止
2.労働者が危険な作業方法を行わないように、安全衛生教育を実施するほか、不安全行動を取った場合には注意指導を行うこと
3.労働者間および事業者間の連絡調整を的確に行うことおよび作業工程の調整を的確に行うことにより災害を防止すること
4.労働者の健康状態の把握と、健康状態が悪化しないように必要な措置を講じ、過重な業務を行うことにより身体および精神的な健康を害することないようにすること
5.寮などの施設や設備を設置する場合には適切に整備し、それらを利用する労働者の安全および健康を確保すること
6.いじめ、パワハラ、セクハラ、モアハラなどを防止する措置を講じ、さまざまな事故等を防止すること
7.受動喫煙による健康被害を防止するよう必要な対策を講じること

 
安全(健康)配慮義務責任の所在

通達
「使用者は労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負う」(平20.1.23基発第0123004号)
とあります。

この労働契約法上の「使用者」とは、個人事業の場合は、その事業主であり、法人の場合はその法人そのものを指すと定義されています。
しかし、労働基準法では「事業主のために行為をするすべての者」とされていますので、部課長や現場監督者など複数の者が使用者に該当することになりますが、この部課長等については、「履行補助者」とみなされ、その者に過失があるときは「使用者責任を負うと考えられます。(中災防安全配慮義務Q&Aより)
また、判例では、直接労働契約に関係のない元請負人も安全配慮義務を負うと判例もあります。(三菱重工業神戸造船所事件 最判平3.4.11)

役員等の責任についての判例では、会社法第429条に規定されていますが、取締役は善良な管理者としての注意義務として安全配慮義務の責任を負うとされています。(大庄事件 京都地判平22.5.25)



精神的な病気に対する使用者責任の根拠規定

労働安全衛生法 第3条第1項
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない
労働安全衛生法 第65条の3
事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。
労働安全衛生法 第69条
事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。
 労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。

労働者の心の健康の保持増進のための指針(平成18年3月31日公示3号)

http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/03/dl/h0331-1b.pdf 






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