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相続の承認及び放棄

Q; 甲が死亡し、その子A、B及びCに相続が開始した。A が自己のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月が経過したときは、B及びCは、自己のために相続が開始したことを知らなくても、相続を放棄することができない。

A; ×
熟慮期間の起算点は、「自己のために」相続があったことを知った時であって(915条1項)、各相続人ごとに進行するから、共同相続人のうちの一人A につき熟慮期間が経過しても、他の共同相続人B 及びCは、各自の熟慮期間が経過していなければ、相続の承認及び放棄をすることができる。


相続の承認及び放棄とは

相続による権利義務の包括的承認は、被相続人の死亡によって当然に生じる(896条)。
しかし、積極財産(プラスの財産)よりも消極財産(マイナスの財産=債務)の方が大きい場合はもちろんのこと、積極財産のほうが大きい場合であっても、相続人はそれらの承継を強制されるわけではなく、一定の要件のもとで、承継するかしないか、どのように承継するかを選択する自由を有する。

これが、相続の承認及び放棄という制度です(915条〜940条)。

条文メモ
915条は、相続の承認・放棄について相続財産の内容を調査していずれにするかのゆとりを与えるための熟慮期間を定めたものです。


相続人に与えられた選択肢は、
(1)相続人が被相続人の権利義務を無限定・無条件に承継する(単純承認)、
(2)承継する積極財産の限度で相続債務や遺贈を弁済する責任を負うという留保を付ける(限定承認)、
(3)一切の相続財産の承継を拒否する(相続放棄
という三つです。

承継・放棄に共通の要件

(1)能力
相続の承認・放棄は、身分上の行為であるが、財産上の行為能力を必要とします。

したがって、未成年者の承認・放棄は、法定代理人の同意を得て本人がするか(4条1項本文)、
法定代理人が代わりにしなければならない。
成年被後見人の承認・放棄は、常に法定代理人が変わりにしなければならない(859条)。
被保佐人が承認・放棄するためには、保佐人の同意をようする(12条1項6号)。
被補助者については、補助人が家庭裁判所から相続の承認・放棄の同意権を付与されている場合に限り、
その同意を得る必要ガあります(16条)。

(2)時期

相続の承認及び放棄は、相続開始後にしなければなりません。
相続開始前になされた放棄・承認は無効です。

(3)考慮期間

(1)考慮期間の意義
相続人は、原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、承認又は放棄をしなければならない(915条1項)。
これを考慮期間又は熟慮期間といいます。
これは、相続財産の内容を調査して、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれを選択すべきかを判断するための時間的余裕を相続人に与える趣旨です。

熟慮期間の3ヶ月は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所が伸張することができる(915条但)。

(2)起算点
(A)相続人自身の考慮期間の起算点
イ、原則
3ヶ月の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、
相続人が、
(1)被相続人の死亡の事実、及び、
(2)自己が相続人であることを知った時という意味です(大決大15.8.3)。
この時から3ヶ月を経過すると、原則として、
相続人は単純承認をしたものとみなされ(921条2号)、限定承認や相続放棄を知ることができなくなります。

ロ、例外
相続人が上記の時から3ヶ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全くないと信じたためであり、かつ、そう信じるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識し得るであろう時から起算することが許される(最判昭59.4.27)。

(B)その他
イ、数次相続の場合
相続人が承認または放棄をしないで死亡したときは、熟慮期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する(916条)。

判例 最判昭63.6.21

<甲が死亡し、乙が相続人となったが、相続選択権を行使しないまま乙が死亡したため、乙の相続人丙が甲の相続と乙の相続との双方を相続することを再転相続といいますが、その場合、
丙はいかなる選択が可能かが問題となります。>

本判例は、
(1)丙が先に乙の相続放棄すれば、甲に関して承認・放棄ができないが、
(2)そうでなければ丙は、甲・乙の相続に関していかなる選択をすることも可能としました。


<上告人は丙が後に乙の相続を放棄した場合には、遡って甲の相続についの承認・放棄が無効となると主張しましたが、>
本判例は右主張を退けました。

ロ、相続人が未成年者または成年被後見人である場合

相続人が未成年者または成年被後見人であるときは、熟慮期間は、その法定代理人が未成年者または成年被後見人のために、相続の開始があったことを知った時から起算する(8917条)。

ハ、承認・放棄前の相続財産の管理

相続の承認・放棄がなされない間は相続人は確定的に相続財産の主体となるものではなく、相続財産自体は
特別の財団を構成する。
しかし、通常は相続人の管理下に置かれるところから、相続人に管理義務を負わせた(918条1項)。
ここでは通常の財産管理人よりも注意義務が軽減されている。
また、相続人の管理義務とは別に、家庭裁判所は、利害関係人・検察官の請求により、いつでも相続財産の保存に必要な処分を命じることができる(918条2項)。

承認・放棄の撤回・取消し

(1)承認・放棄の撤回

相続人がいったん単純承認、限定承認または相続放棄のいずれかをしたときは、
たとえ熟慮期間が経過する前であっても、撤回することはできません(919条1項)。

(2)承認・放棄の取消し

制限能力者が単独で相続の承認・放棄をした場合、または承認・放棄が詐欺・強迫によってなされた場合には、
これを取り消すことができます(919条2項本文)。
但し、その取消権は、追認することができる時から6ヶ月間行使しないと、時効によって消滅します(919条2項但前段)。
また、承認・放棄の時から10年を経過したときも、取消権は消滅します(919条2項但後段)。

法律相談
Q;<父が借金を残して死んでしまいました。親の借金は子供が払うべきだといわれ、借金の取立てにきます。
親の借金は子供が払わなければならないのでしょうか?>

A;この場合、相続放棄をすれば、親の借金を払う必要判例ありません。
ただ、相続放棄の手続をした場合、お父さんの遺産も相続できなくなります。
また、この相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内とされています。
この期間を過ぎてしますと、単純承認したとみなされ、お父さんの借金を負担しなくてはならなくなってしまいします。
したがって、早めに手続をすることガ必要です。
なお、お父さんの財産等を使ってしますと、同じく単純承認したものとみなされ、借金を背負うことになりますのでご注意ください。


「単純承認・限定承認・放棄の比較」

単純承認(920) 限定承認(922) 放棄(938)
意義 相続人が被相続人の権
利義務を無限に相続す
ること
相続財産の限定でのみ
相続債務・遺贈を弁済
ことを留保して相続を
承認すること
民法所定の方式に従って
なされるところの、相続財産
を一切承継しない旨の
意思表示
要件 (a)相続財産の全部又は
一部を処分した(921条1項)
→「処分」には法律行為のほか、
事実行為(破壊等)もふくまれる
→相続開始を知らないで処分した
場合は含まれない
(b)915条1項の期間(熟慮期間)内に
限定承認・放棄をしなかった(921条2項)
(c)限定承認・放棄をした後で、相続財産
の全部・一部を隠匿し、私に消費し、悪意
で財産目録中に記載しなかった(921条3項)
<家庭裁判所への申述(924,938)>
(a)要式行為
無方式の意思表示としての限定承認・放棄は無効で
ある
(b)申述すべき期間
原則として3ヶ月(熟慮期間、915条1項)
起算点:自己のために相続の開始のあったことを
知った時
効果 熟慮期間がなお残っている場合でも、もはや
限定承認・放棄はできず、相続人は無限に
被相続人の権利義務を承継する(920)
<限定承認者の義務>
(a)財産産目録の調整
(924)
(b)相続財産の管理
(926条1項)
(c)相続債権者・受贈者に
対する公告・催告(927)
(d)相続債権者・受贈者の
弁 済(929)
(e)損害賠償責任(934)
<放棄者の義務>
・管理継続義務(940)

<放棄の効果>
(a)遡及効(939)
他の相続人の相続分は、
放棄者が初めからいなかった
ものとして算定される
(b)代襲原因にならない
(887)

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*参考文献
東京リーガルマインドC BOOK民法X親族相続