それはある日の昼下がりの、宿屋での出来事だった。西へと向かうルートにこの先止まれるような街はしばらく存在しないため、三蔵一行はまだかなり日も高い内に今日の宿を決めて旅装を解いた。。


「うひょー、今日は豪勢だなあ」
「今日は、だけですけどね」
二人部屋の、割りと広めのベッドにごろりと横になって子供のようにはしゃいでいる悟浄に八戒はにこりと笑いかけた。
「明日からはしばらく強行軍が続きますからね。買い足しておきたい物もあるし、残念ながら夜遊びする暇はないと思いますよ」
綺麗な笑顔を浮かべながら、けれども瞳には辛辣な光を漂わせ言い放つ八戒に、悟浄は気勢を削がれたような顔をしてむくりと起き上がった。
「じゃあ、出掛けましょうか」
悟浄の事を荷物持ちだと言外に匂わせて、八戒は促した。しかし聞こえているはずなのに悟浄は動こうとはせずじっと何か考え込んでいる。
真剣なそのまなざしを訝しんで、八戒はベッドの端に近寄り男前の顔を覗き込んだ。それを待っていたかのように悟浄がにやりと笑う。
何か良くないものを感じて八戒が身を躱そうとするより早く悟浄の腕が腰に廻りそのままベッドに押さえ込まれた。
「ちょっ、悟浄。ひとの話聞いてたんですか 今から出掛けるって言ったでしょう!」
「だってさあ。おまえ、夜は駄目って言ったじゃん」
「夜遊びは駄目って言ったんです」
「とか言って夜になっちゃえば、明日は朝早いからとか何とか言う気だっただろ」
赤い瞳で間近に顔を覗き込まれて、八戒は一瞬ぐっと怯んだ。その隙を見逃す悟浄ではない。片腕で八戒を押さえ付けながらもう片方の手で服の上から弄り始める。
「なっ、何するんですか!」
上ずる八戒の声に気を良くする悟浄はちろっと舌なめずりをした。
「解ってるくせに」
耳元に低く囁かれて八戒はぱあっと顔を赤く染める。
「八戒、かわいい」
耳たぶを甘噛みされながら吐息混じりに囁かれて八戒はぎゅっと目を瞑る。
「大丈夫、まだ日も高いし時間は充分あるって。後で全部俺が一人で荷物持ってやるし」
「あ、あなたの言うことは当てにならないんですっ。それにこんなにまだ明るいのに」
「いーじゃん、たまには」 
抵抗する八戒の力がしだいに弱まってくる。くっくっと含み笑いを洩らしながら悟浄は八戒の首筋に舌を這わせた。
「んっ!」
びくんっと八戒の身体が跳ねて、それでも声を洩らさないようにぎゅっと口唇を噛み締める。
「ばかっ、そんなにきつく噛んだら血が出ちまうだろ」
そう言いながら悟浄は色づき始めた八戒の口唇を優しく掠め取り、食いしばる歯を舌先でつついた。
いつの間にか服をはだけられて直接肌を辿り始めた手の感触とついばむようなキスで八戒は僅かに口唇を開いた。その淡い色の口唇に舌を差し入れて悟浄は強引に歯列を割る。
思わず逃げ出しかけた八戒の舌を搦め捕り、薄い上顎をちろちろと嘗め上げた。
 
弱々しく頭を振る八戒をしかっりと押さえ込み、悟浄はすばやく八戒の身を覆う衣類を剥ぎ取った。久しぶりに明るい処で見る八戒の肌はいつもよりずっと目に焼き付くように艶やかで悟浄の口元を弛ませた。
「八戒だってこうやって二人になれるの、待ってたんだろ?」 わざと吐息まじりに囁く悟浄の声に、八戒は過剰に反応して真っ赤になった。
「ほら、もうこんなにどこもピンクに染まってるし」
目を瞑ったまま羞恥に顔を染める八戒の頬を、悟浄は両手で包み込みチュッと音を立ててキスをした。
「やっ、めてくださいっ。悟浄っ。―――もうっ」
上がる息を混ぜながら八戒は早口で小さく叫んだ。
「もう、何?」
ひとの悪い笑みを浮かべて悟浄は嘯いた。野宿やら何やらで、随分長い間禁欲生活を続けてきたのは悟浄だけではない。
キスだけで八戒の身体に情欲の火がともっても不思議はなかった。
そういう悟浄ももうかなりきてはいるのだが、真っ昼間からというこのおいしいシチュエーションを思いきり味合わなくてはという不埒なことを彼は考えていたのだ。
しかし、ぎゅっと口唇を噛み締め目尻に涙を浮かべている八戒を見て悟浄の心は揺らいだ。
「解った。じゃあ、もう抱いていい?」
愛しそうに悟浄は囁くと、八戒は目を瞑ったままこくりと頷いた。



「ああっ、ご、じょうっ。ああ、んっ」
今の時刻と場所をすっかり失念してしまったらしい八戒の口から甘い声が何度も上がる。あぐらをかいた悟浄の膝に座らされて後ろから貫かれている八戒の背が綺麗な弧を描いて反り上がる。
「もう、悟浄っ。あっ、だめですっ」
「まだ駄目だって。もうちょっと」
「あああっ」
切れ切れに上がるそろそろ限界だと知らせる八戒の叫びにも取り合わず、悟浄は赤く染まった胸の突起を弄り回していた指を八戒自身に絡めて根元をキュッと戒めた。
「やだっ、悟浄、やめっ」
「もう少し」
悟浄の声も熱く掠れていた。滴る悟浄の汗が八戒の肌を滑り落ちていく。


そのころ悟空は手持ち無沙汰になった時間を持て余していた。
しばらくは三蔵の側で色々纏わり付いていたのだがどうあってもまともに取り合って貰えず、久しぶりにゆったりとした時間を三蔵と外へと出掛けるのを諦めて、賢明にも構って貰う相手を変えたのだ。
八戒になら邪険にされることもないだろうと、悟空は勇んで悟浄と八戒の部屋へと足を向けた。
荷物を置きに行っただけのはずの彼らが随分姿を見せないな、などと悟空に気が回るはずもない。二人の部屋の前で足を止めた悟空は何かドアの向こうの様子が変なことには気づいたが、二人の気配がするのは間違いがなかったのでそのまま躊躇わずにドアを開けてしまった。

ドアを開けた瞬間目に飛び込んできたのは、あられもない格好で悶えている八戒の姿であった。普段の清潔そうな八戒とはまるで違う、艶しい姿に悟空は素っ頓狂な声を上げた。
「八戒 」
熱に浮かされたようになっていた八戒の意識がふっと浮上する。八戒がこの状況を把握するより早く悟浄は彼の肩越しに目も口も真ん丸にしている悟空の姿を認め、そしてちっと舌打ちし目を細めた。
もう二人とも限界に達しているのだ。今更止めることは出来そうになかった。
八戒の目が開き悟空を見つけた。それと同時に悟浄は八戒自身を戒めていた指を解き一番深くを抉るように腰を使った。
「や、やめて。悟浄っ!」
八戒の口から制止の叫びが上がる。
「ごめんっ、八戒っ」
そう言って悟浄は限界に達していた八戒自身に刺激を加えた。
「あっ、あああーっ」
驚愕に目を見開いたままの八戒の口から一際高い叫びが上がる。
「くっ」
悟浄の口からも小さな声が洩れる。そうして二人はどくりと欲望の証しを吐き出した。

立ち尽くしている悟空の目の前で。




八戒の荒い息遣い以外、誰ひとり口もきけない居たたまれない沈黙が降りた。随分長い間のような気がしたがそれは多分二、三秒のことだったのだろう。
「ごめんっ!」
いきなりかああーっと顔を赤く染めた悟空が一声叫ぶなりクルリと回れ右をしてドアの向こうに駆け去った。
「あっ、悟空!」
手を伸ばしかけて八戒はまだ自分の中に収まったままの悟浄に気が付いて、鬼のような形相で振り返った。
「悟浄−っ!あなたってひとは……っ」
怒りのあまりそれ以上口がきけなくなって、ただぱくぱくとしている八戒の背から立ち上るあやしいオーラが見えた。

―――やばいっ。マジで怒らせた。
八戒の様子に悟浄はどきどきしながら達してもまだ固いままの自分のものをずるりと引き抜いた。それと一緒に自分の放ったものが一緒に溢れ出してくる。思わずそれを見てしまった八戒の顔が真っ赤になった。
「信っじられないっ、悟空がいたのに続けるなんてっ!何考えてんですかっ。もう今度の今度は許しませんから。どうするつもりなんですっ、僕はもうっ、もうっ」
怒りと羞恥のため八戒の顔色がますます赤くなる。
「ごめん、八戒。本当にごめんってば。サルには俺からよく言い含めておくから、な?」
両手を顔の前で合わして悟浄は小さくなって頭を下げた。
「絶対に許しませんっ。もう顔も見たくない。出て行って下さいっ、今すぐ!」
怒鳴り散らす八戒の見幕に押されて悟浄はこくこくと頷いた。ズボンだけを無理やり足に突っ込むと、情けない格好でそれでも悟浄は八戒の機嫌を取ろうとした。
「本当に俺が悪かった。ごめん。」
「聞く耳持ちません。」
そう言うなり八戒は悟浄の顔面に枕を投げ付けた。



気分は最悪だった。恥ずかしさや、悟浄に対する怒りや、自分自身の馬鹿さ加減に歯噛みもしたくなるし、これから悟空とどんな顔をして会えばいいのかとか、一言で言うならやり場のない居たたまれない気持ち―――世間一般で言われる穴があったら入りたい、という気持ち―――に駆られて八戒はシーツに顔を埋めた。こんな真っ昼間から、それも鍵も掛けずに―――後から部屋に入ったのは確かに悟浄だった―――ことを始めた悟浄が悪い。全面的にあのひとが悪い。

八戒はそう自分に言い含めると顔を上げた。
部屋から出たくないのはやまやまだけど、今日中にどうしても買い出しに行ってこなくては明日の出発には間に合わない。たとえ三蔵の耳に入るのは確実だとしても、行けなかった理由を自分から説明しなくてはいけない赤面ものの立場に置かれるのは絶対に御免こうむりたいと思う。
自分と悟浄がそういう関係だと三蔵も薄々解っているのだけれど、だからといってこの状況を説明するなんて真似出来るわけなかった。

八戒はこのままシーツに潜り込んで全部なかったことにしてしまいたい衝動をどうにか押さえ込むと、まだだるさの残る身体を叱咤して備え付けのバスルームに向かった。キュッとバルブを捻り熱い湯に身体を打たせると、少しずつ気持ちがしゃんとしてくる気がする。
ポタポタ落ちる滴を見下ろしながら八戒は事を始める前に買い出しの荷物持ちは全部やってやると豪語していた悟浄の言葉を思い出した。こんな体調の時に一人で買い出しなんて考えるだけでどっと疲れてくる。
今は顔も見たくないのに。そう考えると更に怒りは増してくるのであった。


………さーすーがーに、あれはマズかったかなあ。
悟浄は人気のない、まだ夕食に早すぎる頃合いの食堂のテーブルに頬杖を付きながら煙草をふかしていた。

せっかく今日は二人でゆっくりと出来ると思ったのに。機嫌、簡単には直んないよなあ。あー、失敗した。
はあ、と特大の溜め息を吐いて悟浄は頭をテーブルに突っ伏した。
その時、背後から待ち望んでいた声が刺々しい調子でかけられた。
「荷物持ちするって約束でしたよね?」
「八戒 」
くるりと振り向き様眼を輝かせた悟浄に八戒は胸の内で思わずくすりと苦笑した。ただそう思ったことがばれるといけないので顔は冷たい表情のまま、悟浄にびっしりと細かい字の書かれたメモを手渡した。
「何、これ?」
「買い出しのリストです」
「ああっ。俺、荷物持ちでも何でもするからさ。な、八戒」
機嫌直してくれよ、と言う前に八戒はぎろりと一睨みした。
「当然でしょう。でも僕はちょっと身体が怠いので、一人で行って来て下さい。そこに書いてある物以外買ってきたらただじゃおきませんから。いいですか?ハイライトもお酒も駄目です」
次々に浴びせられる冷たい台詞に悟浄の顔が見る見る内にしゅんとしてくる。
「俺は、おまえとデートできると思ってたのに……」
「な、に、か、言いましたか?」
「いえっ、何も!じゃあ、行ってくるわ」
とぼとぼと歩きだす悟浄の背中が可笑くて、少し笑ってしまいそうになるのをぐっと八戒は堪えた。
「夕食は七時です。それまでには済ませてきて下さいね」


夕食も散々だった。慣れない買い物で疲れ切って、けれど遅れるとまたそれはそれで何を言われるかわかったもんじゃないと急いで帰って来た悟浄を待ち受けていたのはこれ見よがしな八戒の無視であった。
また何かやらかしたな、と無言で責める三蔵の視線から目を逸らすと、その先には意識しまくって普段にもまして行動がおかしくなっている悟空の姿があった。
何事もなかったかのように振る舞う八戒の笑顔が恐ろしいのは悟空もであるらしかったが、だからといって悟浄の気分が晴れる訳でもない。 そういうわけで、八戒一人がにこやかな、全体的には白々しい雰囲気で彼らは夕食を済ませたのであった。




「八ーっ戒。なあ、返事くらいしてくれよ」
夕食後のお茶もそこそこに食堂から歩きだした八戒の後ろに付き纏いながら悟浄は哀れっぽい声で呼びかけた。振りでも何でもないその声にも八戒は歩みを止めようとしない。

部屋を変わると言い出されやしないかと悟浄はびくびくしていたが、八戒はそうはしなかった。機嫌を直してくれる心持ちがあるのか、それとも単に説明をするのが嫌なだけなのかは悟浄には判別しかねた。まあ、夕食のときにもあれだけおどおどして目を合わせないようにしていた悟空と同室になりたいわけもないし。
しかしこのままでは幾ら同室とはいえ恋人らしいことは一つもさせて貰えなさそうな状況を何とか打破しようとして悟浄は懸命に呼びかけた。
「なあ、八戒」
何度目かに呼びかけた時、いきなり八戒がくるりと振り向いた。
「何度も呼ばなくてもちゃんと聞こえています。返事もしたくないくらい僕が怒ってることぐらい解らないんですか?」
きっとこちらを睨みつけてくるその緑の瞳に、こんな時であっても悟浄は胸がどきどきするのを感じた。
こうやって怒ってるのをみせてくれるのって俺だけなんだよなあ。と、怒っている八戒をよそに悟浄はにやけそうになる口元を慌てて押さえた。
「何にやにやしてるんですか 」
「してないって。そろそろ口きいてくれてもいいだろ?」
「全っ然、反省してませんね!」
再びがみがみと怒鳴ろうとした八戒が、何かに突き飛ばされそうになってよろめいた処を悟浄が慌てて抱きとめた。
「悟空?」
その影は先程トイレに行くと言って席を立った悟空だった。
「あっ はっ、ははは八戒っ、ご、ごめんっ」
しどろもどろになって飛びのいた悟空の顔がゆで蛸のように真っ赤になった。目のやり場に困った様子で悟浄の腕の中にすっぽりと収まってしまっている八戒から目を逸らす。その顔を見れば何を思い出しているのかは歴然としていた。
不意に悟浄の中にむらむらと怒りが湧き上がってくる。
「なにひとのモン見て赤くなってんだよ。このサル!こいつは俺のなんだから、そこんとこよっく覚えとけよ!」
いきなり喚き出した悟浄に悟空は目を白黒させた。そのあまりの自分勝手な言い草に怒りのあまり、ふるふると震えた八戒の肘鉄が悟浄の鳩尾に入る。
「ぐふっ。何すんだよ!」
そう言いつつも八戒の腰を抱いたまま悟浄はその手を離そうとはしなかった。
「それは、こっちの台詞です!いい加減にしないと……」
八戒が気孔で吹っ飛ばしてやろうと身構えたときだった。呆然とこのやり取りを見つめていた悟空が真っ赤な顔のまま叫んだ。
「ちっ、違うんだって!」
その大声に悟浄の八戒も一瞬気を取られて悟空の方を向き直った。
「ごめんっ。八戒のこと、そーゆーつもりで見てたんじゃないんだ!」
早口でまくし立てる悟空に悟浄は疑わしそうな目を向けた。
「―――本当に?」
「本当だってばっ」
「じゃあ、なんでお前あんなに赤くなったりしたんだよ」
納得しかねるといった様子の悟浄がつける難癖に悟空はもじもじと小さくなった。
「あの、その、だから……。ごにょごにょ三蔵のこと、とか……考えたり、して……」
口の中でムニャムニャ答えた悟空はそこまで言うと頭から湯気を出して脱兎のごとく逃げ出した。

呆気に取られた悟浄と八戒だったが、しばらくして二人してぷっと吹き出した。
「ナニあれ」
げらげらと腹を抱えて悟浄が笑い出す。笑っちゃいけない笑っちゃいけないと思いつつ、八戒の口元も笑いをかみ殺すのに必死で震えていた。
「子供だと思ってたのに、いっちょまえに」
「本当に」
顔を見合わせて二人は堪え切れずくっくっと笑った。
「今の、三蔵が聞いてたら最高だったのにな」
息も絶え絶えになりながら悟浄はひとの悪い顔をした。
「そんなの、僕達がやり場のない恥ずかしさの八つ当たりの的にされるだけですって」
二人の笑いの発作が収まるのをしばらく待って、悟浄は苦笑しながら八戒の頭に額をつけた。そして柔らかな吐息交じりの低い声で囁く。

「―――機嫌、直った?」
「まさか。そんなに簡単に直る訳ないです。最悪です」
そう言って八戒は凶悪な、けれど絶品の笑顔を見せた。
「確かめてもいい?」
こめかみに軽くキスをすると有無を言わせずに八戒の腰をしっかりと抱いて宿の部屋へと足を向けた。抵抗する素振りを見せない八戒に気を良くして悟浄は部屋のベッドにそっと八戒を横たえ、自分もそこに乗り上がった。
「あんまりいい気になってるとぶっ飛ばしますよ」
「いいよ。俺、めげないから」
ノープロブレムと顔にでかでかと書いて勝ち誇る悟浄に八戒は何ともいえない顔をして、そしてふっと微笑った。
「もう。いつもそうなんだから」
悟浄に自分が甘すぎることを再確認しながらも、八戒はそれを改めようとしない、いや出来ない自分自身に溜め息をついた。
「ナニ?溜め息なんてついちゃって」
ニヤニヤ笑いながらキスの雨を降らせる悟浄の首筋に八戒は自分からするりと腕を回した。
「あなたには勝てないな、って思って」
「何言ってんだよ。それはこっちの台詞だっつーの」
くすくすと笑いながらひとしきりキスを交わした後、八戒は悪戯っぽく悟浄の瞳を覗き込んだ。
「自分から見せつけたくせに、悟空にまでヤキモチ焼いたりするし」
「うん、まあ。あれはちょっと失敗した。俺しか知らないおまえをサルなんかに見せるんじゃなかった」
ぷっと八戒は吹き出した。
「まったく馬鹿なんだから」
「うっせーな。それ以上言うと、口塞ぐぞ」
赤くなる悟浄に八戒は更に笑い出し、ぼりぼりと頭を掻くその手を引き寄せ自分からキスをした。
「―――ちゃんと、鍵かけました?」
八戒からのOKの合図に悟浄は笑みを深くした。
「もちろん」
互いを抱く腕に力を込める。夜はまだまだ終わりそうになかった。


その頃、宿の別室では三蔵を意識し過ぎて真っ赤になっている悟空と、釈然としないながらも某かの嫌な雰囲気を感じて不機嫌になる三蔵が傍目にはおもしろい情景を繰り広げていた。
理由を問いただした三蔵の明日の朝の荒れっぷりを知る由もなく悟浄と八戒は今度こそは邪魔をされない二人の時間を心から堪能して夜は更けていった。






付記: これは2002年の1月に名古屋で行われた58KTオンリーにて発行されたアンソロジーに乗せていただいたお話です。なんだか2年前とは思えないなあ。もっとすっごく前に書いたような気がしています。微妙に93設定なのは当時の売り子嬢へのサービスだと思われます(笑)。彼女はパンピーなのによく売り子をさせていましたわ。最近は付き合ってくれないのが淋しいのですけですど(^_^;)。