士官学校に入学して2年も経った、ある日。
「ん?あれ・・・・・・・・?」
あたしは自分の異変に気がついた。
「・・・・・手、熱ぅないんか?」
「・・・へ?」
昼食時、天津丼を食べていたウメダが向かい側でぼーっとしていたに声をかける。
はハッと我に返り手元を見ると、ラーメンの器の中に右手が沈んでいた。
「あっぢーーーぃ!!!」
「反応遅っ!?」
「もっと早く言えよ!火傷したぁ〜、氷・・・氷」
「”力”使ったらえーやろ」
「・・・・・あ、そっか」
左手に意識を込ると、すぐに冷ややかな空気が周囲に伝わってくる。
は冷やした左手を痛々しく赤らんだ右手にくっつけて
心ばかりの応急処置を施した。
腫れた患部からは冷たさや熱さではなく、ちくちくした痛みを感じ
無意識に眉間に皺をよせながら息を吹きかけて少しでも気を紛らわせようと努力する。
「ったく、何やってんねん。自分おかしないか?」
「おかしくない!おかしいっつーのは高松とかマジックみたいなのを言うんだぞ」
「そら変態っちゅーんや。そーやなくて・・・・・・」
何気に失礼なウメダ。
本人達に聞かれたらきっと五体満足では居られないだろう。
「朝からずっと変やで、お前」
「そんなことねーよ!気のせいだろ」
「ほんなら・・・!」
ムキになって否定するに対して、ウメダは使っていた箸を揃えてビシッとの鼻先に突きつけた。
「今日の朝飯、なして2人前しか食わなかったんや?いつもやったら3人前は軽いやん」
「それは・・・・・・あんま腹減ってなかったからだよ」
口を濁す。
ウメダはきらっと目を光らせ、更に尋問でもするように言葉を重ねる。
「それだけやないで。得意の射撃訓練10点中7点しか取れんかったやろ?」
「う・・・・」
「極めつけはアレや。マジック様が手ぇ振っとったのにシカトこきよった!!」
「え?マジックどっかに居たっけ?」
「ほれ見ぃ。気づけへんかったっちゅーとこからして変や!」
見破られたことにショックを受けるに対して、勝ち誇った勝者の笑みで言い切った。
いつも負けっぱなしなだけに、こういう貴重な時を逃したくないのだろう。
そんなわけで暫く勝利の余韻に浸っていたウメダだが、
一通り浸りきると、に突きつけていた箸を下ろして、今度は少し心配にを見やった。
「もしかして自分・・・・どっか悪いんちゃうか?」
「別に・・・・・元気だよ」
明らかに声のトーンが下がったのをウメダは聞き逃さなかった。
中身の残っている天津丼をテーブルに置き、がたっと立ち上がると
正面に座っているの背後まで回った。
そしての腹の辺りに手を回して・・・・
「ドクターんとこ行くで」
「ぎゃあ!何するんだよ!降ろせ、降ろせーーーっ!!
「あだだ!暴れるんやない、大人しゅう担がれとれ!」
ウメダは自分より、横も縦も遥かに小さいを肩まで担ぎ上げようとするが
は簡単には担がせてくれず、ウメダの肩を右足で踏みつけ、両手でウメダの頭を押しのける。
だがウメダに諦める様子はなく、の腰から手を離さない。
「離せよ!あたし元気だって言ってんだろ!!」
「そー見えんから強行手段に出とるんやろ!そないな事も分からんのかい!」
担がれることを全身で拒否して、緑の髪を引っ張る。
ウメダはその痛みに耐えながらを叱咤するが、当のはそんなことお構いなしに騒ぎ続ける。
そのせいで次第にウメダもふつふつと思考回路が加熱しだし、本気で言い返しだした。
「いーから離せ、馬鹿ッ」
「買b関西人に馬鹿言うたらアカンって教えたやろが、もう忘れたんか、この阿呆!ど阿呆!!」
「てめぇ今2回も言ったな!サボテンはサボテンらしく砂漠に埋まってりゃいーだろ!!」
「誰がサボテンじゃ!耳の穴から指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろか!?おお?!」
「早口すぎて何言ってんのかわっかんねーよ関西人!」
「なんや!関西嘗めとるんか!?首都育ちやからって自慢すんなや!東京より大阪のが色々凄いんやで!!」
「だーかーらー!あたし東京出身じゃねーって!何回言ったら分かるんだよッ」
「ド喧しいわ!標準語喋りくさっとるやつぁ皆東京モンやぁ!!」
はウメダの手から逃れテーブルの上に着地して、やや下になったウメダを見下し
ウメダもウメダでの襟首を掴み距離を縮めて睨み返す。
いつの間にか会話が喧嘩になり、それに比例して声も大きくなり、今や声のボリュームは最大。
しかも騒いでる2人が現在の士官学校での主席と次席ともなれば
野次馬も集まる集まる。
とウメダの居るテーブルを食堂に居た生徒がぐるりと囲み
口々に「やれー!」や「負けんなよウメダー!!」などと2人を煽るような言葉を飛び交わしながら
喧嘩の行く末を見守る一般生徒たち。
最近は理事長の気まぐれによって発生するイベントも無く、暇を持て余していた生徒達からしてみれば、
普段仲の良いこの2人の喧嘩はちょっとしたショーのような感覚だった。
観客たちの歓声や声援は、感情的になっているウメダとにとって油のような存在になり
喧嘩の炎を更に白熱させた。
「前からいっぺん言ったろ思うてたんや!おのれはごっつ態度でかすぎやぞ!もっと謙虚になれや謙虚に!」
「やーだね、何でウメダにそんなこと言われなきゃなんねーんだよ!この万年2位!!」
「それ言うたらお前は万年チビ助やろが、悔しかったらもっとでかくなってみぃッ」
「入学してから15cm以上伸びたっつの!」
「ほー、そーなんか?ずっと一緒におるけど気づけへんかったわ、15cmっちゅーんは大して変わらんのやなぁ」
「てめーに言われたくねーよ、万年2位の負け犬!!」
「なんやてぇ、もっぺん言うてみや・・・・・・」
ウメダの言葉尻が震える。
そろそろ騒音公害が騒音実害に変わるのも近い・・・・・・・
「負け犬だって言ったんだよ、耳まで弱いのかよ、この悪趣味カビ頭!」
「・・・・・干からびた藁の色した頭のお前に言われとぉないっちゅーねんッ!!」
「うるせー!クソまりもっ!!」
ガチャーーーーァアアン!!
ひゅーーー、ごす!!
どたんっ、ゴッ・・・・・・・!
音1、ウメダがの立っているテーブルを引っくり返した音。
音2、そこから飛びのいたが空中でラーメンの器をキャッチしウメダに投げたが
かわされてしまい、その先に居た一般生徒のデコにぶち当たった音。
音3、その生徒が・・・・・・・後ろのめりに倒れて後頭部を強打した音・・・・・。
「うぅう・うぅ・・・・」
「おい!大丈夫か?!」
「しっかりしろ!」
「こいつ意識無くしかけてるぞ!誰かドクター呼べ!」
「そこの雑巾取ってくれ!止血するから!!」
「おい誰かティッシュ持ってねーのか?!デコぶつけたショックで鼻血まで出してるんだ!!」
周りの生徒もパニック状態になり食堂はてんやわいやの大騒ぎ。
とばっちりを受けた生徒は気絶しかけて流血しながら鼻血をだしているし、
厨房に居たおばちゃんは雑巾を山のように持ってくるし、
どさくさに紛れて他人の昼飯をかっくらってるやつもいるし・・・・。
だが元凶の、とウメダはお互いに威嚇しあうことでいっぱいいっぱいで、周囲のことなんて見えてやしない。
先ほどウメダがテーブルを引っくり返したのを、きっかけに取っ組み合いのバトルを繰り広げていた。
・・・・・・・小学生かよお前ら。
少なくとも、天下のガンマ団員候補生とは思えない。
「その藁頭むしり取って、代わりに米の苗でも植えたろか!?」
「そっちこそ!その汚ねぇカビとって稲でも植えてやるよ!つーか・・・」
「「お前とお揃いなんて御免だ(や)!!」」
はもつれ込んだ際にしっかり上を取って馬乗りになり、その口を手加減なしで左右に広げる。
上を取られたウメダは、の長く伸びた髪を引っ張って退かそうともがくが
チビだろうとガキだろうと、そこはやはり主席。
相当の体重差と腕力の差があるにも関わらず、がっちり押さえ込まれていて、なかなか今の状態を変えられない。
「ふほぉ・・・・・(くそぉ)!」
「またあたしの勝ちだな。いでで、降参しろよ・・・・あだッ!」
勝利を確信しては白旗を振るよう言うが、ウメダはの髪を更に引っ張ることで
その要求を却下する。
周囲もおうやく落ち着きだして成り行きを観察するが
事態は降着していて変化は無い。
それを打ち砕くべく登場したのは、赤い服を着た青年と青いスーツの青年だった。
「なーにやってんだ」
赤い服の青年がウメダに馬乗りになっていたを軽々と持ち上げて退かすと
スーツの青年が倒れているウメダの方を見た。
「大丈夫か?」
「はっ、はい!!」
声をかけられたことでウメダは体をびくりとさせ、目を白黒させながら2人の青年を見て、
慌てて起き上がり敬礼をした。
ウメダだけではない。
食堂内に居た生徒の全員が、同じように敬礼している。
そしてまだ心が落ち着いてない内にウメダは声をあげた。
「遠征お疲れ様でした、総帥!キンタロー様!」
『お疲れさまでしたーーー!!』
ウメダに合わせて全員が声を揃える。
赤いスーツの青年・・・シンタローが、サンキューと一言言った。
「昼食を取り終えた生徒は教室に戻れ。倒れているそいつには誰か手を貸してやるんだ」
『はい!!』
「賄いの皆さんにはとんだご迷惑を。汚れた雑巾と壊れた食器はすぐに発注しよう」
お気遣い紳士炸裂。
「なんか・・・キンタローまた変わった?」
「分かるか?なんか遠征中にレベルアップしたみたいなんだよな・・・」
だんだん変わっていく従兄弟を遠い目で見るシンタローは、
ちゃっかりを姫抱っこしながらしみじみ語る。
遠征中に何があった?!
「ところでと・・・・・ウメダだっけ?」
「はい!」
「お前ら分かってるだろうな?団員同士の揉め事は禁止なんだぜ?」
「ああ、しかも第一級禁止事項だ」
食堂のおばちゃん達と話を済ましたキンタローが話に加わる。
その顔は少し怪訝なものだ。
「すいません」
「ごめん・・・・・・」
キンタローの迫力に押されて反射的に頭を下げるウメダ。
も一応反省してるのか素直に謝った。
「で、あの騒ぎの理由はなんなんだ?それによっては罰無しにしてやるけど・・・」
「シンタロー、甘やかすのは良くないぞ」
「いいじゃねーか。ちょっと元気良すぎただけだろーし」
なっ?とウインクを一つ2人に送る。
キンタローはやれやれと浅いため息を溢してシンタローの言うことに納得したのか
とウメダに言った。
「理由によっては・・・だぞ。大目見れないと俺が判断したら罰は受けてもらう。規則だからな」
「だってよ。ほら言ってみろよ」
シンタローの柔らかい問いかけに先に反応したのは。
「ウメダがテーブル引っくり返したから」
「お前が人の悪口言うからやろ?!」
「怪我人出たのだって、ウメダが避けたから後ろやつに当たったじゃんか!!」
「ハナっから投げなきゃそない惨事にならんかったわ!悪いんは自分やろが!」
「違う、ウメダのが悪い!」
「お前のが悪いっちゅーねん、ど阿呆!」
「はーいはい、待った待った。また喧嘩始める気か?」
またも接近しかけた2人をシンタローが止める。
「掴み合いの喧嘩になった理由じゃなくて口論になった理由を話せ」
「そう、それだ」
キンタローの適当なアドバイスに、とウメダは一度顔を見合わせる。
アイコンタクトで会話しているらしくが自分を軽く指差し、それにウメダが首を振って
今度はの指がウメダを指して、それにウメダも頷いた。
「その・・・・俺がをドクターの所に連れて行こう思うたんですけど・・・・」
「あたしが行きたくなくて暴れて・・・喧嘩になった」
「・・・・そーゆーわけです」
「ドクターの所?どっか悪いのか?」
当然出てくる疑問だが、それの答えは決まっている。
「どこも悪くない」
「うそこけぇ!えぇ加減にせんとシバくで?!」
「本当だっつの!元気だから高松のとこなんて行かなくてもいいんだよ!」
「せやったら朝飯と授業中とマジック様の件、俺が納得出来るよぉ説明せぇや!!」
「朝飯と授業中と・・・・親父?」
「一体何のことだ?」
ウメダはシンタローとキンタローに事の次第を説明した。
その説明は意外にも詳細で分かりやすく、2人にしっかりと伝わったようだ。
「なるほど。そりゃ確かに変だわな」
「ああ。・・・・、高松に診てもらえ」
「ほれシンタロー様とキンタロー様も俺と同意見や、行くで」
「本当にどこも悪くないんだからやだ!!」
意固地になって3人の言うことを聞き入れない。
そこでシンタローは一つの策を思いついた。
「怖いのか?」
「・・・・・・・・・・・・なにが?」
「色々あるだろ、注射とか薬とか・・・・そーか、は怖いのか〜」
からかうような、小馬鹿にするような言い方でオーバーにアクションをとるシンタローの行動の意図が分かった
キンタローとウメダは、それに同上する。
「そうやったんか、そら悪かったな。・・・・・にしても、注射が怖ぁて行かれへんかったんか」
「にも怖いものがあったとはな」
「こ、怖くなんかない!何言ってんだよ!!」
「あ〜、ええんやって。もう何も言わんでええ。俺かて怖がるオナゴに無理言いたないからな」
「怖くないっつってんだろ!」
「じゃあ行くか?」
「行く!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・」
勢いに乗せられてつい言ってしまった。
目の前ではシンタロー、キンタロー、ウメダが3者3様に微笑んでいる。
やられた・・・・・・・・・・
時既に遅し、とはよく言ったものだ。
「では行くとするか」
「さ、詐欺だ!ずるいあんなの!!」
「ほな行きまひょか。の気が変わらんうちに」
「シンタロー!降ろせよてめー!」
「降ろしてやるよ、ドクターのとこまで行ったらなv」
「行きたくないーーー!!」
必死の叫びもむなしく、はシンタローの腕に抱かれて強制連行。
一行は高松の居るであろう医務室へと向かったのだった。
「ドクター急患お一人様お届けや〜」
「おや、それは良かった。今ちょうど新薬の実験のために生徒を調達して来ようかと・・・・・」
ぴしゃり。
ドアの向こうは怪しい世界でした。
・・・・・・・がらっ
「何閉めてるんですか」
扉を中から開けたのは部屋の主、ドクター高松。
ガンマ団内で、開発課と一般課の医療チームの最高責任者で
更に現在は士官学校の教師までやっているガンマ団内1肩書きの多い男だ。
ちなみに変態ばかりのガンマ団内でもトップレベルの変態だ。
そんなやつが怪しい薬片手にツカツカ歩み寄ってきようものなら
誰だってドアの1つや2つ閉めたくなる。
よってウメダの行動は正しいと言える。
「患者をさっさと寄越しなさい」
「渡せるかい!!」
ウメダ渾身の突っ込み。
その後ろではを抱えたシンタローと、抱えられた、
それにキンタローが何とも言えない顔で高松を見ていた。
それに気づいた高松は少し驚いた顔を見せたが、すぐにいつもの薄ら笑みに戻して応対した。
「これはこれは・・・・・・随分な団体さんですねぇ」
「つーか生徒で実験するなよ」
「高松、なんだその薬は」
「白いのに蛍光ピンクの煙が出てる・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ入って下さい」
3人からの容赦ない指摘に答えることなく中へ入ってしまう。
高松がまず最初にしたことは窓を開け放ち立ち込めていた空気を換気させること。
微妙に色の付いていた空気は外へと逃げていって、入れ代わりに綺麗な無色のそれが入り込んできた。
空気が完全に入れ替わった室内は、本来の爽やかな雰囲気を取り戻し
”保健室”の名に相応しい姿になった。
「さて、それで・・・本日はどんな御用ですか皆さん?」
様々な色の液体でメイキングされていた白衣を脱いで椅子の背にかけて
予備のものに着替えながら高松は聞いた。
「なんかこいつの話だと、が具合悪いみたいなんだよな」
手がふさがってるため、顎でウメダを指しながらシンタローが答えた。
高松はシンタローからウメダへ視線を移し、その視線に気づいたウメダは無言で頷いた。
そしてと目を合わせる。
金の瞳は不本意そうにギロリと高松を睨み、フンッと顔を逸らしてしまった。
「・・・・・・憎たらしいほど元気なようですが?」
「せやけど、こいつさっき昼飯の最中にボケッとしてたんやで?飯の真っ最中に!」
「それは確かに変ですね。明らかにおかしい」
どいつもこいつもの異常を確認する基準は飯だけなのか?
「ですが最近は特に変わったことは無かったと思いますよ」
をチラチラ見ながら、高松は鍵の付いた引き出しから
やたらと分厚いノートを取り出した。
そのノートの表紙には黒の太ペンでこう書かれている。
「な、なんやドクター、その”観察日記vol15”ちゅーんは・・・」
「名前からするとの生態の観察記録帳だと思うが・・・・・妊婦のつける母子手帳のようなものか?」
「どっちかってーと夏休みの宿題の”朝顔の観察”の方が近いだろ・・・・・・多分」
「気になるなら見ますか?」
どうぞ・・・と、やけに簡単に差し出してくる。
それを恐る恐る受け取ったのはウメダ。
開かれていたページの左端を見るとそこには今月の最初の日付が記されていた。
そして黙読で文字を追っていくと、徐々にウメダの顔からは血の気が引いていった。
シンタローは中身が気になってを抱えたまま肘でウメダを小突く。
「なぁ、何が書いてあるんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい?」
シンタローの呼びかけに答えない。
普通なら総帥であるシンタローを無視するなんて言語道断もいいところだ。
だが、今回はどうやら例外のようだ。
ぷるぷる震える手は何とかノートを持っているだけで、いつ落下させてもおかしくない。
それだけ余裕がないのだろう。
「俺が読もう」
シンタローとは違い、手の空いているキンタローは、震えるウメダの手から
ノートを抜き取り自分の手元で開いた。
そして最初から音読し始める。
「”○月×日(水)、起床時間が平均よりも20分遅い。だが朝食はいつものように、たいらげる。
授業中もいつも以上に居眠りが多く、全体的に寝不足の症状有。昨日の強化メニューの疲れが出ている模様。
反面、午後の授業は全生徒合同実戦だったせいか非常に快活。32人抜きという歴代新記録を樹立させる。
就寝時間は7時ちょうど。平均よりもかなり早いが今日は疲れが出ていると思うので許容範囲内とする”」
つっかえること無く、さらさらと朗読するキンタロー。
眉一つ動かさず読み続ける度量は尊敬に価する。
「続けるぞ・・・・。”○月△日(木)、今日は昼休憩の最中に医務室に遊びに来る。
ちょうどグンマ様もいらしていたので3人でティータイムとなった。
グンマ様の持ってこられた菓子類の大半を食べたので今日の摂取カロリーは300オーバー。
そのため夕飯を少しヘルシーメニューにしたが、いつもより多く食べたせいで効果は無し。
ポテトサラダに細かく刻んで入れたセロリに気づかず完食、この手は使える。起床時間、就寝時間ともに平均値10分以内”・・・」
2日めを読み終えたところで、シンタローはキンタローからノートを奪った。
その顔は生気を全て奪われ、怒りとやるせなさと後悔だけを残したようだ。
「もういい・・・・・・・・もう読むな!」
「そうか?それにしても細かくつけてあるな」
「保護者の義務ですよキンタロー様」
「そうなのか?」
「断じて違う!!んなこと信じるな!」
高松にノートを突き返しながら、間違った知識を埋め込まれそうになったキンタローを救う。
つくづく苦労性な男だ。
「ったく何だよ、このノートは!!」
「見たままですよ。の観察日記です」
「観察なんてもんじゃねーだろ、ストーカーだろ、これ!!」
「いやですねぇ・・・・・そんなわけないじゃないですか」
「そーゆう台詞は外の景色じゃなくて、俺の目を見て言え・・・・・・!」
窓辺で遠くを見つめながら言った高松の台詞を打ち砕く。
「大体それオカシイで。水曜っちゅーたらうちのクラスドクターの授業はあらん日や。
なのになしてドクターが俺らの授業風景知っとるんや?」
ウメダの言うとおり、水曜日の2人のクラスは高松が受け持つ授業は無い。
だからが居眠りをしてるかどうかなんて分からないはずだ。
じゃあ、どうして高松は知っているのか?
その答えは一つだけだ。
「まさかテメー・・・・・・授業覗いてやがるんじゃねーだろーなぁ?」
「その・・・、保護者としては子供の・・・・・
「保護者が子供のストーキングするかぁ!!」
自分の親がしていた事と、そっくりな事をやっているやつがいるとは・・・・・。
シンタローは思わずタメ無し眼魔砲を高松に向けて発射していた。
青い2つの閃光が高松に命中する。
2つ?
「何故だか分からないが、撃たなくてはならない気がした」
「あたしキンタローの眼魔砲初めて見た」
「俺も高松に向けて撃ったのは初めてだ」
「流石はキンタロー様、素晴らしい威力の眼魔砲でした」
頭からダクダク流血しながらもキンタローを褒め称える高松の根性は尊敬できるものがある。
「なぁ、あたしもう帰っていい?」
ほったらかしにされていたがようやく口を挟む。
連れてこられて、今の今までずっと放っとかれたら、そう言いたくなる気持ちも分かる。
「駄目に決まっとるやん!」
「でも結局なにもしてねーじゃん!なら帰っても・・・・」
「まあ何にしても診察くらいはしますよ、さあ脱いで下さい」
「「「なに?!」」」
と高松以外の声がキレイにはもった。
「変態だってことは重々承知だったが、そこまで腐ってたのかよ!」
「婦女子の・・・・しかも年端もいかない少女の服を脱がすなんて法律上から言っても犯罪だ」
「あかん!アカンで!!そないな真似俺が許さん!!」
「何驚いてるんです?診察するんだから当然でしょう」
「だけどは女の子なんだぜ?!他の野郎共みたいに・・・!」
「そもそも20歳未満の子供への性的行為の強要は通常のそれより・・・・」
「キンタローうるせーよ!そんな小難しいこと言ってんな!」
「大丈夫ですよ、まだ手を出すつもりはありませんから安心してください」
「まだ?!まだって事はいずれ手ぇ出すのかよ!!」
「がドクターの毒牙に・・・・ああああああ!!嫌や!それは俺がやるんや!!」
「うるせーって言ってんだろそこの関西人!つーか、さり気にお前もライバルかよ!?」
「シンタロー、”手出す”ってなに?」
「そのうち俺が実践で教えてやるから、今は黙っててくれ!」
「ちょっと、私の計画を崩さないで下さい。一体今までどれだけの手塩かけて育ててきたか分かってるんですか?」
「もう口開くな!このロリコン医師!!」
「いいか、シンタロー。は俺の、いいか?俺の人生のパートナーになる大事な・・・・」
「お前の話長いんだよ!しかもそれプロポーズか?!」
「うおぉぉおおお!の純潔が!バージンが!!」
「叫ぶな関西!それにが疑問に思う単語を出すな!!」
「シンちゃーん、遠征ご苦労様vパパ寂しくて逢いに来ちゃったよvv」
「ややこしいから出てくるんじゃねー!!」
1名乱入してきたため、室内の人数は6人にまで増えた。
人種内容はミドル2名、青年2名、少年1名、少女1名。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・むさ苦しいこと、この上ない。
いくら美形ばかりでも、1つの部屋の中に男:女=5:1では華の数が足り無すぎる。
「おや、ちゃんじゃないか。シンちゃんと一緒に来たのかい?」
「一緒に来たっつーか、連れてこられた」
知らないうちにシンタローの腕から抜け出し、長椅子に座っていたに
マジックが声をかけると、はぶすっとした表情と声で言った。
マジックはそんなの手をとり、小さなその手にコロンと可愛らしく包まれたキャンディを転がせた。
その途端にの顔がぱぁっと明るくなる。
「マジックありがと!」
「いいんだよ、その代わり今夜私と食事に・・・・」
「「「「行かせん(ません)!!」」」」
「・・・ちゃん、何故みんなこんなに怒ってるんだい?」
「知らない。マジック飴もう無いの?」
「勿論あるともv だから私と今夜・・・・」
「「「眼魔砲ッ!!」」」
ちゅどーん×3
「やっほー、みんなv どーしたのぉ?」
「グンマ様ようこそいらっしゃって下さいました!!今すぐティータイムの準備を・・・」
「ちょっと待て!今のに何でなんの疑問も持たずに対応、しかも歓迎してんだよ!!」
突如登場したグンマを何の迷いも無く歓迎する高松に、力の限り突っ込むシンタロー。
その横でキンタローはグンマに話しかける。
「グンマ、お前話を聞いてたのか?」
「ううん。入ってきたら丁度シンちゃんとキンちゃんが眼魔砲撃とうとしてたから、僕も一緒に撃っただけだよv」
「ほんなら何も分からんままでマジック様に撃ったんですか?眼魔砲・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あはv」
「「「(笑って誤魔化した・・・・!)」」」
「素敵ですグンマ様!!」
「うぅぅ・・・・・息子達の愛が痛い・・・・・」
「マジックだいじょーぶ?」
放置されているマジックのスーツから取り出した飴を舐めながら
はつんつん突付きながら生存を確認したのだった。
「・・・・・・・・・・・・・ってわけだ!2人とも分かったな?」
「うん、わかったよv ねーお父様v」
「ああ、つまりちゃんの健康診断ってことだねv」
シンタローが新参者2人(ってか身内)に事情を説明してる間
何度か逃走を試みただったが、抜け目無いキンタローがそれを見逃すはずもなく
捕まり続けてボロボロになったりしていた。
キンタロー氏、を好いてるわりには扱いが荒っぽいです。
「それじゃ始めましょうかね」
「高松、何故メスを出す?診察には使わないだろう?」
「おっと失礼しました」
「大丈夫かいな、このオッサン・・・」
「何か言いましたか?万年2位のウメダくん」
「いえ、何でもありまへんです(この子にしてこの親ありや・・・・・・)」
しまいかけたメスとキラリと光らせながら言う高松に
心の中で涙するウメダ。
は知らず知らずのうちに育ての親の影響を多大に受けているらしい。
「貴方は午後の授業に出なさい。もうすぐ始まりますよ」
「あ、せやけども・・・」
「は後から行かせます。ですから担当教員に伝えなさい」
「・・・・・はい、ほんじゃ失礼しました」
ウメダ強制退室。
幾らの学友だからといって、ただの一般生徒では、この上層階級組には歯が立たなかった。
「さてと、・・・・さっさと制服脱いでください」
「やだ」
「別に取って喰いやしませんから、今のところは」
「?高松って人間食うの?」
「下らないこと言ってないで早く脱いじゃって下さい、自分で出来ないなら手伝いますよ?」
怪しい手つきをさせた後、当然のようにの上着に手をかけようとするが、
それは自身の手によって阻まれた。
「・・・・・・・やだ」
「じゃあ自分で脱ぎますか?」
「それも嫌だ」
この後、高松の手首の辺りを握ったまま、はうつむいて黙ってしまう。
誰かが何を言ってもきかない。
頭も上げない。
顔を覗き込もうとするが、それさえもさせてもらえず、顔を逸らし続ける。
「、どーしたんだよ。本当にどっか悪ぃのか?」
「大丈夫ちゃん?お腹痛いの?それとも頭??」
シンタローとグンマが左右からに問いかけるが、無言で首を振るだけで
一言も喋らない。
そんなの頭をマジックが壊れ物を扱うように丁寧に撫でて、皆に言った。
「ちゃんのことは高松と私に任せて、シンちゃん達は外にいなさい」
「何でだよ親父?!」
「いいから言うことを聞きなさい。シンちゃんも言ってじゃないか。
ちゃんは女の子なんだから、男の前じゃ話し難いこともあるだろう?」
シンタローを宥めるようにしっかりとした口調で言う。
口調の中には先刻のような軽い含みはなく、2人の子を持った父親の威厳が滲み出ている。
これではシンタローも強く出るわけにはいかない。
だが、その辺を深く考えないグンマが、シンタローが心中で思っていたことを代弁した。
「でもお父様と高松だって男の人だよ?」
「グンマ様、私とマジック様はこれでもこの子の保護者ですから、ね?キンタロー様、皆さんをお願いできますか?」
こちらもやはり真面目な言い振り。
キンタローは組んでいた腕を外し、シンタロー達に歩み寄り・・・・・
「わかった・・・。シンタロー、グンマ出るぞ」
2人の肩に手を置いてそう促した。
渋々その言葉に従うシンタローと、わりと素直に2人の後についていくグンマ。
ドアを閉める際、キンタローはの両隣に居るマジックと高松を見て・・・
「今は出て行く。だが、2人共に手を出したら俺は絶対に許さない・・・・」
「わかってるよ」
「あと数年は安心なさって結構ですよ、キンタロー様」
「・・・・・を頼む」
がら・・・・ぴしゃん。
「あーゆうところはルーザーそっくりだ」
「ハーレムが居たら涙目になってますね、きっと」
くすくす笑う2人。
話の筋は分からないまでも、それが面白い話であることは分かる。
詳しく聞きたいが2人とも・・・・特に高松は思い出に浸ってるようなので邪魔しては悪い気もする。
そんな理由からは口を挟みたいも挟めない状況に居た。
それを知ってか知らずかは定かでは無いが、マジックが不意にの肩に手を乗せた。
「さぁ、話してくれるかなちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「シンちゃん達はみんな君が心配なんだよ。勿論私と高松もね」
「、話してもらわないと私達は分からないんですよ。病気や怪我じゃないことなんでしょう?」
を育てる以上は覚悟していた問題。
今、正にそれに直面している。
どんな女性にも思春期は来る。例え同性と限りなく隔離された環境でもだ。
本来ならこういった悩みは同じ女性が聞いてやるべきだろうが、
現在ガンマ団上層部に関わる女性の数はを除けば0だ。
既婚者のマジックとルーザーの妻は既に死去している。
サービスの女性関係は皆無だし、ハーレムについては不特定多数は居るかも知れないが具体的な人物は居ない。
それは高松も同じ。
次世代のシンタロー達はまだ誰も見合いなどをしてないため、結婚に至るほどの女性は居たためしが無い。
蓋を開けて言ってみれば、ここに居る2人以外
の関係者にはこの手の話を出来る人間が居ないのだ。
「ちゃん、ハーレム達も心配するよ?」
「Σっ!?」
こういう時にハーレムの名を出すのは卑怯かもしれない。
その名前を出せばは黙っているわけにはいかない。
の中には「心配される=弱い存在」の公式があり
それになりたくないという、強すぎる意思が燃え盛っているから。
「あの・・・・・・・・・・・・ね」
案の定、は重い口を開いた。
2人は安堵して次の言葉を待つ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・服」
「「服?」」
呟くように言った言葉は間違いなく「服」だった。
「そんなことならお安い御用さvどんな服が欲しいんだい?ドレスかな?それとも今時な感じの方がいいかい?」
「それくらいならちょっと出かければどーにでもなりますね」
「でも嬉しいなぁvちゃん此処に来た時に買ってあげた服は着てくれなかったから、てっきり興味無いかと・・・・」
「そーじゃなくって!!」
勝手に思うことを連ねる2人の思考を止めるほど大きな声でが叫ぶ。
びっくりしたマジックと高松は、目をぱちくりさせている。
は深く息を吸って、落ち着いた声で自分の要求を伝えた。
「あたしが欲しいのは前にマジックがくれたみたいなヒラヒラしたのじゃなくて・・・・」
「「じゃなくて?」」
「今着てるやつ、上だけでいーから」
上だけ?
貧乏性でもないくせに、遠慮でもしているのだろうか?
そもそも何故新しい制服が欲しいんだろうか?
「ちゃん、制服が破けでもしたのかい?」
「それじゃあ今着てるのは予備ですか?」
どちらの問いにも首を縦に振らない。
2人はますます頭を捻る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・サイズ」
が小さく呟く。
「サイズ・・・今より1個大きいのにして欲しいんだ」
さっきよりはハッキリした・・・・・だが、普段からは想像もつかないような、か細い声でそう言った。
高松はそんなに、納得したように返答しながら
ポケットから愛煙の煙草をとりだし、一本くわえてライターを探した。
「ああ、きつくなったんですか」
「・・・ッ///」
ぽと・・・・・・
高松が口に挟んでいた煙草を床に落とした。
マジックも、口を半開きにして無声音で驚いている。
「じゃっ、じゃあ頼んだからな!ばいばい!!」
ガラッ!びしゃん!!
「・・・・・・・・・・・・高松?」
「なんですか?」
「私の目が正しければ今・・ちゃん・・・・・」
「ええ、・・・・赤くなってましたね」
赤面して去って行った少女。
2年以上も彼女を見続けてきたが、顔を赤らめたところなんて初めて見た。
「でも変ですねぇ、服がきつくなった事くらい今までは普通に言ってきてましたけど・・・・・・・・・・・・・・あ」
「何か思い当たることでもあるのか?」
「多分ですが・・・・・間違いないと思います」
高松は机の中からパラパラとカルテを捲り
ここ数ヶ月ののデータリストを見て、・・・・・・・確信した。
「見てください、此処に来てからのあの子の全てのデータです」
「どれどれ・・・・・・・・・ほぉ、どれも素晴らしい数値だな」
「それはそうなんですが、今は運動能力でなく身体測定の結果をご覧下さい」
マジックは高松の言葉通り、用紙の上の方に記載されている身体測定の欄を
ファイリングされている一番古いものから順に1枚づつ見ていった。
そしてあることに気づく。
「ちゃん・・・・最近はあまり身長が伸びてないようだね」
「ええ、ですからココ数ヶ月は制服の新調してなかったんです」
「背が伸びてないのに服がきつくなって、しかも上だけでいい・・・・・・・・・・ってことは」
マジックの頭に、高松と同じ答えが浮かび上がってきた。
「朝食の量を減らしたのも、成長を止めようとでもしたんじゃないですかね、・・・・全く人騒がせな」
ふぅっとため息をつきながらも、その顔は綻んでいる。
その綻び方は、父性的なものではなく、どちらかと言うと・・・・・・・男性的な・・・・・。
そしてそれはマジックにも言える事だった。
「ん〜v やっぱり女の子は可愛いなぁvV」
「言っときますけど、は譲りませんよマジック様」
「私に勝てると思うのかい?」
「さぁ?ですが少なくとも私の方が若いですしね」
「男の価値は若さじゃない。度量と力だよ、高松・・・・・」
この日、ガンマ団にまた新たな火花が散った。
そして後日、新調された制服をホッとしたような嬉しいような淡い表情で
抱きしめるを見て鼻血を吹くロリコ・・・・・・男たちが数名居たとか居ないとか。
とにかく円満に解決されたのだった。
めでたし、めでたし。
キミと離れた日の私と キミに会う日の私
どっちも同じくらい笑ってるよ
だってキミが居るんだもん
胸の中で膨らむ理想 頭の中に広がるイメージ
大人の私はきっと変わらずに笑ってる
キミの隣で笑ってる