「しり・・・・・・・・・・・・・・うす・・・?」
「・・・・・・」
13年ぶりに交わした最初の会話。
それは本人であるかどうかの確認だった。
犬現る
アズカバンから脱獄し、ホグワーツでハリーやリーマス達に自分が無罪であることを理解してもらったシリウスは
バックビーグに乗って数週間かけてホグワーツの遥か南の田舎まで逃げてきていた。
ここに来た理由はただ一つ。
学生時代の想い人に会うためだ。
勘違いされては困るので言っておくが、はシリウスの恋人ではない。
あくまで想い人だ。
ようはシリウスの片思い・・・・・・。
学生だった頃、2人の距離はとても近く
シリウスは毎日欠かさず、暇さえあれば何時でも何処でも強烈なモーションをかけていた。
だが、7年間かけても彼の思いはに伝わらなかったのだ。
その7年間のうち、何度か募る思いが爆発して
行動に移ったことがあったのもまた事実だが・・・・。
まあそれはシリウスに限ったことじゃない。
は想うより想われる方が圧倒的に多い人間だったから。
彼女の破天荒で底抜けに明るい性格と、異常なまでの魔法の才は
良い意味でも悪い意味でも注目の的だった。
そしてその愛らしい容姿に魅せられる男も後を絶たなかった。
を想っていた多くの者達の中でも、特にシリウスのライバルだったのが
友人であるリーマス・ルーピン
大嫌いなセブルス・スネイプ
スリザリンの覇者だったルシウス・マルフォイ
中でも、ある意味一番厄介だったのが、の親友リリー・エヴァンス。
と、ついでにリリーと組んだときの我が親友にしてリリーの恋人、ジェームズ・ポッター。
この2人は揃ってを愛玩していたので、凄まじく手ごわかった。
それでもは誰とも恋仲にはならならなかった。
と言うよりも、誰も彼女の自由気ままな心を掴みきれる男がいなかった・・・・と言う方が正しいだろう。
それでも、シリウスは自分がと一番親密な男だったと信じている。
そして今、愛しい愛しい彼女と再会するべく、彼女の自宅のドアの1m手前に立っていた。
屋根にそびえる煙突からは白い煙が出ていて、美味しい料理の匂いをシリウスの鼻まで届かせていて
朝食を作っている真っ最中だというのは明らかだ。
このドアを開けば・・・・・・
「が・・・・いる」
彼女は何も知らない。
俺が無実だという事も、ピーターが裏切り者だということも。
知っているのは世間一般のあの憎くも悲しい偽りの真実。
彼女は・・・・・は、自分を受け入れてくれるのだろうか?
ドアノブを持つと、どうしてもそう考えてしまって
手を離さざるを得ない。
もしが俺を見た途端、悲鳴をあげて逃げてしまったら?
もしが俺を見た途端、殺意に満ちて杖を振るってきたら?
もしが俺を見た途端、恐怖のあまり気絶してしまったら?
どの場合でも俺はきっと立ち直れない。
知らないやつらに叫ばれようと逃げられようと平気だった。
ハリーやスネイプに杖を向けられても平気だった。
他の誰かなら気絶されようがショック死されようが・・・・・・いや、ショック死は流石にされたら厳しいが
気絶されるくらいなら全然平気だろう。
だけどに拒否されたら・・・・俺は、俺は・・・・・・・・・・・
「生きる気力が消える・・・・・」
ここでぶっちゃけるが
俺がアズカバンで13年間も正気を保てたのも、今の今まで尋常じゃない暮らしでも耐え抜いてこれたのも
に会いたいという理由が過半数だった。
ハリーの手前、好きな人に会いたいから脱獄したなんて言えないし
何より格好が付かない(ここ重要)
それに、まあ・・・・・
ピーターを殺してやたいと思っていたのも紛れも無い事実だから、嘘はついてないさ。
ああ、ついてない!
ついてないって言ったらついてない!!
とにかく考えていても仕方ない、全てはに会ってからだ。
もし拒絶されたら・・・・・・・・・・・された時考えよう。
うん・・・そうだ、そうしよう。それがいい。
シリウスは大きく深呼吸して心を入れ替えドアノブを握った。
いくぞ俺、3・2・1で開けるんだ。
よし・・・。
3・・・・・・・・・・
2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・”3・2・1…”は、なんとなく縁起が悪いな。やはりここは”いっせーのっせ!”にしよう」
では、もう1度。
いっっっっっせーーーーーーーーーーのッッッ
バタン!!
ドアが開いた。
ただし、中からの力によって。
「あれ?今誰か居た気がしたんだけどなぁ・・・・?」
エプロンをしてお玉を持った女性が誰も居ない玄関先を見て、そう言った
この女性こそ、シリウスが求めている想い人だ。
「誰もいないや・・・・。あたしの勘も鈍ったかな?」
怪訝な顔でドアを閉め、家の中へと戻っていった。
シリウスはというと・・・・・
「ッつぅ・・・・・・!相変わらずだなのやつ・・・」
中から開かれたドアに見事にぶち当たってドアの影で転がっていた。
「・・・・・にしても綺麗になってたな」
13年間離れていて、その間全く知らない彼女の生活。
今見たところ(体験したところ)性格のほうは然程変わってないようだが、
外見はそうはいかない。
シリウスの記憶の中では腰まで伸ばされていた金の髪だが、今は背中の真ん中ほどしかなかった。
13年前の時点で、成長期は終わってたため身長や体型は変わってないが
纏う雰囲気や全身像は、確実に少女から女性に変貌していた。
一人暮らしなんてしてるくらいだから料理も立派に出来るんだろう。
シリウスの知ってるは一部のマニアックな料理しか出来なかったが・・・。
年月は少なからず彼女を変えた。
そんなを見てシリウスは・・・・
「子供っぽいも可愛かったけど、今のも可愛い・・・・・・・よし!
今度こそ絶対ゲットだ!!13年前から途切れたままのラブモーションを再開させるしかない!」
熱く燃えたぎっているもようです。
がちゃ・・・・
「やっぱ誰か居る気が・・・・・・・・・・・!」
「っ!?」
シリウスと
2人の眼がバッチリあった。
「しり・・・・・・・・・・・・・・うす・・・?」
「・・・・・・」
13年ぶりに交わす最初の会話。
それは本人であるかどうかの確認だった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
は何も喋らない。
だからと言って眼をそらすわけでもない。
ただジッとシリウスを・・・・シリウスの瞳を見入るだけ。
だからと言ってシリウスの方も何からどう話していいか分からず
声をかけるタイミングを見事に失ってしまっていた。
一体どのくらいそうしていたのだろうか?
ほんの数秒な気もするし
1時間以上も経っている気もする。
ここで少し2人の頭の中を覗いてみよう。
「(だだ、本物のだーーーー!よっしゃあ!生!!)」
「(シリウス?この2枚目と見せかけてアホ面なのはシリウスで間違いないよなぁ?)」
「(うわー!13年ぶりだよ、触ってもいいか?つーか抱きしめたい!)」
「(決を取ります。この男をシリウスと判断するのは妥当ですか?はい妥当です妥当です妥当です(エコー))」
「(間近で見ると変わってるよーで変わってない!でも昔より色っぽくなってるか。お、いい匂いv)」
「(では多数決の結果15対1で、この男をシリウスと断定します。異議はありませんね?)」
「(あー!マジで抱きしめたい!むしろ抱きたい!!いいかな?いいだろ?いいよな?いいでしょうッ!?)」
「(面倒なので異議は却下。この男はシリウスと断定。つーか何でここにシリウスが居るんだろ・・・?)」
脳内エステ終了。
おっと間違い、脳内盗聴終了。
はその後もジィっとひたすらシリウスを見つめ続ける。
シリウスの方も最初こそはと対面出来たことに、嬉しさと、喜びと、感動で、心に幸せが満ち溢れていたが
徐々にドアノブを握れなかった時と同じ不安が募っていった。
やっぱり駄目なのか・・・・・?
困らせたくない、を困らせたくない。
だけどそれでも
受け入れて欲しいと思うのは・・・・・・・我侭だろうか?
「・・・・話だけでもいい。聞いてくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
意を決して想いの全てとも言える言葉を伝えたが
答えてくれない。
いや、
これがの答えなんだろう。
裏切り者とは・・・殺人鬼とは口もききたくないという答え・・・・。
の中の俺は未だに色あせること無い
最も憎むべき咎人なんだ。
これなら罵倒でもされた方がマシだったかもしれない。
帰ろう・・・・。
帰る場所なんて無いが、それでも何処かへ行こう。
に殺されないうちに。
俺にはまだやることがある。
生きる気力は確かに無くなったが、生きる目的はある。
シリウスはそれ以上何も言わず、から眼を逸らした。
それは針で出来たボールを飲み込むように辛く痛いことだった。
そしてドアを閉めようと、1歩後ろにさがった・・・・・その時、
がしっ!
が、シリウスのよれよれの服を掴んだ。
驚いたシリウスは逸らした眼を再びに向けると
「いらっしゃい!!」
昔のままの、飾り気の無い心からの笑顔が、お返しとばかりに向けられた。
「へ?」
「すんごい久々だね、13年ぶりだっけ?あれ、14か?
・・・・・まぁ、どっちでもいっか♪あ!朝飯まだだろ?」
「え、あ・・・・・・」
「食べてくよな?それともあたしの料理なんか食えないってか?」
「いや、そういうわけじゃ無いんだが・・・・」
「じゃあ食ってけ!」
予想外の展開に思考が付いていかないシリウスは
の(かなり)強行な朝飯のお誘いに対して思わず・・・
「あ、ああ。ご馳走になる・・・」
と、返事をしてしまった。
するとはさっきの笑顔をまたシリウスに見せ
お玉をエプロンのポケットに突っ込んで、シリウスを家の中に引っ張り込み
背後に回ってその痩せた背中を思い切り押した。
「そんじゃあたしが朝飯作ってる間に風呂入ってきて、その汚い格好どーにかしてこい!」
「わかった。わかったから、そんなに押すな」
「着替えは適当に持ってくから、先入ってって。シャワーの使い方は・・・」
「わかる!だから押さないでくれ」
ドタドタと浴室までシリウスを案内したかと思うと、今度は2階に上がっていってしまった。
シリウスは浅くため息を吐きながら、纏っていた服とは言いがたいボロ布を脱ぎ去り
シャワーの蛇口を捻ると、すぐに頭上から熱いお湯が噴出してきて、シリウスの全身を濡らした。
少し熱すぎるくらいのお湯だったが、
13年間お湯を浴びる機会など無かったシリウスにとっては、正に恵みの雨だった。
「・・・・・・・・・・・・・ここは天国か?」
ふいにそんなことを口走った。
愛しい人に会えただけでなく、家の中に迎えられて、風呂を借りて、
しかもこの後、最愛の女性の手料理をご馳走になれるなんて・・・。
天国じゃないとしたら、きっと夢の中だ。
だとしたら、起きたらアズカバンに居るのだろうか?
そうだとしても、この夢のおかげで、もう13年は正気のまま耐えられるだろうな。
「シリウスー?まだシャワー浴びてる??」
「ん?あ、ああ」
半透明よりもう少し不透明なドアの向こうにの姿が確認できる。
なんだか照れくさい気がしてしまうのは、やはり何年も離れていたからだろうか?
昔なら、このままをこっちに連れ込もうとしたんだが。
「じゃあすぐバスタブ入って。そんでバスオイルでも入浴剤でも温泉の元でもいいから入れて!」
「だが、バスタブはお前も使うだろう?俺は入らない方が・・・」
「なにいらない気ぃ使ってんの?いいから入れ!」
「わ・・・わかった」
シリウスはに言われるがまま湯の張ってあるバスタブに身を沈ませ
適当な袋の封を切って自分が浸っている湯の中に白い粉を散らせた。
鼻をくすぐるのはフローラルやラベンダーの香りではなく、ほとんど無臭に近いような硫黄の匂い・・
の趣味の温泉の香りだ。間違いない。
学生時代に新しいものをが手に入れるたびに分けてもらっていたから。
「入ったー?」
「ああ」
「んじゃ、ちょっくらお邪魔しまーす」
「な?!」
がらっ
何の戸惑いも無く入ってきたに、シリウスの方が過剰に反応する。
「お前なに入ってきてるんだ?!」
「なにビクついてんの?昔は連れ込もうとしたくせに・・・」
「それは・・・・事実だが・・・・」
語尾が弱くなるシリウスと反面的に、はカラカラ笑いながら
シリウスに近づき、バスタブの脇に腰を下ろした。
「平気平気、入浴剤入れてるから何も見えやしないって」
「そういう問題じゃないだろ・・・」
「あ、登別入れたんだ。それあたしのお気に入りなんだよね」
「そうなのか?」
「昔も言ったじゃん。シリウスにだって結構分けてあげたんだけど・・・」
白い湯に手を軽く浸してお湯を握る。
目の前で人が入浴中だというのに遠慮がないのは性格だから仕方ないのだが、
それでも、どうにかならないものか考えてしまう。
「着替え外の籠に置いてあるから、きつくても我慢してよ」
「どんなのでも俺が着てたのよりマシだ。ありがとう」
「喋り方びみょうに違くない・・・・?」
「仕方ないだろ?13年もたっているんだ。少しは変わるさ」
「へぇー、ふーん・・・・・」
シリウスがそう言うとは明らかにブスーッと顔で湯につけていた手を弾くようにお湯から出した。
したがっての手のひらにあった湯は、自然の流れでシリウスの顔に引っ掛かった。
「ぶっ!・・お前なぁ」
「シャワー攻撃」
「うわ!?」
はシャワーのヘッドを手に取り、標準をシリウスに合わせ素早く蛇口を捻った。
シャワーから飛び出たお湯は途切れることなく湯船にいるシリウスの顔に一直線に向かう。
シリウスは手で顔をガードし、もう片方の手でに操作されているシャワーのヘッドを掴み
自分に合わせてある標準を180度回転させた。
「くらえッ」
「うわわわわ!!あたし服着たまんまだっつに!」
「濡れろ濡れろ」
「ぎゃー!この犬!!エロ犬!!」
全身びしょびしょにされながらもは、シャンプーを手にし
ポンプの部分を取って丸ごとシリウスの上でひっくり返した。
「泡まみれ〜、ぎゃはは!いい男だよシリウスく〜ん」
「なんだ!?シャンプーか!?ぶ!あ、泡が目に・・・ッ」
「あ!これマグル製品の高いやつだったし!もったいねぇ〜!」
「ザマーみろ。高級シャンプーが全部俺の髪の養分になったな」
「くっそー!こーなったら全部泡立てる!!」
「うあっ!引っ張るな、やるなら丁寧にやってくれ」
「当店はリクエストは受け付けておりません!」
どろりとしたジェル状の液体が垂れ流れているシリウスの頭を、やや乱雑に洗う。
途中髪が絡まったり、泡が多すぎてバスタブ内もの居る床もツルツルと滑ったり
とにかく色々大変だった。
そんなことをしてる内に、いつの間にやらシリウスの口調も荒っぽく・・・・と言うか
少年に近い青年のような口調になり、暗かった表情も消え笑顔しかなくなった。
この後、数十分ほどバスルームから笑い声が絶える事はなかった。
「はぁ、疲れた。じゃ、あたし着替えて飯の準備してるわ」
「おー。俺も泡全部流したら行く」
「はいはーい」
びしょぬれだった服を予備のタオルで拭きながら、はまた2階へと上がっていった。
笑い声のなくなったバスルームは途端に静寂を露にする。
「ふぅ・・・・そろそろ出るか・・・・・・」
ざばっという水音をさせて、バスタブから出たシリウスは、とあることに気づいた。
立ったままシャワーを浴びるときにセットする金具の真下。
つまり、立ち尽くしたシリウスの正面の鏡・・・。
最初にシャワーを浴びたときは曇っていたので気にもとめなかったが、
湯気の逃げた今は、磨かれたその存在は、無視できないほど強くそこにある。
「痩せたな・・・・・・いや、やつれたというべきか」
天国か夢だと思った一時だったが、この鏡はそれが現実であることを知らしめてくれる。
この痩せ衰えた肉体が今の俺だ。
若い頃は自分の美貌を過剰に自覚していたこともあった。
その自意識は面白いほど自分の性生活に明るみになっていて
今思えば何て軽薄な行動をとっていたんだろうと、嘆きたくなる。
でも、俺はに会って
を愛するようになってから変わった。変われた。
今の俺は彼女のおかげで存在している。
彼女がいなかったら、俺はきっと人を愛することなんて知らなかった。
愛されたいと思うことなんてなかった。
満たされることや生まれてきてよかったなんて思うことも一生なかった。
俺はを愛することで救われたんだ・・・。
そして今日、俺はまたに救われた・・・・・。
「シーリーウースー!!早くー!飯が冷めるッ」
「わかった、今行く。少し待っ・・・・」
「えー?なーにー?」
「いや、何でもない!すぐに行く」
思いに耽るのは後だ。
今はのところに早く・・・早く行こう。
待たせたくない。
13年も待たせたんだ、もうこれ以上は待たせられない・・・。
俺はバスルームの泡を一通り流しきると、最後にばしゃっと鏡にバスタブの残り湯をかけ
用意された着替えに袖を通した。
行動の一つ一つに幸せをかみしめながら・・・。
「・・・・上がったんだが・・」
「あ、着替えほとんどピッタリじゃん。よかったー」
「ピッタリなのはいいんだが、・・・・・・・・・・・・これ誰のだ?」
用意されていた着替えはどう見ても男物。
しかも長身のシリウスにピッタリの。
まあ100歩譲って上のシャツはのものだとしよう。
だが、下は?
シリウスが過去に何度か見たことのあるの母親は
10代の子供を持っているとはとても思えないほど、若々しく可愛らしい小柄な女性だった。
当時から母親似だと言い切れるほど母親とそっくりだったは
今では記憶の中の母と瓜二つで、やはり中年とは言えない若々しさと愛らしさを備えている。
そして、身長も同じくして標準より低い。
そんなが男物のズボンなど穿くわけが無い。
「まさかお前、男連れ込んで毎晩やることやってるんじゃ・・・!!」
「なに勝手に想像してんだアホ犬!」
「誰だ相手は?!リーマスか?マルフォイか?まさかスネイプとか言うなよ!?」
「いっぺん落ち着かんかい!」
「ぐぇっ!!」
フライ返しの角で頭を叩かれる。
だがしかーし、それくらいで諦める俺じゃない!!
「じゃあ一体全体このズボンの正体は何処の馬の骨だ?!」
「お前だよ、お前の」
シリウスを叩いたフライ返しで、そのままフライパンの中にいるスクランブルエッグを
皿に盛り付けながらは答える。
「・・・・・・・・・は?」
「だーから、シリウスだってば。そのズボンの持ち主」
「な、なんで俺のズボンがお前ん家にあるんだよ・・・・・」
に嘘をついてる様子がないので、シリウスは身に覚えの無い証拠(?)に焦る。
そもそもアズカバンに居たのだから、数年前に建てたこの家にシリウスの忘れ物があるわけない。
だが、は鼻からため息を漏らし、シリウスに事情を話した。
「覚えてない?昔みんなであたしの家に遊び来た時に、シリウスとジェームズが2人して沼にはまったじゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あー、そんなこともあったな」
それがどーした?
と話の意図が全く分からないシリウスは、の話に耳を傾ける。
「その時2人の服全部洗濯したけど、帰りが慌ただしかったせいで忘れて帰っちゃったんだよ」
「そうだったか?」
「そうだったの。それでそのまま返すの忘れて今に至るってわけ」
「・・・ってことはこの上着はジェームズのか?」
シリウスが忘れたのはズボンだけ。
ということは必然的にジェームズのになるが、ジェームズが人の家に自分の物を忘れるとは思えない。
「いんや、それはリーマスがこないだ泊まったとき忘れてったやつ」
そして案の定、ジェームズが持ち主ではない・・・という答えがから返された。
「そーか、リーマスの・・・・リーマス!?」
「うん」
「しかも泊まりって・・・・・っ嘘だろ?嘘だな?!」
「いや、マジだけど」
「NOOOOOOOO!!!」
キ――――――――――――――――――――――――――――ン・・・・・
「シリウスうるさいって、近所迷惑」
「そんなことどーでもいい!!それより!お前・・・・お前・・・・・」
錯乱のあまり、この家から近所といえる家まで相当離れてることもスッカリ忘れているシリウスは
の発言に突っ込みを入れることも忘れ、自分の言いたいことを言うだけで精一杯だ。
「リーマスと結婚したのか?!」
「話飛びすぎだ馬鹿!!」
すぱこーん!と景気のいい音をたたせ、はシリウスの脳天を履いていたスリッパでぶっ叩く。
「結婚してないなら、じゃあ同棲か?そうなのかッ??!!」
「あーもう・・・とりあえず飯食いながら話そう」
「飯なんか後だ!!今はそんなことよりも・・・・・・・・・・・・・・・・?」
いきり立っていたシリウスの語尾が細まっていく。
理由は、目の前のがの様子がおかしいから。
シリウスは心配になって屈むようにしての顔を覗きこむと・・・・・
「飯なんか・・・?そんなこと・・・・?」
「、なにか誤解してるだろ?俺が言いたいのはだな・・・」
「それはなんだ?あたしの作った飯なんか食うに価しないと・・、そう言いたいんだ?」
「ちがっ・・・・、話を聞いてくれ。俺は・・・・・」
「お前に食わす飯なんかねーよ馬鹿犬!!外出てろアホ!!」
昔懐かしい鬼のような形相のに引きづられ、シリウスは外に叩き出された。
ばたん!と強い音で閉められたドアに、すぐさまヘバリつくが妙に厚く距離を感じる。
数十cm先向こう側にはがいるのに、この無機物に阻まれて触れられない・・・。
仕方ないので、壁越しの会話。
「ー!俺が悪かった!!だから入れてくれ!」
「だーめ!暫く反省してろアホ犬」
「俺は世間一般じゃ脱獄者なんだぞ!こんなところに居たら・・・・・」
「大丈夫。うちの庭、外からは見えなくしてあるから」
「へ・・・?そうなのか??」
「うん。だから心配しないで暮らせるよ」
顔は見えない・・・。
だけど、の声は確かに柔らかく微笑んでいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、それは俺の都合のいいように考えていいのか?」
「いいんじゃん?ただし条件がある」
「なんだ?」
ドアに耳を近づけ、返事を待つ。
さらさらと頬と髪を撫でる風が心地良い。
「今まであったこと全部話せ」
「・・・勿論だ。そのために俺はお前に会いに来たんだからな」
「一つ残らずだよ?シリウスにとって嫌なことも辛いことも、全部・・・・」
「ああ。ジェームズのこと、リリーのこと、それに・・・ピーターのことも全てお前に教えよう」
「駄目・・・・。それじゃ足らない」
上ずった声がシリウスの耳に届く。
が泣く直前に出す、あの声だ。
シリウスは少しでも2人の距離を縮めようと、ドアに手をつけ
宥めるようにに囁く。
「何が足らない?」
「・・・・・・シリウス自身のこと」
「・・・・そんなことお前が聞きたくないと言っても、話すに決まっているだろう?
お前には俺のことも含めた全ての真実を知ってほしいからな・・・」
朝日の差し込む暖かな庭。
シリウスはドアに寄りかかってそんな風景を見ながら、ゆっくり語りだした。
ドアの向こう側では、やはり同じようにドアに背を預けながら
がシリウスの話を聞き入っていた。
長く辛く険しい真実。
全ては、愛しき人へと伝えられた。
「・・・・そーゆう事だったんだ」
「ああ、これが真実だ。・・・・・・・・・・・・・ショックか?」
「まぁね」
シリウスの話を聞き終えたは、密かにため息をついた。
反対側にいるシリウスに聞こえないように、ひっそりと。
ピーターの裏切りは哀しくて怒りがこみ上げてくる。
だけど、彼が生きていたことを喜ぶ気持ちも、確かに存在している。
の中では、シリウスも、ピーターも、紛れも無い友人だ。
大切な・・・・大切な。
13年前、シリウスがジェームズとリリーを売ったと聞いたとき
真っ先に行ったのは、既にシリウスが収容されていたアズカバンだった。
無論、入らせてなどもらえなかったから
次に行ったのは魔法省。
直談判も無駄に終わり、シリウスの罪は魔法界、マグル界の両方に報道された。
それから13年間。
あたしは待った。
シリウスが帰ってくるのを。
シリウスをそういう対象にしていたワケじゃないけど
誰とも結婚せず、誰とも愛し合わず
ずっと待ち続けてた。
そして全ての狂った真実を知った今、あたしは両目に一筋ずつ涙を流していた。
片方は思っていたとおり、シリウスが無罪だったことに対する喜びの涙。
もう片方は、友人だと思っていたピーターの裏切りに対する悲しみの涙。
世界一の喜びと世界一の悲しみは、思いのほか穏やかだった。
きっとどっちも感情の範囲を超えてしまっているんだ。
表しきれない2つの感情は 一筋の涙となって この世に存在している。
「・・・・」
「なに?」
泣いている事をシリウスに感ずかれたくなくて、すぐに返事をしたが、
多分・・・・・・気づかれているだろう。
シリウスは勘の良いやつだ。
・・・・・・・・・・・・・・・運は無いけど。
「俺が、13年前に俺が捕まった時・・・・・・・・・・・どうしてた?」
「・・・よく覚えてない」
嘘じゃない。
シリウスが逮捕された時は、もう何が何だか分からなくって、思いつくままに行動してたから。
だけど、今でも痛いくらい覚えている事はある。
「何してたかは・・覚えてないけど、怒り狂って泣き喚いて怖がってたのは覚えてる」
証拠だの証言だのばかりで、シリウスを信じないみんなに対して怒り狂った。
ジェームズが、リリーが、ピーターが、シリウスが、あたしから離れていくのが嫌で泣き喚いた。
無実なのに、世界中にシリウスが悪者だと広まると思うと怖くて仕方なかった。
「俺が脱獄した時は?」
「確か、喜んで不思議がって笑ってた」
シリウスがアズカバンの地獄から抜け出したことを喜んだ。
どうして今脱獄したのか不思議だった。
シリウスが脱獄に成功して魔法省のハナをあかしてやったから大声で笑ってやった。
「・・・・・・・・・今は?」
「嬉しくて・・・悲しくて、だけどどーしようもないくらい幸せで哀しいよ」
シリウスが戻ってきて嬉しかった。
ピーターの裏切りが悲しかった。
シリウスが無実でジェームズ達を売った張本人じゃなくて、こうして居られて幸せ。
だけど、それはピーターが裏切り者だったのを喜ぶようで哀しい・・・。
渦巻く思いは螺旋を画き
狂った歯車は狂い続け回り続ける
終わりは来ない
「ねぇシリウス」
「ん?」
「あたしが何で最初に”いらっしゃい”って言ったかわかる?」
「・・・いいや、教えてくれるか?」
「・・・・・・・あたしさ・・・・・・シリウスにね」
本当は素直に言いたい言葉があった。
帰ってきたキミに言わなきゃいけない言葉があった。
だけど言わなかった。
変わる前の日々、キミが訪問してきた時に言っていた言葉は”いらっしゃい”だったから。
「何でもいいから、あの頃と同じことしてやりかったんだ」
色々と変わってしまった今だけど
この一言で
あたしは昔と変わずキミのことを友達だと思ってる
そう伝えたかったんだ。
「シリウス・・・・・」
だからキミに言わなきゃいけない本当の言葉が、今も置き去りにされてたまま。
「なんだ?」
それを今
「あのね・・・・」
キミに
「おかえり」
柔らかな風は木漏れ日を揺らし
注がれる太陽は風を暖める。
キミの
この庭が どうか 出発地点になりますように
2人の
「ただいま、・・・・・・・ありがとう」
理想的な未来は もう来ない
だからせめて 理想と違う幸せを作ろう
幸せの形は なにも理想だけじゃない
それを証明してみせるよ
天国にいる親友達もきっとそれを望んでくれる
幸せになろう
裏話と書いてイイワケと読む・・・(他作品要素含が嫌いな方はご遠慮ください)
途中、ちびっと他作品のヒロインが出てまいりました。
(※母親のことです)
当店の品を全て食してる方には、恐らくお分かりかと思います。
うちで唯一子持ちのヒロイン。
その名は・・・・・・・言いませんが、CMだけします。
パプワ個人夢のイタリア人相手夢「幸せ家族レポート」の娘が当店のハリポタヒロインでございます。
まだ読んでいない興味のある方はどうぞ一読してみてください。
母親と父親・・・ついでに幼いヒロインの具体的な性格がわかる・・・・はずです。