「あっちゃー・・・・こりゃ酷い」
銃撃戦の収まった戦場に、傷一つない姿で立つ
あまりにも無防備な格好の少年が呟いた。
1より前のお話
この少年、名前はジャンといい
黒髪と黒眼のよく似合った愛嬌のある顔をしていて
いまいち危機感のない口ぶりだ。
服装だけは軍服らしきものを着てはいるが、
それ以外は何もかもが
この荒れた戦場には不似合いすぎる。
「ガンマ団・・・・・か。よくやるな、こんな無駄なことを」
落ちていたGのマークが入った腕章。
血が滲んだそれは、恐らく戦争で命を落としたものの所持品だろう。
近くに落ちている、玉切れの見慣れたハンドガンが、いい証拠だ。
更に歩くと、遠くの方にガンマ団の旗に囲まれた地区の入り口が見えた。
やつらに制圧されたらしい。
遠目ではっきりとは分からないが、
停めてある飛空艦のタラップから、赤いブレザーの男が降りてくるのが確認できる。
ジャンはその場を立ち去った。
呆れたような、諦めたような、どちらともとれる溜息を残して。
「俺が殺されてから15年以上過ぎてるのに・・・」
未だ世界はガンマ団に・・・・いや、青の一族に支配されている。
分かっていたことだが、やはりあの血は大人しく衰えてくれるものじゃない。
もう昔のように内部に潜入することはできないし
ましてや、一族に近づく事も無理だ。
赤の秘石によれば、俺を殺したあの男は戦死したらしいが、
だからと言って、顔が割れてる以上は何も出来ない。
ここは大人しくコピーに任せるとしよう。
あいつがいつか島に来る時を待つしか、俺に道は無い。
道は無いが・・・・・・
「島いても退屈なんだよなぁ・・・」
あそこには自分以外の人間はいない。
ぶっちゃけ暇すぎて死にそうだった。
そんな俺を見かねた赤の玉が、今日の朝こんなことを俺に言った。
『呼んだ時にすぐに戻ってくるのなら、それまでは島を出て構いませんよ』
俺には島を護るという使命があったが、
あの島は平和だった。
だから、俺は赤の秘石の好意に甘えて
こうして外の世界に戻ってきたんだ。
・・・・・が、来てみたはいいけど・・・・・・・・・やる事がなかったりする。
取り合えず、世界中一回りしてみるか・・・。
そんなことを思って国境まで歩いてきた。
そこは閉門されていたが、人がいる様子も管理されてる様子もなく
関所と呼ぶにはお粗末な建物だった。
だが、そこを通りすぎようとした時
ふいに人の気配を感じた。
生き残りの兵か・・・?
それとも、逃げてきた国民か?
恐怖はないが、それなりの緊張感が走る。
くんっ・・・と、
着ていた服を背後から引っ張られた。
反射的に肘を突っ張って
相手の胸があると思われる高さに、
振り向きざまの専制攻撃を仕掛けた・・・・つもりだったが
俺の肘は、なにもない空を切っただけで
硬い胸板にも腹筋にも当たることはなかった。
驚いて上を見るが何もない。
そして下を見たとき、
俺は己の眼を疑った。
「・・・食べるもの、持ってる?」
俺の腰よりもっと低い位置から、
一生懸命手を伸ばして、俺の服の裾を掴んでいる
幼い子供が一人。
「なんで、こんなとこに・・・・・」
「お腹減った」
「え、あ・・・ちょっと待ってろよ」
ポケットに手を突っ込んで、何かないかと探してみると
偶然、飴玉とチョコレートが一片あったから
それを小さな手にちょんと乗せてやった。
「わぁ、お菓子だ。ありがと!」
「いや、残りもんだし。そんなモンで良ければ・・・」
「いただきまーす!!」
包みをピッと引っ張って
茶色いミルクチョコレートを口に放り込む。
そしてすぐに飴玉の方も同じように口に入れた。
口に広がる甘味に、幸せそうに微笑む子供は
戦争に巻き込まれたこの国には、全くそぐわない。
「お前・・・・なんでこんなところに居るんだ?」
「ん〜っと・・・わかんない」
「それじゃあ誰と来たんだ?お母さんは?」
目線を同じにして聞いてみると
ふるふると首を振って、こう答えた。
「わかんない。起きたらココに居た」
捨て子・・・。
ジャンは頭の中で一瞬にして結論が出た。
同情心が悪戯に働いたのか、
思わず、その幼子の頭を撫でてやった。
「そっか・・・可哀想にな」
「・・・・・・・・・・・誰が??」
「誰がって・・・・・・、それは・・・・・・・」
ああ・・・そうか。
この子は、幼すぎて
自分の置かれた境遇に気づいてすらいないんだ。
これは可哀想なんて言葉じゃ括れない。
いっそ哀れだ。
「・・・・・・なんでもない」
「ふーん。・・まあいいや」
その子は口の中で飴を左右に何度も転がしながら
ジャンの前を通り過ぎて、関所の中に入っていった。
どうしたのかと思って着いて行ってみれば
出てきたところにぶつかった。
衝撃を受けきれず転がる小さな身体。
「いてて、」
「あ、ごめん!大丈夫か?」
「うん。平気だよ」
「・・・・・・ん?お前、その背負ってるのって・・・」
「あ、これ?落ちてたから、さっき拾ってきた」
薄っぺらい背に担いでいるのは
紛れもなくガンマ団の前線用の備蓄キット。
中には非常食、飲料、簡易医療道具、武器などが一揃い入っている
その名のとおり、前線で戦う団員への支給品だ。
「あそこに・・・行ったのか?」
あの醜悪な戦場という地に。
人間だったモノや、流れていた血液が飛び散った
あの悲惨極まりない場所に。
「うん」
「怖くなかったのか?」
「うん」
「・・・・・そっか」
「あ、でもね。ちょっとビックリした」
「吃驚?なにに?」
「えっと・・・鉄砲がいっぱい飛んでくるから」
鉄砲が・・・・・・・いっぱい?
それってまさか・・・・・
「もしかして、銃撃戦の最中にあそこに居た・・・・とか?」
「じゅーげきせん??なにそれ?」
「あーっと・・・つまり、俺とおんなじ服の人達が居る時に、それ・・拾って来たんじゃないよな?」
俺と同じ服。
それは、あそこで本能のままに暴れていたガンマ団員のことを指す。
「お前とおんなじ・・・・うん。いっぱい居たよ」
いっぱい・・・・ということは
少なくても制圧し終わったあとではない。
それじゃあ、この子は本当に・・・・
「信じらんねぇ・・・・・」
こんな子供が
銃弾が飛び交い、刃物が音を鳴らし、
血や肉片、果てには人間自体が吹き飛んでいるような戦場から
一人きりで生還したと?
そういうことになるのか?
「お前、見かけによらず凄いやつだな」
「すごい?」
「ああ、もの凄い。大きくなったら強くなれるぜ」
「ほんと?強くなれる?」
「もちろん。俺は嘘が苦手でね」
「なりたい。いっぱいいっぱい強くなりたい」
キラキラと輝く金の瞳が
まるで澄んだ湖の水面のように、俺を映す。
目の前のその眩やかな黄金は、全てを魅入るような光を放っていた。
それに気づいた時、俺は
「してやる・・・・・強くしてやる。俺が、お前を」
自然と零れた言葉だけど失言じゃない。
俺が本心から望んだことだ。
「お前が?」
「ああ。強くなりたいんだろ?」
「うん。なりたい!」
「じゃあ決まりだな!行こうぜ」
俺はその子を抱き上げて、肩に乗せてやった。
そういえば肩車なんてやったの初めてだ。
今までしてやる相手なんて居なかったもんなぁ。
「あ!!」
「どうした?」
「あのね、あのね、まだお前の名前聞いてなかった。教えて?」
「あぁ、名前ね。俺はジャ・・・・・・・・・」
・・・・・待てよ。
”ジャン”を名乗るのは不味いくないか?
万が一ガンマ団の耳にちらりとでも入れば、何があるか分からない。
どうするか・・・・・。
「・・・・・・・・どーしたの?もしかして名前ないの?」
「無くは無いんだけどな・・・ちょっと教えられない事情があるんだ」
「えー!なんでー??」
「どうしても。」
「むぅ・・・・じゃあいーもん。名無しって呼ぶもん」
俺の髪の毛を少し強く握りながら
頭に体重をかけてきた。
「名無し・・・・か。まあいいか、それで」
「いーの?」
「いい、いい。ある意味ぴったりだしな」
俺は赤の秘石の番人だ。
下手に他の名前を名乗るくらいなら
いっそのこと名無しでいい。
「何なら師匠とかコーチって呼んでくれてもいいぞ?」
頭の上にいる小さな小さな子供。
「やーだ。名無しって呼ぶ」
この子がどんな運命を辿るのか、俺には分からない。
「ははは!」
だけど、きっとこの子はとんでもない道を生きると思う。
「笑うなよ、名無しー!」
そう、これが・・・・
「俺の名前はもういいって。それより、お前の名前は?」
これが・・・・・・・・・・・・・・・
「だよ!」
「・・・か。これからよろしくな、」
「よろしくなー、名無し」
10数年後に『戦場の女神』と謳われる
ガンマ団特戦部隊の(当時5歳)と、俺の出会いだった。
全ての物語は 俺達から始まった
*あとがき*
1より前のお話。意味は0地点ってことです。
ちなみに1ってのはハーレムに拾われた時のこと。
拍手でリクを頂いたので、うっかり書いてしまいました。