「はぁぁ〜、疲れた・・・」
自室のソファにどさりと身体を預ける。
久々に帰ってきた部屋だが、埃などは一つも無く
掃除の手が行き届いていて心地よかった。
だがこの静かな時間もキンタローの情けで与えてもらった小休憩にすぎない。
数時間後には遠征帰りの疲れた身体に鞭打って、またすぐ仕事。
「親父もこんなにキツイ仕事してたのか・・・・」
総帥になって早数ヶ月。
親の偉大さを(不本意だが)身をもって知った。
毎日多忙な仕事に追われて、暇な時間はほとんど皆無。
嫌だとは思わない。
自分で選んだ道だ。他でもない俺が俺の意志で。
総帥になってまず始めたことは新体制への移行。
殺しを一切厳禁にして、親父が支配していた国や地域の全てを解放した。
新星ガンマ団のスローガンは「悪いやつらに正義の鉄槌を!」
これに沿って士官学校の授業内容もやや修正したし、
現団員で、このスローガンに反対する連中も押さえ込んだ。
最初こそは、この移行を良しと思わない連中だらけだったが
最近になって団内もまとまり、今や完全に正義のお仕置き集団と変貌できた。
だが、問題はまだまだ山積み。
かつての同盟国は一転してガンマ団の敵対国となった。
どうしても移行に賛成せず已む無くクビにしたやつらの中には相当の腕利きもいて
未だにその穴を埋めきれずにいる。
かつてのイメージが強すぎて一般的にはまだまだ正義の味方をして見てもらえていない。
しかし数ある問題の中でも最大級の問題は・・・・・自分の叔父だ。
ガンマ団特戦部隊と言えば荒っぽい集団で有名すぎて扱いが難しい。
仕事をやれば確かに100%こなしてはくるが、如何せん手加減を知らないのだ。
親父の頃ならいざ知らず、俺が総帥となったからには
そんな戦い方は認めるわけにいかない。
今まで何度と無くそのこと叔父に指摘した。
だが、あの男が大人しく聞くわけも無く、届けられる書類には全て
「任務完了、攻撃目標完全破壊」
と書かれている。
クビにするのが確かに一番いい案なんだろうが
ぶっちゃけあの力を手放すと厳しすぎる。
敵対国には特戦部隊の名をあげるだけで震え上がり、動けずにいる国が多々ある。
まだ完全に新体制を樹立していない現段階では
特戦部隊にはガンマ団に居てもらわないと困るのだ。
とは言うものの・・・・・・・・
「あのオッサン、いい加減に引退しろよ・・・・」
これが本音。
ハーレムさえ居なければ、マーカー、ロッド、Gを上手い具合に各部に分散することが出来る。
元特戦部隊員が入りさえすれば、戦力の穴なんてあっという間に塞ぐことが出来る。
まさに一石二鳥だ。
まあ実際はそんなに簡単に事が運べるこは思ってないが・・・・・。
「ちっ、止めだ止め・・・・!!」
身体を起こしてマイナス思考になりかかった頭をブンブン振るう。
窓の外を見ると、明るい太陽がこれでもかと言わんばかりに輝いていて
俺の身体をうずかせた。
「散歩でもするか・・・」
そう思って俺は部屋を出た。
何もすることなく、ただ狭い部屋の中にいるには勿体無いほどのいい天気にツラれて。
昼寝日和
外に出たシンタローを待っていたのは、熱い日差しと適温を少し超えた空気だった。
空調のきいた室内にいては気づけない気候。
吸い込む空気はあの島ほど綺麗ではないが、それでも建物内の空気よりは
断然気持ちよかった。
目的もなくブラブラ歩いていると、景色は変わり
大きな木のある開けた空間に出た。
もう少し歩けば士官学校。
そんな中途半端な場所だった。
「そーいや昔来たことあったっけな」
士官学校を抜け出して来ていた憩いの場。
この場所の存在を知る者はシンタロー以外いない。
士官学生は校内から出ることは禁じられていたし、卒業してしまえば学校に来る機会は無い。
要は、士官学校に在学している間に、学校を抜け出して見つけなければ
この空間を知ることは出来ないのだ。
士官学校を抜け出す度胸と、教師に見つからないで校外に出る能力
その両方を備えていたのは俺だけだった。
「懐かしいぜ、よくこの木の下で昼寝したんだよな・・・・・!?」
木に近づいて懐かしさに浸っていたシンタローの眼に、2本の足が見えた。
自分以外にもこの場所を知っている人物がいた・・・という驚きと
自分だけが知っていると思っていた場所に人がいる・・・という不快感から
不振に思い、そっと覗き込んでみると、そこに居たのは・・・
「・・・!」
現在士官学校に在学中のだった。
「呑気に寝やがって・・・・こいつ」
木の幹に小さな背を預け、眼を閉じている姿は無防備極まりなく
今、頭を悩ませている特戦部隊の(元)一員とは思えない。
シンタローはが食べ散らかしたと思われるお菓子の残骸を
落ちていた袋に捨てて、隣に腰を下ろした。
シンタローが木に寄りかかった際に、幹が揺れ葉が音をたてたが
が起きる気配はない。
半開きになっている口から出ている小さなイビキが、それを証明している。
「こいつ・・・イツから来てたんだ?」
腕時計を見ると、針の指し示している時刻は11:30。
士官学校は昼休憩の時間だが、散らかっていたゴミは菓子類だけで
大食いのの昼飯だとは思えない。
となると学校をサボってここに居るということになる。
総帥という立場からして、シンタローはを起さなければならないのだが
そういう気にはなれなかった。
こうしての隣でゆっくりしているだけで
さっきまで疲れきっていた体が癒され、心が満たされていく気になってしまったのだから。
風が優しく二人を撫でつけていく。
シンタローは心のどこかで、ずっとこうしていたいと思っていた。
「ん・・・・・ハー・・ム・・・・」
「なんだ?」
むにゃむにゃと寝言を言うの口に耳を傾ける。
苦い顔で眉をひそめるの顔はなんだかやたらと苦しそうだ。
「うう・・・・・ハーレム・・・あたし飯・・も、食ったぁ・・・・」
半分涙声でそう訴える聞き取りやすい寝言に、シンタローは脱力した。
こんな小さな少女の食事を横取りする獅子舞の姿がありありと浮かんでしまっては
そうならざるを得ないだろう。
シンタローは悪夢にうなされているの身体を軽く揺すった。
「おい起きろよ」
「飯ィ・・・・あ・・しの・・・・たしの飯ぃ・・・・・」
「おーい。起きろって」
「・・・うぅ・・・ご飯んん・・・・・」
起きる気0。
仕方なくシンタローは最後の手段に出た。
「!昼飯はカレーだぞ!!」
「マジでぇ?!」
はカッと開いた目に希望の2文字を輝かせ、勢いよく起床した。
かかった時間はわずか0.3秒。
「ははは!本当に起きた」
「あれ?シンタロー?なんでこんなとこに居るの?飯は?カレーは??」
キョロキョロと辺りを見回してカレーを探すが
妙に可笑しくて、シンタローは更に笑った。
「なんだよ〜!カレー無いじゃん」
「そう怒るなよ、カレーだったら後で俺が作ってやっから」
「やったぁ!!シンタロー大好きv」
はシンタローの膝にダイブして腰に抱きつく。
シンタローがそんなの頭をがしがし撫でると
それに応えるようにもシンタローの髪を引っ張った。
「いてーって」
「シンタローだってあたしの髪触ってるじゃん、もっと引っ張っちゃえ♪」
「いでで!この、こーしてやる!!」
「ぎゃはははッ!止めろ、くすぐったい!」
脇を擽られてシンタローから離れようと四苦八苦するが
シンタローはを逃がさないように、しっかり捕まえている。
2人は時間も忘れて木漏れ日の下でじゃれあった。
「あ、そーいや今何時だ?」
シンタローの手に捕まりながらが思い出したように言う。
それに応える為にシンタローは手首を見ると
針は随分進んでしまっていて、既に1時を過ぎていた。
「もう1時だぜ。今頃士官学校は午後の授業だな」
「げっ?!うそ!」
「本当だっつの。お前いつからココに居たんだ?」
「・・・・・・・・・・・朝飯食ったあとから」
「は?!じゃあ午前の授業・・・・」
「昼飯食い損ねたぁぁぁ」
「そこかよ!」
の頭には授業よりも昼食の方が大きな問題らしい。
しかし地面に拳を打ち付けて、この世の終わりだとばかりに嘆いてかと思えば
数秒とせずに立ち上がり、決意したように叫んだ。
「こーしちゃいらんなかった!!」
「どっか行くのか?」
「食堂!何か残ってないか聞きにいってくる・・ッぐえ!」
走り出そうとしたが潰された蛙のような声で鳴いた。
「ちょっと待てよ」
シンタローが襟の後ろを掴んで引き止めたせいだ。
「なにすんだよシンタロー!首絞まったじゃんか!!」
シンタローは食って掛かってくるの顔に手を当てて
攻撃をしかけてこれないようする。
そして落ち着いた声で指摘した。
「今から行ったらドクターの食事時間とぶつからねーか?」
「・・・・・・・・・あ。そっか」
生徒が食事を終えた時間帯は、仕事を一段落させた教員が食堂を使用している。
それはシンタローが生徒だった頃と変わっていないらしく
も納得して大人しくなった。
「どーしよ・・・高松に怒られる・・・・」
やっと授業をサボった事実に気づいたは青い顔で身震いをさせる。
つい先日も授業中に寝ていて怒られたばかりなのだ。
今日はお説教では済まないだろう・・・・・。
「俺から言っといてやるよ」
「・・・・・・・ほんと?」
「ああ。お前見つけて俺が連れまわしてたんだって言えば、ドクターだって怒らねーよ」
だから心配すんな。
との頭をポンポンと叩く。
だが、はあまり浮いた顔をしない。
「どーした?」
「だって、それじゃシンタローが悪いみたいじゃん。・・・あたしが勝手に寝過ごしたのに」
「いいんだよ、実際に今さっき引き止めただろ?」
「そーだけど、あたしが怒られるから引き止めてくれたんだし・・・」
今度はなかなか納得しない。
ふぁぁっ、と欠伸がシンタローの口から漏れる。
疲れがココまで来てピークに達して、ついに睡眠欲に変わった。
「じゃあ今から本当にしちまうか」
「は?うわぁっ!?」
シンタローはの手を引っ張って、そのまま寝転がった。
ちょうどイイところにあった木の根を枕にすると、右手での首を抱きしめ
仰向けに大きく寝そべった。
木の葉の隙間から差し込んでくる光がキラキラと目に届く。
「総帥命令、このまま昼寝するぞ」
「えーー!飯食ってねぇよ」
「俺が起きたら何でも好きなもの作ってやるよ、だから寝ろ!」
暴れるを一言で制す。
実のところ寝ていたせいで、それほど空腹でなかったは
好きな物を好きなだけ食べさせてくれるシンタローの甘い言葉に、暴れるのを止めて身体の力を抜いた。
「よーし。いい子だな」
「シンタロー、ちょっとマジックに似てきてねぇ?」
自分を笑顔で撫でるシンタローの表情が、いつものマジックと被って見えたは
正直にそう言った。
するとシンタローは口では表しきれないほどのショックをうけたようだ。
「な・・・ど・・な、どど、何処がだよ!?」
「なんてーか・・・・・・・・雰囲気?」
あたしに向ける表情とか、言葉とか、色々。
のその言葉に、シンタローは青紫色のオーラを背負う。
「俺が・・・・マジックに・・・・・・いや、でも、そんなわけ・・・」
「シンタローが変だったら、もっと似てるかも」
「(買Kガーン!!)」
オーラが真っ黒になった。
「いや待てよ。俺が変態にならなけりゃ、そんなには似てねーってことだよな」
「うん」
「なら平気だな!俺はああはならねぇ!!」
息子の人形を抱きしめて鼻血を垂れ流すような中年には絶対何が何でもならない!!
そう固く誓ったシンタローだった。
「シンタロー」
「なんだ?」
「総帥の仕事大変?」
「・・・・まぁな。だけど自分で選んだ道だから、弱音は吐かねーよ」
少し寂しそうに言うシンタロー。
は仰向けにしていた身体をシンタローの方に向けて
シンタローの頬をぺちっと叩いた。
「?」
痛くはなかった。
だから気になるのは痛みじゃなくて
の手は自分から一向に離れず、じっと頬に触れていること。
そして手と同じくして、金の瞳もじっと俺を見ていること。
「疲れたなら休めば?」
たった一言。
疲れを遥か彼方に吹っ飛んだ。
疲れだけじゃなくて、ずっと重くのしかかっていた荷物も軽くなった気がした。
「シンタロー頑張りすぎだよ。それじゃ楽しくないだろ?」
総帥になってから「頑張れ」とは何度も言われたけど
「休め」なんて言ってくれるやつは1人もいなかった。
まして「楽しめ」なんて・・・・。
「・・・・・、楽しいか?」
「あたし?あたしは毎日楽しいよ」
「特戦部隊よりも・・・・か?」
少し意地の悪い質問。
案の上、は考えた。
「う〜ん、どっちも楽しいってのは駄目?」
やっぱり答えは出なかった。
まあ、即答で「特戦部隊」と言われるよりはマシだろうか?
・・・・・にしても
「お前が居てくれてよかったぜ」
張り詰めた糸を硬い縄に変えてくれた
おかげで重荷が軽くなった。
これならまだまだ頑張って歩けそうだ。
「どーゆう意味?」
「お前が俺のガソリンスタンドみてーなもんってこと」
「??よけー意味わかんねぇよ」
「解んなくていーんだよ。ほら寝るぞ」
腕枕をしている右手での頭を叩く。
次第にの呼吸は、また規則正しい寝息になっていった。
俺もゆっくり目を閉じて、無意識で右手にある温もりを抱きしめた。
眠りに落ちる前、最後に俺が感じたものは
甘い香りをさせる茶髪の髪の毛だった。
そしてこの数時間後、
俺を探しに来たキンタローに、を抱きしめて寝ている所を発見され
眼魔砲という名の、手荒なモーニングコールで起こされるのだ。
大好きだ
キミといる日溜まりの中
大好きだ
忙しいボクを癒すキミの寝顔
キミさえ居れば 前に進むのが怖くない