「ったく、結局お前ら全敗じゃねーかよ、情けねぇな」
偉そうに腕組をしながら、そう吐いたシンタローを、
伊達衆一同はじどーっと据わらせた目を向ける。
「さっきまでと言ってる事が違うだわや」
「オラ達の応援しねーでの応援ばっがしとったくせに・・・・」
「相変わぁず俺様主義じゃのぉ」
「それがシンタローはんの、え・え・と・こ・ろvどすけどなぁ」
各々が思うままに愚痴を零す。(一部例外)
それを聞こえつつも、聞こえないふりをして、シンタローは羽織っていたコートを脱ぎ捨てた。
ばさりと風に靡いたコートは、映画のワンシーンのように宙で踊り
地に付く前にアラシヤマにキャッチされた。
「ようやく真打の登場ですか・・・・・・・、良かったですね」
至極楽しそうに高松は、に流し目を送る。
は舞台上に上がって来たシンタローを、花が咲いたような笑顔で迎えた。
その顔に、鼻血を流す者が若干名いることも、ついでに伝えておこう。
「やった!シンタローも試合してくれるんだ」
「おう、これでやっと本気出せるだろ?」
挑発するような台詞。
だが、残念ながらはそれに気づかなかったらしく・・・・
「え?さっきっから本気出してるよ?」
なんて、素っ頓狂な答えを言う。
これには流石のシンタローも苦笑いをせずにはいられなかった。
シンタローの目から見て、伊達衆を相手取って戦っていたは
遠い昔、幼い自分もやった覚えのある、ヒーローごっこのでもしているように思えた。
それを露骨に感じたのは、出だしのアラシヤマ戦以外の3戦。
あれはほとんど武器と能力のお披露目をしたようなものだ。
本人には、そんなつもりは無いのだろうが、あれらの試合は完全に遊びだった。
もっとも実戦慣れしているにとっては、試合なんてもの自体が遊びでしかないのかもしれないが・・・・。
なんにしても今のの発言は
シンタローとの”本気”という言葉に掛かっているニュアンスの違いだろう。
シンタローの本気は”死力の限りを尽くすこと”
の本気は”思い切り動くこと”
似ているようで、含まれている意味も本質的な種類も全く違う。
の本気は、間違いなく今までの試合でも発揮されていた。
アラシヤマとの激しい打撃戦やコージへの武器の使用、ミヤギとトットリに能力を出したこと・・・・
これらは確かに、にとっての本気ではあった。
だが、それをシンタローの本気に置き換えてみると、話は全然違ってくる。
アラシヤマ戦、能力も武器も使わない、言ってみればただの組み手稽古。
コージ戦、武器は使ったが得意の接近戦はまるで無し。
ミヤギ戦、攻めることをせず、珍しい武器への興味関心でいっぱいだった。
トットリ戦、防衛手段として能力を使っただけで、戦いにすらしなかった。
これを本気と言えるだろうか?
少なくとも、シンタローはYESと言えない。
シンタローの本気とは、が持てる力の全てを使い戦いを挑んでくることなのだ。
「俺が見たいのはお前の全力。ハーレム達のとこに居た時みたいに思いっきりやれよ」
特戦部隊に所属していた時のの戦いぶりなんて見たことはない。
だけど、きっと加減なんかしないで思い切りやっていたに決まってる。
常識なんてとっくの昔にぶち切れたような連中の集まりだから。
あそこはそういう部隊だ。
あの叔父はそういう人間だ。
特戦の連中が知っていることなら、俺だって知りたい。
の本気を知りたい。
「それにお前が全力でやらねーと、俺が来た意味ねーし」
「でも・・・全力はちょっと・・・・・・」
はちらりと後ろを振り返り、斜め後ろにいる高松と目を合わせた。
何かに脅えつつも、許しを得ようとしている感じだ。
その様子は言ってみれば、夕飯の前におやつを強請る小学生のよう。
「・・・・・・・・・アレをやりたいんですか?」
「・・・やっぱ、駄目?」
”アレ”というのが何のことなのかシンタローには分からないが、
どうやらが全力を出すことに少なからず関係しているのは明らかだった。
シンタローはの視線を追うようにして、高松と視線を絡めた。
に問いかけられた高松は、諌めるような目をして黙り込んだ。
その目と、返事をしないという事が重なったので、は諦めの念を色濃くして
首をシンタローの方に向きなおそうとした。
だが、聞こえた返事はにとってかなり意外な事で、それと同時に喜ばしい事だった。
「いいでしょう。許可します」
その一言にが信じられないことを聞いたかのように大声を張り上げる。
「マジで?!本当にっ??」
「ええ。そもそも、そのために多忙な総帥に態々足を運んで頂いたんですからね」
うるさい・・・と書いた顔で、自分のところに飛んできた(走ってきた)をUターンさせ
そのまま舞台の中央まで押していく。
背中を押されながら、は首だけ斜め後ろを向いて、背中を押している張本人の高松を見る。
「今の本当に本当の本当でホントっ?!
試合の後でメス握りながら『約束破ったから実験体になれ』だとか、
煙吹いたビン持って『口で言って分らないなら身を持って反省しろ』とか言わない??!!」
日頃、にどんな虐待・・・・躾を施しているのかが、今の台詞で公表された。
シンタローの額に青筋が入ったことに、高松は少々焦って、即座に自分のフォローをする。
「誰もそんなこと言いませんから私の人格を勘違いされるような発言は控えなさい。・・・・・・解剖しますよ」
この、フォローになっていないフォローが無意味であることは、
シンタローの額に増えた青筋を見てもらえれば分るだろう。
意外と阿呆なドクター高松(43)独身。
「おい、高松・・・・」
「さぁ、。念願のシンタロー様ですよ。勝つのは難しいでしょうけど頑張りなさい」
「うん!!」
高松は青筋総帥の真正面までを届け、
文句を言われる前にさっさと舞台上を降りていった。
「こほん・・・・・では、最終戦・・・・・・・・・・始め!!」
今迄で一番大きな声でそう言って、試合の幕を切り落した。
「さぁてと、やるか」
シンタローが、ザッと足音をさせ肩幅より少し広く足を開いたのに合わせて
同じようにも構えをとる。
挑戦的な瞳を揺らしながら心底楽しそうな顔をしているにつられて、
シンタローもまた、好奇心に満ちた瞳を光らす。
周囲は静かに見守る。
戦いが始まるはずなのに
不思議と、暖かく柔らかい空気を醸し出す舞台を見守る。
「シンタロー・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行くよ」
互いに動かないで、視線だけが舞台で弾ける。
戦いはまだ始まらない。
「・・・・・」
「・・・」
ヒュゥ・・・―――
風が申し分けなさそうに鳴いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・んん・・・・・ンあ?」
目覚めたら、白い正方形がピッタリ並んだ天井が、視界いっぱいに敷き詰められた。
嗅覚を支配するのは、嗅ぎ慣れた薬品臭とコーヒーの苦い香り。
感覚を一人占めているのは、心地いいシーツと布団、それに快適な気温。
残る聴覚を犯したものは・・・・
「おや、やっと起きたようですね」
の現・保護者である高松の声。
「高・・・松・・・・・・?」
「まだ寝ていなさい。身体に響きますよ」
ベッドの脇の椅子に座りながら、そっとの頭を撫でる。
いつもでは考えられないほどの優しい対応に違和感を感じたは
高松の指示に逆らい身体を起き上がらせるため、手を動かそうと試みたが・・・
「Σッ!!・・いっっ・・・てぇ〜・・」
「だから言ってるでしょう?大人しくまだ寝ていて下さい」
「ん。わかった・・・」
骨の奥から突き破られるような激痛が、の動こうという意志すら蝕む。
ズキズキと痛みの残る腕をそれ以上刺激しないように
は腕から意識を離そうと、高松に話しかける。
「オレなんで保健室に居るんだ?・・・・シンタローは?」
「もう総帥の仕事に戻ってます」
どうやら試合は知らぬ間に終わってしまったようだ。
「試合・・・・・試合どーなったんだ?オレ負けた?」
「っ?覚えてないんですか?」
「うん・・・最初以外は、なんも覚えてない」
覚えているのは、弱い風が吹いたこと。
それと同時に自分が動いたこと。
その時には既に、右と左両方の糸を3本ずつ引っぱり出していたこと。
右の糸に熱を、左の糸に冷気を纏わせたこと。
その4つだけ。
その後のことは何一つわからない。
高松は口を開けづらそうに沈黙していたが、やがて、口を開けの望む答えを出した。
「・・・いいえ。負けてはいません」
「じゃあオレ、シンタローに勝ったのか?!」
全然覚えてねーけど。
「勝ってもいません」
「は?負けてないのに勝ってねーの?」
の頭に疑問符がラインを成す。
その時、ガラっという音と共に室内に一つの足音が入ってきた。
「ドクター。起きたか?」
「これは総帥・・・・・。仕事の方はいいんですか?」
「休憩だよ、いちいちうるせーな・・・・・・って、!お前起きてたのか?!」
高松との会話の途中で、ベッドに居るの瞳が開いていることに気がついたシンタローは
慌ててベッドの足元に駆け寄り、高い身長を最大限活かして、横になっているの顔を覗き込む。
「、平気なのか?どっか痛くねーか?」
「身体は痛いけど平気。・・・ジッとしてれば」
動こうとした時の激痛を思い出して、最後にちょこっと付け加えた。
シンタローは心配そうに顔を歪めてを見つめる。
「ごめんな・・・・・」
悲しそうに下がる眉が、シンタローの心中を表している。
シンタローはなんで謝ってるんだろう?
オレが怪我したから?
自分が怪我しなかったから?
それとも、やっぱりオレは負けたのかな?
だからシンタローは謝ってるのかな・・・・?
「シンタロー。オレやっぱ負けたの?」
負けてしまったの?
シンタローは何も言わない。
高松も・・・ただ視線を送ってくるだけ。
「・・・・そっか。やっぱりオレ負けたのか!でも次は負けねーぞ!!」
「お前・・・悔しくねーのかよ?」
予想以上にアッケラカンと言ってのけるに、今度はシンタローが疑問符を浮かべる。
「そりゃ知らない間に負けてたのは悔しいけどさ。
でも、だからこそ次は絶対オレが勝つ!早くもっともっと強くなって絶対勝つ!」
ああ、そうか。
目の前で笑っているこの少女には、重苦しいプライドが無いんだ。
勝つことは、あくまでオマケであって
本当の目的は”強くなること”だけだ。
戦うのが楽しい。
勝てばもっと楽しい。
勝つためには強くなればいい。
ただそれだけ。
小難しい常識や、邪魔くさいポリシーは何一つない。
これ以上ないくらいシンプルな構造。
だから全く気負いがない。
だからいつも笑ってる。
だからドコまでも強くなれる。
「・・・・・・・てねぇ」
「え?シンタロー何か言った?」
「・・・俺は・・・・・お前に勝ってねぇ!」
突然の大声にびっくりしているにお構いなしで
シンタローは自分の言いたいことを言い続ける。
「けどハッキリ負けてない以上は、まだ俺の負けでもない!だから・・・!」
「だから?」
「次の勝負の時に決着つけよーぜ」
ずびしっと右手の親指を立てて人差し指をの額に向ける。
は面食らったような顔で高松とシンタローを交互に見やった。
「なぁ・・・・・。全然意味わかんねーんだけど」
「どうやら気絶したせいで記憶がとんでるらしいんですよ」
「マジ?」
「大マジです」
「なぁなぁ!だから試合どーなったんだよ」
ベッドから起き上がれないは、2人の言い合いに参加できず
半ば叫び気味に声をかけて自分に意識を向けさせた。
シンタローはバツが悪そうに視線を泳がした後、覚悟を決めたようにと目を合わせた。
「俺とお前の試合は・・・・・・・・・・・・引き分けだ」
「引き分けぇ?」
「そーだろドクター?」
「正確には違いますけど・・・・そんなトコロですね」
シンタローの結論に、100%ではないが同意する高松。
納得できないは、問い詰めようと激痛に苛まれる身体を、気合いで起き上がらせる。
「いでででぇ!!あぅあぁあい゛だ〜!!」
「お、おい!なに無理してるんだよ、大人しく寝てろ!!」
「そうですよ。酷い筋肉痛なんですから安静にしなさい」
起き上がるを宥めていたシンタローの動きが停止したかと思うと、その首がギギギっっという
擬音を鳴らして高松と目が合う角度で停まった。
「・・・・・筋肉痛・・・?」
「ええ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いてねぇよ!!俺はてっきり怪我させちまったかと・・・・」
「では今報告したということで。・・・・・・おっと、そろそろ仕事に戻る時間ですよ、総帥」
スッと開きっぱなしの扉を指差し、ニッコリと悪どく微笑む高松。
言わずでもがな。”帰れ”と示しているのだ。
シンタローは渋ったものの、仕事があるのは事実なので、足取り重く帰っていった。
未練がましく何度も後ろを振り向きながら・・・。
「・・・・・・・高松」
「なんですか?」
ニコッと、今度は正真正銘の優しい微笑でを見る。
やはりいつもより優しい。
「なんでそんなに優しいの?なんかちょっと気持ち悪ぃかも・・・」
馬鹿正直に思ったことを伝えるに、高松はクスリと笑みの種類を変えて言い返した。
柔らかい親しみやすさが身を潜め、代わりに禍々しい怪しさが姿を現したのか
明らかに高松の態度が豹変する。
「いつもの私がご希望なら戻してあげますよ」
「え・・・・いや、別にさっきまでのでも・・・・・・」
「遠慮はいりませんよ。・・・・・・・さて、そういえばさっきから何度も”オレ”って言ってますねぇ・・・」
スチャッと取り出したるは危うい薬ビンと鋭いメスの2ショット。
の顔から血の気が一目散に退散した。
「い、いい言ってない!」
「この期に及んで嘘までつくとは・・・・・覚悟はいいですね?」
「えっ、や、やだッ!うわ!来るな、やだやだやーだー!!」
「往生際が悪いですね、動くと余計危ないですよ」
「余計もなにも今も十分危ねぇんだよーーーーーッツ!」
筋肉痛でボロボロの身体に鞭を打って高松から逃げる。
最終的に、結局いつもと変わらぬ、鬼畜保護者に戻ってしまった高松だが
実はあの優しさの理由は、自分と同じくらいが懐いているシンタローに、少々焦りを感じたからだとか・・・。
果たして、真相はいかに?
翼なんかなくたって
心はいつでも自由に飛べる
重たいものは何もいらない
手ぶらの心で 高く高く 舞い上がれ
おまけ(シンタローとの試合)→