変わったと思うことがある。
「よーっす、リキッド!」
太陽が真上よりちょっとだけ東にいる頃
パプワハウスのドアの前で大きく伸びをしているリキッドが見えた。
「ん???何処だ」
キョロキョロして声の主・・・あたしを探してる。
「ここだよ、こーこ!!」
さっきよりも大きな声で居場所を主張してみると
青い色の目がやっとこっちを見た。
眉間にシワをよせて、「おいおい」と言いたそうな顔をしている。
「お前なぁ、断りなく人ん家の屋根に登るなよ」
「別に登ったんじゃないよ。そこの木から飛び移っただけだもんね」
「どっちでも同じです」
リキッドの目が「早く降りて来い」と語ってるから
仕方なくあたしは屋根から勢いよく飛び降りた。
しゅたんっ、と小気味よい音がして、足の裏が地面を確認する。
「着地成功っと」
ずっこけることなく着地を成功させて
そのままリキッドのところに駆け寄る。
「今からどっかに遊び行くのか?」
「ううん。昼飯食いに帰るとこ」
頭一つ以上も上にあるリキッドの顔を至近距離で見るのは
チビにとっては一苦労。
そりゃ昔よりは多少なり差が縮まったけど、それでもいちいち首が痛い。
「あ、だったら・・・・・ちょっと待ってろ。まだ帰るなよ!」
突然思いついたようにリキッドは、あたしに一言だけ告げて早足で家の中に入って
10秒とたたないうちに、やっぱり早足で戻ってきた。
手には中型サイズのタッパーを持っている・・・。
「これ、持って帰ってみんなで食ってくれよ」
半透明の蓋から透けて見えるのは、まだ火が通ってない生の状態のハンバーグ。
数は人数分+2個で、合計7個。
「と隊長が2個で、あとは1個でいいよな?」
リキッドはにかっと笑いながら、あたしの手にタッパーを持たせた。
「あ・・・・・・・・・・うん」
ふと・・・気のない返事をした。
理由なんてない。
ただ・・・・なんとなく、そういう返事になっただけ。
「どーしたんだよ。好きだろ?ハンバーグ」
「うん、好き。好きだけど・・・・」
「だけど・・・?」
あたしの視線まで身体を屈めて、半分心配そうに
半分不思議そうに・・・・じっと見てくる。
思わず言葉が咽につまった。
「・・・なんでもない。コレありがとな!」
「狽!おい!?」
沈黙に耐えかねて、
あたしはリキッドに一方的な別れを告げて走りだす。
「本当にどーしたんだよ?!」
タッパーを抱えて走るあたしの耳に、心配の色が濃くなったリキッドの声が僅かに届いた・・・。
「ただいま!」
夢中で、
息継ぎも忘れて、
とにかくガムシャラに
走って走って走って・・・獅子舞ハウスのドアを叩き開けた。
ドアをくぐる時に出した帰宅を知らせる声は、自分で思ったよりもかなり大きかったらしく
中にいたみんなはビックリした顔であたしを見てた。
「・・・・・どうした」
食事用のテーブルに布を広げて服作りに勤しんでたGが
ハサミを持ったまま聞いてきた。
「や、何でも・・・・・・
「そんなに慌てて、腹でも減ったのか?」
振り回してた清龍刀を鞘に収めながらマーカーが言った。
どうやら、あたしが慌てて帰ってきた理由を勘違いしてるようだ。
「別に腹減ったから帰ってきたんじゃ・・・・」
ぐぅぅぅうう〜
「・・・・なくないみたい・・」
「腹が減って帰ってきたんだな?」
「・・・・そーだよ」
改めて聞いてくるマーカーが憎い。
正直に素直に返事をした腹の虫はもっと憎い。
「ところで、その手に持っている容器は何だ?」
「あ・・・・・ああ、リキッドが作りすぎたから食ってくれってさ」
はい、と持っていたタッパーを渡すと
マーカーは無言で蓋を開け、中身を確認した。
「ほぉ、坊やも気が利くようになったじゃないか」
「おうマーカー、リッちゃん何くれたんだぁ?」
「ハンバーグです。7つあるので隊長とに2つずつのつもりで寄越したのでしょう」
珍しく素面のハーレムがマーカーの背後から肩を通してタッパーを覗く。
そしてハンバーグをその目で確認した途端、
俄然キラキラと目を輝かせた。
「ひゃっほー!肉だ肉!!マーカー、飯ぃ!!」
「はい、今すぐに」
マーカーはキッチンに行って、タッパーからハンバーグを出し、慣れた手つきで形を整えなおす。
細みの指が器用に、早々と作業をこなし
あっと言う間に皿の上に綺麗な楕円形の肉の塊が7つ並べられた。
そんなマーカーの背中に付いてっていたいたあたしは、
美味しそうなピンク色のハンバーグと、フライパンの準備をするマーカーを交互に見て
口の中に食欲を膨らませた。
無意識に舌なめずり。
「なぁなぁ、なんか手伝おっか?」
「いらん。お前に料理をやらせるとロクなことになりそうにない」
「むぅ・・・折角手伝うって言ってやってんのに・・・・・」
「いいから向こうで出来上がるのを待っていろ」
そう言ってマーカーは手の甲であたしの額を軽く小突いた。
「・・・・・・・うん。わかっ・・た」
痛くもないのに、マーカーの手が触れたところを押さえながら
来た道を戻ってキッチンから居間に移動し、何となしにソファに腰をおちつけた。
すると、隣に居たロッドの腕が当然と言わんばかりに肩に巻きついてきた。
「どったの、ちゃんv」
頭に花が咲いてるような笑顔で話しかけてくるロッド。
昔見たのとは何となく違う。
どこがって言われると困るけど・・・・何ていうか
全体的に甘ったるい感じ。
「ロッド手ぇ邪魔、重たいし」
「俺に触られんの嫌なのかよ?」
「そーじゃないけど・・・」
「ならイイだろv」
そう言って、ますますベタベタ触ってくる。
確かに触られるのは嫌いじゃない。けど、それとこれは別の話だ。
だって、触り方がやたら気持ち悪い。
鳥肌たつっつの・・・。
「やだって!お前の手つき気持ち悪ぃんだよ!!」
「そー言われてもイタリア人にとっちゃスキンシップは命だしぃ」
「そうか。ならば体内で動いている命はいらんな」
「狽ぢぢぢぢッ!!」
火力MAXでハンバーグを焼いているマーカーが突然火の粉を投げてきたせいで
ロッドのバンダナやらレザー服に火の手があがった。
「なにすんだよ!マーカー!!」
「ふんっ、胸に手を当てて考えろ」
「胸に手ねぇ・・・・んじゃ、お前の胸貸してv」
あちこちに上がった煙の出所を一つ一つ素手で握りつぶし
服やらバンダナがそれ以上焦げるのを防いぎながら、またあたしに絡んでくる。
「そ、そんなの嫌に決まってんだろ!自分の使え!!」
「いっちょ前に照れてちゃって可ぁ愛い〜v やっぱ触ーろ♪」
「だーッ!!やだってば!」
再会してからというものの、ロッドは妙にひっついてくる。
しかも過剰に、ある意味過激に。
最も、それはハーレムも同じことだけど・・・・・。
でも・・・それだけじゃない。
再会したみんなは、昔と何かしらちょっと違っていた。
特戦に居た時のリキッドは料理なんて出来なかった。
だからさっき、ハンバーグを受け取るとき
ほんのちょっとだけど変な感じがした。
ハーレム達も少しだけ優しくなってる。
優しく?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違う。
柔らかくなった。
仕草とか、目つきとか、雰囲気とか、いろんなことが。
何があったか知らないけど、特にハーレムとマーカーが昔と変わったことが多い。
ロッドとGは2人ほど変わってないけど、それでもやっぱり、少しだけ変わってる。
そんな皆を見てると
無意識に、心が呟く・・・・・。
”あたし、本当に5年間もココにいなかったんだ・・・”
皆が「知らない人みたい」だとは思わないけど
哀しいとか、寂しいなんて思わないけど
心臓がぎゅっと縮まった気がした。
「なっ、!お前なに泣いてんだよ?!」
「え?」
いつの間にやら、完全に身体をひっつかせて密着してきてるロッドが
いきなり驚きの声をあげたのに驚いて、あたしは反射的に目を一度閉じてから
元々見ていたであろうロッドを見直した。
改めて意識のある両目で見たロッドは、透き通った緑の瞳を焦りで揺らがしている。
「もしかして俺に触られるの本気で嫌だったの?!」
「え?べ、別に嫌じゃないけど・・・・・・・・・って何だよ、この手」
見ればロッドの手はあたしの腰の辺りと、限りなく胸に近い腹を撫でるように触ってた。
「いんやぁ、だってお前途中から抵抗しねーから、てっきりOKのサインかと・・・・」
「んなわけあるか!」
どごっとタイヤを蹴ったような音をさせてロッドの鳩尾に蹴りをかまして
ソファから逃げるように離れると、今度はハーレムに背中から抱きしめられ・・・・
否。羽交い絞めにされた。
「なーに泣いてやがんだぁ?」
「泣いてねーよ!ロックかけんな獅子舞!!」
身長差のある相手にロックをかけられると、非常ーにきつい。
後ろに締められるだけじゃなく、上向きにも負荷がかかるものだから
軽く首吊りに近い状態だ。
「意地張ってねぇでワケ話せ」
「離せってば!マジでギブっ、ギブ!!」
「話すまで離してやんねーぜぇ?」
ハーレムの腹やら腕を叩いてひたすら暴れるが、全くと言っていいくらい効き目はない。
くそぅ・・・力じゃまだまだ適わないか。
そんなことをしているとGが目の前に片膝をついて立って
あたしの頬を包むように手を添えた。
「G?」
「泣いてる・・・・・・」
「はぁ?Gまで何言って・・・・・・・・狽、」
Gのごっつい親指に、左目の目尻から目頭を拭うようにしてなぞられた。
「・・・・・・見ろ」
言われるがままに、Gの指を見てみると
確かに濡れていた。
あたしは慌てて自分の指でも両目を擦ってみると・・・
「・・あ、ほんとだ」
やっぱり濡れてた。
「、まさかとは思うが・・・悩み事でもあるのか?」
焼きたての香ばしい匂いを漂わせながらマーカーがキッチンから姿を現して、
テーブルに匂いの元であるハンバーグを置いてこっちに来た。
珍しく、本気で心配そうな目をしてる。
「もしそーならお兄さん達が相談にのったげるよん♪」
人一倍体温が高いロッドの手が優しく肩を叩いた。
「つーか特戦は隠し事禁止だ!俺に隠しやがったら減給もんだぜ」
「いでっ!」
ハーレムにはバシっと、気合を込めたいっぱつをお見舞いされた・・・・尻に。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
あたしの名前を呼ぶGの声が、くすぐったいくらい穏やかで・・・
”あたし、ココに戻ってきたんだ”
素直にそう思えたら
今度はちゃんと・・自分でも分かるくらいに目頭が熱くなった。
嬉しくて堪らなくて・・・・
「泣いて・・ねーもん。泣いてっ、なんか・・・・ッ」
「・・・・・・泣くな」
「余計に泣かしてんじゃねーよ!G減給!」
「・・・・・・(ガーン!)」
「ほら、泣きやめよ。つーかどーせ泣くならもっと可愛く・・・・」
「ぐず・・・泣いてねーって、言ってん・・だろぉ!!ロッドの阿呆ぉ・・・・ふぇっえっぐ、」
「ロッド、3ヶ月給料無し!」
「げぇッ!そ・・・そんなぁ」
「、そんなに泣きたいのなら今夜私のベッドで思う存分・・・・・」
「マーカー、てめぇ・・・死ぬか?」
「いえ、遠慮致します」
「・・ったし、泣いてねぇ・・・もん!うぁぁあん」
涙がたくさん溢れてきた。
涙の理由は寂しさじゃなくて
安心して ほんのちょっと気が抜けただけだった
帰ってこれた嬉しさが
心から ほんのちょっと溢れただけだった
どんなに時間が経っても
どんな変化が起きようと
楽園・・・
それはキミ達の居る場所