懲戒処分
川村法務事務所(社労士・行政書士事務所)

スポンサーlink

懲戒処分とは
民間企業の懲戒処分とは、企業秩序に違反または労働者としての義務に反したり、背信行為によって企業に損害を与えたり、企業の名誉や信用を失墜、その他社会的評価を著しく毀損した行為に対して課せられる制裁罰といえます。

懲戒処分を行う権限は、使用者にあるとされ、就業規則の記載事項としても定められています。


懲戒処分に関する労働契約法の規定
労働契約法第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

懲戒処分に関し、違法性があるかどうかについての最高裁の判断
使用者の裁量権による処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断する。(昭52.12.20 最高裁三小判決 神戸税関事件)


懲戒処分を行うための要件

懲戒処分の事由が就業規則に定められていること
ただし、明らかに企業の秩序をみだし、企業の目的遂行に害を及ぼす行為については就業規則等に規定がなくても可能と解されています。(参考判例 昭26.7.18 東京地裁決定 北辰精密工業事件)

就業規則に規定された処分の内容であること
懲戒処分の内容は、法令、公序良俗に反しないものであれば使用者が自由に定めることができる。

違反行為と処分にバランスがとれていること
行為事実が客観的に軽いとさりるものに、それに釣りあわない重い処分を行えば権利の濫用とされ無効になる可能性があります。

懲戒処分の種類の判断は、情状の軽いものから段階的に考察すること
軽い処分では均衡がとれないという行為の場合には、当然に重い処分をすることも可能

処分に関する手続きが適正であること
就業規則等で定められている手続を遵守しなければ無効の可能性がある

一事不再理の原則(二重処分禁止)
一つの違反行為に対して二重の処分をすることは許されない。なお、新たな懲戒処分を行わなければならない場合に、前の処分を考慮して処分決定を行うことは許される。
また、複数の処分を併せてすることの規定がある場合には、一件の事案についての処分を併科することも可能と考えます。


始末書は強制できない

謝罪としての始末書を強制することは、個人意思の尊重の理念から強要することはできないというのが判例です。

本人の自由な意思に基づくものではなく、謝罪文の提出を強制的に求めることはできませんが、任意に求めることは可能です。
したがって、始末書の提出を拒否されたこと理由に新たな懲戒処分を科することは認められません。

ただし、
顛末書(事の最初から最後までの事情)としての始末書であれば、業務命令として行うことは可能と解されてます。


退職した後の懲戒処分はできない

懲戒処分は、企業秩序の違反行為に対しての制裁罰ですので、退職してしまった後には企業秩序の維持の問題は発生せしません。
したがって、退職後の懲戒処分は法的根拠もなく無効となります。

退職者に対する懲戒処分と退職金不支給の問題
退職金を不支給とする場合には、退職金規定にその事由の定めが必要となります。

@懲戒解雇という処分を不支給事由とした場合で退職後に懲戒解雇事由が判明した場合
退職者に対して懲戒処分を行うことはできませんので、退職金の支給しなければならないと考えます。
ただし、懲戒事由によって会社が被った損害に対して賠償を求めることは可能です。

A懲戒事由を退職金不支給の事由とした場合
@の処分自体を不支給事由とはせず、行為そのものを不支給事由とした場合は、その行為時点で退職金の請求する権利がなくなっていますので、退職金の支給する必要はなく、また、その行為が退職金を支給した後に発覚したとしても支給する事由そのものがなかったので不当利得として返還を求めることが可能です。


減給処分についての法令上の制限

減給処分の限度
労働基準法第91条
「就業規則で、減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」

減給処分の事案が数回に及んだ場合で、その合計が1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えるような場合、10分の1を超えた額を翌月分から差し引くこと(繰延控除)は認められています。


「就業規則」について
懲戒処分は、就業規則に定められていなければ行うことはできないのが原則です。しかし、就業規則自体がない場合や就業規則に減給の制裁規定がない場合でも、内気や慣行により労働者に周知されているのであれば減給の制裁は可能と考えます。ただし、本状の制限を超える減給の制裁は違反となることに注意が必要です。
1回の額とは
1回の額とは、1事案を意味するもので、1つの事案の損害額が大きかったとしても1回とされます。よって、懲戒事由とされる行為が2つあれば、2つのそれぞれの行為が制裁の対象ということになります。
賃金の総額とは
賃金の総額とは、現実に支払われる賃金の総額であり、例えば、欠勤などで賃金総額が減少した場合にはその減少した賃金総額が基礎となります。
平均賃金の算定日
減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日が算定すべき事由の発生した日とされています。


賞与を対象とした減給処分についての行政解釈は、
賞与も賃金であるので、制裁として賞与を減額することは労働基準法第91条が適用され、減給の総額は、賞与の総額の10は分の1を超えてはならない解されています。


減給の制裁として労基法第91条が適用にならない
・降格処分が行われ、結果といてその地位に応じた賃金が元の賃金より下がるような場合
 ただし、降格したとしても、従前と同一の職務に従事させながら、賃金額のみを減ずる趣旨であれば適用されます。
・職務ごとに異なった基準の賃金が定まっていて、職務替によって賃金支給額が減少する場合
・遅刻、早退、欠勤に対して労働の提供がない時間分の賃金を差し引く場合
 ただし、遅刻、早退、欠勤の時間に対する賃金額を超える場合には制裁とみなされます。また、時間に関係なく1回につき定額を差引く場合やある行為に対して一律の額を減額することも本条の制裁と解されます。
 また、金額を定めて罰金として徴収することについては、労基法第16条(損害賠償の予定の禁止)に抵触する可能性があると思われます。
・処分として昇給を停止する場合(懲戒処分としての規定が必要)
・賞与からの減給について、賞与が減額されたとしても、それが勤務評価の結果であるならば違法とはなりません。
 ただし、支給額のまったく無いというものであれば公序良俗に反し無効とされる判例があります。


懲戒処分と損害賠償の関係

懲戒処分と損害賠償の問題は、法的には別の問題です。

従業員の行為に伴って会社が損害を被ったり、会社が第三者に対し損害賠償責任を負ったことにより損害を被った場合には、行為従業員に対して損害賠償を請求(求償権の行使)することが民法第715条第3項により認められています。
求償できる損害賠償額について
故意や悪意のある行為による場合には、全額を求償することも可能かと考えますが、軽度な過失については、求償の対象として否定されています。(昭51.6.9 大阪地裁岸和田支部判決 トヨタカローラ南海事件)
また、裁判所の判断として、重たい過失、重過失等があったとしても、会社側の管理上の問題や指導の問題、業務の性質などの監督責任による過失相殺等によって請求金額が減少するのが通例です。



スポンサードリンク