「いでででで!」
オレが特戦部隊を離れて3日。
「我慢しなさい。それでも元特戦部隊ですか」
落とし穴とか罠とか地雷とかがいっぱいあった森を抜けて、やっと着いたガンマ団日本支部。
「痛いもんは痛ぇもん。あっ、包帯いらない。動きづれーから」
今居るのは、こないだ寝てた高松の仕事場。
「包帯なんか使いませんよ。勿体無い」
オレの新しい生活が始まる…。
「ふ〜ッ、痛かった」
「これに懲りたら大人しくしてることですね」
「やーだね。オレじっとしてんの嫌いだもーん」
「ったく、ハーレムも面倒くさいのを押し付けてきましたね…あとで文句言っとかないと」
長い足を組んで、室内をウロウロするを観察する。
は戸棚の中にあるビンを物珍しそうにシゲシゲ見つめたり、
初めて見る医療道具の数々に興味津々といった様子で、目をキラキラさせている。
「すっげ〜、ココ色んなもんあるな」
「そりゃ色々揃ってないと仕事になりませんからね」
「なんで?」
「アンタねぇ、ココを何処だと思ってんですか」
「・・・高松の仕事場?」
「解ってるなら下らない質問するんじゃないですよ」
面倒くさそうに受け答えする高松に、は不思議そうな顔をして更に言う。
「高松の仕事ってなに?」
「今更なに言ってんですか。若ボケにも早すぎますよ」
「オレ高松の仕事なんか聞いてねーもん。」
「・・・言ってませんでしたっけ?」
「うん」
高松が、言ったような気も言ってなかったような気もする…と、苦い顔をしていると
ボケてんのそっちじゃん。という悪態が返って来た。
少々こめかみの辺りにきつつも、今回は自分の方に落ち度があったので
平静を装って、質問に答えることにした。
「私は士官学校の保険医をやってるんですよ」
「先生で医者なのか?」
「ええ」
「先生と医者って、どっちも偉いんだよな?」
「まあ、その辺の団員よりは偉いと思いますよ」
「んじゃ、高松とハーレムってどっちが偉い?」
「ぷッ、それは何ともイイ質問ですねぇ」
「なんで笑うんだよ…」
意外な事を聞かれ、思わず噴出してしまった高松だが、
質問の内容に面白そうに笑った。
「そうですねぇ…、私の方が偉いんじゃないですか」
「へぇ〜、マジックと高松だとどっち?」
「それは総帥に決まってるでしょう。総帥なんですから」
「そっか、じゃあさじゃあさ!」
「今度はなんですか」
質問続きの会話に飽きたのか、高松は少しくたびれたようだ。
そんなことお構いなしには嬉々として言う。
「オレがマジック倒したらオレが一番偉い?」
「ブッ!!ククッ、それ本気で言ってんですか?」
「また笑った…オレ本気なのに」
「まあ、実質的にはそうなるでしょうね」
「マジで?マジック倒せば一番なんだ…よーし」
「アンタまさかガンマ団乗っ取る気ですか?」
無謀な事を言うに笑いながら高松が聞いた。
「違うよ。ガンマ団で最強の女になったらオレ特戦部隊に殴りこみに行くんだ」
「それで一番になりたいんですか」
「うん!」
一層嬉しそうに、いや、実際嬉しいのだろう。
満面の笑みで頷く少女の思考は、”最強=トップ”と、いうことらしい。
普通に考えても総帥の座は息子のシンタローに行くことが解りきっているというのに。
「単純な思考回路で羨ましいですね」
「いいだろ〜」
「誰も誉めてませんよ」
「そーなの?なーんだ、つまんねぇの」
自分が反逆発言をしたことには気づかないを
可愛らしく思いながら、高松はあることを思いついた。
それは今、下克上染みた野望に満ちているをからかうには持ってこいだった。
「、”ガンマ団最強の女”ならもうなってるじゃないですか」
「なんで?」
「当たり前でしょう、貴方以外に女性団員はいないんですから」
「・・・・・・あっ」
の顔が間抜けにボケッとなる。
高松はそれを見て、より楽しそうに言う。
「もう”最強の女”なんですから今すぐ特戦部隊に殴りこみに行ったらどうです?」
「えっ、でも…オレもっと強くなりてーし…」
「特戦部隊に戻っても強くなれると思いますよ」
「うっ…そーだけど……うぅ…」
「どうしたんですか?」
に高松の話術を負かす力はない。
案の定、すぐに言葉が出てこなくなり、悔しそうに口を一文字に結び
「いーんだよ!とにかく強くなってから戻る!!」
数秒後に半ばキレ気味にそう叫んだ。
大きく身振りしたせいで、の左脇にあった薬ビンがいくつか床に落ちて
中身がぶちこぼれた。
は慌てて錠剤を回収して、ビンの中に戻そうとする。
「落ちたの戻してどーするんですか。それ貴方専用にしますよ」
は錠剤を握っていた手に力を入れなおした。
落した薬はまだ手の中。
薬をどうすればいいのか眼で訴える姿を見て、少し可哀想になり
虐めすぎたかと心の中でのみ反省する。
「棚の下にある箱の中です」
「はーい、え〜っと、箱…箱。あった!」
”実験用”と書かれた箱を取り出し
床に散らばった薬をかき集めて一つ残らず入れる。
全部拾ったことを確認するべく、床を見渡して
確認できると満足そうに箱を戻した。
「それじゃ私の仕事が終わるまで大人しくしてなさい」
「え〜!」
「文句言ってると部屋まで案内しませんよ」
「ちぇ、わっかりました〜」
実践場を抜けてボロボロの状態で本部の入り口についたは、
そこにいた団員に保護され、直行で高松のいるこの部屋に連れてこられた。
そのため、まだ自分の部屋の場所はおろか、団内の構造さえ全くわからない。
もし自分一人で外に出たら、迷ったらここまで戻ってこられず、高松に怒られる。
それくらいにも容易に想像がついた。
別に怒られるのは恐くないのだが、罰で夕飯抜きにでもされたら堪らない。
実践場での3日間、何も食べていなかったワケではないが
決して満足いくほどは食べていない。
手当てをされる前に、高松にそれを言ったが、
あと数時間で夕飯時になるから、という理由でまだ何も与えられていない。
ぶっちゃけ腹の虫はカンカンだ。
それを思うと、は今すぐにでも団内探検に行きたくて
ウズウズしている気持ちをグッと我慢した。
願うは、一刻も早く高松の仕事が終わること。
そして食べ物をすきっ腹に入れること。
「高松、今何時〜?」
本棚にある本はどれも難しい物ばかりで他にの興味をそそるものは無い。
1分ごとにピッと鳴るデジタル時計の音と、高松の操るキーボードの音のみが聞こえ
窓の外の景色も、当然だが変わることは無い。
更に相手をしてくれる人も居ない。
が暇になるのは当然だった。
人というのは不思議なもので、暇になると、しきりに時間ばかりを気にする。
「ちょうど2時です」
「ふ〜ん…」
自分から聞いておいて、どうでもよさ気な返事。
「なんでそんなに仕事やんの?」
「普通ですよ」
パソコンから目を離さずに答える。
「オレやってなかった」
やってた仕事は”完全破壊”だけ。
「特戦部隊にも書類作りはあるはずですけど」
書類?
「あ〜、オレ字書けなかったからやんなかった」
全部リキッドがやってた。
「・・・字、書けないんですか?」
高松がキーボードを打つ手を止めて首だけこっちを見る。
「今は書けるよ。マーカーから習ったから」
「そうですか」
そう言って、またパソコンと睨めっこする。
つまんない…。
「仕事って、あとどの位やるんだよ」
「5時までです」
5時まで…
今が2時だから、3、4、5…
「・・・・・・・・・・・・3時間?」
「随分時間かかりましたね。正解ですよ」
「マジでぇ!?」
ウソだろ〜、とその場に座り込む。
3時間…それはにとって絶望的な長さだ。
腹が空きすぎて、もしくは暇すぎて、癇癪を起こすのは時間の問題だろう。
「オレ腹へって死ぬかも」
高松は仕事に没頭して、返事をしない。
「暇すぎて死ぬ〜!」
返事なし。
「なぁなぁ高松〜」
一切合切無視。
は、高松のあしらい方が、今まで身近に居た誰かと似ていると思った。
その人物は一定を越すと炎を出してきたが、高松も何か出すのだろうか?
などとが思っていると、廊下から足音が聞こえた。
その足音はどうやらココに近づいているらしく、
徐々に足音が早く、大きく聞こえだす。
「(…誰だろ?)」
「こ、この足音は…!!」
「高松?どしたの??」
高松が盛大な音をたてていきなり椅子から立ちあがり、ドアの方を振り向いた時だった。
「高松〜、入ってもいい?」
ガラっと扉が開いたと思うと、大きな袋を両手で抱えた金髪の青年が、中に入って来た。
「えへっ、もう入っちゃったv」
「どーぞどーぞグンマ様!!聞かなくても何時でも入ってくださいvv」
「わーい、ありがとう高松v」
「いいんですよグンマ様。貴方のためでしたら東京タワーのてっぺんでも立入可にしてみせます」
グンマと呼ばれた青年が笑って礼を言うと、高松は壊れたように鼻血を流しながら
青年の手をとって跪いた。
「うわぁ…鼻血で水溜りできてるよ…」
初めて見る光景に、戸惑いを隠せない。
そんなことを全く聞いてな高松は、自分ワールドに完全に入ってしまっている。
無視されてふてくされたに気づいたのは青年だった。
「あ、もしかしてキミがちゃん?」
「え?あ…うん。そう」
「そっかぁv僕はグンマ。ここの科学者なんだv」
よろしくねvと手を差し出すグンマ。
その手を握り返して、も最大級の笑顔で笑う。
「そうだ、ちゃんお菓子食べる?ここでおやつにしようと思ったから持ってきたんだ。ほらv」
グンマはそう言って、持っていた袋の中身を、手近な机の上にバラ撒いた。
キャンディやチョコレート、ムースなど、見た目にも甘そうなお菓子の数々が
3人の目の前に晒される。
「うっわv美味そ〜!食っていいの?」
「うんv3人で食べようv」
「では私はお茶の用意をしましょう。、そこのテーブルに青いクロスを引いて下さい」
「りょーかい」
「僕、今日はピンクがいいな」
「!ピンクです。右の棚にあります!!」
「右〜?お、あった」
「ちゃん僕も手伝うよ。せーので広げよっかv」
「うん!いくぞ、せーのっ!」
ぶわぁっと、ピンクのテーブルクロスが広げられ、白いテーブルをゆっくり覆っていく。
シワもキレイに伸ばし、グンマは窓辺に飾ってあった花をテーブルの中央に置き、
は菓子をバスケットに入れ、飾り付けをする。
そんな2人を
「グンマ様と共同作業なんて羨ましい…」
などと言いながら、ポットに湯を注ぐ男が1人。
「ちゃん寝ちゃったね」
「まったく、グンマ様が来てるというのに、叩き起こしましょう」
「ダメだよ高松。きっと疲れちゃったんだよ。寝かしといてあげよう?」
「ああ!!流石グンマ様!なんてお優しいッ!!」
「しーっ!ちゃん起きちゃうよぉ!!」
お茶会が始まって1時間もしたころ。
グンマと高松が喋っている間、菓子を食べていただったが、
ふいに眠くなってしまったらしく
2人が気づいたときには、テーブルに頭を預け、スヤスヤ眠ってしまっていた。
「じゃあ僕そろそろ帰るねv」
「またいつでも来て下さいねv」
「うん。ばいばい高松。ちゃんもまたねv」
眠っているの耳元でそっと別れを告げてから、静かに部屋を後にした。
「行ってしまわれた…ああグンマ様」
人知れず涙を流す高松。きっともう日常的な一コマなんだろう。
が寝て、グンマが去った部屋は、随分と音が減った。
高松はの寝顔を覗き込むようにして、顔を近づける。
「ヨダレなんか垂らして…アホな寝顔ですね」
「んん…ぅ〜」
「…寝てても悪口が解るんですか?興味深いですね、調べてみたい…」
少し眉間にシワを寄せ、苦い顔をする。
「ハレ…ム、待ってろょ…な」
「またハーレムですか。よっぽど好きなんですねぇ」
寝ても覚めても特戦部隊に戻ることばかり。
まだ除隊させられたばかりだというのに。
「鳥の”すりこみ”みたいなもんでしょうけど」
自分は親鳥の元に帰ることしか考えていない小鳥を預けられたようなものだ。
そう思うと、自嘲気味な笑いがこぼれる。
「成長して戻ったら、その親鳥に食べられてしまうかもしれないのに…」
4日前の特戦部隊の様子を見れば、それは低い確率では無いはず。
どの顔も、この子の成長が楽しみで堪らない、という顔をしていた。
一部は確実にその気がある。
「強くならないといけませんよ、貴方の身体は貴方にしか護れない」
「ん〜、強く・・なる…」
寝ていても、”強さ”という単語に無意識に反応しるを、
高松は優しく撫でる。
「もう2時間くらいは寝かせておいてあげます」
テーブルで寝こけるを抱き上げて、使用されてないベッドに寝かせる。
「ただし私の仕事が終わったら嫌でも起きてもらいますから、そのつもりで」
大きいベッドに我が物顔で手足をいっぱいに伸ばし、大の字で寝るの姿は
高松の目にどんなふうに映っているのだろうか?
カーテンを閉めて椅子にかけた高松は、手を顎に置いて
考えてるような素振りをしながら
「ふむ、女の子の子育ても悪くないですねぇ」
真面目な顔でそう言った。
ダラダラ流れる鼻血から言っても、少なくとも悪印象では無いようだ。
何に認められるより 自分を認めたい
その自分を貴方に認められたい
だから 待ってて
強さを誇れるその日が来るまで
自分の力で 逢いに行く日を作ってみせる