「珍しいこともあるもんだな」

「なにが?」

「お前が俺と組みてぇなんて言うのがだよ」


ヤニを思いきり肺に吸い込んで、吐き出すついでに言ってやった。

すぅっと身体の中に不健全な煙が行き渡る感覚が、いつもの何倍も心地いい。

それはきっと、が横にいるからだと思う。


こいつが俺と組んで戦いたいなんつー嬉しいこと言いやがるから

そのせいだ。

普段、俺と一緒だと自分の取り分が減るからやだと言って他のやつと組んじまうから。


「だって、」

「だって・・・なんだ?」

「だって・・・・えーっと、だってぇ〜・・・」


続きを催促するとは何故か言葉につまる。

その後しばらく間をおいて、いつもの馬鹿みたいに可愛い笑顔で


「んー、なんとなく」

「・・・・・・・そーかよ。」


答えに僅かでも期待した俺が馬鹿だった。

こいつに女らしい答えを望むだけ無駄以外のなにものでもねぇ。


それでも。

この笑顔を見れればそれだけで、まあいいか・・・と、思っちまうから始末が悪い。


どうにもこのガキに振り回されてる気がして

腹いせに頭を上から押さえつけるように撫でくりまわしてやった。


「あーもう、っにするんだよ!」

「うるせー、撫でてやってるんだから有り難く撫でられとけ」

「やだよッ。こんなことしてたら敵に狙われんぞ!!」

「もう遅ぇっつの」

「遅いって・・・・・・お、ほんとだ!」


の顔が途端に明るくなる。

左右を囲んでる敵兵の気配を察したらしい。


「なあハーレム、あたし右っ側のやつら貰うな」

「勝手にしろや」

「やりぃ!」


右にいる連中の方が人数が多いことを悟っての発言。

本当に根っからの戦闘狂だな、こいつは。

これ以上ねぇってくらいに嬉しい顔をしてやがる。


「勝手にはさせてやる。けど、しくじんなよ」

「誰に言ってんだよ」

「言うじゃねーかヒヨッコ。見せてもらうぜ、その自信の根拠をよ」

「おう、ばっちり見せてやっから老眼こらして見とけ」

「誰が老眼だコラ、減給すんぞ」

「減給なんか恐くねーもんねーっだ!」


がっツ!!

が強く地面を蹴った。

それから十数秒を数えないうちに、百メートルばかり右側から味気ない男の悲鳴が聞こえた。


「おーおー、ガキは元気だねぇ」


煙を吐き出しながら、駆け出していった方角を眺めれば

敵兵に囲まれながら派手に暴れてるうちの猿がいた。


「さーて。こっちもさっさと・・・」

始めようぜ?


ぎらっと秘石眼が輝る。

その先には既に怯んで逃げ腰の根性無し共。


容赦、手加減、情け・・・んな言葉は俺の辞書にはない。

あるのは、完全破壊の四文字だけ。


かざした右手に集まる蒼い閃光。

自然とつりあがる口元を、煙草をくわえるついでに逆の手で隠しながら


俺の眼から逃げる敵に向けて力を放った。



どごぉぉッん!!

眼魔砲が地面に掘った大きなクレーターの周囲には

さっきまで必死に逃げていた男達が十人ほど。

どいつもこいつも這いずってでも逃げたいらしく、

聞き苦しい呻き声をあげながら傷ついた身体で蠢いている。


「ちっ、殺さねーってのは面倒くせぇこと極まりねーぜ」


短くなった煙草を吐き捨て

また新たなものに火をつけながら、ちらりと右の方を見てみれば


「いぇーい!見ろよハーレム!」


昔の少年漫画のように伸した連中を山にして、

その上でガッツポーズでこっちを見ているの姿。


そして更に数十メートル後方の茂みに、小銃を構える男。


!一匹残ってんぞ!!」

「わぁってるっての!」


たんっと軽い足音をさせて高く宙に舞う。

胸をのけぞらせ腰から身体を捻り、男の真上に行った。


「っらぁ!!」


掛け声をかけながら、は細い足を大きく空に円を描くことで反動をつけ

上空でのその動きに男が気付いて空を仰いだ時には

凶器とも言える踵が、その脳天に痛烈な一撃となって落ちた。


「!?っ・・・・・・・・・」


の強靭なアキレス腱を額に落とされ、

小銃の男は苦渋の声をあげることもなく後ろのめりに地に伏した。


「うっし、パーフェクト」

「何処がだっつの」

「なんだよ、パーフェクトじゃんか」

「一匹残ってただろうが」

「残ってたんじゃなくて、残してたんだよ!」

「どーだかな」

「嘘じゃねーもん!本当だからなっ!」


歩き出した俺の後ろをヒヨコみてぇにピヨピヨ言いながらついてくる

・・・・てことは俺ぁニワトリか?

ククっ、まあ悪くねーかもな。


「ハーレム、なに一人で笑ってんだよ」

「なんでもねーよ」

「変なの。・・・・ん?」


後ろにぴったりくっついていた足音が止まる。

振り返ってみると、はジーッと左に黄金の瞳を向けていた。


「どうした?」

「なんか・・・・・あっちにいるかも」

「残党かなんかだろ」

「そうだろうけど・・・・なんか、」


の顔が少し曇る。

嫌な気配を感じてるのだろう。

こいつの第六感が、きっと何かを告げようとしてるに違いない。

場慣れした人間が其々持った感覚や勘性は、持ち主に嘘をつかない。

少なくてものそれは信用に値する。


左になにかいる。



「・・・、蹴散らして来い」

「イエッサー!」


返事をしたのも束の間、弾丸のように風をきって走りだす。

直後、が目指していただろう岩影から何か黒いものが数個投げられた。

あれは間違いなく手榴弾。


あのタイプはピンを抜いてから爆発するまで五秒しかない。

が、それは普通の連中にとっての話。

にしてみたら爆発までは、五秒も、ある。


上空から落ちてくる手榴弾に向けて、は腰にさしていた銃を構え瞬くより早く三連射する。

対する手榴弾の数は七つ。四つ・・・いや二つ残る。

俺の予想通り弾は三つストレートで貫通し宙で爆発。

そして三つがその爆発に巻き込まれ連鎖爆発した。


残ったのは、たった一つ。

はここまで予測してたのか、顔をしかめることなく

高く飛び上がり、残りの一つを素手で掴み岩に向けて投げ返した。


あと2秒。


俺がそう思ったとき。

は既に銃を構えていて、最後の手榴弾が自然に爆発する前に


打ち抜いた。


カッ!!と黄白い光が散る。


光が収まったときには、岩は粉々に砕け隠れていた二人組みはその破片を浴びて気を失っていた。

そして俺を見て得意げにブイサインを掲げるがいた。


「どーだ!」

「ま、ギリギリ合格ってとこだな」

「ギリギリかよ!?めちゃくちゃ余裕で満点だろ!?」

「俺ぁ高松の野郎みたいに甘い点はつけねーよ」

「意地悪ぃの!」

「悔しかったらもっと強くなんな、ルーキー」


咽を鳴らして笑って、また歩き出そうとした瞬間。

今度は俺の第六勘が騒ぎ出した。

嫌な予感。久々にそいつの気配を強く感じた。


「おい、まだなんかい・・・」



ぱぁん!!






「・・・・・る、ぞ・・」


安っぽい玩具のような銃声。

それは思いのほか至近距離から聞こえた。


警戒の台詞を伝えきるより先に、

俺の目の前は、ずんと鼻にかかる臭いと共に、一面、真っ赤に染まる。



「・・・・っ・・・・・・?」



どさっと、地面に倒れこむ。


その拍子に砂が・・・ばさっと散って舞った。


乾いた土が、少しずつ黒く染まっていく。

首からドクドクと溢れ流れるそれで、赤く染まっていく。



闇く、紅く、黒く、赤く。



土が真っ黒に。


俺の手が真っ赤に。



鮮血に濡れる。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・?」




の、血で。


俺の、視界が埋まる。






「ッ、ーーーっつ!!」








焼けるように熱い



綺麗な赤だった。

















あたしの命はあたしのためだけのもの

でも

今この瞬間だけは

間違いなく、あたしの命は君のために生きた

生きたんだ。