〜・・・私の〜〜〜・・・・・・」


温かな日差しが心地よく差し込むこの執務室で
鬱陶しく滴り泣く上司の姿をハボックが発見したのは、
エドたちが旅立って一時間もしない昼過ぎのことだった。


「・・・・どーしたんスか?あの大佐」

すぐに近くにスタンバイしていたホークアイに耳打ちする。
すると彼女はいつもと何ら変わらないポーカーフェイスを眉一つ崩さずに・・


「逃げられたのよ。に」


きっぱりとホークアイが言うと、
その途端。

二人の上司、ロイ・マスタングは糸が切れたかのように
愛しい、愛しい少女、の名を喚きながら号泣しだしたのだった・・・。





「んじゃは鋼の大将と?」

年甲斐なく泣き喚いていたロイを、ホークアイが自慢の射撃で黙り込ませたあと
一頻りの事情を話されたハボックがそう言った。

「ええ。私たちが会議に出ている間にね」

ぴらりとホークアイが一枚の羊皮紙を取り出す。
それにはお世辞にも上手いとは言いがたい字体で、こう書き綴ってあった。

いってきます!!

・・・と。


「ははっ、らしいっスね」
「笑い事じゃないわ、許可なく勝手な行動をとって・・・・」

「その通りだ!!」

ホークアイの声を遮るようにロイが机を叩き言い放った。

「私の許可なくを外に連れ出すとは・・・!」
「まあ、確かに大佐に無断でってのは不味いっスよね。大佐は一応の保護者ですし」

上司の前だと言うのに特に気にする事もなくポケットに手を突っ込んで
煙草を取り出し、それに火を灯すハボック。
いつものことなのだろう。ホークアイもロイも諌める様子はない。

・・・・・というか、ロイは気づいてすらいない。


「それにだ!私の言いつけを守らんばかりか
 行き先も帰宅時間も告げずに鋼のと遊びに行くとは!!
 帰ってきたら多少の説教とたっぷりの仕置きが必要だな・・・・さて、何をしようか。ふふふ・・」

「・・・・・大佐、なに言ってんすか?」
「なにって決まっているだろう。との今夜するナニについて・・・・って!私に下品な発言をさせるんじゃない!」
「大佐が勝手に言ったんじゃないですか。俺のせいにせんで下さい。・・・・それに」

ぷはぁーっと口から美味そうに煙を吐き出したあと
ハボックは再び煙草を咥え、ロイに言った。


のやつ、鋼の大将の旅にくっついてったんだと思いますよ?」
「・・・・・なに?」

ぴくっと眉が潜まる。
そんな様子を気にもせずハボックはなかなかつかない火に悪戦苦闘しながら言葉を続ける。

「ですから、鋼の大将と旅に・・・・あー、くそつかねぇな」
「なな、なにを言ってるハボック。そ、そ、それでは・・まるでが・・・・」
「まるでも何も・・・当分帰ってこないんじゃないっスか?」

お、ついた。
子供のように笑みを浮かべながら、あっさりと言ってのけるハボックとは裏腹に、
まるで己の焔に撒かれて燃え尽きたかのように真っ白になるロイを
ホークアイは本当に僅かだが、本当に僅かだったが、哀れそうな眼差しで見ていた。

しかしそれとて、勘違いして盛り上がっていたロイを哀れに思ったのではなくて
恐らくはロイ自身の存在を哀れに思ったに違いは無さそうだ。


「あのー中尉・・・俺、余計なこと言っちまいました?」
「いいえ。私も言おうと思っていたから問題ないわ」
「そっれにしても大佐ってマジなんすね、のこと」

ロイが命であることは
此処、東方司令部では周知の事実であり最早常識だ。

飽きもせずに繰り返されていたロイの熱烈なアピールから
脱兎のどこく逃げるの姿を見ない日など皆無。
ここ最近は東方司令部の名物とまでなっていたほど。

けれども相手が年齢が一回り以上も離れている少女なだけに
最初はただの溺愛・・・親心のようなものだろうと、誰もが思っていた。

ええ、最初は。

繰り返される日々の中で、皆それが間違いであることなんて嫌でも気が付きだしたのだが、
いかんせん自分たちの上司がロリコンだなんて・・・・
認めたくないし、事実であって欲しくないし、そもそも本気だったら犯罪者じゃねーか。
・・・という何ともマトモな考えと、
でもこの現実を突きつけて、大佐がしょっぴかれてしまった場合、下手な上司にとって変わられるのはなぁ
・・・というなんつーか大人の事情的な考えとが、上手に混ざり合い

結果、当方司令部が一丸となって、危険と見なした場合以外は
それなりに温かく見守るという結論に至ったのだった。

・・・・・言い換えれば見てみぬふりと言えるのはご愛嬌だ。


そんなことを巡らせつつ、ハボックは肺にためた煙を鼻から吐き出す。
白い煙が綺麗に一条となって上へ立ち上った。

「しっかしまあ・・・最初にが大佐に連れられて来た時は、マジで隠し子だと思いましたけどね」

その上、開口一番で「随分大きいお嬢さんですね。幾つの時の子供っすか?」
と口走り危うく消し炭にされるところだったのだ。

あの時は本気で死ぬかと思った。

ハボックはわりとまだ最近の出来事を思い出しながら、同時に

結局と大佐って、どんな関係なんだ?

そう疑問に思いつつも溜まっている仕事を片付けるべく
白くなったロイを横目にだけ見てホークアイと共に執務室を出て行った。



・・・・私の元に戻ってくるんだ、〜〜・・・・」

窓の外の、目に痛いくらい晴れ渡った青空に
愛しの少女の笑顔を浮かばせながら、涙するロイ。


「・・・・ああ、そういえばこんな日だったな・・・の記念日は・・・」

ついに独り語りだす。
目を閉じて思い描くのは、十年も前の昔。

愛くるしく今以上に無邪気な笑顔の幼い
今こそ抱きしめれば殴りかかってくるだが、
昔はあぶなっかしく走ってきては、訪れた私に抱きついてきたものだ。

抱き上げて頭を撫でてやれば、私の腕の中でチョコレートのように甘く微笑み
マシュマロのような唇を頬に寄せてくれた。

・・・可愛すぎる。

本当に可愛すぎて、私もの頬に口付けを贈ろうと
毎回毎回毎回思って実行しようとしたのだが・・・


しかし、

自然と記憶から勝手に蘇ってくる一人の男。

と同じ銀の髪。
金の眸を細め、にかっと力強く快活な笑顔。
多くの銀の装品で飾るも、決して嫌味には見えず、とてもよく似合っている。
丁度、を男にしたら・・・と考えたらピタリと当てはまるその人相。

この男が、いつも愛し合う私とを引き離した。

男の名はザン・
そう、の父親だ。

そして・・・・

私の、もう一人の親友・・・だった。





「ロイ!テメェ俺の娘になーに汚らわしいモン向けてやがる!!」

ロイの腕からを奪い去り
その野性的な腕でぎゅっと強く抱きしめるザン。

「汚らわしいとは何だ。私の口はお前やヒューズのように煙草臭くないぞ」
「そーゆう問題じゃねぇ!!」
「だったらどういう問題だ。言ってみろ。さあ、さあ!」
「俺の国語力で説明できると思ってるのか!この無能野郎!」
「誰が無能だ!それにお前の国語力と説明能力の無さなら嫌と言うほど知ってる!」

玄関先でを抱きかかえたまま咆えるザンと
コートも着たままで人様の家だと言うのに大声を張るロイ。
ザンに抱かれたままきゃっきゃっと能天気に笑う

ロイが彼の家を訪ねれば、必ずと言っていいほどに、この口論が起こる。


「ザンー?お客さん来てるのー?」

奥から女性の声がすると
ザンはロイとの口論を止め、振り向いてその声に返事をする。

「いや、ロイのやつだから気にすんな」

「私は客ではないのか・・・?」
「人ん家の娘に手ぇ出すやつは客なんかじゃねえ」
「一応手土産を持ってきたんだが、客扱いされないなら無用だな。持ち帰るとしよう」

ロイが足元の酒瓶に目をやりながら呟くと
ザンは途端に輝いたような笑みを浮かべ、を抱いていない方の腕を嬉しそうにロイの肩に回して

「よく来たな、親友!」
「ふぅ・・・全く、お前と言うやつは本当に現金だな」
「それが俺のいいところだ!!」
「自分で言ってれば世話はない」
「おっ、こりゃあ上等な酒じゃねーか。流石に中尉殿はリッチだねぇ!」
「世辞を言ってもそれ以上なにも出てこんぞ」
「え、そーなの?なんだ、おべっか使って損したぜ」
「ふっ・・・もうじきヒューズも来るはずだ。それまで栓を空けるなよ」
「努力するけど約束はできねーな。あっはっは!」
「この大酒呑みめ」

口ではそう言いつつも、ロイの顔は穏やかに笑っている。
脱いだ靴を揃えると、近くにあった銀の装飾がなされた靴に自然と眼が行った。

「この靴の飾りは新商品か?」
「んーにゃ。そりゃお得意さんからのリクエストがあったんで作ってみた試作品だ。欲しいのか?」
「いや。軍の靴には合わんだろう」
「そりゃそーだ」

ククッと咽で笑うザン。
ああ、彼の笑顔はやはり今のような格好とよく似合う。
堅苦しさなんてなく、自由業で好き勝手に生きる彼にこそぴったりの笑顔だ。

「・・・軍を突然辞めると言い出した時は路頭に迷う気かと思ったが、意外と稼げるものなのだな」
「人殺して貰う金よか、銀いじりして稼ぐ金の方が有り難味があるってもんだぜ」
「それは私に対する嫌味か?」
「そんなとこだ」

青い軍服なんかよりも、何倍もよく似合う作業着。
銃なんかよりも、腕に子供を抱えているのがずっとずっと彼らしい。

「・・・辞めて後悔してないようだな」
「まあな。けどお前は辞めんじゃねーぞ。てめぇはトップになって俺ら民間人を楽にするっつー使命があんだからよ」
「そうだな、お前以外の民間人のためにも私は辞められんよ」

そう言ってロイはザンに抱かれているの頭を撫でた。
すると、それまで大人しかった
何を思ったのか、突然ザンの腕の中で小さくもがき、抜け出そうとしだした。

「んー・・・むぅ」
「おいおい、どうした?」
「パーパ、抱っこやだぁ」
「なんだよ、自分で歩きてーのか?」

ほらよ、と言いながらザンはを放すと
は類稀な運動神経で軽やかに着地してみせ、次の瞬間、父親の顔を破顔させた。

「ロイおじちゃん、抱っこ!」
「んなぁ!?!父ちゃんより、その無能がいいのかぁーッ?!」
「やはり私の方が女性に好まれるようだな。さあ、おいで」
「ぎゃーー!俺の娘がロイの毒牙にぃぃィ!!」

ロイの腕に抱かれて満足して、また大人しくなる
代わりに煩くなるザン。

ー、父ちゃんの腕に戻って来ぉーい」
「やぁだ。ロイおじちゃんがいーの!」
「そんなぁ〜・・・ロイは無能なんだぞ!父ちゃんのがワイルドでカッコいいんだぞ!」

必死で自分をアピールするも、
ザンの努力むなしくの答えは・・・

「あたしねぇ、ロイおじちゃんの抱っこが一番好き〜v」

愛する娘の笑顔は時に銃弾よりも殺傷能力の高い武器となり
馬鹿親を攻撃する。

打ちのめされているザンを尻目に笑いロイは自分の腕に収まっているに語る。

「そうかそうか。だったら結婚式の時もこんなふうに記念撮影をするとしよう」
は誰にも嫁にやらん!!特にお前にゃ絶対やらん!」
「それを決めるのはだろう。諦めたまえ、お義父さん」
「だぁーれがお義父さんだ!は父ちゃんのお嫁さんになるんだよな?な?」

大真面目に『お義父さん』と言ってくるロイに鳥肌を立てつつも、
懸命に、先ほどまでより更に必死になってを諭すその内容には
知性の欠片も破片も感じない。

「うんと、あたしはね〜・・・」
「私のお嫁さんだろう?
「馬鹿言ってんな、俺の嫁さんだ!」

「んーと・・・んーと・・・・マースおじちゃんのお嫁さんになりたい!」
「マースのぉ?!」「ヒューズだと?!」


が言った瞬間、
背後の玄関から、聞き馴染みのある声が元気良く飛び込んできた。


「いよぉ!やぁーと仕事が片付いたぜ、遅くなって悪かったなぁ」

「あ、マースおじちゃん、いらっしゃい!!」
「おお、ちょっと見ない間にまーた可愛くなったな。将来きっと美人さんになるぞ」
「ほんと?じゃあ大きくなったらおじちゃんのお嫁さんにしてー!」
を?俺の嫁さんにか?んじゃザンがお義父さんかよ、参ったな。なあ?」

ヒューズはの言葉に朗らかに笑って
親友二人に話を振ったが、そちらはどうにも不穏な空気が漂っている。

「「お前に・・・・」」
「ん?」
「「お前にはやらん!!」」

ロイとザンの渾身の一撃が、
緩んでいたヒューズの頬を左右から襲ったのは言うまでもない・・・。



「おー、いてて」
「マースさん大丈夫?」
「はは、平気平気。昔からのことなんでね」
「ママ、はいおくすり」
「ありがとう。でもこれは違うわよ」

リビングのソファでザンの妻、ルージアの手当てを受けながら
ヒューズは笑って答える。
も手伝いをしているつもりなのだろうが、ルージアに渡したチューブ薬には
『痔専用軟膏』と書かれていた。
母に受け取ってもらえなかったことにシュンとする
しかしすぐに気を取り直し、今度は包帯を取り出してヒューズの手首にぐるぐると巻きだす。

そんなを絶えず見守る(見つめる)ロイとザン。


「それにしてもザン、貴方なんですぐに暴力を振るうの!しかもお客さんに」
「おいおいルージア。客ったってロイとマースは俺の親友だぜ?そんな気にすることでもないだろ?」
「気にするわよ!次またこんなことしたら・・・・」

ルージアがテーブルの上に置いてあった紙にペンでさらさらと何かを書き、それに手をかざした。
紙は一瞬小さく光って、丈夫そうな紙ナイフに姿を変えた。
そしてそれはカツンと鋭利な音を皆の耳に残し、木製テーブルに突き立てられる。

ごくっと、つばを飲むザン。

「う・・・・わ、わぁったよ」
「そう、よかった。それじゃあ手当ても終わったことだし、夕飯にしましょうか」

返って来た納得いく答えに満足して、嬉しそうにキッチンに戻るルージア。
一方ザンの方は生きた心地がしなかったようで、汗だくになっている。

「相変わらず恐ろしくも素晴らしいな。ルージアさんの錬金術の腕前は」
「だろ?夫婦喧嘩なんざしようものなら・・・・考えただけで恐ろしいぜ」
「んじゃ今のところ喧嘩してないのか?」
「してない!喧嘩になる前に俺が土下座して許しを請うからな!」
「情けないやつだ。軍人時代のお前の部下が見たら泣くぞ」
「元・部下に泣かれるよりルージアを怒らせる方が断然怖いぜ。試してみるかマスタング中尉?」

わざとらしく殿を付けて問いかけるが
ロイは「いや、その通りだろうな」と言って笑い返した。

「おっと、言い忘れたが私はもう中尉じゃない。訂正してもらおうか」
「あ?ついにセクハラで降格でもさせられたか」
「違う!!少佐になったんだ、一昨日付けでな」
「少佐・・・?ロイ・・お前、それじゃあ・・・・!」

まだ二十歳になったばかりのロイには早すぎる地位。
いや、中尉でも十分に早かったのだが、何故に大尉という階級を飛び越して少佐なのか。
そこにピンとこないザンではない。


「ああ、一昨日から晴れて国家錬金術師だ」

胸ポケットから取り出したのはきらりと光る銀時計。
国家資格の証である。

「ついにやったか!お前なら受かると思ったぜ!!」
「ちなみに俺も今日付けで大尉だ」
「マジかよヒューズ!よっしゃ!いい酒もあるし祝いといこうぜ!」
「私が買ってきた酒だろうが、それは」
「細かいこと気にすんなって。おーいルージア!祝いだから肉焼いてくれー!」

「わーい、お祝い!!」
「ありがとう。未来の夫の昇進を祝うとは、いい心掛けだぞ」
「だからお前の嫁にはさせねーって言ってるだろ!」
「夫とか嫁とかお前ら何本気になってるんだよ。はまだ五歳だろ?」
「「関係ない!!」」

「ククっ。・・・ったく、親友が親馬鹿とロリコンとは俺って不幸せだな」
「本当に。全く仕方ない人ね、二人とも」
「ルージアさんもの世話よりザンのお守りのが大変なんじゃないか?」
「どっちもどっちよ。はすぐザンの真似するから・・・」


話の内容が分からないためか、目をくりくりさせながら
はソファから身を乗り出してトルシエの持つ皿に顔を近づける。

「ママー、腹減ったー!めしー、肉ぅー!」
「・・・ほら。言ったそばから。困っちゃうわよ」

皿から小振りのチキンを一つだけ先にに与えると
騒がしかった口に蓋がされた。
ヒューズがそんなの頭を撫でると、
銀の髪に隠れている耳の辺りからちゃらんという金属音がした。

不思議に思いの流れ落ちる髪を耳にかけさせてみると・・・


「おいザン、お前・・・・」
「お、マース。それに眼ぇつけたのか?なかなかの審美眼じゃ・・・・」
「いや・・・お前お手製の銀細工なんざどうでもイイんだけどな」
「どうでもいいとはなんだ!俺が丹精こめて作ったもんを・・・・!」
「丹精込めようが何こめようが、何処の世界に五歳の娘の耳にでかい穴開ける親がいる!!」


の耳に飾られているのは小さな耳に不釣合いの大振りのピアス。
ピアスなのだから当然、耳にはピアスホールが。
しかも、明らかに拡張されているサイズの。

「だってよぉ、がつけたいって言うんだから仕方ないじゃねーかよ」
「だからって本当につけてあげるのは貴方くらいよ。ザン」
「すまねぇ」

恐らく仕出かした当時にルージアから散々怒られたのだろう。
ザンは叱咤された犬のように縮こまって、本気で申し訳無さそうにしてる。


「それにしてもいい出来だな。売り物か?」

を膝に抱き上げたロイは、
ゆらゆらとぶら下がっている装飾部を手に取りマジマジと見る。

均等な太さの二重円をぶち抜くようにして施された五茫星。
そして更に中央に小さく三角形が三つ折り重なるようにして描かれている。
これはまるで・・・・

「まるで練成陣みたい・・・よね?」
「・・・・私も全く同意見だ」

ルージアが同じようにブロウの耳を覗くように見る。
確かな腕前の錬金術師である彼女にそう言われ、ロイは思ったことが具体的な考えとして固まった。

「ああ、それな。いいデザインだろ?」
「そうね。貴方が考えたとは思えないくらい」
「そうだな。ザンのセンスとは思えんほどの繊細さだ」
「うんうん。こいつの今までの細工とは一味違うな」

「だろ!なんたってのデザインだからな!!」

怒るかと思いや、ザンは嬉々と笑う。
するとロイとルージアの眼の奥がきらっと好奇心を輝かせた。
それに気づかぬザンは話を続ける。

「そうなんだよ。の落書きが俺の創作意欲にビビっときてさ。つい三日も篭っちまったぜ。
 それに今考えてみりゃ俺との初の合同作品だよな!!」

ロイの膝に跨ぐるに頬擦りしてキスをする。
そして逆の頬には便乗しようと企んだロイが顔を近づけるが、それはザンの厳つい手によって阻止された。

「これを・・・が?」
「おう。いろんなデザインがあったから迷ったけど、一番それが目についてよ」
「他にもいっぱい?!」
「ああ。見たいならそこのボードに貼ってあるぜ」

ザンが示したのは写真が貼られたコルクボード。
確かに落書きらしき紙が束になってさされている。
ルージアはピンを抜き、それらを手にすると
一枚一枚とめくって描かれている錬成陣らしきものを眼に映していく。

最後の一枚を一番後ろに戻した後、
ルージアはロイを、正確にはを見つめる。


「・・・・錬成陣よ。全部」


どれもこれも。

複雑なものこそ少ないけれど。
歪んだり、切れたりしたものもあるけれど。

それは確かに全てが陣だった。


「・・・・・・・・・・・・・、・・・ーーーっツ!!」

ロイはおもむろに膝のを抱きすくめる。
突然の抱擁に金の眼をぱちくりさせて、その後に眉をさげ不安そうにキョロキョロする。
ロイのとった行動が自分を怒っているものかと思ったようだ。

だが、その不安はすぐに解消される。


「すごいぞ!!たった五歳でこれだけの陣を描けるなんて・・・!
 流石は私の妻になるだけのことはある!私も鼻が高い!!
 ザン!なにを阿呆な顔をしてるんだ、祝うぞ!今日は記念すべきの錬金術師デビューだ!」

自分の少佐昇進など、まるで気にも留めず
小さな錬金術師の誕生を世界の幸福のように喜ぶロイに流石のザンも一歩出遅れ、頬をかく。

そして酒瓶を手にとりグラスに並々と注いでいった。
大人たちはグラス手を伸ばし、にもオレンジジュースの注がれたコップを渡し・・・


「諸君、今此処にいる優秀な才を持った錬金術師の将来に・・・・」

ロイは自分のグラスをの持つコップに近づけ
小さく音を交わした。

それを機に大人たちもグラスを合わせ、盛大に言う。


『乾ー杯!!』














「大佐ー、まぁだ黄昏てるんですかー?いい加減に・・・・・・・・って、うわ・・・・」

両手でないと支えられないほどの積みあがった書類を持ち
執務室に戻ってきたハボックは・・・・見た。

窓枠に両肘をつき、空の向こうの方を見つめ
頭に小鳥が乗っていることにも気づかずに

格好をつけて微笑んでいる、可哀想な上司を・・・・。


きぃ・・・・ぱたん。


「どーしたんだ、ハボ」

偶然通りかかったブレタは、書類を持ったまま廊下に突っ立っているハボックに問いかけると、
ハボックは心底疲れたように、


「大佐が窓の外見ながら鳥に頭ついばまれてる・・・」
「また軍の女の子全員をミニスカートにするって思案してるんじゃないのか?」
「いい加減真面目に仕事してほしいぜ。これじゃあ本当に・・・」

「無能ね」

がちゃんとリボルバーを閉める効果音を背負ってやってきたのは
東方司令部が誇る鷹の眼。

そして今日も執務室に、乾いた銃声と叫び声が木霊するのだった。


「変なことばっか考えてるから・・・」
「自業自得っすね」

「私は無実だー!!」

「仕事をサボっていたのは事実です」



哀れな大佐に合掌。















鋼の錬金術師連載『HAGANE&SIROGANE』  

番外編『頑張れ 焔の錬金術師』

end・・・・・・(080601)