アオハクガン (Anser caerulescensblue phase) の国内初記録

First record of blue phase Lesser snow gooseAnser caerulescens) in Japan

○佐場野裕、上村左知子、呉地正行

(日本雁を保護する会)

 

ハクガン(Anser caerulescensは、30年程前までは、数年に1羽が記録されるぐらいの珍鳥とされていたが、近年は国内への飛来数が次第に増加し、最近では10羽内外の少数が毎年定期的に越冬するようになっている(例えば、本学会1998年度大会A012001年度大会P512004年度大会P68)。

ハクガンには、風切羽の一部だけが黒色で、体全体が白色の白色型 white phaseと、頭部と頚上部だけが白色で他はほとんどが暗色の青色型 blue phase (アオハクガン)の二つの型がある。これまで、国内で記録のあるハクガンは、すべて白色型であるが、2006/2007冬季に、2個体(個体A、個体B)の青色型のハクガン(アオハクガン)が観察されたので報告する。

個体Aは、2006/10/19に山形県鶴岡市下池でコハクチョウ5羽の家族群と共に観察され、その後、11月に新潟県瓢湖、11月から1月まで長岡市信濃川河川敷などでコハクチョウの群れの中で観察された。この個体は、頭部以外は全体が暗色で典型的なアオハクガンの成鳥であった。

個体Bは、2006/9/27に北海道サロベツでオオヒシクイの群れの中で発見され、1020日まで継続的に観察された。その後、10月中はウトナイ湖、長都沼周辺でオオヒシクイ、マガンの群れの中で、1123日には宮城県一迫町、瀬峰町の水田でオオヒシクイ、マガンの群れの中で観察された。この個体は、頭・頚部以外に胸から腹部の下面全体も白色で、背面だけが暗色であったが、アオハクガンの体色には変異が多く、個体Bもアオハクガン成鳥と考えられる。

アオハクガンは、本来、米国の中部から東部で越冬する分布を示していたが、米国の研究者(Ray Alisaukas、他.2006)によれば、近年は分布を西部に広げる傾向を示している。さらに、米国の最西部に分布する個体群の繁殖地であるウランゲル島では、アオハクガンはほとんど見られないのが通例であったが、昨年・2006年の夏には11羽のアオハクガンが観察されている(Sean Boyd 2006)。今回の記録は、この傾向の延長上の事例であると思われる。

なお、これまで、国内でのアオハクガンについては、1975/1976及び1976/1977の冬季に伊豆沼で観察されたとする記録があるが、この個体の外部形態について詳細な検討の結果、この個体はアオハクガンではなく、マガンの変異であることが指摘されており(寒澤、呉地、横田1982)、今回の記録は、国内での初めての確実なアオハクガンの記録である。