「街まで20キロォー!?」


エドとの声が森に響き渡る。

旅の頭数が一つ増えて初めてになる旅先でのことだった。


「何てこった。やっぱ前の駅で降りときゃよかったぜ」
「兄ちゃん達、何処から来たんだい?」
「東だよ。軍の東方司令部がある街から」
「そりゃ長旅だったのに災難だな」


まあ何せこの辺は人の手が入ってないからな、なんて笑いながら猟師の男は言うが
今のエドの耳にはフォローにもならなかった。


がエド達と行動を共する決意をしたその日その時。
ロイが会議を終わらせて戻ってくる前に、さっさと次の旅に出てしまおうと
ろくな情報も集めぬままに飛び出してきたら、この始末。

降りた駅は街も何もない無く、どうして駅なんて作ったのか不思議になるような辺鄙な土地。
先の駅に行くにも、前の駅に戻るにも、乗ってきたのが最後の列車なのだから
次の列車など朝まで来るわけも無く。

歩いていれば街の一つや二つ・・・そう思っていたのに。


エドは流石に無計画すぎたと頭を抱え項垂れた。


「仕方ないよ兄さん。今夜は野宿しよう」


意気消沈するエドにアルが慰めるべく言うと
エドは少しばかり困ったような顔をして、アルを見あげた。


「・・・アル。お前重大なことを一つ忘れてないか?」
「え?重大なことって?」


小首を傾げ不思議そうに問いに問い返すアル。
視線を受けたエドは気恥ずかしそうにしながらも、ちょいちょいと目立たぬように顎でを指した。


がどうか・・・・・・・あ、そっか」
「わかってくれたか、弟よ」

「ん?あたしがどーかした?」


二人の視線を受けて、当の本人は何のことだかわからずに。
ただ照れた顔のエドと、ほんのちょっと楽しそうなアルを交互に見やるばかりだった・・・。


そう。
今まで男二人だった旅なら野宿なんてどうってことない。

だけど、今は・・・・・


「お前・・・・・女なんだよなぁ」
「当たり前じゃん。見りゃわかるでしょ」


女も男も関係ない。
そんな道理は、ある一定範囲でしか通用しないものだ。

着替えは?風呂は?寝るときはどうすれば・・・。

一緒に旅をする上で逃れることの出来ない
思春期真っ盛りの少年少女にとってしてみたら大きな大きな問題たち。

だけど今はそれより何よりも・・・


「あのさ、


言い辛そうに、口ごもるエドをはくりくりとした瞳を更に丸くして
不思議そうにエドを見る。


「今夜・・・・野宿でもいいか・・・・?」


野宿とくれば色々な問題が更に出てくる。
風をしのぐ壁もなければ、夕立にそなえた屋根もなく。
食べ物も飲み水も自分達で調達しなくてはならないし、何より風呂に入れない。

様々なデメリットに満ち溢れた野宿という選択を
が納得してくれるかどうか、エドは恐る恐る聞いてみた。


「いいかって・・・それ以外あるの?」
「いや、ない・・・・な」
「なら野宿するしかないじゃん」
「僕達から誘ったのに、最初っからこんなことになっちゃって・・・ごめんね」


謝るアルの鎧が軽快な音をたてる。

見ればが握った拳をぶつけている。


「なに言ってるかな。あたしが自分でついてくって決めたんだよ」


だから謝るな。
そう言って次にエドの煌びやかな金色の頭にも拳をぶつけた。

叩かれたエドはさっきとは違い、
物理的な意味での痛さに頭を抱えた。


「ってぇ・・・いちいち叩くな!」
「だって殴りやすいとこにあるんだもん、エドの頭」
「なんだとコラ、もっぺん言ってみやがれ!」
「ははは!怒った怒った、小火山が噴火したー」
「小をつけるなーー!!」



野宿しなくてはならない割りには楽しそうな声だなぁ・・・。

森の奥に戻っていった猟師の男は、響いて聞こえてくる若々しい二つの声に
心を和ませながら仕事に打ち込んでいたそうな。



「さて、まずは水場確保だな」


野宿となれば一番必要なのは飲み水。
旅支度も済ませてこなかったせいで、荷物の中の水は二人で飲むには少なすぎる。

と、いうわけで三人は手分けして水源を探した。


「アルー!ーー!声聞こえるかぁ?」

「うん。聞こえるよ、兄さーん」

「こっちも聞こえてるー!」

「声聞こえなくなるほど離れるなよ!特に

「わかってるー!てかエドって背のわりに声はでっかいよねー!」

「喧嘩売ってんのか!買うぞテメェ!!」

「ちょっと、手分けして探すんでしょ!!こっち来てどーする・・・・・あ!!水場あったよぉーー!」



目的のものを発見したことを告げる声を頼りに、
エドとアルは、其々の元に向かう。

茂る草を掻き分けて眼に飛び込んできたのは、大きな広い湖で
は既に、夕日を反射させて紅い鏡のようになったそれの中で嬉しそうにはしゃいでいた。


「エドー!アルー!早く来てみなよ、魚も居るよ!!」
「魚か・・・。飯は決まりだな、よっし!釣りだ、釣り」
「やったぁー!あたし焼き魚大好きー!」


エドが辺りを見回すと、ちょうどいい具合の適度な長さの枝を見つけ
しめたと自分の髪の毛を数本抜いて、それを紡いで枝にしっかりと括りつけた。

簡易的なものではあるが十分な竿。
餌は手持ちの僅かな食料を使えばいい。
あとは釣り針だが・・・

エドは自分の足元に合った小石に狙いを定めた。
パンっとお馴染みの手打ちをしてから小石を拾うと、それは先が鋭利にとがった
フック型の針となった。

あとは針を髪の毛にぐるぐると巻きつけて餌を刺せば、釣竿の完成。
エドはそれをに渡そうと振り返るが・・・・
そこには既に手に身の丈に近い長い石製銛を携えたがいた。


「・・・・お前なぁ、それで魚獲るのむずかしいんだぞ」
「大丈夫!あたしなら出来る」

何処から出てきているのかは不明だが満々の自信。
呆れたエドは半ば無理矢理に釣竿をに押し付けた。

「お前はこっち!それは俺が使う」
「えー!釣りなんて面倒だよ。魚とるならコレっしょ!」
「いいからそっちは俺に貸せよ」
「やだ!見てろよ、絶対出来るんだから!!」

エドの釣竿をつき返し湖に飛び込む
勢いよく跳ね返った水は、陸にいたエドまで届き、その金髪を濡らした。


「えーっと、魚・・・魚っと・・・・居た!」


ひゅんっと、刃が水を突き刺した。
湖泥に突き立つ銛を、軽々しく抜き放ちはどうだ!と言わんばかりに
まだ息のある魚の胴を捕らえている銛をエドに見せ付ける。


「ざっとこんなもんよ!・・・まあ、エドには難しいのかもねぇ〜」
「・・・・・んだとぉ!」

エドは釣竿をアルに押し付け、適当な岩で銛を作り出し
それを手に湖に駆け込んだ。


「おら!どっちが多く魚を調達できるか、勝負だ!!」
「望むところ!!制限時間は30分間だよ!」


睨みあいながら意気込んで湖の深みへ走る二人。
アルはそっとエドの作った手製の釣竿を手にして岩場に向かったのだった。



「うおっしゃー!3匹目ぇ!!」

「こっちはもう4匹目だもんね!」

「まだまだ時間はあるんだよ!俺の方が絶対獲る!」

「とかなんとか言いながら、あたしは5匹目〜!」

「こっちは2匹一気にしとめたぜ!!これで並んだ!」

「くっそぉー!負けるかぁ!」



そんな口喧嘩をしているうちに、
時間はどんどん過ぎて制限時間がやってきた。

二人は自ら上がり、互いの獲得した肴の黙々と数を数える。

「「・・・・・・8匹」」

被った声につられてエドはを、はエドを見る。

「ちぇっ、引き分けか」
「まあいいだろ。これ以上とっても食いきれないしな」
「それもそーだね」

「あ!兄さん、。どっちが勝ったの?」

岩場から頃合を見て戻ってきたアルの手には
何やら水を滴らせ左右に動く網の姿。
よくよく見れば、二人の獲った魚を合わせても足りないほどの魚が密着していた。


「アル・・・なんだよ、その数」
「一体どーやって・・・・」
「ああ、二人が暴れてたから魚がみんな僕の方に逃げてきたんだよ。だからかな」
「そういえば、後半は魚がなかなか見つからなかったっけ」
「全部アルの方に行ってたのかよ・・・」

衝撃の事実にがっくりと肩を落とす二人を見て
アルはまあまあと楽しそうに慰めた。


「はぁ、取り合えず生簀作っておくね。魚傷むから」
「ああ、頼んだ」


エドとアルはが生簀を作っている間に
出来るだけ平らな場所を探して寝床を作ることにした。


「しっかしラッキーだな。こんなでかい湖があるなんて・・・」


寝るのに絶好の場所を見つけた二人は
さっさと寝床になる土台を練成し、そこに大き目の布敷いた。

早速そこに寝転がって寝心地を確かめたエドはそうアルに呟いた。


「うん。これなら飲み水にも困らないし、汚れも落とせるし」
「おう。水浴びするにはもってこい・・・・・ッツ!!」
「ど、どうしたの、兄さん」
「水浴び・・・・そうだよ、水浴び・・・・水浴びってことは・・・」


ぶつぶつ何やら言葉を紡ぐエドの顔は
傍目に見ても湖よりも朱に染まっており、心なし口元が歪んでいる。

そしてチラリと水の中にいるを視界にいれた。


今は衣服を纏っているが
水浴びともなれば、どうだろうか?
着衣のままに身体を清める輩がいるか?

エドの眼に良からぬ色が宿るのをアルは見逃さなかった。


「兄さん。言っておくけどの水浴び覗いたりしたら軽蔑するよ、僕」
「なぁああああ!なにを言うか弟よ!!兄がそ、そんな事すると・・・」
「鼻血」
「へ?」
「出てるよ、鼻血」
「・・・うお、あ!いや、これはつまりだな・・・・えーっとォ」


慌てて鼻を両手で押さえながら必死な形相で言い訳するエド。
情けない兄の姿にアルは溜息を隠せなかった。


、ちょっと来て」


アルは生簀を造り終え、湖で遊んでいたを手招きして呼び寄せる。
ばしゃばしゃと涼しげに水音を奏でながら水を横切り陸にあがってきた
濡れた素足を軽くきりながら二人の近くまでやってきた。


「なに?」
「僕と兄さん今から薪拾ってくるから、はその間に水浴びしてて」
「え、でもあたしだけ呑気に水浴びなんて・・・」
「いいから。その方が兄さんの・・・じゃなくてのためだから。ね、兄さん」
「お、おう!!そうだぞ!」


アルは内心、エドが本気での水浴びを覗くなんて
幾らなんでもしないとは思っていたが、
もし、出来心で本当に覗いてしまったら・・・・

「(きっと兄さん、鼻血で出血多量になっちゃうよ)」

妄想しただけで流れるまでの鼻血を出した純情な兄を
情けないやら、ちょっと面白いような、そんな気持ちで敬っていた・・・。





「ねえ、兄さん」

「なんだよ」


綺麗な橙の空が藍染の布のような夜の色に交代する頃、
両手いっぱいに手ごろな枯れ木を拾ったエドとアルはの待つ水辺まで帰り道を辿っていた。


ってさ。・・・可愛いよね」
「可愛い?!あいつが!?」
「兄さんはそう思わないの?」
「思わん!」

てっきり顔を紅くして照れると思っていた兄の反応に、意外だと驚くアル。

「あいつは俺と互角に戦うやつだぞ。あいつと比べたらウインリィがまだおしとやかに見える」
「その言い方はにもウインリィにも失礼だよ」
「それには口悪いし、なにより自分の方が小さいくせに俺のことチビ扱いする!!」
「うーん。否定出来ないけど・・・だけど可愛いと思うな」

「・・・・・・・お前、ああいうのが好みなのか?」
「好みなのと可愛いと思うのは別だよ」
「そういうもんか?」


歩きながら考え込むエド。
考え出すと周りをよく見ないエドが転ばないように、アルはさり気なく先を歩いて
足元の小石や枝をどかしていった。

ゆっくりとしたペースで歩き続け
やがて湖が月を反射させている光がちらちら眼に刺さる場所まで来ると
ふと、背中越しにエドが立ち止まったのにアルは気がついた。


「兄さん?」
「あいつ・・・まだ水浴びしてないか・・・・?」
「え、あ・・・本当だ。水の音が聞こえる」

エドに言われて耳を澄ませて見れば、確かに。
風が木の葉を揺らす音に紛れて時折、小さくパシャパシャと水が踊る音が聞こえてきた。


「・・・・どうしようか?」
「どうしようも無いだろ。あいつが上がるの、待つしか」

みるみる内にエドの頬がまた紅潮の一路を辿る。
そして、力ない足取りでゆっくりと水場に近づこうとする歩みを
アルはその大きな身体で道を遮った。

「・・・兄さん。言ってることとやってることが正反対」
「はっ!お、俺は何を・・・・」
「(・・・無自覚なんだ)」

「エド、アルー?あたしもう上がったよー、居るなら出て来ーい」

「あ、あがったって。行こう」
「ああ・・そ、そうだな。・・・なあ、さっき俺が、その・・・」
「言わないよ、兄さんが覗こうとしてたなんて」
「ッ、覗こうとなんかしてねえ!!」
「じゃあがまだ水浴びしてるの分かってて戻ろうとしたって言っていいの?」
「やめてくれ・・・頼むから」
「うん。わかった」


エドはアルの後ろに気持ち隠れるようにしての居る水場の土を踏んだ。
幸い月明かりは寂しいもので赤らんでいる頬が明るみにならないことが
今のエドにとっては何よりの救いだろう。


「ごめんね。長くて」
「大丈夫だよ。そんなに待ってないから」
「あれ?エドなんでアルの後ろにいるの?」
「な、なんでもねーよ!」
「変なエド・・・」
「それより火だ、火ぃ起こすぞ!」


寝床に逃げるようにして戻ったエドは集めてきた薪をばらまき、
火がつきやすいように重ねてからマッチで火をつけた。
暗くなった辺りを炎独特の灯りが照らし出す。

そこにアルとが一足遅れてやってきた。


「エドってば肝心の魚持ってかないでどーするんだよ、もうッ」
「食べきれないだろうから取り合えず半分だけ持ってきた」
「サンキュー」

座り込んだ三人は、が練成した銀のナイフで集めた枝の先を削り
そこに内臓を抜き取った魚を突き刺して炎に傾けた。

パチパチと枝が燃える音と赤い炎の影が
枝に突き刺さった魚を美味しそうに焦がしていく。

徐々に香ばしい匂いがエドとの鼻を悪戯に刺激する。


「そろそろ焼けたかな?」
「そうだな。じゃ、いただきます」
「いただきまーす」

其々手近にあったものを取って、ぱくりと食いつく。
川魚にしかない程よい柔らかさの白身が口の中にで解れ
自然が生み出した味わいをもたらす。

ついつい食が進むその匂いも手伝って味をしめた二人は早くも二匹めを手に取った。


「うっまーい!あれ?アルは・・・・そっか。食べれないんだっけ。ごめん」
「ううん、僕のことは気にしないでいいよ。もう慣れたから」
「いいわけないじゃん。元の身体に戻ったら真っ先にご飯一緒に食わなきゃね」
「ははは。ありがとう」


笑いながらアルは、思いついたように言った。


「あ、そうだ。悪いんだけど、今夜は兄さんと一緒に寝てくれる?」

「ぶーーーーッツ!!!」


が答えるよりも早く。
エドが本来ならば胃に押し込まなくてはならない元・魚たちを
盛大に、尚且つ勢いよく噴出した。

被害を被ったのは、エドの真正面にいた
癖の無い綺麗な白銀の髪や、さぞ触り心地のよさそうな柔肌に
汚物としか言えない破片が容赦なく予兆無く降りかかる。
余りに予想定外の出来事に愛らしい眼を恐ろしいほどに見開き、
暫しの間、完全に沈黙していただが、すぐに我に返って・・・・奇声めいた悲鳴を木霊させた。


「うぎゃーーーーッツ!!汚ッ!!噴出すなよ馬鹿、阿呆!豆ぇ!!」

「誰が豆だッ!!つーかアル!お前いきなり何を・・・・〜〜〜っ!!」

「兄さん、とりあえずに謝った方が・・・」


は近くにあったエドのコートで首から上をがむしゃらに拭い
エドは金色の眼をチカチカと、口をひたすらパクパクと動かし最早言葉にならない文句を喚き
アルは兄を宥め、の肩やらにも散っているそれらをタオルで処理して

ロイあたりがこの光景を見たら、面白可笑しそうに愉快に笑う事だろう。
ついでに「私の言いつけを破るからだぞ、鋼の。」とか何とか吐き捨てそうだ。


そしてその数十分も後になれば

「・・・あー、さっぱりした」

不機嫌そうにそう呟くがいた。

「結局二回も水浴びしちゃったね、
「誰かさんのせいでねー」
「だから何回も謝ってるだろ。俺が悪かったってさ。いい加減に機嫌直せよな」
「エドのは謝ってる態度じゃないんだよ」


タオルで濡れた髪を拭きながら、火の近くに寄って
髪を炙られないように気をつけながら軽く手ですいて乾きを促す。
銀の髪が炎の赤を反射させてとても綺麗だとエドとアルは思った。


「・・・・そういえばアル。エドと寝ろって話なんだけどさー。なんで?」
「そうだアル!なんでそういう結論に至ったのか説明しろ」

「え、だって僕は寝る必要ないんだから二人で寝るしかないじゃないか」

鎧の身体を軽く叩きながら「そうだろ?」と問いかけるアル。
確かに、今までの旅でも横になる必要があるのはエドだけだったのだから
が加わった以上、二人で寝るというのは至極簡単な結論だが。

「別に一緒に寝なくても寝床二つ作ればよくない?」
「それが・・・シーツが一組しかないんだよ」
「・・・・そーなんだ」
「今日だけだからさ。兄さんなら大丈夫、に悪さする勇気なんてないと思うから」
「べ、別にそーいうこと気にしてるんじゃないけど・・・!」

は頬に朱を孕んでちらりとエドを見ると
向こうも同じような・・・むしろよりも過剰に真っ赤な顔でこちらを様子見していたらしく
目があったとたん、耳までも赤に染めて顔を背けた。

更には「一緒に・・・・てことは肌がぶつかったりとか・・・いやその前に顔が至近距離で・・・・・・」と、
独り言にしては大きめの呟きを漏らしてうずくまったり、頭を左右にふったりと
時に少々荒い息になったりと一人大忙しだ。


「・・・・・・・・・・・・ねえアル。やっぱあたし身の危険感じるかもしんない」
「はは。兄さん青春だねえ」
「青春で済ますな!怖いよアレ!」
「まあまあ。大丈夫だよ・・・・・・・・・・多分」


アルの信用できるんだか出来ないんだか
いまいちはっきりしない説得のもと、結局二人は共に眠る事にした。

互いの身体の間には微妙と言えるスペースを作って背中合わせで。


「エド・・・・・寝た?」

「・・・・いや。起きてる」

「アルってまだ戻らないかな?」

「ああ、この先の道見てくるって行ってたから、朝まで戻ってこないかも・・・」

「そっか・・・」


「(眠れない・・・)」「(・・・寝れるわけあるか)」


思いはやっぱり一緒なわけで。

それでも出来るだけ隣のことを考えまいと、眠ることに全神経を集中させる。


深けこむ夜の暗闇につられ
昼間の戦闘と慣れぬ列車移動もあって疲れが溜まっていたは徐々に眠気に呑まれていき
呼吸が規則的な寝息に変わっていった。

エドを闇夜に一人残して己の夢の中へと落ちたようだ。


「(寝た・・・か?)」


未だ鳴り止まぬ鼓動のまま、そっと振り向くと・・・

「・・・・ッツ!!??」

近すぎた。顔が。

寝返りをうったはいつの間にかエドの方に向き直り
その愛らしい寝顔を惜しげなく見せていた。

振り向いたエドは否応無しにの眼前に顔を落ち着ける事になる。


「(近っ・・・・マジ近いだろ!あ、こいつ睫長いな、すご・・・・)」


すぐに背を向ければ、それで済むはずなのに、エドはそれをしない。
目の前にあるの顔を目を見開いて観察している。

その表情は、赤に染まりながら惚沸としかけていて
手は今にもに触れるか抱き寄せるかの行動を望み、うずうずとしていた。


「(肌とか柔らかいんだろうな・・・唇も、なんか・・甘そう?)」


そう思うと自然と手が伸びる。
近づくたびにドキドキが強まる。

心臓が早鐘のようだ。

エドの骨ばった指が、の柔らかなピンクの箇所にそっと触れた。


「・・・・・・・・・うわ・・・」

そこは思っていた以上に柔らかで温かく。
予定外にエドの若すぎる理性を悪戯に刺激した。

唇に触れていた指は頬にずれ
代わりに、瞼を半分ほど閉じて薄目を開く。
更に縮まる顔と顔の距離。

エドの心臓は早鐘を超えて勝利のゴングのように、激しく、速く、鳴り、響く。


「(あと、もうちょっと・・・・)」


のふっくらとした唇に、エドの薄めな唇が、

かすかに、本当に僅かにだけ


触れた。



「・・・・っ!?」

唇に感じた自分のものじゃない熱。
それを感じて正気に戻ったエドは口を押さえて大慌てで飛び起きた。


「お、おおおおおお俺・・・今、な、ななナニ・・を・・・・!?」


何をした俺ぇぇぇーーーーーー!!

自分の犯した愚行が信じられず、機械鎧の手で強く頭を叩く。
ダクダクと流れる血なんか気にもならない。

気になるのは、自分の唇に残る確かな感触。


醒めた頭にまた血が昇り沸騰する。


「俺・・・・さっき確かにに・・き、キス・・・」


しちまった・・・・。

絶対気のせいじゃない。今も残るふにっとした気持ちよさ。
乾いてた自分の唇が、少しだけど潤ってる。

恥ずかしさに苛まれながらも、の唇を近くでみると、キレイに瑞々しく潤っていて。


間違いなくキスした。

確信した。



カーっと、まるで顔が沸騰したヤカンのようになるのが自分でわかった。

金の髪を意気のままに掻き毟り、その後で頭を抱えて悩みだす。



きっと今夜。

彼は一睡もできないことだろう。



前途多難な三人の珍道中は、まだ始まったばかり・・・。









鋼の錬金術師連載『HAGANE&SIROGANE』  第二話

end・・・・・・(060212)