―シャキン、ふわっ…パサ―
ハサミが寂しげな音を立てるたび、主を失って落ちる長い毛並みは力なく
床に溜まっていく。
特戦部隊の中でも随一のごつい手によって切り整えられている頭の持ち主は
夕べ入隊が決まった子供。
その様子を、つぎはぎだらけの男3人は同じソファに座って見学していた。
「―――しっかしよく食うねぇ」
呆れ調子のイタリア人がそう言ったのはさかのぼる事、およそ1時間ほど前。
ちょうどが食事中の時だった。
マーカーの手刀で約1日昏睡していたは目覚めたと同時に食事の要求したが
隊長の不在を理由に1度は却下された。
しかしあまりに煩く、その上に凶暴なので仕方なくメンバーの1人が食事を用意すると
よほど空腹だったのか、貪るような勢いで食べ物に食いつき、とにかく無我夢中で
口に物を詰め込みだした。
その食事風景ときたら言えたものじゃない。
マナーのマの字も無く、『食べる』と言うより『胃に放り込む』と言った方が
正しく思える食べっぷり。
空になった皿すら食いだすのではと心配になってくる食欲に一同は唖然とするしかなく
特に坊ちゃん育ちのリキッドは目を逸らしたくなったとか…。
「んぐふふっ!!はへへもはらはっへ…」
「口の中に物を入れたまま喋るな」
叱咤を受け、口いっぱいに詰め込んだ物を処理しようと
膨らんだ頬をモゴモゴと動かす様子は猿さながら。
誰もが躾のなっていないペットを預かったような心境に陥った。
「あっ、それも美味そう」
「これか?ほらっ」
はリキッドが渡したチキンを受け取ると、すぐに口にしまい
Gの前にあったステーキ皿にも手を伸ばす。
「なあマーカー…だっけ?オレなんか飲みたい!」
「……だそうだ」
「へいへ〜い。くそっ、何で俺が…」
ぶつくさ言って酒ばかりの棚からオレンジ色の液体が入った
ペットボトルを取り出すリキッド。
カクテルを作るときに使うハーレム愛用の○っちゃんを自分が愛用している
イラスト入りカップに並々と注ぐ。
リキッドは、恐らくこれから自分と似たような扱いを受けるであろう
に少なからず親近感を持っていた。
その表れが愛用のコップを貸すことだろう。
なんとも可愛らしい表現方法だ。
「ありがとな」
「そんくらいで礼なんかいらねえって」
「でもちゃんとお礼言わないやつは、立派な大人になれねーんだぞ」
適当に相槌を打とうとしていたリキッドの肩に誰かの腕が巻きついた。
この馴れ馴れしい行動をとるものは一人しか居ない…。
「ロッド…」
「そりゃあ大変だな。リキッドちゃん」
「もう大人の俺には関係ねーよ」
「おーおー、一丁前に大人気取りか?チェリーはお子様の証拠だぜぇ」
「てんめぇ!!」
図星を指されてロッドを睨みつける。
マーカーは楽しんでるような呆れているような微妙な表情をする。
「チェリーって『どーてー』のことだろ?」
「ひゅ〜♪よく知ってんな」
「前に教えてもらった」
「他にどんなこと知ってるのかお兄さんに教えろよv」
「あとは〜」
幼い子供のが意外にも俗語を知っていることに興味がわいたロッドは
リキッドそっちのけでの話に耳を傾ける。
「人のこと『どーてー』だって馬鹿にするやつは『てーぞく』なんだぜ!」
「………」
「ふ…ロッドどうした、目が泳いでいるぞ?」
「なんでもねーよ」
「オレなんか間違ってた?」
「いや、実に正しいことを言った」
咽奥で笑いながら言う。
ロッドも言い返したいところだが、相手は己の言っていることの意味すら
把握していない子供。
お得意のからかいや下ネタは通用しない。
思春期にさえ入っていれば効果は覿面で、今頃は顔を真っ赤に
させて逆上するか慌てふためいているであろうに。
「ところでさ〜、特戦部隊に立派な大人っていんの?」
「残念ながらココには立派どころか、まともな大人もいねーよ…」
何かを諦めたようなリキッドの捨て台詞に、はカップの中身を一気に
飲み干して、自分を連れ去った人物を思い出し静かに納得する。
「そっか。ハーレムが隊長やってるくらいだもんな」
あいつは立派とは一番遠いところにいると思う。
…偉いやつみたいだけど。
食べながら話を聞いててそれは分かった。
他にも分かったことはいっぱいある。
自己紹介もしてもらった。
いろいろ聞いた中でもビックリしたのは3つ。
オレがやっつけたヤツらがガンマ団だってこと。
オレはもうガンマ団に入ってること。
ここがその中でも特別な集団だってこと。
つーかオレ、食いもん貰いにきただけのはずなのに…
まっ、いっか。
「それにしても汚いな…食べたらシャワーを浴びてこい」
「そんな汚えかなぁ?」
「ああ」
「うっわぁ、ちょっと傷ついた」
「自分が清潔だとでも思っているのか?」
「あーもぉ!入ってくればいいんだろ!食ったら行くよ!!」
昨日からマーカーには汚いと言われっぱなし。
確かにここの者は誰一人として不潔さを感じさせる物は身に着けておらず
その肌に体液も汚れも返り血も、何一つとして見当たらない。
隊服に落ちきらない黒っぽい染みはあるが。
それは兎も角として、なにより自身も皆より自分の格好がキレイだ…
なんてお門違いなことは思っていない。
だが本当のことであるからこそ腹の立つのも、紛れも無い事実。
しかしながら、自分の隣で偉そうに座っている性格破綻者を黙らせることなど
到底できるわけがなかった…。
「そんなら髪もしっかり洗ってこいよ?」
「なんで?」
「自分で見てみろよ。毛先ボロボロなの、分かるだろ?」
ロッドに髪を遊ばれ伸び切った髪に手櫛を通してみると、所々で引っかかる。
言われてみればみんなと違い自分のそれには光も無い。
蛍光灯の真下に居ても、冬場の枯れた藁のようなくすんだ色みがよく見えるだけだった。
「相当放っておいたんだろ、痛むのも当然だな」
「さっすがツヤツヤ黒髪命のチャイニーズは、言うことが違うねぇ☆」
「燃やすぞ」
宣言するより早くロッドに火をつけたマーカーの髪と己の髪とを見比べれば…
質の差は歴然。
しっかと握っていたフォークを手放して、慣れた仕草で自分を燃やす炎を消し止める
ロッドの髪に手を伸ばした。
すべやかに見えた金髪は、期待に外れることなく、くすぐったさだけを残して
サラッと指から滑り落ちた。
「すっげ…、サラサラだ」
「そりゃ俺はガンマ団一のおしゃれさんだしぃv」
「その言葉には、あのギリギリの私服は含まれて居ないと判断していいな?」
「ギリギリ?」
「…………見ればわかる……」
初喋りのG。
ずっとここにいましたよ?
「くっそー…なんか悔しい」
生まれてこの方、一度も気にしなかったが人より劣るというのはどうも気に入らない。
たとえそれが髪でも。
「今から手入れすりゃ皆のみたいになっかな?」
「ん〜、痛んじまったら無理なんでないの」
「ならば切ってしまえ」
「お前なに剣なんか構えてんだよッ!!??」
青龍刀をゆらりと構えて妖しく微笑みながら自分を狙う…見るマーカーに
すかさず突っ込みを入れるが、背筋を凍らす表情は全く崩れず
代わりに妖艶さを一層強めた。
また磨き上げられた刀身も、まるで獣の瞳のように虚ろに光りを映している。
ヤル気だ、こいつ…!!
「まさかそいつで切る気かよ?」
「そうだが。何か問題でもあるのかロッド」
「ん〜にゃ、面白いんじゃん?流石マーカーちゃん」
無駄に楽しそうそうなロッドに、悦に浸ってるマーカー。
や…ヤル気だ、こいつ等!!
「んなもんで切られてたまっか!!」
は自分の髪が狙われてることを悟り、強烈な勢いで部屋を飛び出す。
思い入れは無くとも、青龍刀なんぞで髪の毛をぶった切られるなんて
呪いのかかりそうな宗教めいた儀式は遠慮したい。
しかも切り手が、はさみで切られても呪われそうな危うさ100%の
中華美人とくれば尚のこと。
「おンや〜、子猫が逃げちまったぜ」
「フ…ならば捕まえるだけだ」
「やっぱ俺も参加しないといけねーんだよな…」
「………ん。」
こうして髪切りデスマッチならぬ、髪切り鬼ごっこ(時間無制限・引分け無し)が開催された。
数十分経過
でかい図体の男4人は、今だ小さな標的を狙い船内中を追い掛け回している。
は前方を疲れ知らずで颯爽と走っているが、如何せんリーチの差がありすぎる。
連中の足の長さがの身長だ。
よってその間合いは徐々に詰まってきていた。
「速いな……。」
「それがあの坊やの売りなんだろう」
「けどもう射程距離だぜぇ」
他の足より一歩分早いロッドの手がの服を掴もうと伸びる。
「そー簡単に捕まんねぇよ〜だっ!!」
狭い通路の壁を蹴り天井に向かって蹴りあがった。
上を向いた4人とバッチリ視線を交差させ、世界を逆転させたまま笑うと
よりにもよってマーカーの頭を鞍馬のような扱いにして飛び越えて
元来た通路を駆け抜けていった。
しっかり後ろにアッカンベーをしながら。
「先に動きを止めるべきだな……奥義、蛇炎りゅ…」
「まマま待ーった!!??船燃やしたら隊長に何て言われっかわかんねーぞ!!」
リキッドの悲痛の叫びがマーカーの動きをピタリと止めた。
「…冗談だ。そんなに怒られるのが怖いのか?坊や」
廊下と水平にかざした右手をスマートに下げ、声を荒げた少年をからかって走り出す。
その背を追うようにして走る同僚等の顔は、不満や呆れで満ち満ちていた。
「(絶対ぇマジだったくせに…)」
「(今のマジだな、…危ねーやつ)」
「何か言ったか?」
首を激しく左右に振って否定の意を表す2人を見て、『フン…』と鼻で笑う。
既に姿が見えなくなったの後を再び追撃しだすのはいいが、
先を走るマーカーの髪が、微妙に乱れて七三くさくなっている事実に
笑いを必死でこらえるロッドとリキッドであった。
「鬼ごっこの次は、隠れ鬼か」
子供というのは、どうしてこれほど隠れるのが上手いのか…
暇つぶしにはなるがな。
見失ったが発見できないまま、最初に居た談話室に戻ってしまった。
途中にあった個室も見るには見たが、特に気配はなかった。
元々整頓されてなかった上に、始めに暴れていただけあって、そこら中が散らかっている。
不自然なほどに…
「あっれー?こんなに散らかしたかぁ?」
「ロッド‥」
マーカーがスッと指差した方向にあるのは…散乱している衣類その他。
ここに置いてなかった私服も混じっている。
「へへ、なぁるほどねん♪」
「あれ?Gがいねーや…あいつ何処行ったんだろ?」
「その辺で服でも縫ってんだろ。そんじゃまっ、お片づけといきますかね」
ロッドが今日一番の楽しげな顔をすると、無風だった室内の風が動いた。
ビュオッと弱めの風がドアの外からなだれ込む。
集まった風は高らかと掲げられた呼び主の右手を囲んで踊るように渦巻く。
「いくぜぇ!羅刹風!!」
舞い上がるような旋風が広い室内に暴風の渦を作り、散らばった軽量の物を
次々と巻き込んで膨らんでいく。
加減しているとはいえ、空調の風とは比べものにならない陣風。
やっと納まったころには、扉は余風でユラユラと挙動不審な動きをし
舞い上がっていた危なげな服やら支給された下着類は、どこかれ構わず床に落ちる。
「いないな…」
頭上に落ちてきそうになった誰かの私服と思わしき
すさまじく個性的な衣類を青龍刀で突き破った。
脇で泣いて騒いでるロッドに、誰のものか分からない服が刺さったままの青龍刀を
突きつけながらマーカーは辺りを探る。
「思っていたより馬鹿ではないようだな…」
撒き散らしていた衣類はフェイク。
後から部屋に来た私達の意識を向けるための作戦だったのだろう。
子供にしてはよく考えたものだ、と苦笑を浮かべる。
侮っていた大人たちは、子供の浅知恵に見事に引っかかってしまった。
「あいつドッカの部屋に隠れてんのか?」
「いや、ここに居る」
「はぁ?どこ見たっていねーぞ」
だが気配はある。
どこにいる…
左から右へとゆっくり丹念に室内を見回し、端までいくと今度は右から左へと戻す。
何度か繰り返すが、切れ長の瞳がの姿を捕らえることはない。
隠れるスペースなど無いに等しいこの空間に、不気味に気配だけの存在がある。
「おっ、見〜っけた」
「んげっ!?」
気を張り巡らすマーカーの背後で2人が声をあげる。
心なしその声には焦りと動揺が混じっていた。
振り向いたマーカーの目に入ったのは…
予想通りなんとも言えない顔をした2人。
何故私の方を見ている…。
髪は走りながらさり気なく直したつもりだったが、まだ可笑しいのか?
ちっ、それもこれも全てあの坊やのおかげだ。
どうしてくれよう…
「見つけたならさっさと言え、あの坊やには少々きつい仕置きをして…」
「だはぁ!もー限界ッ!!」
「「あっ…」」
ごづッツ―☆
ぼてっ!
…クリティカルヒーット!
「あッちゃ〜、お二人さん生きてるか?」
「マジ死…ぬ。っすんげ、石…頭っ」
「くッ………」
真上から落ちてきた。
真下に居たのは………またも、マーカー。
ぶつかった瞬間、火花が散ったように見えたのは気のせいではないと思う。
頭を抱え込み痛みを途切れ途切れに訴えて悶絶しているに対して
下のマーカーは最初の一声以外黙ったまま。
それもそのはず。
落下者の体重と、それにかかる重力とを一点で受けたのだから
痛みの度合いはぶつかられた側の方が圧倒的に強いに決まってる。
ロッドとリキッドはと言えば、無言で在らぬオーラを醸し出すマーカーを気遣って…
「ぶっ!!だははははッツ」
「ギャハハッ!マーカーお前すげータンコブだぜ!!」
「…貴様ら」
………なかった。
頭部に似合わないコブを作り、バックに盛大かつ豪勢な炎を背負ったマーカーは
自分のことを指差し笑い転げる2人に容赦なく火力全開の炎を浴びせた。
白目をむきたくなる痛みを耐えながらのため、燃やす相手を間違えて…はいないか。
本日の焼死者…イタリア人・アメリカ人。
「私を笑った報いだ。そのまま死んでしまえ、馬鹿者共が…!!」
「ひ〜、めちゃくちゃ痛かったぁ!」
「…それは私の台詞だ」
大きな瞳を涙目にして立ち上がるを軽く睨み付けるが、
はその視線に全く気づかず、痛む脳天をさすり続ける。
睨むという威圧が意味がないことを悟ったマーカーは、一呼吸おいて
昂っていた気を落ち着かせることにした。
「害虫か、お前は。どうしたら平らの天井にへばりついていられる…」
「教えよーか?」
「いらん」
天井にベタリとへばりつく私の姿なぞ誰も望まん。
落とした愛刀から服だった布を抜きとり、ついでに磨くと刀身は使用直前であることを
喜ぶように光沢を増した。
「では切るとしよう」
「だぁああああ!!鬼ごっこやったせいで忘れてた!!卑怯だ反則だ!」
「自分の記憶力の悪さを恨むんだな」
「つーか!ふつーのハサミで切れってば!!」
「案ずるな。恐らく痛みはない」
「痛み!?どんな切り方する気だよ!しかも恐らくとか言っただろ!!」
「坊主にされたくなければ少し黙っていろ、手元が狂うだろう」
「自信ねーならやるなぁッツ!!!」
己の運命も知らずに能天気に揺れていた薄茶の髪がハンターの手に捕らえられた。
後ろに引っ張られることで、一層不安感が募る。
首から伝わる金属ならではの冷たい感触。
いやでも密着せているのが実感できる。
ここまでかと歯を食いしばり目を閉ざした時…
「…やめろマーカー………」
深みのある声色が現れ、首を押さえつけてた威圧感が消えた。
代わりに温かい人肌が首に触れている。
不信感に狩られたがバチンとまぶたを上げると、視界は真っ暗だった。
いいや、真っ黒だった。
「G。邪魔をするな」
真っ黒の正体は、Gのレザー服。
青龍刀の刃を包むようにして握り、の髪を守ってくれていた。
「……これを使え…」
「あっ!ハサミあるんじゃん」
「裁縫用だが……」
「Gのだろ?使ってもいーのか?」
「……………座れ」
「え?Gが切ってくれんの?やりっ!」
食事をしていたときのソファに足早に座る。
Gはに真っ白な布をかけて、てるてる坊主にさせ、焦げがちな重症患者と
不服そうな犯罪者もどきを尻目に髪を切り出した。
「よぉ〜!今帰ったぜv」
隊長が、まるで仕事帰りの父親が娘息子にするような挨拶で登場したのは
それからスグのこと。
これで手に持ってるのがダンボール箱でなくて寿司の箱だったならば
まさしく正しい日本のお父さんの姿だったと思う。
「なんだぁ?Gに髪切ってもらってんのか」
「へへん、いーだろ♪」
「隊長どこ行ってたんすか?」
「本部にちょっくら用足しにな」
用というのは十中八九、ハーレムの抱えている荷物。
「ハーレム、その箱なんだよ?」
「これか?聞いて驚け、これ全部オメーの服だ!!」
巨大なダンボール箱をの目の前に置き、切られかけの頭に手を置いて撫でくりまわす。
整えていたところを邪魔され、0.2ミリばかりGの眉間が寄った。
そんなことは露知らず、ハーレムはの反応を待つが、一向に何の返答もない。
派手なリアクションを期待していたハーレムは、面白くなさそうにの顔を覗くと
形のいい目尻がピクッと跳ねた。
キョトっとした目で口を小さく開き、何が起こっているのか理解しきれないといった様子の
の表情。
今まで見た中でも一番幼い。
信じられない物を見るような目で置かれた箱とハーレムの顔を交互に見て
たどたどしく口を動かした。
「…これ、オレの?」
「ああ。俺に感謝しろよぉ〜」
「見たい!開けてもいいか?!」
瞳をビー玉のように輝かせて今にも箱に飛びつきそうだ。
待っていた反応が返ってきてハーレムは歪めていた顔を笑顔に戻した。
動こうとするの肩をマーカーが背後から優しく抑える。
「髪が切り終わったら、それを持ってシャワールームに行けばいいだろう」
「うん!わかった!」
先ほどまで暴れてたのと同一人物とは思えない素直さ。
たかが服を貰ったことがそれほど嬉しいのか?
「おかしな坊やですね」
「か?」
「ええ」
斬髪中のを見ながらマーカーは言った。
今までの会話だけでは色々と謎が多すぎる。
「一番の疑問は…戦地で一人何をしていたのかです」
「そーいやぁお前あそこで何やってたんだ?」
「隊長そんなことも聞かずに持ってきたんすか…」
「おう、わりーか?」
「お互い嫌な人攫いに遭っちまったなぁ」
リキッドはハーレムに聞こえないよう細心の注意をはらって耳打ちする。
無論、ハーレムの耳にはしっかり届いている。
「あそこには飯探しに行ってただけだぜ」
「飯探しだぁ〜?」
「うん。前いたとこじゃ食えるもん無くなっちったから」
それってスゲェ生活だよな…俺が舞浜でバイク乗ってるときには
生きるのに必死だったんだろ。
こんな小せーのに、俺なんかの何倍も苦労してんだな……
でも俺だって特戦入ってからの苦労なら負けてねーぜ。
「親とかは?」
「知らね、オレ捨て子だし」
「あっ…わりぃ」
「いーよ。あんま覚えてねぇから悲しくねーもん」
ハードなことを平然と言うにリキッドは戸惑うばかり。
他の4人も表面は過剰な反応を出さないが、内心は驚きの連発。
夏の花火大会も形無しの連続打ち上げっぷりだ。
「戦い方は誰に教わった…?自己流とか言うんじゃねーぞ」
あの身のこなし方はかなり実戦に近い形で
しかも強ぇやつについてたはずだ。
俺の目に狂いはねえ!
「オレ拾ってくれたやつ」
「そいつにチェリーとか教わったのか?」
「そーだよ。あとな、人間はお礼とお詫びとお世辞が当たり前に言えたら一人前なんだって」
「…かなり嫌な人生送ってんな。そいつ何者なわけ?」
「さぁ?名前もなーんも知らねぇ」
全員が不審そうに顔を顰める。
「名前を知らんだと?」
「聞いたけど教えてくんなかった」
「そいつは今どうしてんだ?」
「もー死んだ、ってか殺された」
「………終わったぞ」
短い沈黙の後、の首に巻かれてた白布が外される。
その拍子に短い毛がパラパラ落ちて床を汚した。
頭を振ると肩につかない程度まで短くなった茶髪は、空気を含んでふわりと踊った。
「おぁ!頭かるっ!!」
「中身も軽くなってんじゃねーか?」
ハーレムの軽口の意味を少したって理解したはGのハサミを投げつけたが、
それは大幅に方向性を持たずにリキッドに命中。
血の気の多い彼は額からドクドク余分な血を無駄に流した。
献血へ行け。そして世の中に役立てろ。
「じゃー風呂行ってくるな!」
「場所は…」
「鬼ごっこしてるときに見っけたから一人で行ける」
ホッチキスで閉じられてるダンボールを無理矢理破って、適当に上下一組を取り出す。
それを一度強く抱きしめ幸せそうに笑うと一目散にドアまで走っていった。
足音が遠ざかり、暫くたって『ぐあっちゃぁああッツ!!!』と
温度調節を間違えたこと丸分かりな甲高い奇声が響いてきて、全員が顔を緩めた。
「あーんなにハシャいじゃって、可愛いねぇv」
「ロッド、いつから趣旨を変えたんだ?」
「ジョーダン。俺の相手するなら可愛くて床上手な女の子ってのが最低条件だぜ」
壁際に寄りかかりドアの方向を見すえて静かに笑うマーカーの突っ込みに
ロッドはテーブルの上に足を乗せながらウインクをきめた。
ハーレムは握りつぶして駄目にしてしまった煙草を灰皿に投げると、新たに火をつけ
紫煙を吐き出す。
マーカーとロッドの軽いやりとりが終わると、再び沈黙が訪れる。
それを破ったのはガンマ団一寡黙な男だった。
「物を貰うのも初めてなのかもしれん……」
「そんじゃ俺らで可愛がってやっかぁ?」
「可愛がるって…いじめる気じゃねーだろォな。可哀想だからやめ…」
「なになに?リーちゃんヤキモチ〜?」
同僚の言葉に牽制をきかせたつもりが、上司に余計なハッパをかけることになってしまった。
今更かばったことを後悔しても遅い。
すでに上司は新入り×2を弄る気満々の虐めっ子だ。
虐め親父だ。
「心配しねーでもお前もまだまだ可愛がってやんぜ〜v」
ああ、蛇舌がボクの頬を擽ってます…。
隊長はヒト科でなくてヘビ科だったんですか?
リキッドが新入りいびりから逃れられる日は果たして来るのか。
来ないに1票追加お願いします。
そしてのポジションは、リキッドと同じ位置になることが決定したらしい。
「入ってきたぜ〜!!」
リキッド虐めに花が咲いてる真っ只中、卸したての服に袖を通したが駆け込んできた。
髪もろくに拭いてないので通ってきた道筋に水を撒き散らしている。
「しっかり拭いてから出てこい」
「いちいちうっせーなぁ、マーカーって特戦部隊の姑?」
「ぎゃはははは!」
「灰になれイタリア人!!」
Gにタオルでぐしゃぐしゃと拭かれながら、そのやり取りを笑ってるを見て
ハーレムがあることに気づく。
「、私服じゃなくて隊服着ろ、隊服。サイズ合ってなけりゃ取替えねぇとだろーが」
「わぁ〜った」
テーブルの上にあるダンボールの中身を背伸びして漁る。
中身を掴んでは投げ出して、掴んでは投げ出してを数回と繰り返すうちに
の身体はすっかりダンボールの中に入ってしまった。
しかし出てくるのは私服ばかり。
「つーか俺んときは私服なんか一着たりとも支給されなかったんすけど…」
「普通はな。あれは総帥の趣味だ」
「総帥って…確かハーレム隊長の…」
入隊して半年、リキッドは未だ直接会ったことのない総帥の顔を思い出す。
テレビ電話でハーレムが会話しているところを見たことがあるだけで
具体的な人物像はほとんど何も知らない。
「おう!俺の兄貴だ。あんなん総帥の肩書き引っぺがしゃ、ただ変態だぜぇ」
「ああ、隊長と同じ人種っすか」
「い〜根性してんなぁ。おいロッド、こいつ木馬にくくりつけろ!」
「うーっす、覚悟しな坊やv」
「ぎ、ぎゃぁぁああああああっ!!」
遠のくリキッドの断末魔もどこ吹く風でダンボールの中でガサゴソしていた
の動きが止まったのは、ちょうどロッドがお役目を果たした時だった。
ひょっこり顔を出したが散らばった服を確かめるように見回して首をかしげる。
「みんなと同じのねぇよ?」
「あぁ?よく見たのかぁ」
「ちゃんと見たぜ。けどドコにもねーもん!」
ハーレムは散らかった服を軽く見るがの言うとおり、それらしき物は見当たらない。
しいてあげるなら今が着ているのが一番それらしい。
だが…
「隊長、まさかとは思いますが…」
「あんのクソ兄貴、オーダーしやがったな」
確かに皮ジャンと同じ素材の黒服ではあるが
デザインは規定のものとは程遠い。
袖なしの上着に銀の止め金、背中にはガンマ団のマーク。
膝小僧のでた半ズボンの右足にもマークが刻まれており、その下にはご丁寧に
白銀の糸で小さく名前まで刺繍されている。
そして、今が履こうとしている靴は底の厚い黒の皮ブーツ。
ハーレムはづかづかと大きな画面のある機械の前に立つと、一目でスイッチと
分かるボタンを叩き壊す勢いで押した。
ヴィィィンと電子的な音がして真っ暗だった画面に白黒のボーダーが走り人物が
途切れ途切れに映し出される。
「おい兄貴!!」
『ハーレム、何か用か?』
1秒としないうちに現れたのは鮮やかな赤の服が
よく似合っている中年の美形、中身は奇形。
言わずと知れた世界規模の親ばか…もとい総帥マジック。
奥にはティラミスとチョコレートロマンスの2人が例に違わず控えている。
いっつもいつも…過保護な母親か、テメェらは!!
「ハーレム、それ誰?」
「うっせーなぁ。その服の送り主だっつの…邪魔だからどっか行ってろ」
「やだ、オレも話す!!」
「うおっ?!」
はハーレムを踏み台にして、かなり高い位置に設置されている
カメラを覗き込んだ。
当然マジックのほうには大画面いっぱいにの金の瞳だけが映っていた。
「近すぎだ。それでは総帥に顔が見えてない」
「んじゃ、こんくらい?」
マーカーの助言を受け、カメラから30cmばかり離れる。
「なぁ見えてるか?」
『ああ、見えているよ。良かった服のサイズは合ってるようだね』
「すげぇ!喋った喋った!!」
カメラに向かって声をかけるに、白い歯を光らせてムカつくほど
爽やかに微笑むマジック。
腕の中のシンタロー人形と流れる鼻血がなければ絵になるのに…
「お前がマジックサマ?変な名前〜」
『ふふ、『サマ』は名前じゃないさ。私の名はマジックだよくん』
「なんでオレの名前知ってんだ??」
『知っているとも、私は総帥だからね』
「へぇ〜…そーすいってスゲエんだな、でもそーすいってなに?」
会話をしているようでしてないのに本人たちは気づいているのかいないのか。
少なくてもは気づいてない。
『そういえば髪を切ったのかい、よく似合っているよv』
「さっきGに切ってもらったんだぜ」
『素晴らしい、私がデザインしたその服にもピッタリだ!』
「「「(お前のデザインかよッツ)」」」
「そんなこったろーと思ったぜ…」
顎を限界まで開くほどの驚愕。
リキッドなんかほんとに顎外れそうだ…。
そんな中、実兄のやることなんて予想済みと言わんばかりの表情で
ハーレムは画面に悪態づく。
「んで、こいつの隊服はどォした?まさか作ってねーんじゃねぇよな?」
に頭を踏みつけられたままなので、画面に顔が映ることの無いので
マジックには声だけが届く。
『何を言ってる。それならくんが今着ているじゃないかvv』
「俺が言ってんのは兄貴お手製のコスプレ衣装じゃねえっ!」
『ぐぬぅ…手製を馬鹿にするな!こんなにも似合ってるのがお前には分からんのか!?
昔はお前だって着てくれただろう?兄弟4人でペアルックを着て…いやルーザーは
着てくれなかったな……それでも戦場から帰ってくる父を皆で一緒に迎えたじゃないか?!
いつも私に抱っこをせがんできて可愛かったのに…いつからかハーレムもサービスも
着てくれなくなって……グスッ、お兄ちゃんは…お兄ちゃんは悲しいぞぉ!!!』
いい年した中高年が泣くなよ。
しかもハンカチ咬みながら…
かなりアウトだと思うぜ、総帥。
「…と、とにかく出来次第送ってくれよ。俺ぁ取り行かねーからな!!」
『Σま、待てハーレムっ!特戦部隊の予算はもう無…』
ブチッ!!
「ったく、オーダーで服作る金あんなら予算に回せよな」
「あ〜あ、切っちゃった。オレもっとマジックと喋りたかったのに…」
「オメーもいつまで人の頭に乗ってんだっ」
肩車で定着していたの両足を後ろへいっぺんに払いのける。
この時の石頭によってテレビ電話のスイッチが壊れたことはまだ誰も知らない。
「あの〜隊長?さっき総帥、予算無いって言ってませんでしたぁ?」
「しかも総帥の作った服をサービス様とハーレム隊長も着ていたとか…」
「空耳だろ?俺にゃ聞こえなかったぜ!」
「ハーレム、ハーレム!リキッドが乗ってるあれ何?」
「ありゃ玩具だ。お・も・ちゃvv」
嬉しい楽しい面白い
初めてがいっぱいの新しい場所
次はここで何が見れるんだろう
何が起こるんだろう
知らなかった世界が音を立てて広がっていく