「いい加減にしなさい!!」



高松の私室からそんな怒声が聞こえたのは、士官学校のテスト期間終了日の夜のことだった。






「高松うるさいー」
「煩くさせてる理由はアンタの成績でしょうが!」



ここで説明しなくてはいけないだろう。
士官学校のテストは実技試験と筆記試験とに別れていて
筆記試験を受けるのは非戦闘科のみ。
実技試験を受けるのは戦闘科のみ。

が所属しているのは無論、戦闘科なので受けたのは実技試験。



「あたし怒られるような点数とってねーけど・・・・」
「ええ。確かに総合成績は頭一つとび抜けてトップでしたから
今夜はご褒美にハンバーグでも作ってあげようと思いました・・・・・・・・・・・」
「やった!!あたしハンバーグ大好きvv」



合計10科目ある実技試験。
の総合成績は、2位と大きく差を開いてトップだった。

個々の科目を見ても、銃の命中率を調べる「狙撃力テスト」、
瞬発力や持久力や投球力など基本的なステイタスを調べる「身体能力テスト」
自分の武器をどれだけ使いこなしているかを調べる「操巧力テスト」。

その3つは追加点をつけられるほどの好成績で、他の試験もそれに見劣りしない結果だった。





しかし、物事には例外というものの存在が欠かせないワケでして・・・・・・



高松の怒りの原因は、まさにその例外のせいであった。





「ですが・・・・・・回避テストの成績を見て気が変わりましてねぇ」




こめかみの辺りを密かに痙攣させてに見せた紙には
黒字の”10”や”9”のに囲まれて赤ペンで”0”と記されている「回避力テスト」の存在があった。



「回避力テスト」とは、

その名の通りの試験である。
少し詳しく説明すると、仕掛けられた多種多様な罠が張り巡らされたコースを無傷で通り抜ける。


・・・・という内容の試験だ。


コースに張られた罠の数は100。
その膨大な数の罠を、発動させないでゴールするのが目的にしてクリア条件。


そして最も重要な点は、この試験の目的があくまで罠を回避することにある・・・ということ。

よって発動させしまったら最後、たとえ怪我をしなくても減点なのだ。
得点は発動させなかった罠の数が、そのまま得点になる。


そして最終的に紙に書かれる成績が、得点を10で割った数値である。


要するに、ゴールした時点で発動していない罠の数が50個なら50点。
それを10で割ると5。
つまり成績は5になる。




さぁ、それを踏まえての成績を逆算してみてほしい。


の成績表にかかれている「回避テスト」の成績は0。
0に10を掛けたところで、やはり0。



と、いうことは・・・・・・・・





「どうやったら100個もある罠全部に引っ掛かれるんですか?!」



は罠という罠全てを作動させてしまっていた。
狙ってもそうそう出来ることではない。

その証拠に、現生徒はおろか創立からの生徒データから漁ってみても
回避力テストに0点を取った者は誰1人としていなかった。

ただ1人、を除いて・・・。




「あ〜、なんか歩くたびに引っ掛かっちゃってさ〜。参った参った」
「しかも今時、野うさぎでも引っ掛からないようなモンまであったらしいじゃないですか」
「あの草結んてあったやつとか、バナナ落ちてたのとか?」



そんなもんに本気で引っ掛かったのか?



「でも全部引っ掛かったくせに無傷ってことは・・・・・まさかアンタ」
「全部かわした〜♪」


これには呆れて物も言えない。
凄いんだかアホなんだか分かりゃしない。

こうなったら”物凄いアホ”ということでまとめてしまう他無い。



「しかも担当教員が言うには、隣のコースに迷い込んでそっちの罠も発動させたとか・・・。
全く幾ら何でもそんなわけ・・・・・」
「あたしも途中でウメダとバッタリ会ったときは流石にビビッた!」





・・・・・・・・・・・・・・・・。





「・・・・・・実話なんですか・・・?」
「だって壁とかねーんだもん」
「あったとしても壊して突き進むでしょう、アンタは」
「あははは♪そーかも」




ぷっちん。




悪びれ一つしないに・・・・・





「少し・・・頭冷やしなさい・・・・!!」



ぽいっ。



高松がきれて、の首根っこをヒョイと掴んでドアの外に放り捨て、即座に鍵を閉めた。





「えーーー!!じゃあ飯は?まだ食ってねーのに!!」
「知りませんね」



無情に言い放つ高松。
声からするに相当怒っているようだ。



「何でそんなに怒ってんだよ〜!」



どんどんと激しくドアを叩き、高松に訴えかける。



いつも夕飯は高松の私室で食べているので今更食堂に行っても自分の食事は無いだろう。

ウメダに言えば何か作ってくれるかもしれないが、今日の成績の結果が大差をつけられて2位だったことが
相当ショックだったらしく1日中落ち込んでいた。
そんな友人に頼むのは些か気が引ける。



=夕飯抜き。




そんなわけでは必死だった。




「高松〜!今度頑張るからさ、だから飯ぃぃぃイ」
「一食くらい抜いたって死にやしませんよ」
「ロッドと同じこと言うなーーー!!」(※宣戦布告=暫しお別れ1参照)



ドンドン!!(ノック)


「高松ーーー!」


ダガダガダガっ(ノック)


「ねぇってばー、晩飯食わなきゃ朝までもたねーよぉ!」


ドゴドゴドゴドゴドゴどどどッ!!!(ノック)


どごん!!(・・・・・・・・ノック?)




「あ・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」



大声と共に繰り出されたノックは、いとも簡単に扉を突き破りの拳大の形をした穴が開いた。
穴の向こうに見える白いものは高松の白衣だろう。
そして自分の名前を呼んだのも間違いなく高松のものだろう。

だが、その声は今まで聞いた中でもトップ3に入るほど怖いものだった。



「ご、ごめーーーん!!」
「帰ってきたら覚えてなさい!新薬の実験に嫌というほどつき合わせますからねーーー!!」



遠のく叫び声に怯えつつ、は行くあても無くひたすらダッシュした。

とにかくあの声から逃げなければ。

ただそれだけを考えて・・・・・・・・。
















「あーあ、腹減った〜」



ぐうぅっと無駄に強い自己主張をする己の腹をなだめながら食堂まで来てみたが
夕食の時間をとうに過ぎてしまったそこには誰もおらず
厨房も綺麗さっぱり片付けられていて、冷蔵庫の中にも食材は何も無かった。



ぎゅるるる・・・・ぐぅぅうぅ・・・・



「もー無理ぃ・・・・・動けねぇ・・・」



腹の虫の代わりに飢えた肉食獣でも居るような音がの腹から発せられ
は力尽きたように腹を抱えて床に座り込む。

それでも鳴り止まぬ腹の音。



「う〜、昔はこんなのいつもだったのに・・・・・」



ハーレムに拾われる前・・・、戦場では食べ物が手に入らず空腹のまま眠るのはザラだった。
だが、ここ2年ばかりは定時になれば食事ができた。
いつしかそれが当たり前だと思うようになっていたらしい。その証拠に身体は空腹に耐えてくれない。


ぐる・・・ぎゅぅぅ・・・



凶暴すぎる腹の虫も、ついに力尽きたのか
鳴る音が明らかに小さくなってきた。


あたし・・・腹減りすぎて死ぬかも・・・・・・



そんなわけないのだが、本気でそう思った。
阿呆だとは言う無かれ。
人間誰だって腹が減りすぎたらそう思う。




「ぁ〜〜・・・・・・・・・・・・・・ッん!?」



ほとんど無気力だったの全身のうち、たった一箇所がピクンと動いた。
その箇所は・・・・まあ解っているでしょうが、脅威の嗅覚を持つ小さな鼻。



「なんか・・・・・・・甘い匂い・・・・・・?」



まるで何かにとり憑かれたように機敏に動きだす。
その眼はかなり切羽詰ったようすで、余裕の欠片はまっっったく!無い。

白い長机に飛び乗ってキョロキョロと首を捻り、ふんふんと鼻をならす。
その様子は犬よりも犬らしい。




「くんくん・・・・・・・・・・・ッ!あっちだ!!」




身体能力テストの時よりも早いフットワークで机から机に飛び移り
食堂の入り口を彗星よりも早く通り抜けた。

そして廊下を這い蹲らん勢いで、自分の鼻を刺激してくる甘い匂いを嗅ぎ分け
どんどん奥へ奥へと突き進む。






何度か道を曲がって、エレベーターを乗り換え、階段を降り辿り着いた場所は・・・・・







「あ・・・ココもしかして・・・」




1年以上過ごした、この家とも言えるガンマ団内で唯一来たことの無かった場所だった。

士官学校に入ったばかりのころ、高松に此処だけは行くなとキツク言われた。
普段はそうでもない高松がこの時ばかりは真面目な顔で言ったので大人しくその約束を守っていた。


今は食欲に負けてあっさり忘れてしまっていたが・・・・。
今までは守っていたのである、そこは忘れないでほしい。



ぐ〜〜〜〜、ぎゅるるぅぅ・・・・



再び腹の虫が活動し始めた。
食べ物の存在に過敏反応しているのだろうが、それにしても盛大すぎる音だ。
そして襲ってきた空腹感も、今日一番凄まじいもので
の理性をあっさり打ち消し、綺麗だが年季の入ったドアノブに手をかけると・・・






「兄さん?」



本能に任せるまま開こうとしたドアが
耳に心地いい美声と共に、中から開けられた。



「おや?君は・・・・・・」
「んあ・・・・・・?」
「可愛いお客さんだ。中に入るかな?」



男は一瞬女と見間違うほど綺麗に笑った。

いや、その表現は正しくない。
並みの女とは比べ物にならないほど美しく微笑んだ。



そんな最高級の微笑みを間近で見たは動けなかった。
どうしてかって?

そんなことは決まっている。




「うーあー・・・・・・・・」




腹が減りすぎて・・・・・。

頭を伏せてヘナヘナと屈みこんでしまったには
今や人様の笑顔に感動できるような力は残ってない。


もとよりそんな感性や情緒があるのかも甚だ疑問ではあるが・・・。



「どうしたんだい?」



返事もせずに目の前で項垂れてしまった子供に男は更に問いかける。
男がに合わせて屈みこんだ拍子に、声と同じくして美しい金糸の髪がサラッとにかかった。



「気分でも悪いのか?」



優しく声をかけるが、は答えることが出来ずにただ項垂れるのみ。
部屋が開け放たれた際に、濃く漂ってきた甘い香りにも反応できないトコロを見ると、
ついに空腹の限界がきて活動が強制停止されたらしい。

しかし、腹の虫はそうはいかなかったようだ。



きゅるるぅ・・・・ぐぅううう・・



「いてててて!」



己の存在を全身全霊で主張してきたばかりか、に対して攻撃もしかけたらしい。
腹部を押さえて痛がる少女を男はしなやかな手つきで抱き上げた。









「腹ペコのアリスは甘いものは好きかな?」



ニッコリ笑って白い椅子にを座らせると、趣味のいいバスケットをテーブルの上に置いて
かかっていたレースの布をとりはらった。
するとふわりという甘い香りがの顔を包み込み、停止していた意識を復活させた。


がばっと顔をあげたの眼に最初に入ってきたのは金髪の美しい男。

次に匂いの元のバスケット。
中身は焼き立てと思われる高級そうなクッキーの山。


の頭がそう確認するより早く、手は運動神経を働かせてクッキーを掴んで口に放りこんだ。

一度食べたら止まらない。
両手でクッキーを掴み、息もつかないスピードで食べる食べる。



男はそんなを優しい眼差しで、クッキーが食べ尽くされるまでずっと見つめていた。





「あー!美味かった!!ごちそーさま」
「お気に召したかな?」
「うん!!ありがとな・・・・・・え〜っと・・・・」



男の名前が解らず言葉を切れない。



「サービス・・・・・」
「・・・?」
「私の名前だよ」
「サービス・・・・?あれ・・・どっかで聞いたよーな・・・・・・ッあーーー!!」



失礼なくらい思いっきり指をさして叫ぶ。
突然のことにビックリしたサービスだが、整った顔は全く全然さっぱり崩れない。
プロだ・・・。



「思い出した!前にマーカーが言ってたハーレムの弟の名前と一緒だ!!」
「よく知っているね」
「うん!だってあたし元特戦部隊だもん」



誇らしげに胸を張る
サービスは面白いものを見つけたときの兄と至極似た目元でを見る。



「・・・・・・・やはり君がか」



を一目見たときから確信はあった。
ガンマ団の中で少女なんて、自分の兄が拾ったと噂の人物ただ1人しか居ないからだ。


それにしても・・・・・

サービスは頭にわいた正直な感想をそのまま口に出した。




「特戦部隊は常識もだが・・・・・・どうやら見る目も無いようだね。
みたいに可愛い子を男と間違うなんて・・・・、まあハーレムの部隊だから仕方ないだろうけど」



実兄に対してそこまで言うか?
まあ本当のことなだけに何も反論できないが。



「あー、でもあたしチビだったし、マジックとかシンタローもみんな間違えてたよ?」
「そうかなのかい?でも私から見たら君は確かに女の子だよ・・・」



白い滑らかな肌の手がの口元についたクッキーの食べ残しを拭う。
そしてそのまま頬を包み、つんと鼻先をつついた。



「綺麗な顔つきだ・・・。戦いなんて似合わないくらいに」
「顔ならあたしよりサービスのがキレイだよ」
「くす・・・、ありがとう。だけど私が言っているのは違うんだよ・・・・」



さらりと頬を撫で髪の中に手を入れて、柔らかな髪の感触を楽しむ。
自分のものとは違う美しさの髪にサービスは柄にも無くうっとりしていた。

ゆっくりと手を移動させ耳から輪郭をラインに沿ってなぞり、顎の頂点で手を止めた。
くいっと軽く上を向かせると、ちょうどサービスとの目が合う。
サービスはまたもそれに陶酔した。



「心の綺麗な人間の表情だ。・・・・・・私には出来ない、綺麗な・・・・・・ね」



名残惜しそうに手を離して、その手を自分の顔を乗せるために机にたてた。
一連の動作がまるで液体の流れのように滑らかだ。

それも水のようにさらっとした液体でなく、ゼリーのようにとろんとした不可思議な滑らかさ。


手に触れず見つめることで、また新たに何かを発見したらしく
サービスの瞳がの瞳に語るように傾けられる。



「それでいて、真っ直ぐな瞳がよく似ている・・・・・」
「誰と?」
「・・・・・・・私のごく身近な・・・」




人を惹きつける光を持つ者と


人に慕われる光を持つ者に。



1人は自分の甥、もう1人は自分の片割れ。





自分が持つことの出来なかった光を持つ2人の瞳とよく似ている。






「・・・・・・・・やっぱり秘密にしておく」
「えー!ケチー・・・・・うわ!?」
?!」



はぶーっと頬を膨らませて椅子に飛び乗った瞬間、椅子ががくんと傾いてを上から滑り落とした。



「大丈夫だったかい?」
「あってー・・・、ごめんイス壊した;」



本来座るはずの板が完全に外れてしまった椅子だったものを見て
申し訳なさそうに謝る



「構わないよ。それに、それは元々壊れかけていたからね」
「サービスが壊したの?」
「違うよ。壊したのはハーレムだ」
「ハーレムがサービスの物壊したのか?」
「それも外れ。その椅子はハーレムの物だから私の物を壊されたわけじゃない」
「ハーレムの?でも・・・・・・」



椅子はかなり小さめのサイズで、大柄なハーレムが座れるようなものではない。
それどころかサービスでも無理だと思う。

まさにが座るにちょうどいいようなサイズなのだから。



「ふふ。その椅子はハーレムがと同じ頃に座っていたものなんだ」
「じゃあサービスのは?」
「私のは・・・・・ほら、そこにあるだろう?」



サービスが指差した方向にはが座っていた椅子と同じデザインでもう少し綺麗なものがそっと佇んでおり
と同じ背丈の大きなウサギのぬいぐるみが座っていた。



「わー!Gが持ってたのぐらいでっかいぬいぐるみだぁ!!」
「欲しかったら持っていって構わないよ」
「本当っ?やったぁv」



ぬいぐるみを椅子から下ろして、ぎゅうっと抱きしめる。
真っ白なウサギの顔はのそれより大きくて、顔をうずめると頭にぺろんとウサギの耳が垂れてきた。
肌を摺り寄せると、意外にも庶民的なタオル地のウサギの材質は心地がよかった。



「気に入ったかい?」
「うん、すっごく!ありがとうな!」



ぎゅうっとウサギを抱きしめている姿は可愛らしいのだが、抱きしめている位置が首なのが実に惜しく思う。
やはりあの獅子舞のところで育ったせいだろうか?

サービスは金を握り締めて下品に笑う実兄を思い浮かべて不愉快になり、すぐさまかきけした。



「ところで、これサービスの?」
「そうだよ。・・・・・・と言ってもハーレムが私に譲ったんだけどね」
「??」


話の意味が分からずお馴染みの疑問符がの頭に飛び交う。



「6歳の誕生日にマジック兄さんがハーレムにそれをあげたんだ。勿論私も猫のぬいぐるみをもらったけど、
私はハーレムのもらったウサギが欲しいと兄さんの前で泣いたんだ。そしたらハーレムが私にそれをくれたんだよ」



ふいにサービスの頭に、今度は幼い頃の兄の姿が思い浮かんだ。
本当は自分もウサギがいいのに、意地を張って「僕はねこさんがいいから、サービス交換しろ」
と自分にウサギを押し付けて猫を奪い取った兄。


その目には薄っすら涙が溜まっていたのを今でもしっかり覚えている。


だけど私はそれを見ない振りをした。
そしてウサギを手に入れた。




「私はずるかった。別に本当にウサギが欲しかったわけじゃない。
ただ・・・・・ハーレムの物が欲しかっただけだった」



多分ハーレムは本当にウサギが良かったんだろう。
普段は自己中心極まりないのに、変なところで人を気遣う。

それは40年近く歳をとった今も変わっていない。


話に聞いただけだがの件も、その性格変わってない確かな証拠だ。



本当は手元に置いておきたかったのに、本人のためを思って手放した。

我侭なくせにお人よし。
だからいつもアイツは損をするんだ。





「んじゃあハーレムの猫はどこにあるの?」
「ああ、それなら上のベッドに寝ているよ」



サービスがそう言うやいなや、はベッドの柵によじ登りベッドにダイブした。
側面にある階段を使わないあたりは元々の性格だろうか?



「あ!いたいた猫だ」
「良かったらそれも持っていくかい?」
「え?いいの??」


既にウサギを抱いている方と逆の手で猫を抱きしめながら、はベッドから顔を見せた。
そんなにサービスは呟くように



「いいよ、その猫もいいかげん愛されたいだろうからね」



なら愛してあげられるだろう・・・?

大事そうにウサギと猫を抱えるを見て、サービスはまた綺麗に笑った。
とても柔らかい木漏れ日のような笑顔で。




「サービス本当にキレイだよな・・・・・今の顔すっごいキレーだった」
「そうかい?今はそれほど意識はしなかったんだが」



普段は意識しとんのかい!!



「今のが一番キレイだったよ」
「・・・そうだとしたら、きっと今のはにしか見せられない顔だね」
「なんで?」



ベッドから飛び降りて、ウサギが座っていた椅子に勢いよく座った。
しかし、すぐに降りることになる。

理由はサービスが手招きをしているから。




「なに?」
「そっちじゃなくてココに座っていいよ」



組んでいた足を崩し、を抱き上げて膝に座らせる。
そして小さな身体を背中からそっと抱きしめて、柔らかな髪を撫でた。



「さっきの質問の答え、知りたいかい?」
「知りたい!!」
「じゃあ教えようか。答えは・・・・・・・・」




サービスは、チュッ・・・と小さくリップノイズを立てて、の後頭部にキスをした。


がくるんと振り向いてサービスを見ると、さっきのとても綺麗な表情をしていた。






「きっと好きな人と居る時にしかできない顔だからだよ」





照れることなく言ったサービスは満足そうだった。
それに対しては、キスされた部分を不思議そうに撫ぜながらサービスに聞いた。



「サービスあたしのこと好きなのか?」
「そのようだ。私自身たった今気づいたよ」
「あたしもサービスのこと好きだよ?だってクッキーくれたし」
「それじゃあ私と来るかい?」



さり気なくに促すサービス。やはり抜け目が無い。



「サービスと・・・・・って何処に?」
「私の家だよ。そこで一緒に暮らさないか?」



優雅な物腰で紅茶をカップに注ぎ、それをに渡す。
バニラの甘い香りが湯気に乗っての鼻をくすぐり、誘われるままにカップに口をつける。

特に砂糖やシロップを入れた形跡は無かったが、紅茶に合いまった自然な甘味のおかげで、
苦いものが嫌いなもノンシュガーで飲めた。

コク・・コク・・と咽を鳴らしながら、は一息でカップの中身を飲み干した。



「美味しい・・v」
「私とくればお昼に毎日・・・・・・・いや、好きな時にいつでも飲ませてあげよう。どうかな?」



真剣なんだか冗談なんだか察しにくい笑顔でサービスは勧誘する。
その間、の頭から手を離さずに延々と撫で続けている。



「あたし士官学校行ってるから無理だよ」
「なら卒業後にどうだい?」



引き下がらない。
欲しいものは手に入れるという青の血がそうさせるのだろう。
今のサービスときたら双子の兄との血の繋がりは隠しようが無いほどそっくりな目つきをしている。



「今のサービス、ハーレムに似てる・・・・」
「それは残念だ。あいつに顔を変えるように言っておこう」



飄々ととんでもないことを言う。
それでは「整形しろ」と言っているも同然ではないか。

自分の顔は改造したくないらしい。




「あのね、あたしサービスとは行けない」
「理由は?」
「あたし強くなるんだ。それで特戦に戻る・・・。そのためなら、強くなるためなら何だってやる」



拳を握り締めて一心に見つめる。
思い描くのは5人と共に居る長した自分。
その身体は除隊の時に置いてきたレザー服に包まれている。




「それは約束なのかい?」
「違う」
「じゃあ誓いか?」
「ううん。あたしからの宣戦布告。強くなって殴りこみに行くから覚悟しろっていう・・・」



そう言うの瞳には光が満ち溢れている。
それは甥のように強い輝きと・・・・・・・・


双兄のような強い意志を持っていた。










「・・・・・・・・それなら仕方ないね。
頑張るといい、私はいつもを応援しているよ」
「ありがと!」
「それと・・・・・これを」



コートのポケットから取り出した物をに握らせる。
しっとりした綺麗な手から渡されたものは、シンプルなデザインの携帯電話だった。



「困ったことがあったら電話しなさい。番号は中に入っている」
「え?貰っていーの?」
「ああ。に貰ってほしいんだ」



携帯を握っている手をとって、その甲に唇を寄せる。



、今している指輪は自分で買ったのかい?」
「これ?これね、高松が作ってくれた武器なんだ〜♪ほら、この穴から糸が出るんだぜ」
「高松の手作り・・・しかも左手の薬指にまで・・・・・・」
「どーしたの?」
「何でもないさ。今度私からもプレゼントしたいと思ったからね・・・・・・・・ココに」



3度めのキスは左の薬指。
そしてそこに嵌っていた指輪を歯で外して自分の手に落とす。



「サービスも欲しい?高松がいっぱい持ってるから頼もうか?」
「いいや。こんなセンスの悪いもの私はつけない」



即答。



「これセンス悪ぃの?」
「くすくす、取り敢えずコレは返すよ」



携帯を持っていない方の手に返されると、は片目で指輪をジーッと見つめて、また指に戻した。
暫く黙ったままの静かな時間が流れて時計の音だけが耳に届く。

ゆったりとした時間。


ガンマ団内の色々な部屋を見てきたが、この部屋ほど天井の低い部屋は一つも無かった。
見渡してみると、セッティングされている家具の一つ一つがにとって手ごろな状態をしていて、
背伸びしなくても届く棚や、転んでも痛くない絨毯や、落としても壊れない家具ばかりだった。



結局、ここはどこなんだろう?

はここが何処なのか、何の場所なのか、まだ知らない。






、君はね・・・・・きっと私の理想なんだ」





考えていたの頭を撫でながらサービスは語りだす。







「不幸を知っているはずなのにそう感じさせない。幸せを身体全身で放ってる」

「私が欲しかった光を両方持っていて」

「私がいらない闇を持っていない・・・・」

「なんて綺麗なんだろうね」


「君が羨ましい。豊かな心を持ってる君が・・・・・とても羨ましい」


「私は何も知らなかった・・・。真実を何も見ていなかったんだ」

「許してくれ・・・シンタロー、グンマ・・・・キンタロー・・・・・・・」

「私は許されるか?マジック兄さん」

「楽になってもいいか?ハーレム」


が居れば・・・・・・・・僕はきっと間違えない気がするんです・・・・・」









・・・・・・ルーザー兄さん。













「・・・・・変な話をしてすまないね。・・・・・・・・・・・・?」
「z・・・・・・Zzz・・・・・・・ZZzzzz―」
「寝てしまったか。クス・・・、やっぱり性格は直らないんだな」





ウサギの時とは違う。


今度は私も本気だ




借りはいつか返すけど、これは譲れない・・・。






「ハーレム・・・、悪いけど、は私が貰うよ」

































「んあ〜!!よく寝た!!・・・・・・・・・・・ってアレ?」



ベッドの中で目覚めたは、自分の部屋でないことに気づいた。
見慣れぬ辺りを見回すと徐々に昨日のことが掘り起こされる。


高松に追い出されて、甘い匂いを追って、着ちゃ行けない場所まで着ちゃって・・・・




「サービス!!」




ハーレムの弟、サービスに会ったんだ。

そこまで思い出して改めて部屋中を見るが、昨日のあの美しい男の姿は無い。
が食べたクッキーのバスケットも、注してもらった紅茶のカップも見当たらない。



夢・・・・・・・・?



「違う・・・」


自分の両脇で寝ている猫とウサギのぬいぐみを見て、サービスとの時間が夢などではないと確信する。
彼はどこに行ったのだろうか?
もう”家”とやらに帰ってしまったのだろうか?





は梯子を使って絨毯に降りてテーブルに近寄った。
するとベッドからは見えなかったが、一枚の紙が白いテーブルの上に置いてあることに気づいた。

それを手に取り上から読み上げていく。











おはよう、よく眠れたかい?
挨拶もしないで出て行ってしまって悪いね。許して欲しい。

夕べは君と話せて良かったよ。とても充実した楽しい時間だった。
また機会があったら是非私の淹れた紅茶を飲んで欲しい。
きっとはコーヒーは飲めないだろうから紅茶によく合うお菓子を用意しておくよ。
昨日のクッキーがよかったら、またジャン・・・・・と言っても分からないね。
私の犬に作らせておくよ。楽しみにしてなさい。

そうそう、言い忘れていたけど、その部屋は昔ハーレムと私が日本に来る度にに使っていた部屋なんだ。
もし気に入ったなら、いつでも使うといい。
その部屋は今の私たちには家具が低くて使いづらいからね。

もう一つ、その部屋は私のもう1人の兄との思い出がたくさん詰まった部屋なんだ。
出来るだけ大切に使ってもらえたら嬉しい。

また会える日を楽しみにしているよ・・・




追伸、あの携帯には私の番号以外入れないでくれるかい?
    私との専用連絡手段にしてほしい。










紙の最後には綺麗な字でサービスの名が記されていた。




「・・・・・・・ここハーレムとサービスの部屋だったんだ・・・」



は不思議な気持ちで部屋を歩いた。
当然ながらは大人の2人しか知らない。あの2人にも子供の頃があったんだ・・・・と漠然と思った。

よく見ると壁に落書きがあったり、何かがぶつかった後があったり
この部屋に残った傷跡の半分はハーレムが作ったものだろう。
もう半分は兄弟喧嘩だろうか?


「ロッドがあの2人は仲悪いって言ってたもんなぁ・・・・・・あ!」



が見つけたのはタンスの上にあった写真立て。
中には金髪で青眼を持った5人が写っていた。



「このツンツン頭がハーレムだろ?その隣のサラサラの髪がサービスで〜、ハーレム抱っこしてるのがマジック。
でもって、サービス抱っこしてるキンタローのそっくりさんがルーザーだよな。で、真ん中がみんなの父さんだ!!」



右側で負けん気の強そうな少年を抱いている真面目そうな少年。
これがハーレムとマジック。

左側で大人しくカメラを見てる少年を抱いている優しく微笑んだ少年。
これがサービスとルーザー。

4人を抱きしめるようにしながら、真ん中で金の髪をなびかせている赤服の男が4人の父親。


みんな屈託の無い笑顔の幸せそうな家族だ。




「ハーレムちっちぇ〜!これ何歳だろ?どっかに書いてねーかなぁ〜」



写真立ての裏を開けて、どこかに日付が書いてないかどうか見ようとした。
長年開いてなかったそれはパカッと硬い音をさせて開き、
は中の写真を取り出そうとした。



「あれ?2枚ある。・・・・・・・・・・あ、」



いっぺんに取り出して上になっていたのはさっきの5人の写真だった。
重なって表から見えていなかった写真は・・・・・




「なーんだ。仲イイんじゃん」



鼻のあたりを赤くして猫のぬいぐるみを抱いたハーレムと、
眼の周りを赤くしてウサギのぬいぐるみを抱いたサービスが

互いの手を握り合って眠っている姿の写真だった。















君のものがほしい
僕のものはあげない
一緒じゃなきゃ嫌だけど 一緒じゃ嫌なんだ

本当に欲しいものが何だったのか
本当はもうよくは覚えちゃいないけど
確かなことは 君と僕の欲しいものが いつも一緒だってこと

だから一緒じゃ嫌なんだ























おまけ→