「んじゃ話がまとまったとこで、今日の用件言うぞー」
「へぇ」
「ここまでで僕疲れきったがや」
「んだな。もう休みてーだぁ」
「わしもじゃ・・・」
正式に伊達衆となった4人だが、特戦部隊との只ならぬ会話により
体力も精神力も相当削られていた。
「だらしねぇな。今から言うのがお前等”伊達衆”の記念すべき初仕事なんだぜ」
「・・・・そっだな事言われっと、やらんワケにはいかんだな」
「だろ?んで、内容は・・・これだ」
煽てられ上手のミヤギを軽くよいしょしておいて
シンタローは卓上に置いてある書類の纏まりをペラペラと不規則にめくり、
真ん中辺りから一枚の紙を破り取った。
そしてその紙を、テストの点でも見せるかのように、4人の前に軽く突き出す。
「”士官学校の特別講師”。ってわけだから今から俺と行くぞ」
「今からだっちゃか?」
「ドクター高松がお前等連れて今日来いってウルセーんだよ」
「ドクターが・・・どすか」
「気がすすまんのォ」
4人が4人して、思っていることを正直に顔に出す。
すなわち、”行きたくない・・・”と。
「仕事の選り好みすんじゃねーよ。とにかく行くぜ」
「っ待っておくれやす!わては行きますえ!!」
「お、オラもだ!!」
「ミヤギくんが行くなら僕も行くっちゃ!!」
「わしは・・・」
コージの頭に、強制的に血を3リットルも寄付した時の一部始終がリアルに蘇り
総帥室から足を踏み出すのを思いとどまった。
そこへ、先頭を切って出て行ったはずのシンタローが、ひょっこり顔を出し
さも都合よさそうな笑顔でコージに言った。
「コージ、行かねぇなら書類の片付け頼むわ」
じゃあな、とアッサリ去ってしまったシンタローの言った言葉に
コージは自分の置かれた状況を把握した。
残された選択肢は2つ。
山積みの書類とせこせこ格闘するのと、士官学校で後輩達と触れ合うこと。
答えは決まっている。
「置いてかれんうちに、わしも行くかのォ」
そう言って誰も居ない総帥室を出て行った。
「お待ちしておりました。ドクター高松は外の闘技場でお待ちです」
士官学校に着いたシンタロー達は、事務員の男にそう聞かされ
学生時代に慣れ親しんだ闘技場を目指して歩いた。
「・・・・・・・・・・・・」
「さっきから,そげに暗い顔してどげんしたんじゃ、アラシヤマ」
「アラシヤマが暗いのはいつもの事だっちゃ」
「ふ・・・・・読めましたえ」
トットリの発言に突っ込みの一つも入れずに不敵に笑うアラシヤマ。
周りには心なし青白い空気が増殖したように感じる。
てか、ハッキリ言って不気味以外の何物でもない。
「読めたって・・・何がだよ。下らない事だったら殴るぞ」
「シンタローはんったら、そないに照れへんでもええのにvシャイなお人どすなぁvv」
「言って死ぬか、言わないまま死ぬか選ばせてやる。さぁどっちだ?」
めりっ
渋い効果音とドスの効いた低音とがアラシヤマに降りかかったが、返事は無い。
その代わり・・・と言ってはなんだが、シンタローの問いかけに返事をしたのはミヤギだった。
「シンタロー・・・」
「何だよ?」
「幾ら他に武器さ無くても、勝手にオラの生き字引の筆使うのはどーかと思うだが・・・」
「悪ィ悪ィ。つい手近にあったからよォ」
「しがも柄の方がアラシヤマの顔面さめり込んどるだ」
「怒んなよ。クリーニング代ならコイツの給料から引いてやるって」
「頼むべ」
新総帥とて所詮(金に汚い)青の一族。
自分にも非があろうと無かろうと、自分の財布の紐は固く結んで、一銭たりとも出すことはないようだ。
被害者ミヤギの筆は、持ち主に毛先を引っ張られ
キュポンと弾けたような音を出して、アラシヤマの顔から抜け出して、ミヤギの手に戻った。
そして柄についた大量の赤い液体を、丁寧に拭った。
一方、赤い液体・・・もとい鼻血の根源であるアラシヤマは
顔の真ん中に生き字引の筆の痕をくっきりつけて、フラフラと足元頼りなく起き上がり
頬に両手を沿えて顔を仄かに赤らめた。
「相変わらずシンタローはんの愛は過激なんどすからvワテにはちゃーんと解ってますえvv」
「俺も、お前が会話機能すら搭載してないポンコツだってのがよーく解った」
「いやどすなぁv人前でそないに誉めんといておくれやす。ワテ恥ずかしくて顔から火ィ出てまいますやん」
「おー、本当に出とるのォ」
「メラメラ燃えてるだわいや」
「ほれコージ、トットリ。ボサッど立ってねーで早ぐ芋焼くべ」
ミヤギが何処からともなく取り出した芋を枝に突き刺して、
3人はアラシヤマの周りにチョコンと座り込み、芋を焼きだす始末。
「それはそーと、シンタローはん。わて、ドクターの考えが分りましたえ」
ココゾとばかりにシンタローからの愛の鉄拳(アラシヤマ談)をくらい
あちこちボロボロになって沈火されたアラシヤマだったが、
数秒とせずに復活し、トリップモードではないまともな口調で、そう告げた。
「わての推理が正しければ、この任務、思うとったより骨が折れる事になりまっせ」
「何なんじゃ?勿体ぶらんで言うてみぃ」
「みなはんも聞いた事ありますやろ?島に行く前に流れとったあの噂」
意味深に言うアラシヤマの言葉に、一同が頭を捻る。
何せおよそ1年もパプワ島に行っていたのだ。それ以前の事・・・しかも噂話なんて
すぐには思い出せない。
「噂だっちゃか?何かあったっけねぇ」
「よく覚えちょらんのォ」
「もう1年以上前のことだべ、噂なんて・・・」
「・・・・・・1年前の噂・・」
一つだけ。
シンタローには一つだけ思い当たる節があった。
そして、それが合ってる事をアラシヤマに答えを求めるべく
「それもしかして・・・・・・・・、特戦部隊の新入りのことか?」
人名を出した後で、皆がわかるように的確に言い直す。
その言葉に、「流石」と言うように口元を吊り上げ
アラシヤマは自分の推理を再開させた。
「名前はしらしまへんけど、そうどすやろなぁ。
わてが聞いたんも、特戦部隊にまだ10かそこらの子供が入隊した言う・・・」
「あ、僕も知ってるっちゃ!その噂!!」
「ですやろ?せやけど、わてらが島で会うた時は、それらしいのはおりまへんどした」
「オラも1回も見てねぇだ」
「ちゅーても、あのハーレム様がそないな人材手放すとはとても思われへん」
「・・・それもそうじゃな」
「そう考えてますと、子供は誰かに預けたっちゅーんが自然や!」
会話を成立させながら、自分の考えを上手い具合に羅列していく。
他人とのコミュニケーションもこのくらい上手に出来れば人生楽しいだろうに。
「お前がそんなに冴えてるのも何かムカつくなぁ・・・」
「おおきに」
「調子こいてねぇで、イイから結論出せよ」
「そうどすか?ほんなら言わせてもらいますわ・・・」
繰り広げられる推理に、他の4人は納得するばかりで異論の一つも無く
ほんの皮肉をシンタローが漏らしただけだった。
気分を良くしたアラシヤマはフフンと鼻笑いをして、自信満面で自分の推理の結論を言った。
「わてが思うに、その子供の引き取り手がドクターで、今は士官学校に入っとるんやないやろか?」
それがアラシヤマの推理だった。
ここまで言えば、自分達が呼び出された意味など考えるに堪えない愚問だ。
それを察した3人は、素直に感心したような視線をアラシヤマに送る。
そう3人は。
「だども、それとオラ達が呼び出された事に何の関係があるだ?」
ただ一人、ミヤギだけは高松の意を察せずで居た。
「ミヤギはん・・・・・あんさん少しは頭使いなはれ・・・」
「よーするに、ドクターはの相手を俺達にさせるつもりなんだろ」
「そういう事どす」
「はぁ〜、そーなんだか」
一足遅れて、寒心するミヤギにトットリ以外の面々は、半ば呆れた様子で
見え始めた闘技場へ急いだのだった。
「おや、やっと来ましたね。待ってましたよ」
屋外闘技場の武舞台下で、高松は薄く笑いながらシンタロー達に言った。
手にはバインダーと万年筆が収まっており
バインダーの方には数十枚の用紙が収納されている。
一番上の紙には、今、武舞台の上で戦っている一方の生徒の顔写真と
何やら詳細に紙を埋めている文字の羅列が見えた。
「それで用件なんですけど・・・」
「の相手しろっつーんだろ?」
「!?・・・・・・ッ・・・何でそれを」
高松の薄笑いが意表を突かれたことによって崩れる。
計画犯の高松にとってしたら、シンタローがと知り合いだった事も、自分の計画を悟る事も
予定外のミスだったようだ。
その証拠に『・・・何で』の前に小さな舌打ちが聞こえた。
「まあバレてしまってるなら仕方ないですね。丁度こっちも終わったようですし・・・」
高松とシンタローが話し込んでいるうちに、どうやら武舞台では先ほどの決着が着いたらしい。
倒れこんでいるのは緑髪の長身の少年は悔しそうに地を叩きつつ
『うおーーー!またこないチビすけに負けてしもうた!!俺のプライドがぁあッ!!』
などと渾身の声で叫んでいる。
負けたわりには元気だ。
そして今まで対戦相手だった生徒が、その少年に言った。
「やっぱオ・・・あたしのが強いじゃん!今日の昼飯ウメダのおごりな♪」
生徒はウメダと呼ばれた少年にも勝る元気な声で嬉々としていた。
その生徒は士官服に着られていると言いたくなる様な華奢な身体で
ウメダ少年の胸に届くか届かないかの背しかない・・・
「・・・・・・”あたし”って言っちょらんかったか?」
「あの子・・・・・・女の子・・だっちゃ?」
「・・・みたいどすなぁ」
「いつから士官学校は共学さなったんだべか?」
笑顔が可愛らしい女の子だった。
「ウメダは負けたんだからアッチな」
「くっそ!いつか絶対負かしてるからな」
「上等!あたしだって、もっともっと強くなるもんね」
武舞台から這うようにしての指差した方に移動するウメダの進行方向には
既に負け戦の後であろう姿の生徒がたむろしていた。
そこにいる少年達は皆が皆、同じような痣や撲傷を負っているだけで
切り傷や刺し傷は一切無い。
よって氷や湿布を使って自分で適当に手当てしているだけだ。
「、ちょっとこっちに来なさい」
舞台上で肩を回しながら次の対戦を待ち望んでいたを手招きで呼ぶ。
だだっ広い武舞台のド真ん中に居たは
その声に従順に反応して、タカタカと早足で高松の元に急いでやって来た。
「何か用・・・っシンタロー!?」
「よお。久しぶり」
「おかえりぃ!」
近づきながらシンタローの存在に気づいたは
小走りから全速力に切り替え、地面より50cmばかり高い舞台からシンタローに飛びついた。
の余りの勢いに、シンタローはその場にたたらを踏んだが、
倒れることなくを抱きとめた。
「元気そうじゃねーか、背も伸びたな」
「うん!あのね、あたし士官学校入ったんだ!」
「わぁってるって。だから此処に居るんだろ。そーいや聞いたぜ、キンタローを俺と間違えたんだってな?
あいつお前のこと変なヤツだって笑ってたぜ」
「だってしょーがねぇじゃん!あんなにそっくりなんだから間違えるよ」
「似てるかぁ?まっ、似てても可笑しくはねぇけど・・・・・」
「あっ、そーだ!シンタローって総帥になったんだろ?おめでとーな」
「へへ♪サンキュー」
を下に降ろしながら朗らかに笑い声をあげるシンタローを見て
伊達衆の面々は奇妙なものを見るような目になっていた。
「シンタロー・・・・・”そーゆー趣味”なんだべか?」
「わてかて知らしまへんがな!ああシンタローはん・・・・」
「意外だっちゃねぇ。確かに可愛い子やけど」
「人は見かけによらんもんじゃのぉ」
あーだこーだと、こそこそ話す4人の背後には、
何時の間にやら只ならぬオーラを背負ったシンタローの姿が
そして
「お前ら勝手なことぬかしてんじゃねーよ!!眼魔砲ッ!!」
ちゅどーん!!
「なぁなぁ、”そーゆー趣味”ってどんな趣味?」
「貴方は知らなくていいんです」
「まったくだ」
の頭を撫でようと伸ばした2人の手が、目的を達する前にお互いの手にぶつかる。
同じくらいの高さの目線がバッチリ交差した。
「何ですか?」
「お前こそなんだよ」
「私はを撫でようとしただけですが・・・・・何か?」
「俺だってそーだよ」
尚もバチバチと火花を散らす。
殺気を含んだ目で睨むシンタローと、妖しく微笑みつつマジな目の高松の真剣勝負に
水を注せない学生達と伊達衆は、ヒヤヒヤしながら遠巻きに見守っていた。
「つーか教師が贔屓してていーのかよ?」
「いーんですよ。私の本職は科学者ですから」
「でも今は教師だろ」
「ですが私はの保護者でもあるんですよ。一日中・・・ね」
「保護者ねぇ・・・・・・グンマの時みてぇに鼻血垂らしながら始終観察してるだけなら保護者じゃなくてただの変態だぜ」
「保護者が子供を見守るのは義務ですよ。総帥」
「なら総帥が士官学生を見守るのも義務だな」
「ええ、立場の距離感は随分と違いますけどねぇ・・・」
「・・・・ちっ、クソッ!」
勝ち誇ったかのように笑う高松に、言葉を詰まらすシンタロー。
その間では、2人を見上げながら
「ねぇねぇ!2人でばっか喋ってんなよ〜」
拗ねていた。
高松は自分の白衣を引っ張られてることに気づいて、『おっと、すみませんねぇ』などとニヤけながら
改めてを撫でる。
シンタローはと言えば、自分の服を引っ張られなかったことに何となく悔しさを感じながら
その後で、の頭にポンと手を置いた。
「さて。今日は念願の相手と戦わせてあげますよ」
「もしかしてコイツら?」
は先程から気になっていた初めて見る顔達を指して言った。
その指は間違いなく伊達衆4人に向いており
表情は楽しそうな、嬉しそうな・・・・・とにかく上機嫌で
もう待ちきれないと言わんばかりに無警戒に4人へ近づいた。
「お前ら強いの?」
裏の無い質問。
単純に、ただ強いのかを問うている。
「心配しなくても、こいつらの実力は俺が太鼓判押してやるよ」
「じゃあシンタローより強ぇの?」
「んなわけあるか。けど俺の足元くらいには及ぶぜ」
「足元だか・・・・」
「シンタローはいつも自意識過剰だっちゃ」
「うるせーぞ」
ボカッボカッドゴォッ!!と音だけ聞いても痛そうにミヤギとトットリ・・・・
ついでに近くに居たアラシヤマを殴った。
痛みの比較は音の通りである。
「それでは・・・まず誰が行きますか?」
高松はゆっくり5人を見渡し面白そうにしている。
手元にある未記入の用紙の束を見るからに、データを採る気満々といったところか。
その隣では久々に強い相手と対戦できることに心踊る気持ちのが
腕を回したり伸脚をしたりと、こちらもやる気満々である。
その時、スッと一人の手が挙がった。
「おや、貴方ですか」
少し驚いたように言う高松。
他の者達も意外そうな顔で、挙手した人間を見た。
視線を集めた男は1歩、2歩と舞台に近づき、高松の横に並んだ。
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