「わてじゃ問題ありますのん?」
「いえ、別にありませんよ。ただ意外だと思っただけで・・・」
「ちょぉ興味ありましてん・・・・・。
あの”狡猾極まりない弱肉強食、自己孤高的で残虐サドなお師匠”が認めたっちゅー実力に・・・・」
「ああ・・・・・なるほど。そういうことですか」
高松はサラサラと紙に”炎に対する耐久性と攻撃性テスト”と書き
に声をかけた。
「、この人が貴方の相手になってくれるそうですよ」
「お前名前なんての?」
「アラシヤマどす」
「アララシマ?」
「ア・ラ・シ・ヤ・マ・どす!!」
「アラシヤマな。覚えた覚えた!んじゃ早くやろーぜ」
アラシヤマの手を掴んで、舞台の中央まで急かす。
突然手を握られるなんて経験のないアラシヤマは焦ったようすで顔を赤らめ
『そないに引っ張らんでおくれやす』なんて言っている。
それを見たシンタローは・・・
「なんだアイツ。顔なんか赤くして・・・・・ロリコンか?」
「「「(そりゃお前もだろ)」」」
「つーかに馴れ馴れしくしやがって・・・・・後で眼魔砲だな」
「「「(やっぱりそーじゃねぇか)」」」
「どうせなら私の実験台にしてもいいですか?」
「おぉ、好きなようにしていいぜ」
「「「(あんたら鬼だ)」」」
思ってても決して口には出さない3人だった。
そして2人が対峙したのを見計らった高松は、開始の合図を唱えようとした時
ふとある事を思い出した。
「言い忘れてましたけど、先程の相手をしていた少年は校内2位の実力者ですからね。では始め」
「へっ?雑魚やったんやおまへんの??」
怯む・・・とまでは行かなくても、少なからず驚き
ほんの一瞬だけに集中していたアラシヤマの意識は逸らされ、発言者の高松に向いた。
その隙を容赦無くつく。
「たりゃぁ!!」
「狽ュっ!?」
一度地面を蹴っただけで2m近い間合いを詰め、なおかつアラシヤマの顔の高さまで蹴りこむ。
間一髪、の足を肘から手首の範囲で受けて、牽制の炎を出そうとしたが
そうする前に間合いを離されてしまった。
「おわ、ほんとに強ぇや・・・」
「そらこれでもガンマ団NO2どすからなぁ」
「いーじゃん。そーこなくっちゃなッ」
の身体がアラシヤマの視界から消えた。
目を見開き、反射的に真上を見たが、アラシヤマの目に映るのは痛いほど晴れ渡った空一面だけで
そこにを捕らえることは出来なかった。
「こっちこっちッ!!」
刹那。
咽に走った鈍い感覚。
アラシヤマがそれを痛みだと認識する前に、通り過ぎたの足はアラシヤマの背中を捕らえていて
この後蹴られるであろう衝撃を軽くするためには、蹴られる方向と同じ方向に、自分から飛びのくしかなかった。
「ッくらいなはれ!」
負けじとアラシヤマもの着地を見計らって、着地地点に炎を巻く。
流石にコレには驚き、慌てて方向転換しようともがくが
そう簡単に宙で動けるはずもなく、炎を避けようと無理な体勢で着地したため
そこをアラシヤマに付け入られた。
しかし、とて黙って殴られはしない。
背後を取られる直前にそれを察して、アラシヤマの現れるであろう位置に足払いを仕掛けた。
だが僅かに早く仕掛けすぎたのが仇となって、結果的にはアラシヤマが背後に着く前に
足が何も無い場所を横切るだけになってしまった。
結果、アラシヤマの手刀がの首を薙ぎ払い、軽い身体を2、3mほど吹っ飛ばした。
「ッつぅ!いててて・・・・・」
「あんさん思うとったより全然やりはるわ」
「へへvだろだろ。でもアラシヤマもすげー強ぇな。・・・・でも・・・・・」
片手を着いてスタンっと起き上がり、すぐさま立ち上がる。
火傷をした肘のあたりをフーフーと息を吹きかけて冷ましながら、アラシヤマを恨みがましそうな目で見る。
「いきなし火ぃ出すなんてずるくねぇ?」
「勝負にずるいも何もあらしまへんで。殺すか殺されるかや・・・・っと、
これはもう違いましたなぁ。今は”悪ぅ奴らにお仕置きあるのみ”やったさかい・・・」
文末になるにつれて一人でブツブツ言いながら、最後は『そうどしたなぁシンタローはんvV』と
シンタローに熱視線とラブコールを送る。
当のシンタローはそんな物相手にせず、『アラシヤマなんかに負けんなよー!』との応援に夢中だが。
「アラシヤマの戦い方って、なんかマーカーに似てる・・・・・・」
「そら当たり前どす。マーカーはわてのお師匠はんどすえ」
「えっ!じゃあマーカーが言ってた
”とりもちのみたいに粘着質で暗色系な阿呆で妄想壁のある馬鹿弟子”ってアラシヤマのこと?」
「酷いおす・・・・・お師匠はん・・・・・ぐす」
いきなり舞台に”の”の字書いて薄暗くいじけだすアラシヤマ。
先程までの戦いっぷりは何処へ行った。
そもそもお前は人のこと言えないはずだ、と思うのは気のせいか?
「アラシヤマー?いじけてねーで早く続きやろーぜ」
「いいんどす・・・・どーせわてなんか・・・わてなんか・・・」
「アラシヤマってばー!」
アラシヤマはの呼びかけにも一向に答えず
一人ジメジメと湿気立ち、体育座りで人魂とお友達になっている。
「試合放棄・・・・・・・・ですかねぇ」
「だな。の勝ち」
「えー!!まだ全然戦ってねーじゃん!!」
「仕方ないでしょう。まだまだ犠牲・・・・対戦者はいますから我慢しなさい」
「チェッ・・・・・わぁったよ」
「今、ドクターが物凄く嫌な言い間違いした気がするべ・・・・・」
「間違いなくしたっちゃよ」
「もしかしなくても、わしらの事じゃろォな」
チラッとを見ると、は口を尖らせながら舞台上の石ころを蹴っていた。
もし聞いただけなら、こんな少女がアラシヤマと互角に戦ってたなんて信じられないが
自分の目で見てしまった以上、信じられなくても事実は事実。
あんな性格のため忘れがちだが、アラシヤマは紛れも無くシンタローに次ぐ実力者だ。
あんな性格だが。
あんな性格だが。
あんな性格だが。
あんな・・・・(以下略)
「んじゃ2番手は・・・・」
「そいつがいい!一番でっかいやつ」
「わ、わしか?」
「よーし、じゃあコージ行け」
が指名したのはコージ。
確かに見かけから判断したら、他の2人よりも強そうである。
指名されたコージは満更でもなさそうに顎に手を置き、刀の位置を直しながら武舞台に上がった。
「わしゃあコージじゃけん。よろしく頼むのぉ」
「うん!よろしくなコージ」
「刀ば使ってもええかの?」
「いーよ。じゃああたしもコレ使っていい?」
そう言いながら、は両手を広げて指に嵌められた指輪を示した。
指輪は両方の手の五指全てに嵌っており、1つ1つが微妙に形や厚みは違うが同じデザインだ。
しかし誰の目にもちょっと個性的なデザインの指輪にしか見えない。
「よぉ分らんが、好きに使っちゃらええ!」
「やった!」
わははと豪快に笑いながら、喜ぶの頭をやはり豪快に撫でる。
それにジェラシーを燃やす男が2人。
誰かは・・・・・・・言うまでも無いので言わないでおこう。
「・・・では始め・・・・・!」
少々殺気だった高松の声で、2人は互いに間をとった。
コージは刀を鞘に収めたままジリジリと間合いを計り、の動きを探る。
正体不明の指輪での攻撃の仕方も分らないため、
迂闊には仕掛けない。場慣れした人間なら誰でもするだろう。
の方はと言えば、まるで獣が獲物を狙うかのように極限まで低く身を屈めている。
そのせいでコージにとって、ただでさえ低い標的なのが
より一層攻撃しにくくなっていた。
そんなコージの心中を本能的に悟っているの方が、どことなく余裕があるように見える。
外野の者達からはそう見えた。
「ドクター、ちゃんのあの指輪なんだらぁか?」
「あれですか?私が作った特別性の物ですよ」
「うげ、ドクターの手作りだか?!」
「何なんですか、その反応は。解剖しますよ」
「ええ遠慮するべッ」
「ッ動いたぞ!」
シンタローの一声で話していた3人の視線が慌てて舞台に戻される。
仕掛けたのは。
低い体勢から一気に真上に飛び上がり左手を右手に重ねていた。
コージは刀を深く構えて、からの攻撃を待つ。
「いっくぜー!!」
「なッ?!」
シャァァァア!!!
の掛け声か、コージ驚声か、どちらと同時かまではハッキリ分からないが
が左手を右手から離した瞬間に、耳を突き刺すような音が生まれた。
例えるなら、金属と金属が擦りあう音を、限界まで高く鋭くしたような音。
そしてそれと同じくして、離れた両手の間に、波打った細い線が見うけられた。
「なんじゃ?!」
得たいの知れない線が襲うべくしてコージの真上から降りかかる。
コージは訳が分からないまでも、刀でその線を薙ぎ払うが、が右の手を軽く振り上げると
意思を持ったように再びコージを狙う。
正体不明の線に、一同が目を見張る。
「何どすのん!?あの糸みたいなもんは」
アラシヤマがコージを襲う線を目掛けて言う。
・・・・・・糸。
その表現は僅かに違う。
と繋がっている線は、糸のように滑らかな物ではなく、どちらかというと針金のように金属的な音を発している。
だが、確かに糸のように曲線を描き、コージを執拗に追っている。
まさに正体不明の武器だ。
「あれは鉄線ですよ。原理はエナメル線と似たようなものですがね」
「エナメル線?!」
「ええ、切断ギリギリまで細めた鉄線に、純度の高い柔化物質を0.001mm以下でコーティングしてある物です。
ついでに言うと、あらゆる加工処理も施してあるので、地球上ならどんな環境でも使えます」
「わての炎の中でもどすか?」
「耐熱処理も万全ですので、問題ないと思いますよ」
私の研究の賜物です。と自信満面で言う高松の表情を見たものは
誰もが悪寒を覚えたという。
「でもよぉ・・・・・だけに作ってやるなんて相当不味いことになるぜ?」
シンタローが、少し真面目に言う。
確かに一部の生徒を贔屓するのは色々不味い。
先程までのやりとり程度ならともかく、個人的に武器を与えるなんて幾らなんでも団の規則に引っ掛かる。
「と、言いましても、あの武器扱えるのはあの子だけなんですから仕方ないでしょう?」
「は?マジで?」
「一応100個ほど団員にも配布したんですけど、3日と経たずに全て私に返ってきました。
練習中に十数人が重症、過半数が軽症その他で、病棟の世話になってますよ」
それで病棟の方が忙しげだったのか・・・。
シンタローは数日前に訪れた病院がやたらと慌しかったのを思い出した。
「恐ろしい武器だべ・・・・」
「ちゃんはそんなモノ平気で使ってるんだらぁか・・・凄いっちゃ」
「おっ、でもコージのやつ糸を鞘で巻き取ったぜ」
「そろそろ決着でっせ」
の操っていた鉄線を絡めた鞘を投げ去り、コージ汗を拭って剣を構えた。
右の鉄線を5本全て取られたにも関わらず、は楽しそうに笑って
コージの剣の切っ先を見ている。
「やりおるな、じゃけんど此処までじゃ」
「あたし負けねぇよ」
「そう言っちょるが、ぬしの武器はもう左だけじゃろおが」
チャキっと刀の音が鳴る。刃を返したのだ。
「峰打ち狙いですか・・・・・残念ながら勝負ありですね」
「ドクターでもちゃんが負けたら残念なんだっちゃね」
「何言ってんですか。負けるのは・・・・・彼の方です」
静かに言った高松。
それが理解できたものは居なかった。
「出来るだけ手加減しちゃらぁが。わしゃぁ女子供に暴力するのは好かんからのぉ」
「べーっだ、負けねーもんねッ!!」
コージが大きく振りかぶる。
狙いは恐らく右肩であろう。出来る限り急所にぴたりと入れて、痛みを感じさせないようにしている。
だが、狙いが当たることはなかった。
ガキンッツ!!
またも金属音。ただし今度のは前のよりもずっと鈍いもの。
「ぐぬぅ・・・・・ッ!!」
「よっしゃ!大成功!!マーカーに習っといてよかった〜v」
は意識が落ちるどころか、鼻唄でも歌いださん勢いでコージの剣を受けている。
コージの方は逆に力を静止させられ苦い息を漏らす。
「真剣白羽取り・・・・あないな子供が、コージはんの豪剣を・・・・・」
観戦していたアラシヤマは、呆気に捕られた、そう口から零した。
真剣白羽取り・・・・・・難易度から言うと難しくもないが
それは相手の剣が平凡なものならこそ。
コージほどの使い手の剣を受けるのは、相当の勘と腕が必要だ。
かく言うアラシヤマも昔はマーカーに仕込まれたものだ。
しかし、まさかそれを年端も行かない少女にも仕込んでいようとは・・・
わが師匠ながら天晴れとしか言いようが無い。
「あ、アラシヤマ・・・・・おめ、それより驚くところがあるべ」
「有りだっちゃか、あんなの・・・・」
ミヤギとトットリは真剣白羽取り自身よりも、もっと別なものに驚いているようで
その隣で腕を組んでいたシンタローも全くの同意見のようだった。
「靴底で・・・・あんなこと出来るのかよ・・・・」
今や一同の視線は、コージの剣を受け止めているの足に目がいっていた。
あんな大道芸のような事を、しかも瞬時にやるには、並々ならぬ度胸と自信が必要だ。
やれと言われれば此処に居るもの達も出来なくはないだろうが、
アレを戦場でやる気など更々ない。
やるとしたら年末の飲み会でコンビ芸としてやるくらいだ。
「おらよっと!」
「っぐ!?」
は剣を右に払いのけ、緩んだ握り手を狙って、刀をコージの手から弾き出した。
数m離れた場所で、刀は軽い音を立てて無様に投げ出された。
「これでコージは武器なし。あたしは左に武器がある」
さぁどーする?と言わんばかりにニィっと悪戯に成功したかのごとく、子供らしく笑う。
コージは『やられたのぉ』と頭を掻きながら残念そうに言った。
「武器喪失によりの勝ち・・・・ですね」
勝負の結果を見越していた高松は、歪んだ口元で笑った。
「次はオラの番だ」
「おっ、ミヤギか。まあ頑張れよ」
「任せるべ」
自分で連敗記録を止める気満々のミヤギは、シンタローの言葉にも自信満々で答える。
「次はお前?」
「ーーー!その調子で3人抜きだーー!!」
「凄い差だがや、シンタロー・・・・・・ミヤギく〜ん!僕が応援してるっちゃよー!!」
「ー!俺が応援してるんだから絶対勝てよーーッ!」
「僕がついてるっちゃミヤギくん!!頑張るだわや!!」
「っるさいですねぇ。もうさっさと始めてください」
この試合、どうやら外野も応援合戦になりそうだ。
あまりの応援の声に、高松は耳を塞ぎながら、さっさと開始の合図をした。
こうして第3試合は、盛大なエールに包まれ始められた。
「ミヤギの武器って、そのでっかい筆?」
「そうだべ!おめはさっきの糸だか?」
「ん〜・・・・・いや!今度は使わない」
品定めするようにミヤギを眺めたは、何かを納得したようにそう言い切った。
ミヤギは首を傾げて、聞き返す。
「他の武器使うだか?」
「ううん。道具は使わねぇよ」
「オラ丸腰の子供さ相手にするってのは気がすすまねぇだ」
「大丈夫だって。ミヤギもアラシヤマとコージくらい強いんだろ?ならアレ使うから!」
「アレって何だべ?」
「いーから、いーから!」
説明もあやふやに、勝手に自己解決して構えをとる。
何がなんだか分らないが、取り合えず大丈夫だと言われたので、まあいいかと
ミヤギも巨大な筆を構える。
「行ぐべ!!生き字引の筆ッ!!」
先手必勝とばかりに一気に間合いを詰め込むミヤギ。
大きく振りかぶった筆をの腹部目掛けて垂直に降ろす。
「おわっと!セーフ」
「ちぃっ、すばすっこいべ」
「なになに!?それどーゆう武器?ぅわったぁ!?」
ミヤギの連続攻撃を、続けざまに紙一重で避けたため、に生き字引の筆の効果は出なかった。
この状態では、コージ戦の時のまるで逆。
にとって生き字引の筆は未知の武器であり、どんな効果をもたらすのかも分らない。
よって不用意に近づくわけにはいかなかった。
「逃げんじゃねぇっぺ!勝負するだ!!」
「してーけど、その筆なんかヤバそーなんだもん!!」
筆を振りかざしたミヤギから逃げるは、生き字引の筆の恐ろしさを感じ取っていた。
それ故、ひたすら走り回って狙いを定めさせない作戦に出た。
作戦は成功しており、ミヤギはなかなかに筆を走らせることが出来ずに
既に数十分間、だだっ広い武舞台上を、無駄に走り回っている。
「15分経過しましたけど・・・・・」
「一向に勝負にならんどすなぁ」
「もミヤギも、こげん炎天下の下で頑張っちょるのぉ」
「頑張ってるのは、そこの二人もですよ」
高松が視線を移した先では、
”勝者”と書かれた巨大な旗を堂々と翻させて、大声をあげて応援するシンタローと、
”ベストフレンド”とアーティングされたハンテンとメガホン、鉢巻を装備して、懸命に応援するトットリの姿が確認できた。
「よ、よお頑張っとりまんなぁ。お二人とも・・・・・」
「そうじゃな。とミヤギより頑張っとるかもしれん・・・」
熱狂的なサポーターっぷりの両者にたじたじのコージとアラシヤマだった。
そしてその片方に悲劇が巻き起こる。
「次こそ当てっぺ!生き字引の筆ぇ!!」
「あらよっと。また外れ・・・って・・・・・」
「「「「「あ・・・・・・・・」」」」」
逃げていたに、何十回目かの必殺技を繰り出したミヤギだったが
またもにはあっさりかわされてしまった。
しかし
が避けたことにより、その真後ろに居た彼女よりも数倍大きな的に
見事・・・・・・・・命中した。
「なぁミヤギ・・・・・アラシヤマに書いたの、何て読むんだ?」
「赤穂鯛(アコウダイ)だべ」
「なんでまた魚なんだよ」
「アコウダイは今が旬でねぇか。宮城県の郷土料理”あざら”が美味ぇ時期だべ」
「でもこの鯛・・・すごく不味そうだわいや、ミヤギくん」
「黒く濁りきった目ばしとるわ」
服に書かれた”赤穂鯛”の文字によって、地に寝そべり、ぐったりとしているアラシヤマ。
エラ呼吸でもしているつもりなのか、その腕が苦しげに動いている。
「うへぇ〜、恐ぇ武器・・・・・一回くらったら負けじゃん」
アラシヤマの惨状を見て、後ずさる。
それを感づいたミヤギは再度筆を構え、まだ攻撃範囲内だったに向けて振り下ろした。
「もらったべぇー!!」
「っとと!?」
反応は遅れたが、なんとか筆をかわしたので
墨が腕を掠めただけで、文字を書かれるには至らなかった。
だが形勢はミヤギに傾いている。
「あっっぶなかった〜!セーフセーフ」
「運のいいやつだべ」
「ミヤギく〜ん、勝てるっちゃよv!!」
攻め調子な戦況に、ノリノリなトットリの歓声があがる。
まるでライブの女子高生だ。
その隣では、阪神が優勝した時の巨人ファンの親父のような顔をしたシンタローが殺気を振りまいている。
「おらー!ミヤギなんかに負けるんじゃねーぞぉ!!」
「大丈夫だって!あたしミヤギの弱点見っけたもんね」
「ハッタリだっちゃ、ミヤギくん!」
「勿論だべ!そっだなもん、オラにはねぇだ!!」
ミヤギが言い切った、その時。
は笑った。まるで育ての親のような、性質の悪い笑顔で。
「これで最後だべ!生き字引の筆ッ!!」
ミヤギが叫んだ。
生き字引の筆が風を切る。
それとほぼ同時に、は跳んだ。
いや・・・・・・・・・・・・・・・・飛んだ。
瞬間、全員の目が、空へと移った。
軽やかに舞ったその身体は、ヒラリと木の葉のように翻ると
スタンとほとんど無音で降り立った。
誰もがその一連の動きを、ただ呆然と見ていた。
ふと我に返ったミヤギが、驚きを露にするその時まで。
「なぁっ!?」
「ししし、此処なら書けねーだろ?」
ミヤギのあげた声に、は少年のような笑顔で問い返す。
が着地したのはミヤギの持っている筆の柄の部分。
確かに柄に乗られていては、幾らミヤギが芸達者だったとしても到底不可能だ。
ミヤギがどうしていいか分らず固まっている間に、は足を筆に絡めて、ミヤギの足元の地面に手を着いたが、数秒としないうちに筆に絡めていた足を外し、その場に直立した。
「生き字引の筆・・・だっけ?面白いなコレ。ちょっと貸してもらうなv」
「なっ!駄目に決まってるべ!!Σう!?・・・・・あ、足が・・・・」
「1回だけだって。借りるぜ」
は苦労なく、ミヤギの手から筆を抜き取った。
ミヤギは奪われた筆を取り返そうとするが、手を動かすばかりでに1歩も歩み寄ろうとはしない。
「ミヤギくんどうしたんだらぁ?奪り返さないだっちゃか?」
「う・・・動けねぇだ」
「・・・・・・??」
「足と地面がくっついちまって動がねぇだ!!」
力の限り、地面を踏みしめても、逆に引き離そうとしても
ミヤギの足は地面から離れなかった。
しかもそれだけではない。
「くぅ、何だべ?!足の裏さ凍り付いてるみてぇに冷てーべ」
足が地面とくっついていると気づいた後から、時間が経てば経つほど、足の裏に強い冷気を感じていた。
その冷気が強さを増すほどに、自分の足からどんどん体温が奪われている事に、ミヤギは恐怖と焦りを感じずにはいられなかった。
「全く情けないもんですねぇ・・・・・」
「ドクター!!ミヤギくんに何てこと言うだっちゃ!!それより早く助けるだがや!!」
「そんなに焦らなくても平気ですよ。ただ凍って張り付いてるだけなんですから」
「凍って・・・?何で地面が凍るんだっちゃわいや??」
「・・・!!それが能力おすか?」
「ええ。・・・・・・・・・・・・・・・・・もっとも」
それだけじゃありませんけどねぇ。
「何か言っただっちゃか?」
「いえ。何でもありませんよ・・・・・」
「絶対ぇ何か企んでやがるだろ」
「さあ・・・。どうでしょうか」
のそれとは比べ物にならないくらい、性質の悪い薄ら笑い。
一方、とミヤギはというと・・・
「これで文字書けば、書いたとーりになるんだよな?」
「おめ、ま、まさが・・・・っ!」
「なんて書こっかなぁ♪」
「や、やややっや止めるべぇ!!」
動かない足で必死にもがき、腕を振り乱す。
が、当然のことながら足はうんともすんとも言わず、ミヤギの意志に関わり無く、その場を微動だにしない。
1番有効と思われる靴を脱いで逃げるという手段は考えつかないらしい。
1歩、また1歩とがミヤギへ近づく。
それに伴い、ミヤギの恐怖心が煽られ、端正な顔が青く歪む。
「ミヤギくん!大丈夫だっちゃ!!ちゃんはきっと漢字書けないっちゃ!」
トットリが恐怖に揺らぐミヤギを励ますべく言った。
そのトットリの声が耳に届いたミヤギは、ぐんぐん顔色を取り戻す。
「っ!それなら恐くねーべ!!」
「え?漢字じゃねーといけないの?」
「その通りだべ!!生き字引の筆は漢字で書がねぇと意味さねぇだ!」
ミヤギは血色の良くなった顔で、誇らしげに言い放った。
「言っときますけど、その子漢字書けますよ、バッチリと。
この私だけでなく、中国出身のマーカーからも教わりましたからね」
「うぉぉぉおおおおお!もう駄目だべっ!!!」
あっさり希望を打ち砕いた高松。ミヤギは再び絶望の中に身を投げた。
「今のはトットリが言わんでおれば、バレなかったんじゃないかのぉ」
「トットリぃ!おめ余計な事をぉォオ!!」
「ゴメンだっちゃ!ミヤギくん!!」
コージの突っ込みに、ミヤギは怒りの全てををトットリに向け、
向けられた怒りに対して、すかさず謝罪するトットリ。
「せやけど、漢字で書かへんとアカンっちゅーんを言いはったんはミヤギはん本人どすえ」
「オラはなんつー馬鹿な事さ言っちまっただァぁあ!」
「安心しろ。馬鹿なんだから馬鹿な事言っても何の問題もねーって」
「ミヤギくんの悪口言うなーーー!」
そしてアラシヤマ突込みで、ミヤギが三度絶望に投身自殺し
それを当然と流したシンタローに、トットリが反論の叫びをあげる。
外野+1で騒々しい会話を繰り広げている間、は、意識を彷彿とさせてるミヤギに
お世辞にも上手いとは言えない字体で”負気犬(マケイヌ)”と書いたのだった。
「ミヤギくんの敵は僕がとるっちゃ!!」
ミヤギ敗退の直後、そう宣言したトットリは早々と舞台に上がった。
そのつぶらな瞳には熱い闘志がみなぎっている。
「トットリだっけ?よろしくなー」
「手加減しないっちゃよ!」
あくまで友好的なに、威嚇するようにビシィっと返す。
大人気ないにも程があるだろうに・・・。
しかしはそんなこと全く気にせず、変わらぬ笑みを絶やさない。
「トットリのやつ完全に敵意ムキ出しだな。しょーがねぇやつ」
「シンタローはんかて、わてが負けた時はあないなふうに・・・・」
「してねぇよ」
「即答どすなぁ・・・・シクシクシクシクシクシクシクシクシツシクシク」
「嫌ですねぇ、湿っぽいですよ、この辺り」
「ミヤギ、この湿気の元に”除湿器”とでも書いとけよ」
「わかったべ」
復活したミヤギが、生き字引の筆を走らせると・・・
「なんじゃぁ?!余計に湿気ば立ち込めちょろーが!」
「湿気吸い込んでも、循環されて出てくる空気の方が湿気だらけなんですよ。多分」
「これじゃあ加湿器だべ・・・・・」
「もう放っとけ。そんなもん」
シンタローの一言にて、廃棄処分が決定の除湿アラシヤマだった。
「ドクター早く始めるっちゃ!!」
「はいはい。では第4試合・・・・・・始め!」
「め」の音と同時にトットリが動いた。
アラシヤマ、コージ、ミヤギの3名の試合を見た限り、後手は不利とトットリは気づいていた。
そこで、先に動き、の動きを制する方が得策であると考えた。
幸いにも、自分が得意とするのは不意打ちや一瞬の勝負。
取り分け素早さには自信がある。
加えて自分には、忍者特有の技がある。
それを使わない手はない。
「捕まえたっちゃ」
そしてそれは成功し、トットリは高松の声がやまぬ前に、きれいにの背後をとった。
抜きざしにしていた刀をの首に固定し、指輪の残っている左の手を押さえ込む。
「降参するだらぁ?」
「・・・・・すげ、ビックリしたぁ・・・・瞬きしたらもう前にいねーんだもん!」
真上にあるトットリの顔を見るため、自分の顔をそちらに向かせ尊敬の眼差しを送る。
上を向いた際、ピタリとくっついているトットリの刀がの首に食い込んだ筈だが、
の顔から痛みや恐怖は感じられない。
それどころか、は怖気づく様子一つ見せず、更に身体を動かした。
「なぁ!さっきのあたしにも教えて!!」
「っ!?危ないっちゃ!!」
研がれた刃で首を圧迫されてるにも関わらず、は身体ごとトットリの方を向いた。
そんなことをすれば接している刃が、音も立てることなく首を落すことだろう。
まさかそんな命知らずな真似をされるとは思ってもみなかったトットリは
僅かに反応が遅れてしまい、刀を退かすのが間に合わなかった。
だが、落ちたのはの首から上ではなく、
キィン・・・・
先程まで刃だった鉄片だった。
「トットリの刀が折れたべ!」
「違いますわ、よぉ見なはれ。・・・折れたんやおまへん」
「溶けたんですよ・・・・いえ、溶かされた、という方が正しいですね」
丁度の首に当たっていた刃の部分は、
高熱で一気に溶かされたように黒ずみ、いびつな形に歪んでいる。
「どういうことだべ?」
「の能力は体温を自在に操ることなんです」
「凍らすだけじゃなかったのか?」
「違いますよ。それにあの子が得意なのはどちらかと言うと発熱の方です。
好調時の最高温度は4500℃、不調な時でも2000℃はいきますよ」
高松は、いつの間にか火をつけていた煙草の煙を吐き出し
一口しか吸っていないそれを地に捨て、燻る火を踏み消した。
「そりゃあ・・・なんとも・・・・凄まじいのぉ」
「不調な時なら素手で宝石加工が出来ますえ・・・・・」
「好調な時じゃ跡形なく溶かしちまうな」
「よぐ分らねーけどのやつ凄ぇオナゴだべ」
4人が空いた口を塞げずにいる間、
舞台上ではトットリが外野の話を聞き、まともに青ざめていた。
「(ど、どうしたらいいっちゃ?僕熱いの苦手だがや・・・)」
から距離を開け、ダラダラ汗を流して対策を考える。
そんなトットリの気も知らないは、尊敬の色を分りやすく瞳に出しているは
トットリが距離を開ける度に、タカタカと追いかけその差を埋める。
「トットリ〜、さっきの教えて教えて!あたしもやってみたい!」
「お、教えるっちゃ!だから来ないで欲しいだがやっ」
「・・・・・・・・・・なんで?」
「え、そ・・・それは・・・・・・・そのッ」
たじろぐトットリ。
は歩み寄る足を止め、トットリをジッと見つめる。
「トットリが困っとるべ」
「まあ、普通に考えてあの刀じゃ勝ち目ねぇよな」
鍔から10寸あたりの位置から、その先を失ったトットリの刀は、最早使い物にならない。
それは誰の目にも明らかであった。
刀を失くし、相手にも触れない。
勝ち目は無いも同然だ。
「トットリあたしのこと嫌い?」
「・・・・・・え?」
「だから近づいちゃいけねーの?」
「ち、違うっちゃよ!そげなこと思ってないだわや!!」
しゅんとなって沈んでしまったの言葉を、大慌てで否定する。
「じゃあ教えろーー!!」
「ずわっちゃぁ!」
トットリが弁解しようと近づいた隙を狙って、はトットリの胸に豪快にダイブした。
そのせいでトットリは後ろに倒れこみ、尻餅をついてしまった。
「いた〜・・・・・・・・・あれ?熱くないっちゃ」
「当たり前じゃん。今はチカラ使ってねーもん」
「いつも熱いんじゃないだらぁか。それなら平気だっちゃv」
「じゃあさっきの教えてくれんの?」
「もちろんだがやv」
「やーったーーーー!!!」
飛び起きたは、喜びに任せてそこら中を犬のように飛び回る。
トットリも、今までの殺伐とした雰囲気は一切無くなり、いつもの人懐っこい笑顔を
に向けていた。
一部始終を見守っていた外野は、やけに静まり返っている。
「あない慣れおうてしもて・・・・この勝負どないしますん?」
「これは・・・戦意喪失での勝ち・・・・じゃないですかね?」
「確かに・・・・・先に戦う気失ぐしたのはトットリだべが、アイツまだ下駄占い使っでねぇだぞ?」
「じゃけんど、もうとトットリにゃ、戦う気はないじゃろ」
こうして第4試合は、選手2名が朗らかなムードのまま幕を閉じたのだった。
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