あたしは此処で何をしていたんだろうか・・・?
目の前にある血の海と
並々としたその血溜まりで不気味に蠢く、
具体的に何なのか聞かれたら実に返答に困るそれ。
そして・・・・
「あたし・・・・・・・ダレ?」
妙に冴えきって、全てがわかる気分なのに
目覚めたとき、実際に理解できたことは只の三つ。
やけにドロドロした不健康そうな血の水溜りと、
人のような・・・でも人とは口が裂けても言えない何か。
最後の一つは
あたしが俗に言う記憶喪失だという
信じがたくも信じるしかない横暴な事実。
あたしは一体ダレなんだ?
「・・・・で、いきなり呼びつけて一体何の用なんだよ」
赤いロングコートを羽織った少年は
恐らく目上の者であろう、机に座る黒髪の男にそう不躾に物申した。
その鋭い金の眼光から見て取れるのは一見して苛立ち。
「君は相変わらず口の利き方を知らんな、鋼の」
少年の二つ名を口にした青年・・・いや、青年と呼ぶには実年齢は少しばかり遅いだろうか?
しかしながら彼の容姿はまだまだ青年と呼ぶに相応しく、悪く言えば何処か威厳を欠く幼さが見える。
青年の名はロイ・マスタング。
少年の名はエドワード・エルリック。
双方ともこの国の軍に属する錬金術師だ。
「旅の最中にろくな説明も無しに呼びつけるそっちはどうなんだよ」
「上司が部下を呼び寄せて何が悪いと言うんだ?」
こう言えばああ言う。
エドの脳裏に浮かんだのはそんな陳腐な言葉。
目の前にいるこの男にはそんな可愛らしい言葉は似合いやしない。
心の中で毒づいてはみるのだが口にすれば忽ち言い返されてしまうことくらい
もう嫌というほどに分かりきっているエドにしてみれば、反論することすら無駄だとわかりきっていた。
「どうしたのかね」
「何でもない。・・・それより、さっさと教えろよ」
「と、言うと?」
「俺たちを呼びつけた理由に決まってるだろ」
「そんなに焦るな。理由は追々・・・」
「大佐はどーか知らないけどな、俺たちはそんなに暇じゃないんだ!」
じれったい返答ばかりを寄越すロイに対して、
元々対した強度を誇っていないエドの理性の糸はぷっつりと容易いまでにあっさり切れてしまったようで。
機械鎧の右手を机が割れるのではないかと思うほどに強く打ち付けた。
それに声を荒げたのはロイ・・・・ではなくて、部屋にいたもう一人。
「兄さん!!」
放っておいたらロイの襟首でも引っ掴みだすんじゃないかというエドを
後ろから抑えた巨大な鎧。
エドをそう呼称するように、彼はエドの弟。
標準よりも小柄な兄とは違い、弟アルフォンスの身長は少なく見積もっても2メートルといったところか。
この体格差には大きな理由がある。
それはこの後のエドの行動によってご理解いただけるだろう。
「だー!離せアル!!」
「駄目、離したら兄さん何するかわからないもん」
「大佐一発ぶん殴るだけだ!」
「余計に離せないよ・・・うわッ」
「あっ・・!」
暴れていたエドの腕が勢い余ってアルの兜にある角のようなものにぶち当たった。
突如ふりかかってきた衝撃に抗う術を、意思のないただの兜が持っているわけもなく、
ゴドッ、という鉄らしい重たい落下音をたててから鳴り音を奏で床を数メートルほど転がった。
「悪いアル、ちょっと待ってろ」
エドは転がってしまった兜を拾い、アルのいる場所まで戻る。
そして兜を鎧の上に被せるようにして置いた。
被る者のいないそこに。
「ありがとう兄さん」
「いや、落としたの俺だし。でも此処が大佐の部屋で良かったな」
「そうだね」
「気をつけたまえ鋼の。弟君の中が空だとバレたら困るのは君だろう」
「・・・わかってるよ」
中が空。
その言葉の通り、アルフォンスと呼ばれている鎧には中身がいない。
解ってもらえたであろうか?
鎧の中身がアルなのではなく、鎧がアルなのだ。
アルは身体を所持していない。
持っているのは冷たく感覚のない鎧の身体。
その鎧にアルを定着させているのが、鎧の内部にエドの血で描かれている練成陣。
そしてエドの右腕と左足の機械鎧。
二人は本来持っているはずだった己の肉体を取り戻すために
終わりの見えない旅をしている最中だった。
「それに・・・君を国家錬金術師にスカウトした私の立場も危うくなりかねん」
「結局自分の出世のためかよ!!やっぱボコる!」
「わわ、兄さんってば!!」
自分に噛み付かんばかりに余裕のないエドを見てか、
ロイはちゃかすようで呆れた感を濃く感じる溜息をはいた。
「ふぅ・・・君の気は身長と同じで酷く短いな」
「誰がプレパラートに乗せて顕微鏡で見ないと見えないほどのチビだぁー!!」
「兄さん、誰もそこまで言ってないよ・・・・」
「君も苦労するな」
「そう思うなら大佐も兄さんを刺激しないで下さい」
「善処しよう」
ロイがまるでやる気のない政治家のような回答をアルに返したときだった。
コンコンっ、と品のいいノックがドアの外側から聞こえた。
「ようやく来たか・・・」
「来たって誰がだよ?中尉?」
「入りたまえ」
エドの問いかけを特に気にかける素振りの一つもなくスルーして
外に居るであろう人物に入室を許可する。
「失礼します」
ノックと同じく品のいい、けれどか細いくない凛とした女性の声。
部屋に入ってきた人物は、ノックと声から想像した通り
リザ・ホークアイ中尉であった。
「なんだ、やっぱり中尉じゃん」
「久しぶりね、エドワード君。それにアルフォンス君も」
「お久しぶりです」
ロイの何倍もキリっとした表情を、幾分か柔らかく微笑ませ二人に挨拶すると
また軍人の表情へと戻して、ロイの座る机の前へ進む。
「大佐、準備の方は全て整いました」
「ああ、わかった。鋼の、ついてきたまえ」
「えっらそうに・・・」
「あの、僕は?」
「アルフォンス君は好きにしていていいわ。資料室も使用許可をとってあるから。エドワードくん、いらっしゃい」
「あ、はい。アル!折角だから資料片っ端から読んでおいてくれ」
「うん!わかった。兄さんも頑張ってね」
「・・・おう!!」
アルが何をどう頑張れと言ってるのかは分からないが
とりあえず返事はしておこう。
そう思ったエドは無駄に気合を込めて右手を天井に翳すと、
先を歩くロイは酷く楽しそうに笑っていた。
「なんだよ、大佐」
「いいや。つくづく仲がいい兄弟だと思っただけだ」
「それだけじゃないだろ」
「否定はしないが肯定もしないでおこう」
エドをからかうようなロイの態度に、今度はホークアイが
小さく溜息をついたことに二人は気づかなかった。
そんなやりとりをしているうちに誘導されたのは前に一度だけ入ったことのある他より少しばかり広めの一室。
ロイに促されるままに部屋の中央まで足を進めたエドが斜め上を見上げた視界には
上官だと一目で分かる男たちが規律正しく一机三人で座っている。
エドが何事かと不審に思って扉のところにいるロイに眼をやろうとしたが
そこに既に彼の姿は見えず、代わりに錠のかけられた茶色の扉がしっかりと閉まっていた。
室内を顔を必要以上には動かさず視線だけで巡らせて探ってみれば
いつの間に移動したのか、彼はエドから右側の席に堂々と座って、いつものあの小憎たらしい薄笑みをエドに送っていた。
隣にはホークアイもしっかりいる。
そして正面席には、軍の最高権力者であるキング・ブラッドレイの姿も。
「(一体なんだって言うんだよ・・・)」
この値踏みされるような視線にも覚えがあった。
三年前。
エドが国家錬金術師の試験を受けたときと全くと言っていいほど酷似したこの雰囲気。
この部屋とて前に入った一回というのが、まさしくその時だ。
そう考えていた矢先、
正面の扉が開いた。
三年前自分がこの部屋に入ってきたあの扉が。
「アンタがあたしの相手?」
入ってきたのは一人の子供。
エドとは対照的な銀の髪の毛に、同色の銀灰色の瞳。
身を包んでいるのも汚れ一つ見えない真っ白なレザー服がよく似合った少女。
彼女が動く度に大小様々な金属音が耳をつく。
それは身体の至る所に施された、高価そうな装飾品たちの鳴き声。
エドとそう変わらない年頃の少女であるにも関わらず、無数の装飾品は不思議と違和感はなかった。
「よろしく」
尖りの少ない目尻のくせに無遠慮に突き刺してくる銀色の視線は
恥ずかしげなく一直線にエドを見る。
すっと差し出された手から逃げるように、エドは棒立ちだった身体を少しすくませ
数歩下がる事で少女と自分の間に警戒という隔たりを作った。
「ククっ、」
「大佐?」
それまで無言で、安っぽい造りの椅子に深く腰を落ち着けていた上司が
突如笑いを溢したその不可解さに疑問を持ったホークアイは
声を潜めロイを呼ぶ。
「すまない中尉。気にしなくていい」
「下らない事でしたら声を出すのは控えた方がいいかと」
「気をつけるよ」
・・・・それにしても。
「鋼のはやりづらいだろうな」
なんたって相手は自分と同じ眼光をした者。
それもとびっきりに鋭く強い。
意思を持った眸。
本能的に感じているだろう。
彼女が・・・自分と同じであることを。
ロイの予感は的中していた。
「(なんかこいつ・・・・・誰かと似てる気がする・・・)」
「ねえ」
「・・・・・・・なんだよ」
「うっわ、ムカつく。その態度、アンタ何様?」
「まんま返すぜ、その台詞。初対面でアンタとか言いやがって」
「アンタはアンタでしょ。それとも何?貴方様とでも言えっての?・・・・はっ」
「てめぇ今、鼻で笑ったな・・・・生意気な」
ピクピクと怒りでこめかみの辺りをヒクつかせるも
切れるのは子供っぽいと思い冷静を装うエドだが、その胸中は徐々に徐々に煮えたぎりだしている。
「・・・・ま、喋ってても始まらないし、そろそろ・・・始めよっか」
少女の眼つきに一段と強い光が灯る。
「なんとなく分かるけど一応聞いておく・・・・俺に何をさせる気だ?」
「全力であたしと戦ってくれればそれだけでいいよ」
「つまりこれはお前の国家試験・・・ってわけだな」
「そういうこと」
「なるほど・・・。んじゃご愁傷様だ」
「なんで?」
「お前じゃ俺に勝てない」
「なんで言い切れるんだよ、あたし結構強いよ?」
「俺はもっと強い」
少女の錬金術がどれほどのものかは知らないが、
エドには勝つ自信があった。
それを確としているのはこれまでの場数と、それによって磨かれた戦闘センス。
これにおいては、そんじゃそこらの奴と一緒にされては困る。
「頭キた・・・そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん!」
「じゃあやってみるか?」
「あったり前!!」
少女の叫びましい掛け声が開始のゴングとなった。
先手必勝とばかりに少女の両手のひらがパンッと高らかに鳴り響く。
すかさず地面に手をつくのかと思いきや、意外や意外
少女はそのまま地を蹴りエドとの無用な間合いを一気に駆け詰めた。
自分と同じ・・・罪の証でもある練成方法を少女がしたことに驚いたエドは一瞬対応が遅れたものの
何かを目論む少女から少しでも距離をとろうと半身になって身を翻したその時、
にっ、と
少女の愛い顔に嫌な笑みが宿るのが見えた。
企みに気づいたエドだが今から逃げてももう遅い。
そのことはエド自身も重々承知しているようで
「・・・・・・くそっ!!」
慌てて自分も両手を合わせ、地に四つん這いになった。
だがこの時点で少女の手は既にエドの機械鎧の肩を捕らえており
しかも目的を達成した後だったということには気づいていなかった。
四方やこの交わり一つで勝負がついていようとは
一体何人が想像できていたのだろうか?
恐らく少女以外には二人といない。
二種類の術の光が重なり合い、大きく弾ける。
エドは足元から生えたかけた槍を半ばで無理矢理へし折って少女を自分の肩から薙ぎ払った。
攻撃が直撃した少女はまともに吹っ飛んだものの
着地だけはなんとか成功し、膝をつきながらも体勢は崩す事がなかった。
「今、俺の肩に何をした?」
「その内わかるよ。嫌でもね」
「・・・絶対ぇ吐かす!」
さっきとは逆に、頭に血が上ったエドが少女との間を削るように失くす。
手に構えた槍は容赦なく少女を襲うが、
どの攻撃もエドがしかけてくるワンテンポ前に、まるで来る位置がわかっているかのように避け続ける。
「思ったより!やるな!」
「でしょ!舐めてかかるとっ、痛い目、見る・・・よっと!」
「げっ!!」
エドの突きとタイミングを寸分の狂いなく合わせ
迫ってきた槍を掴んでその上で左手一本で逆立ちする。まるで曲芸だ。
その拍子に少女の短めのスカートが翻り、エドは一瞬酷く焦りを覚えたが、
少女の右手には、1秒前には確かに存在していなかった一振りのレイピアが自分に向けられているのに気がついた。
突きの狙いは十中八九・・・
「もらったぁ!!」
正に瞬間。
予想通りレイピアは己の瞳に突進してきて、あっと言うよりも早く視界から焦点が消えた。
だが予測さえできていれば問題はない。
「甘いッ!!」
握っていた槍から手を離し、
少女の一撃が来る直前に自分と少女の狭間に壁を練成したエド。
突如現れた重盾に一瞬驚きの表情を見せるも、少女はそのまま壁にレイピアを突き刺した。
びぃんッと金属のしなる音が場内に響く。
そして同じような衝撃が柔な少女の腕にも響く。
床製の壁を突き抜けたレイピアは壁向こうにいるエドの黄金色の眸の直前まで
その鋭利な先端を届かせていた。
とてもじゃないがか細い腕の少女にそんな腕力があるなんて思えないのだが
事実は事実。認めるしかない。
「〜〜、さっすが!」
そう言って一筋の汗を流しながら笑う少女。
浮かぶ表情は先ほどの嫌な企み笑みなどではなく、驚きと喜びに満ちたそれ。
勢いよくレイピアを壁から抜き放つと、
小指が入るか否かという程度の穴が堂々と姿を明けらかす。
それを通して見えるエドもまた、少女と似たような顔つきだった。
「史上最年少国家錬金術師の看板は伊達じゃねーよ」
ほんの一握りの虚勢を言い含めエドが答えると
少女は二人の視線を繋ぐ穴目掛け脚を振るった。
ガラガラと脆くも崩れさる即席の盾。
再びエドと少女は互いの全身が見える視界に恵まれた。
「・・・へえ。でもその看板、今日限りで降ろしてもらうから」
「やれるもんならな!」
「上等!!」
エドは捨てた槍をもう一度、素早く拾いあげ
今ある柄を細く練成しなおすことですることで完全な槍に仕上げて少女の攻撃を迎える。
ぎぃん!
と、硬い鉱物同士がぶつかり合う音。
その後すぐにエドの持つ槍が鈍い音をさせた。
見ると、少女の武器と交わった箇所に大きくヒビが入り、細かな石屑が零れている。
「(こいつのレイピア・・・一体なにから練成したんだ?)」
手を合わせたのは多分、あの曲芸まがいの行動に眼が行った時に出来た死角でだろうが
肝心の素材は?
床で?
いや、違う。地面に手をついた様子はなかった。
だとすると少女が所持しているものということになるが・・・・。
「・・・・・っ!わかったぜ、それの正体!」
そう叫ぶや否な、
エドは武器を投げ捨て手を打ち合わせる。
そして己の右腕を鋭い凶器へと変形させた。
「鋼の刃か・・・。面白いことやるねぇ」
「床から練成した槍じゃお前のレイピアには適いそうにないからな」
じりじりと間を詰める。
「そのレイピア、銀だろ?」
「・・・当たり。よく気づいたね」
少女の身につけている装飾品を全て把握するのは、この短時間では到底無理なこと。
けれど、目につくものだけ・・・というなら話は別だ。
最初見たときから今現在の彼女がなくしている装飾品が一つ。
「お前が握手してきた時、確かに腕輪があった」
「いい洞察力してんじゃん。でも・・・・だから?」
「別に。ただ正体さえ分かれば手のうちようは幾らでもあるってことだ」
鋼と銀。
互いの武器の強さは五分のもの。
と、なれば勝負を決するのは扱う者の力量。
力比べになれば非力そうなあの腕に負けるはずがない。
それは少女とて重々承知だろう。
そうすれば必然的に導かれる勝敗のきっかけは交差する瞬間のみ。
勝負は一瞬になる。
「行くぞ・・・」
「どっからでもどーぞ」
「後悔するぜ」
「しないよ。あたしが勝つもん」
「俺がわざと負ければなっ!!」
逆を返せば、俺が手を抜かない以上、お前に勝ち目はない。
そういうことだ。
エドは呼吸の間すらなく一気に駆け込む。
少女は、待ち構えてもいない。
このままではエドの刃が少女を切り裂くことになるだろう。
だが、エドは攻撃を中断する気配はなく、
むしろ更に突進していった。
この少女がみすみす攻撃をくらうわけがない。
何か策があるのだろう。だからと言って負けてやるつもりはないから自分も全力で突っ込む。
それがエドの考えだった。
少女は・・・まだ動かない。
動かない代わりに、また笑った。
がくんっ、
「へ!?」
右肩の感覚が突如失せる。
余りに突然のことに驚いて阿呆のように、その場に立ち止まってしまった。
見てみると、鋼の刃となっていた機械鎧はだらしなく、
まるで振り子のように床に向かってぶらぶら揺れていた。
「こ、壊れた・・・?」
「言ったでしょ?あたしの勝ちだって」
「お前が何かしたのか?!」
「・・・これ。なーんだ?」
パチンと両手を合わせてから耳に手をやった。
そして小さなシルバーカフスを親指と人差し指で摘むと、みるみるうちにそれは棒状となった。
エドは間近まで行ってそれを睨みつけるように観察すれば
少女の人差し指の方・・・棒の先端が十字になっているのがわかる。
エドの故郷の幼馴染が持っているものとよく似ていた・・・。
「・・・ドライ、バー?・・・・・・ッ!!」
慌てて自分の右腕を押さえて、機械鎧をじっくり見てみた。
外装フォルムの空穴の更に奥を眼をこらして見てみると、
本来ならば螺子が埋まっていなくてはならない場所に、その姿が影も形も無く
代わりに小さな螺子穴が寂しそうにぽっかり姿を見せていた。
「ね、あたしの勝ち」
「・・・・・直せ」
「ん?なに、声ちっちゃくて聞こえな・・・・」
「誰が手のりに出来そうなコンパクトサイズだーー!!」
火をつけたように爆発するエド。
「つーか修理代!あとお前が俺の代わりに怒られろ!!これ決定!」
「は?誰に怒られるの?」
「うちの整備師だよ!今度壊したら俺は牛乳飲まされるんだぞコラァ!!」
「牛乳くらい飲みゃいいじゃんか」
「あんな牛の白濁液なんぞ飲めるか!!」
「だからアンタ男のくせに小さいんだよ、ちーび」
べーっと舌をエドに向かって出す少女に
エドが・・・まあ、予想通りと言うか・・・・
「だぁれが床に這い蹲って水平に見ないと見つけられないドチビだーー!!」
ぶち切れた。
「つーかお前の方が俺より小さい!!」
「あたし女だし、まだ成長期だもんね」
「うるせー!俺だってまだまだまだまだまだ成長期だ!これから伸びるんだよ!!わかったか?!」
「はーいはい。わっかりました〜」
「何だ、そのやる気も根性もない返事!!このドチビ!!豆!!」
「お前に言われたかねーよ、この史上最小の錬金術師!!」
「最年少だ!最・年・少!!最小はお前だろーが!!」
「ああん?!誰が最小だっつの!それにあたしはまだ合格かどうか・・・」
「合格だ!お前なんか合格!んでもって最小国家錬金術師になりやがれ!!」
ぎゃんぎゃんと騒ぐ二人を見守るロイは、面白いものが見れたと満足気。
ホークアイの方はと言えば、そんなロイを呆れるように溜息を人知れずつく。
そして正面にいるキング・ブラッドレイは・・・。
「はっはっはっはっはっ!」
その緊張感のない笑い声にぴたりと口論をやめるエドと少女。
視線を二人して同じくらいの角度で上にやると、ロイと同じくして満足そうなキング・ブラッドレイがいた。
「うむ。見ごたえのある戦いであった。鋼の錬金術師、見事なり」
「別にこれくらい大したこと・・・」
「いや、感心に値するものだったよ。・・・そして・君だったかな?」
「あ、はい」
ここで初めて少女の名を耳にするエド。
漠然と、へえ・・・そーゆう名前だったんだ・・・と思いながら
名前も知らない少女と成り行きとはいえ本気で戦っていた事に
今更ながら微妙な恥ずかしさを覚えて頭をかいた。
「君もまた見事な戦いぶりであった。素晴らしい」
「そりゃどうも。・・・・じゃなくて、ありがとうございます・・?」
「宜しい。午後にも審査の結果が出るだろうから、それまでは自由に寛いでくれたまえ」
「はー・・・・・はい」
「最も結果は彼の言うとおりで、審査の必要など無いとは思うがね。はっはっはっ!」
エドをちらりと見てから軽快な笑い声を残し
キング・ブラッドレイは何人かの部下を引き連れ部屋を後にした。
それに続き、一人また一人と部屋を出て行く。
最後に残ったのは、エドと。
そしてロイとホークアイの四名だった。
ロイとホークアイは部屋を出て行かず、わざわざ上の席から下まで降りてきて
二人に歩み寄った。
「よくやったな。鋼のを相手にあれだけやれば受かったも同じだ」
「やったぁー!!合格合格!」
「おい大佐、色々と聞きたいことあるんだけど・・・・」
「おっと、私も早く審査に参加しないと。では、私が吉報を持って帰ってくるのを良い子に待っていたまえ」
「ラジャー」
「ちょっと待て!!人の話聞いてから行けッ!!」
去ろうとするロイの軍服を掴み動きを止めるが、
それはわりとあっさりと外されてしまった。
「鋼の、私は君の文句に付き合ってる暇は無いんでね。失礼するよ」
「なぁーにが『失礼するよ』だ!!」
「ああ、そうだ鋼の。不本意ながら私はの傍に居てやれないから小一時間ほど一緒にいてやってくれ」
「はぁ?!なんで俺が・・・・・」
「は一人で置いておくと、すぐに迷子になってね。困ったものだ」
「ぬぅ、仕方ないじゃん。ここ無駄に広いんだもん」
「まあ馬鹿な子の方が可愛がりがいがあると言うものだ」
そう言いながらの腰を抱き寄せるロイ。
だが、頭部に突きつけられる鉛塊の感触と、がちゃんという重い音。
極め付けに本人から、手を払いのけられるという三重苦に遭ったロイは
涙ながらに大人しく手を下げた。
「・・・・と、まあそういうわけだ。くれぐれもを勝手に連れまわすような真似は・・・・」
「待てよ。俺は暇じゃないって言っただろ、そんなの冗談じゃ・・・・」
冗談じゃない。
きっぱり断ろうとした。
が、について気になる事はいくつもある。
エドは考えた。
ロイが会議に行かなくてはならないことは明確。
ならばその間に本人に聞く事で解決できることは意外と多いのでは?
そう結論付けたエドは、言いかけた言葉を飲み込んで
「・・・まあ、別にいいけど」
「む・・・・鋼の、お前まさかに・・・・・・・まあいい。とにかく頼んだぞ」
「大佐、早くしないと会議に参加できなくなります」
「ああ、今行く。鋼の!くれぐれもに妙なことはしないように!それと軍の外にも連れていくな。それから・・・・」
「大佐。いい加減にしてください。エドワード君、を任せるわ」
「あ、はい。分かりました」
ホークアイに任され今度は素直に承諾するエド。
頼む者が違うだけでこれほどまで反応が違うところを見ると、普段のロイの行いが手に取るようにわかる。
「ー!鋼のに襲われそうになったら大声で私を・・・」
「誰がんなことするかッ!!」
「大佐じゃあるまいし、エドワード君はそんなことしません」
「分からんぞ!鋼のだって男だ、いつ狼になるか・・・・やはりもつれて会議に・・・」
「会議に当事者は参加できません。常識です」
「なら私の代わりに中尉、君が会議に・・・・」
「却下です」
「いってらっしゃーい」
ホークアイにひきづられるように退場したロイを大手を振って見送る。
こうして見ると歳相応に子供らしい。
「・・・・・なあ」
「なーに?」
「場所、変えようぜ。此処じゃ何もないしさ」
「変えるって何処に行くの?」
「そーだなぁ、とりあえず・・・・・」
「あ、おかえり兄さん。・・・・・・・・その子は・・・?」
移動した先はアルが調べものをしていた資料室。
あの場での手によって機械鎧を直してもらったエドは、弟が待ってるとだけ言って
此処までを連れて来た。
「こいつは。さっき国家錬金術師になった」
「まだ決まったわけじゃないってば」
「決まったも同然だろ。・・・んで、こっちがさっき話した俺の弟」
くいっと親指でアルを示す。
アルは少々戸惑いながらも、大量の書物が散らかった周囲をわたわた片付けて立ち上がり
右手をに向けて差し出した。
「僕アルフォンス・エルリックです。よろしくさん」
「敬語とか敬称なんかいらないよ。あたしも使わないからさ」
「それじゃあ・・・よろしくね」
「あたしは。よろしくアルフォンス」
「アルでいいよ」
「そお?んじゃ、よろしくアル」
戸惑うことなくアルの冷たい手甲を握り返す。
そんなに一抹の違和感が拭いきれないでいたエドが堪らず口を挟んだ。
「・・・・・・・・・・おい」
「なに?」
「俺の時とかなり違くないか。態度」
エドと顔を付き合わせた時のあの挑発的な眼と異なり
今、アルに向けられている敵意のまるで無い視線。
別に妬いているわけではないが、そこまで露骨に違うと無性に気になる。
「だってアルはアンタと違って性格良さそうだし」
「それって俺が性悪に見えたってことかよ」
「うん」
「んだとテメェ・・・・〜っ、まあいい。それよりも聞きたい事がある」
エドはこめかみの辺りをピクピクとさせながらも懸命に冷静を装い、
近くにあった椅子にどかりと座ってまだ立ったままこちらを見てるを見た。
エドの黄金の眼はの白銀色の瞳を無遠慮に突く。
「お前は何を持っていかれたんだ・・・?」
「兄さん、なんのこと?」
「こいつも・・・・・・俺たちと、同じだ」
「同じって、まさか・・・!」
人体練成。
アルの脳裏にその4文字が嫌でも浮かんできた。
「俺が見たところだけど、お前は何も欠けてるように見えない。
もしかして・・・・取り戻したのか?」
失った何かを。
それは即ち、エドとアルが血眼になって探している方法。
もしが方法を知っているならば、目的に近づくどころか
一気に解決できる。
エドの右腕左脚を
アルの身体を
取り戻せるかもしれない。
降ってかかってきた思わぬ近道に胸が躍らないわけもなく
二人の視線に宿る歓喜と疑惑と焦りとが複雑に入り乱れ、に絡みつく。
「・・・・・・・・・・・・・・・残念。あたしもまだ取り戻してないんだ」
「・・・・そう、なのか」
「役に立てなくてごめん」
「いや。俺が勝手に期待しただけだから、こっちこそ・・・その、悪かった」
流れる居心地の悪い空気。
それを拭うべく、アルがに問いかける。
「」
「なに?」
「答えたくなかったらいいんだけど・・・・何を持っていかれたのか、聞いてもいいかな?」
「・・・・アルは?」
「え、あ・・・」
等価交換。
先ほどとは違う4文字が浮かび上がる。
「えっと・・・・僕は・・・・・・・・」
ちらりと一度兄を見る。
エドは何も言わない。それは『好きにしろ』と言っているのだと直ぐに気がついた。
「僕は・・・・身体全部だよ。ほら」
がぽっと自分で兜をとってみせる。
ある筈の物がそこにはなく、代わりに血印だけが只、孤独に佇んで。
は一瞬眼を見張ったものの
躊躇することなくアルに近づき、その温もりのない鎧に手を触れた。
「鎧に定着させたのはエド?」
「・・・・・そうだ」
「ふーん。そっか・・・」
「俺は分かると思うけど、右腕と左脚。腕はアルの魂と引き換えに取られた」
眼をしかめ、腕を押さえながら言うエドの姿は
の眼には実際以上に痛ましく、辛そうに映って仕方なかった。
「さあ、等価交換だぞ。お前は何をなくしたんだ?」
「何だと思う?」
「え・・・・えっと・・・・・・ん〜」
聞き返されたエドは思わず答えに詰まる。
にはエドと違い生身の手足がきちんとある。
エドとあれだけの戦いを繰り広げながら吐血などもしてないということは、
エドとアルの師匠であるイズミのように内臓を持っていかれたわけでもないらしい。
眼も開いているし耳が聞こえてないこともなさそうだ。
何をとられたのか、それが全く分からないから聞いたのだ。
答えようが無い。
眉間にシワを寄せて難問でも解こうとしているような仕草に
はちょんちょんと自分の頭を指で示した。
「あたしね・・・・記憶とられちゃったみたいなんだ」
初めて見る寂しそうな表情。
いや、少し違う。
どうしようもなく悔しそうな・・・そんな表情。
「記憶って言うと経験ってことか?」
言った後で後悔した。
この質問はあまりに無神経だったかもしれない・・・と。
学的に言えばそういうことなのだが、それだけだろう?
いいや、違う。記憶と言うのは、その人そのものと言っても行き過ぎであるわけがない。
がどれだけの記憶を失くしているかは知らないが
少なくとも、先ほどまで凛としていた表情を崩すほどに辛いことなはずだ。
それを考える前に言ってしまった自分をエドは無性に殴りたくなった。
けれどは、表情をそれ以上歪ませる事はせず
代わりに鼻から小さく息をはき、苦く笑った。
「わかんない。読み書きとかは出来るし錬金術も覚えてるけど、他は・・・」
「練成陣無しで練成できるんだから、扉の向こうの・・・・あれも覚えてるんだろ?」
「まあね。でも、それ以外は何も思い出せなくてさ」
「名前は・・・名前は何でわかったの?」
「家にあった写真。その裏に書いてあった」
はジャケットのポケットから二つ折りにされた写真の束を取り出した。
一番上の写真に映っているのは、まだそれほど昔でもないの姿があった。
今のような風変わりな服装ではなく、ごく普通の身なりをして
屈託ない無防備すぎるほどの笑顔で誰かの腕に抱きあげられながら
カメラに手を向けている。
「・・・思い出せないんだ。
どうして人体練成なんてしたのかも、誰を作ろうとしたのかも・・・」
の指が、写真の中のに触れる。
写真は笑顔のに焦点が合わせられていて、を抱き上げている人物は
生憎腕しか映っておらず、その顔を拝む事はできないでいた。
「あたしを抱いてるこの腕が誰なのかも。撮ってくれた人のことも・・・なんにも」
写真を裏には、
『・。
いつまでも愛されるべき人でありますよう願います
14歳おめでとう』
と記されている。
「誰が書いたのかも・・・・何もわからない」
エドは他の写真もそっと裏をめくって見た。
すると、やはり。全ての写真に同じように祈りを捧ぐ言葉が紡がれていた。
強い人に、優しい人に、偽らない人に、
聡明な人に、努力を絶やさない人に、諦めない人に、
自然を愛する人に、他人を愛する人に、生き物を愛する人に、
自分を信じる人に、誰かを信じる人に、信じる心を持った人に、
一枚一枚に、の成長を願う言葉があった。
そして一番下・・・まだ眼も開いてない銀の産毛を生やした赤ん坊の写真には・・・
進んだ道を忘れない人になりますよう。
そう、書かれていた。
「・・・でも誰か居たんでしょ?を知ってる人」
気を利かせたアルが、フォローするように言う。
だが、はがりがりと女らしかぬ仕草で困ったように答えた。
「それがさぁ・・・いなかったんだよね、だーれも」
「一人も・・・?」
「そっ。」
エドの持っていた写真を、摘み上げるようにして奪い
じっと遠くを見るように見つめる。
「この写真見つけた家には、誰もいなかった」
気がついた場所は、深い山中の物置。
不安だらけの心を一喝して見つけた家の中に入ってみるが、そこには人一人おらず。
コルクボードに貼られた自分と同じ顔をした少女の写真だけが
自分がこの世に居たという証。
他に私の存在を表すものは何一つ見あたらず。
「・・・・・・・・・・」
写真を持つ手が微かに震えてる。
寂しさからか、恐怖からか。
エドはそっと・・・に手を伸ばした。
慰めが何にもならないことは分かっていたが、それでも。
少しでも、僅かでも。
支えになれれば。
そう思って。
ぐしゃり!
そんな音さえ聞こえなければ、きっとエドの手はに触れていたのだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・だから決めたんだ!!」
「は?」
「な、何を?」
突然の立ち上がり目の前の机に片足を乗っけて力強く拳を握り締めるの豹変ぶりに
顔を崩して不可解がるエドと、声が引っくり返るアル。
「何をって決まってるっしょ!
扉の前にいたあの真理とかって野郎ぶっとばして、あたしの記憶を取り戻す!!」
そう言い切ったの顔に曇りはない。
あるのは揺ぎない決心。
エドはやっと気がついた。
最初に見た時から、言葉を交わしたときから、
このと云う少女が誰に似ているのかが・・・。
「は・・・・はは、あははははは!」
「くす、・・・・、ハハ・・・ッ」
顔を見合わせて笑い出す兄弟。
どうやら思ったことは兄も弟も同じらしい。
「なになに。なーに笑っちゃってるわけ?」
「ククっ、・・・だよなぁ。やっぱそうだよ。なあアル」
「うん。の言うとおりだね」
「ちょっと、二人して喋ってないでよ!」
仲間はずれにされた気分になったは
椅子から飛び降りて、二人に笑い声の意味を聞こうとするが
エドもアルもそれには答えなかった。
ただ笑うだけで。
エドは目尻にたまった涙を拭いながら、まだ笑いの消えていない顔のままで
の手を掴んだ。
「お前、一緒に来ないか?俺たちと」
「一緒に・・・どういうこと?」
「僕達旅してるんだ・・・元の身体に戻るために。もう三年くらい」
「二人と一緒に行けば、あたしの記憶も戻る?」
「少なくても、俺とアルは自分の身体を取り戻すつもりだ」
男が女の手をとって見つめあうなんて、中々ロマンチックなやり取りだが
二人の間にあるのはそんな甘いものじゃない。
もっと、熱と強さを含んだ、もっと違う、なにか。
互いにもう気がついただろう。
エドも。も。
今まで感じたことがない、この感覚。
もしこの世界に人の心を映し出す鏡なんてものがあったとしたら。
きっとそれの前に立ったら、今のような気分になるはずだ。
同じニオイ、同じ種類の人間。
自分と限りなく似た性質の者。
は掴まれてた腕を払いのけた。
エドもアルも一瞬慄いたものの、それはすぐに拭われる。
払いのけたあと、はエドの掌をしっかりと握り締めた。
触感のない機械鎧では感じるはずの無いの温かさを
何故か強く感じた気がした。
嬉しさで思わずエドもその手を強く強く握り返す。
「言っておくけど、途中で逃げるんじゃねーぞ」
「あたしが一緒に行くからには途中で諦めたりさせないから」
「「取り戻すまで一蓮托生!!」」
声を揃えて啖呵をきる二人を見たアルは、一人密かに笑いながら
「なんだか、兄さんが二人になったみたいだ」
そう思っていたそうな。
「では、・は試験に合格という事で異存はありませんね?」
挙手するものは誰一人としていない。
推薦者のロイはその光景に笑みを隠し切れず、口元で緩く弧を描いていた。
「二つ名はどうしましょうか?」
進行役の軍人がそう言うと、
先ほどまで物音の一つもなく静かだった室内にちらほらと声が生まれだした。
「『駿足』というのは?鋼の錬金術士に攻撃を仕掛けた速さは並ではなかった」
「なるほど。悪くない」
「いや、『純白』の方が一目瞭然ではないか?」
「服装を変えたら駄目だろう。もっと違う方が・・・・」
「少女という点を生かすのはどうだろう?」
「駄目だ。今は良くても直ぐに女性という歳になってしまう」
色々な名が飛び交うが、どれもピンとくるものはなく
キング・ブラッドレイも首を横に振るばかり。
ぐるりと室内を一度見渡すと、ああでもない、こうでもないと話し合う軍人の中で
二人だけ、特に一言と喋っていない者を見つけた。
「マスタング大佐。確かキミがあの少女の推薦者だったな」
「はい」
「何か良い名はないかね?是非参考にしたい」
「ご冗談を。彼女に与えるべき名は一つだと思われますが」
「ほう。聞かせてもらおう」
眼を薄っすら開き、キング・ブラッドレイをその目に捉える。
その席は近いうちに自分の物になる。と、穏便ではない企てを巡らせながら。
しろがね
「・・・・・・・銀」
一言静かなに。
けれど室内の全員に届くよう、説得力を持つよう、しっかりとした声で。
「彼女に相応しい名は・・・・・『銀』しかないと私は考えております」
「ふむ。銀の錬金術師・・・鋼の錬金術師とまるでセットのようだが、それはそれで面白い」
の書類にもう一度眼を通し、
アンティーク物の年季を持った羽ペンで、さらさらと紙にインクを走らせた。
そして最後に赤い朱肉に漬けた印を二つの名の位置に被せて押すと
書類には派手に赤々と『国家資格取得』の文字が刻まれた。
「・を銀の錬金術師として任命する。以上」
「あーーーーっ!!」
「どうしたんだよ」
「何か見つけた?」
引き続き資料室で調べ物をしていた三人だったが、
突如が叫んだ事により、その作業を中断した。
「思い出した!!あたし忘れてた!」
「思い出したって・・・もしかして記憶か?!」
「いや違う!自己紹介!」
「は?」
「あたしエドに自己紹介してないし、されてない!!」
一体どんな一大事かと思ってみれば・・・・
エドは呆れ半分。アルは苦笑い。
けれではそんなことお構いなしでエドの手をまた握る。
「あたし・。よろしくエド!」
「ああ。・・・・って、もう今更だろ。名前知ってるし」
「いいの!!ほら、エドも早くッ」
「はいはい」
ごほんと一度咳を切り、少し顔を照れで赤らめながら、
自分からものしなやかな手を握り返し
「俺はエドワード・エルリック。鋼の錬金術師だ」
鋼と銀。
よく似た二つが、道を重ねた今日この日から
それまでなかった新たな道が、その姿を見せた。
銀の錬金術師、ここに生まれる。
どうか、失ったものを取り戻す勇気と意思を持った人になりますよう・・・。
心からの祈りを・・・神ではなく悪魔にでもなく、
貴女に捧げます。
強くあれ、銀の錬金術師・。
鋼の錬金術師連載『HAGANE&SIROGANE』 第一話
end・・・・・・(060108)