加納夏雄作 木の間の月図鐔
加納夏雄作 木の間の月図鐔
印銘:夏雄
鉄地高彫色絵
江戸時代末期
加納夏雄は江戸時代末期、化政文化の「粋」を出発点に明治の黎明期を生きた近世の名工です。作風は極めて端正で、鏨は神技といえるほどに冴え、中島来章に学んだ写生も一流で作品に満ち満ちた空気は実に爽やかであり、君子の風格があります。
この鐔は、夏雄の顧客である綿貫氏の注文品として文久4年(1864)に完成したもので、夏雄36歳の気力、体力共に充実したときの作品です。
老杉巨木の幹を、やや左寄り大半にどっかりと表現し、右上部に葉隠れの朧月を銀の布目象嵌で添えた幽玄な構図は、夏雄の真骨頂です。鞍馬の山奥でしょうか、沈々とした杉の巨木から湧き出る霊気は辺り一面に漂い、杉から月までの空気は充満して深閑としながらも、はち切れんばかりのエネルギーを感じさせる雰囲気は抜群の美観です。この作品は夏雄の積年の技量に彼の感覚を加えた計り知れない力が作用して出来上がったものと思われます。「鏨の花」掲載の数ある岩崎家所蔵品のなかで一点だけ「岩崎弥之助君蔵」と名前を明記している弥之助自慢の名鐔です。