「G〜、このグニグニすんのなに?」
「……マシュマロだ」




男の名はG。
ガンマ団特戦部隊に所属している人間だ。

今日は臨時の買出しに来ていた。




「ふーん。じゃあこっちのカピカピのは?」
「……スルメだ」




一緒にいるのは特戦部隊の新入り

Gの上司であるハーレムという男が、任務で訪れた戦地で拾ってきた子供だ。




「あのグルグルしたのは?」
「…飴だ」
「あれアメなのか!?」




どうやら相当の世間知らずらしく、さっきから店の中をチョロチョロとしている。




「すっげぇな〜、なんかいっぱい物がある」
「…、買う物以外は触るな……」
「触っちゃいけねーの?」
「…マナーだ」




目的のコーナーに行く途中の製菓コーナーだけでも軽く20品ほどの商品を
Gの元に持ってきている。


子供というのは何にでも興味をしめすのでGはから目を離せなかった。





「G!G〜!!オレ『すし』食ってみたい!!」
「寿司…をか…?」
「ハーレムが美味いって言ってたんじゃん、あ〜っと日本の食い物だっけ?」
「…わかった」
「へへへ、特戦入ってから色んなモン食える♪」




戦地ではろくな物を食べていなかったらしく、は食事のときと同じく
幸せそうな顔をして知らない食べ物への興味を示す。

連れてこられた日も、食料を探しているところを捕獲されたと聞いている。



Gは無意識にの頭に手を置いた。




「………」
「G?買い物しねーのか?」
「………ん」




不思議そうに見上げるの頭から手を離し、再びカートを押し始める。


もマナーを分ったのか、物を触ることはしなくなった。
その代わりに店の中をキョロキョロ見回し、すれ違う人にぶつかったりしている。

ともあれキチンと着いて来ている事に安心し、今日の買い物予定を確認する。

ポケットの中に手を突っ込んで出てきたのは、行きがてらにハーレムから渡された
1枚のメモ用紙。

開くとそこには…



「肉…酒………」


その2文字きりだった。

一体これの何処にメモの必要があったのか…。

疑問に思えて仕方が無いが、それはアノ男のやること。
考えるだけ無駄に等しい。


よって、Gの頭の中では今日の買い物内容が決まった。







買うものは肉と酒。
が寿司を食いたいのでは魚も必要か。

肉は牛がいいだろうか?
メモには特になにも書いていなかったが…

酒は…適当に買っておこう。









不意に後ろを振り返る。

するとさっきまで真後ろを歩いていたがいない。


視線をずらし、更に遠くの方を見ると
インスタント食品を積み上げているの姿が確認できた。


余所見をしていて倒したのだろう。


積み終わるとGのところまで慌てて走ってきた。




「倒しちゃったよ、怒られねーでよかった〜」
「……気をつけろ」
「だいじょーぶ!もーやんねぇって」





ピッとブイサインを向けて、本当に楽しそうに笑う。

リキッドが入ってきたときも若いと思ったが、更にその半分ほどの者が入るとは予想外だった。
隊長の考えることは俺には予想がつかない。こんな子供を…





そういえばはいくつなんだ?
見た目では8歳前後だと思うが、知識や常識はもっと下のように思う。



けれど、わざわざ聞くほどのことじゃない…


機会があったら聞けばいい。




そんなことを考えながらGは酒のコーナーを回り、大量の牛肉も籠に入れ
生臭いさと冷気が立ちこめるこの魚介類のコーナーに来た。




早速マグロやイクラなど、寿司としてはメジャーの物を品定めし出す。

安いのはマグロ…しかし鯖もなかなかイイもののようだ。
イカも欲しいところだが、少々値がかさばる。

そういえば、リキッドは寿司が嫌いだったな。
きゅうりとシーチキンでも買って行くべきかどうか迷うな…。




「……………」
「おっ居た居た、Gぃ〜〜!!」


クーラーゾーンを覗き込むGの名前を大声で呼ぶ声。
聞きなれた声に横を向くと、自分の辿った道と同じ道を、自分と同じ皮服を着た男が歩いていた。




男の手にはガタイのいい男には似合わない甘そうな菓子の数々。



「………ロッド…」
「これも一緒に頼むぜぇv参っちまうわ、この店新発売多くってよ」





何の戸惑いもなく菓子箱をバラバラと籠に入れる。

大量の酒と牛肉が入っていた所に更に数十個の菓子が積まれ
上の籠は明らかに許容量をオーバーしていた。


積みあがった菓子を少し下に移しながら、籠を2つ持ってきて正解だったと心から思う。




「お前なんで魚なんか見てんの?」
が…寿司を食いたいそうだ……」
「んで、肝心の坊やは」




ロッドはやや大げさに首を左右に振り、辺りを見回す。



坊やというのは、無論のこと。


しかし何故聞く必要があるんだ?


いくらの身長が低く、お前が高いとはいえ、見えていないはずがないだろう。
それともまたのことをからかっているんだろうか?

そうでなければ、お前より長身の(と言っても数センチだが)俺もが見えない筈だ。




だが、俺の目にはが見えて…












「……??」
「ってオイオイ。まさか…」





置かれた状況…
というよりも、起こった状況に顔をあからさまに濁すロッドとは正反対に
いつもの表情を一切崩さぬままGは呟いた。






「……はぐれた…」

















「…そっ、俺は2階捜すからよ……そーんな怒んなよ、可愛い可愛い子猫ちゃんのため…」



ちゃらけたロッドの声が途切れる度に、手中の携帯からは怒声が聞こえる。



「うんうん…頼むぜぇマーカーちゃんv………………お〜、恐ァ〜」



電話が切れたとたん、受話口から顔を離し疲れた雰囲気を一面に出すロッド。
携帯をしまうだけの手間にも、やたらと疲労感が見とれる。

それだけ怒りのマーカーとの会話は大変なのだ。





「…すまん…」
「いーって。携帯忘れたんじゃ仕方ねーよん」




『…にしてもマーカーの扱いは疲れるわ』と苦く笑う。


この店は規模が大きく階段でも上ってしまってたら、とても2人では無理だと
3階の本屋に行っていたマーカーにも連絡しようと話になった。



連絡をとるはずだったのはG。



だが携帯を飛空艦に忘れたことに気づき、代わりにロッドが連絡することとなったのだった。



今の様子では相当マーカーを怒らせてしまったようだ。

立て続けのミスで同僚に迷惑をかけることに、いたたまれなさを感じる。




「それとチャラでいーぜ」




そんなGを見たロッドは、女が見たら赤くなるような甘い笑い方で
全部で3000円近くなるだろう菓子等を指差す。




「わかった…」
「サーンキュ〜vんじゃ迷子の子猫ちゃん探しといくかァ」





ロッドの後姿を見送ってから行こうと思ったGだが、ロッドは乗ろうとしていた
エレベーターから降りてきた女性達に話しかけ始めてしまった。


ナンパしているのは誰が見ても一目瞭然。


しかも相手はロッド好みの美女3人。




Gは見送ることなくを捜すことにした。







―菓子売り場―




―肉売り場―





―果物売り場―






―インスタント食品売り場―








もう何周しただろう…。


ほどの子供は家族連れが多く、一人でいる子供は少ない。
だから居ればすぐに分るはずだが
一向に見当たらない。



玩具売り場があって1階より遥かに子供の多い2階を捜しているロッドは
もっと苦労しているだろう。

何の連絡も無いというとこは、ロッドもマーカーもまだ見つけていない。




外に出てしまったのかと不安がよぎる。





「うあーんっ、ママぁ――ッ!!」




耳に入ったかん高い声。

見る小さい子供が泣きじゃくっていた。

Gの脇を、母親らしき女が通り、泣く子供を抱きしめあやしだす。







も……泣いているかもしれん………




外に出ていたら捜しだすのは厳しい。


一人では飛空艦まで戻れないだろうし、知らない土地で一人きりというのは子供にとって
不安以外の何物でもない。


Gは飛空艦に連絡を入れて、ここに来ていないハーレムとリキッドにも手伝ってもらうべきかと
真剣に考えた。





まさにその時だった。





『ピンポンパンポーン♪迷子のお知らせをします。
 黒髪の男の子Gくんとマーカーくん、金髪で赤いバンダナをした男の子ロッドくん。
 3人とも黒いレザー服を着ています。
 見かけたお客様は迷子センターかお近くの店員にどうぞお知らせ下さい。
 繰り返し放送します。迷子の…きゃっ、ジッとし…――』











聞き間違えか……?



今…不吉な放送が聞こえた気がしたのだが……








『Gマーカーロッドォ!!聞こえてんなら返事しろよ、つーかお前らどこにいんだよッ。
 オレ寿司食いたいから早く帰ろーぜぇ!!』

『ボク、だめよ。もうすぐお友達来るから…ね?いいこに…』

『うっせーな、みんな早く来いよな!!ハーレムに怒られっぞ!!』






……気のせいではなかったようだ。







「………」
「お客様、なにかご用ですか?」
「…迷子センターの場所を…教えて欲しい……」













Gがの捕獲されている迷子センターに着いた時には、既に他2人の姿もあった。



「いーってッ!んだよマーカー!!」
「それはこっちの台詞だ。お前というやつは…」
「勘弁しろよな、ここまで来るのに熱〜い視線のシャワーだったぜェ」



マーカーに殴られ頭を抱えるが見える。

ガラガラとカートを押しながら近づいて行くGに気づいた
弾けたように笑って精一杯大きく手を振った。




「あっ!Gだっ。見っかってよかった〜」
「見つかったのはお前だ馬鹿者…!」



2度目の鉄拳がの脳天を叩く。

見るからにイツモより痛そうな叱咤からするに、マーカーの機嫌の悪さは
最高域にまで達しているようだ。
うずくまって痛がるの脳天を突付いてロッドは痛みに追い討ちをかける。

口を忙しなく開閉させて無声音でもがく





「マーカー…すまん」
「悪いのはこの馬鹿だ、どうせ余所見をしていてGを見失ったのだろ」
「うぐっ…そ、そんなこと…なくねーけど…」
「図星かボーヤ?」
「まったく…私の貴重な時間を…」
「帰ったらたーっぷりお返しさせてもらうぜェ」
「くぅ……くっそー…」




右のマーカーからクドクドと叱られ、左のロッドからはネチネチとした嫌がらせをされ
最悪の板ばさみに口を尖らせる。





「…………」
「う…G、ごめんな。勝手に居なくなって…」
「いや、俺が見ていなかったせいだ…すまなかった……。」



Gの大きな手がの頭を包むように撫でる。

大人しく撫でられているを見て、ロッドとマーカーの口元も薄い弧を描いた。



「私は先に帰る。お前は帰ってきたらスパルタだ」

「俺も帰るわ、ここじゃもぉ声かけらんねーし」



マーカーは手に持った紙袋をコレ見よがしに見せて不機嫌を装いながら言った。
口ぶりからすると中身は新しいテキストかなにかだろう。

ロッドの方もあんな放送をされては、ナンパという目的は達せられそうに無い。



出口に向かう2人を見送るGと




「あ〜あ、2人とも帰っちゃった」
「…会計に行くぞ…」
「わかった!」




またはぐれてしまわないように、Gはにカートの横を掴ませて歩くことにした。



そして予想通り、ロッドの菓子類のおかげで会計の値段は5桁めの数字が一個増えてしまい
自分のサイフから一番高価な紙幣を数枚出したあと、恐らく受理されないであろう領収書を
一応書いて会計を済ませ、商品を詰めた袋の半分に持たせて店を出た。






「なーG。オレの軽いぜ」
「それはロッドのだ…」

「これ全部?袋2コもあんのに?!」
「………ん」

「いーなぁ…言ったらくれっかな?甘くて美味そうなのばっか」
「………」



Gの少し後ろを歩くは、半透明の袋の中身を物欲しそうに見て喋る。




「でもロッドたまにしかくれねーんだよなぁ。独り占めしやがってずっりーの!!」

「……」



Gは、自分の頭よりも大きい袋を振り回し地団駄を踏んでいた手を止めさせ
が持っていた袋から1つの菓子を取り出した。


Gの行動を始終見ていたの瞳に、赤と黄色と青が渦を巻いた
定番のキャンディーが映る。



「グルグル飴だッ!!…いーなぁ」
「………食べろ」
「えっ?」
「…食べたいんだろう?それなら食べればいい……。」


思いもよらないGの言葉に、目を丸くして飴を見つめる。


「食いたいけど、それロッドのだし、勝手に食っちゃ…」
「俺が買った……」




ドイツ人は嘘は言わん。

買ったのは(金を払ったのは)俺だ。




「じゃあGのじゃん。Gが食えよ」

「………」



なかなか素直に受け取らないので、なかば強制的に棒の部分を握らせる。

渡された飴を眺めたまま…少し考えたあとで
は笑ってお礼を言った。



飛空艦までの帰り道。

片手でお菓子の袋を持って飴を舐めると歩いていて、Gは、あることを思い出した。





「……歳はいくつだ?」
「歳?12だよ」

「……そうか」



12……思ったより上だったな。




「あれ?・・・そーいやオレ、Gから話しかけられたの初めてだ」
「………そうか…?」

「そーだよっ!ずっとオレから喋ってたもん」



は飴を舐めるのもやめて嬉しそうに喋りだす。
Gは相変わらず無口だが、それでもが何か言うたびに、相槌ないし返事をする。

2つの影がだんだん背を伸ばしていく。
それと比例して辺りも赤みを帯びて暗くなっていく。


「Gってあんま喋んねーけど、なんで?」
「……面倒なだけだ」

「なんだよそれっ、変なの」
「………なにがだ…?」

「喋るのメンドくせーなんて変だって。絶対ぇ変!」
「……………」



が笑っている理由が分らないものの、Gもつられて微笑む。



「またGから喋ってくれね〜?」
「………?」

「だってすげぇ嬉しいんだもん!たまにでイーからさ。なっ?なっ?」
「……ん」

「マジ?やった!!」



嬉しさに任せた足取りではGの前に小走りで移動する。
Gより半歩先に足を踏み入れた原っぱには特戦部隊の飛空艦が
さも当然のように堂々と座っている。

その窓から漏れる光が、2人を迎えていた。



「あっ!!電気ついてる!リキッド頑張ってんだ」
「………ああ」
「ブレーカー直るまでリキッドがずっと放電すんのかな?」
「……多分な」
「ふ〜ん…ま、いいや。早く帰ってすし食おうぜ!」



今朝、ハーレムから逃げていたが壊してしまったブレーカーの代わりに
朝からずっと発電機になっているにも関わらず、壊した本人に全く気遣ってもらえないリキッド。
哀れとしか言いようがない。




「なになに?」


「今度…俺の作った服を着てくれるか?」
「うん!オレ全部着るからいっぱい作ってよv」
「わかった…今夜から作ろう」




俺はG。
ガンマ団特戦部隊の人間だ。

話すことはあまり好きではない。





「G、早く帰ろうぜ!!」
「ああ……」





だが…話して喜ばれるのは嬉しいと思った。










思うのは簡単なこと
話すのも簡単なこと
難しいのは伝えること
もっと難しいのはそれを受け取ること

嬉しいと思った一瞬が 伝わって受け取った瞬間
































―おまけ―



「店長〜。やっぱり警察に連絡を…」
「いや、しかし…一応その子も、その人達に着いていったんだろう?」
「でも!!明らかに真っ当じゃない人達でしたよ」

「う〜ん…黒づくめのレザー服の大男が3人で小さな子供を……確かに、怪しい」
「でしょう!!やっぱり通報した方がイイですよ!私してきます!!」

「待つんだ!万に一、普通の保護者だったらコチラの立場が…
 でも3人組の外人が子連れ…絶対に変だ…変すぎる。いやしかし…ッ」

「店長〜!!!」










―おまけのおまけ―


後日。


「チッキショー!!発電機から解放されたと思ったら今度はパシりかよ!!」
「リキッド〜♪オレ、グルグル飴が欲しい!!」
「まあそんくらいなら釣りでどーにかなるか…いーぜ。買ってやるよ」
「やったー!!」


「そこのキミ。悪いがちょっと職務質問させてくれないか?」
「へっ?俺?別にいーけど…何かあったんすか?」
「いやなに、最近ここらで誘拐犯を見たって通報があってね」
「へぇ。物騒だな」
「なんでも、そいつらの特徴は黒の皮服で大柄な男だとか…」
「黒の皮服ねぇ…って、それって……待て!俺は誘拐犯なんかじゃ…ッ!!」


「事情はゆっくり署で聞こう。キミはまだ若い。やり直しは幾らでもできる」
「待てって!マジ違ッ!!おい!!お前も説明してくれよ!!」


「リキッドどっか行くの?じゃあハーレムに『リキッドは買い物スッポかして友達と遊び行った』って言っとくな」
「お、おい!、待てよ!ホント待って!!」
「いってらっしゃ〜い。俺も飛行機戻ろっと。じゃーな〜」
―――ッ!!!」



その後、リキッドがどうなったかは謎のまま。