スプリングの緩いベッドに一人寂しく身体を預ける。
昨日までこんな時きまって遊べと言って来たアイツはもう外だ。

 
「あ〜ぁ、勿体無ぇの」


まあ女の子だし?
隊長命令じゃ逆らえねーし…俺自身もこれでイイと思ってる。

でもよ…あんなウルせぇのが居なくなったら誰だって変な気分だっつーの。


「まーた船ん中が男くさくなっちまうぜェ」


素直に寂しいと言えず、俺は自分にイイワケをした。














「ロッド、どこへ行く気だ?」
「ん〜。ちょーっとお姫様の様子見に…」
「さっき俺が行ったばかりだが……」
「そーだったっけ?まあいーじゃん、俺もの寝顔見ときたいし〜」
「もう5回ほど見に行っているだろう?」
「あれ?…いやーッわり、ここんとこ物忘れ激しくってさv俺そんなに行ってた?」
「ああ。リキッド坊やに続く記録だ」
「……いちいち数えんなよな、これだから陰険チャイニーズは…」



任務完了の報告を入れて数時間後、F国には大げさな人数の一般兵が送り込まれてきた。
そいつらに後を任せて俺は一番最後に飛空艦に戻ってきた。
談話室に入った俺が見たのは、やけに重たい雰囲気の野郎共だけで
万年元気な子猿ちゃんの姿は無かった。

嫌な予感はしたけど、一応聞いてみたら
隊長が一言「まだ起きてねぇ」って。



んでもって、俺が帰ってきてから更に半日以上が過ぎた今も
は起きてない。







「…このまんま起きなかったり、しねーよな」



ソファで一番暗い顔をしたリキッドがポツリと言った。

典型的にイタリア人気質のロッドには、こういうマイナス思考な発言は好きになれず
結果、わざといつもの調子で軽いトークに走る。



「そんな心配なら大好きなミッキーに頼んでみろよ。叶えてくれんじゃねぇ?」
「こんな時までからかうなよ!!」
「怒ると美容によくないぜぇ」
「テメェなぁ!!」



拳を握り締め、今にも殴りかかりそうなリキッドに対して
ロッドは自分でもビックリするくらいの安い挑発を返した。

それでも仕事後で興奮しているリキッドの頭の血を沸騰させるには十分だったらしい。
顔を真っ赤にさせて握った拳をロッド目掛けて…





「煩い」


―ゴオォッ!!



「「あっぢィィイッツ」」
「ロッド、ディズニー坊やで遊ぶのはいいが私の後ろで暴れるな。耳障りだ」
「あっ、もしかして坊やに妬いてんの?」
「燃え尽きてしまえ…」



ロッドは燃やされても平気な顔でマーカーに絡んでいって、更に強い炎の渦に飲まれた。
その間に消火を終えたリキッドが怒りに任せてマーカーに食って掛かる。



「いきなり何しやがる!!」
「騒いでどうなることでもあるまい…少し頭を冷やせ」



燃やしといて冷やせとは、何とも難しい事を言う。
マーカーの堂々とした説教のあげあしを取りたくて仕方ないロッドだが、
あえて聞き逃すことにした。


だが頭に血が上ったリキッドがそんな矛盾に気づくわけもなく
燃やされるのも考えず反論し続ける。




「下に医療チームだって居るんだぜ、そこに診せ行きゃ…」
「任務の終わった地に我々が行けば余計な混乱を生む。そうなれば任務は失敗だ」
「そしたらまた黙らせりゃいーだろッ!俺は行くからな」
「私が許さん」
「退けよ」



炎と雷が交錯する。
言うまでも無くマーカーの気の方が強い。
毒蛇のように鋭いその眼光に気おされながらもリキッドも負けじと拳の中で発雷する。


バチバチとプラズマが鳴きだした時
ロッドは視界の端に居た男が動き出した。

その男はプラズマを生み出している少年のすぐ後ろに行くと、
雷を生んでいる方の手を掴みあげた。



「…リキッド…心配するな…」
「するに決まってんだろ!!のやつもう丸1日寝っぱなしなんだぜ!?」
「落ち着け…」
「っ離せよ!!」



同僚の落ち着いた態度は、未熟なリキッドには嫌悪を抱くほど冷たく映ったらしく
その結果、軽蔑と憤怒の念がこっちに向けられる。

ピリピリと張り詰めた空気。


特にマーカーとリキッドの間の煮えくり返った雰囲気を肌で感じ
ロッドは誰にもバレないように薄く笑った。





俺けっこー好きよ、こーゆう緊張感。
…まあ今回は笑っちゃいらんねーけど。


坊やの言うとおりの寝方はかなり変だしな…。



どーしたもんか。









「お前ぇらイーかげんにしろ、給料下げんぞ」



今まで無言だったハーレムの言葉で一瞬にして部屋の空気が変わった。
すずめの涙にも負ける給料がこれ以上減ったらタダ働き以下だ。
金払って働くことにもなりかねない。




「おうリキッド、移動すっからコクピット行けや」
「…ドコ行くんすか?」
「本部だよ、本部」
「アンタまでのこと放っとく気かよ!?」
「誰もンなこと言ってねぇだろーが」



ハーレムはガツッと景気のいい音をさせて2色髪の目立った頭を殴ると
煙草の煙を深く吐き出しながら





「すッげぇーーー行きたくねーけど……高松のヤローに診せに行く」




そう言ったハーレムは本当に心の底から、思いっ切り露骨な顔で嫌がっていた。
聞いたロッドも一歩遅れて片頬をひきつらせる。



「うげ…あの鼻血ドクターのとこっすかぁ」
「そー言うな、あれでも変態じゃなきゃただの医者だかんな。
下のペーペー集団よか腕も確かだぜ………………………多分」
「最後のがめちゃくちゃ気になるんスけど…」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと動かしゃいーんだよ!!」
「う、ウッス!」



ダカダカとうるさく音を立てながらコクピットに走るリキッド。
部屋はとたんに静かになった。



「まーったく。俺らが心配してねーと思ってんのかねぇ、あのボーヤは」
「ククっ…」



咽を鳴らして笑うマーカー。
不覚にもガラじゃない発言をしてしまったことに気づいたロッドは
すぐに失態を取り戻そうと、マーカーに話しかける。



「そんな見つめられっと照れるんだけど、マーカーちゃん」
「大した思い違いだな。見つめてるのでなく見下しているんだ」
「言いたい事あんなら目じゃなくて口で言ってくんねぇ?」
「別にお前に言うことなどない…
ここに来る新入りは騒がしい者が多いと思っただけだ」


くそ、揚げ足取られんのが嫌だからって話逸らしやがった。
これだからチャイニーズは…




「っとに、毎日毎日うるせーったらねぇぜ」
「両方とも隊長がお持ち帰りしてきたんじゃないっすか」
「知らねえ。忘れた」
「なら捨てます?」
「ハんッ!俺は拾ったもんは返さねぇ主義なんだよッv」


隊長、40代でウインクは無理がありますよ〜。
ついでに言うと誤魔化してんのもバレバレ。

手放す気なんか更々ねーくせにv



「それに日本でも言うだろ。”捨てる神もいりゃ拾う神もいる”って!!」
「隊長、は兎も角、リキッドは捨ててあったわけでは無いと思いますが」
「俺が神だー!!」
「マーカー無駄無駄。このオッサン全っ然聞いてねぇから」
「あーん?ロッドォな〜んか言ったかぁ…?」
「なーんもvあっ、船動き出しましたね」




ロッドががハーレムにからまれる寸前で船が揺れた。


リキッドちゃんナイスタイミングv

お世辞にも心地いいとは言えない重力が全身にかかったのが船が上昇したことを告げる。
それに従って、だんだん右足に体重がかかっていく。








「……傾いているな………」
「あンの下手くそ…」



この時そのうち直るだろとタカをくくったのが間違いだった。








ガダン!
   ズがガガガゴごガっツ!!!







「なんだなんだナンダ敵襲か!?ものども出合え出合えーーv」
「隊長!日本映画の見すぎです!!窓の外をご覧下さい!!」
「窓ぉぉオォおおッ!?なんだって地面が見えんだ?!」



右窓を見てみれば、どの窓も地面しか見えない。

つまりアレだ。
飛空艦が右向きに斜めってる。



……そーいやリキッドに操縦一人で任せたことあったか?




「マーカー、リキッドに操縦…」
「私は教えてないぞ」
「G、操縦…」
「……いいや」
「隊長?」
「なんだって隊長の俺がンなことしなきゃなんねーんだよ、お前ぇらの仕事だろ」





一応言っておくけど…




「俺も教えてない…ってことは……」



ロッド、マーカー、Gの頬を嫌な汗が伝った。
部下達をニッタリ微笑ながら蛇のような舌をチロチロ見せるハーレム。



「こりゃ全員減給モンの失態だな…ノートどこだぁ〜v」
「って、そんなこと言ってる場合じゃねー!!」



そうこう言ってるうちにどんどん角度が深くなる。
家具やら荷物が右側に寄せ集まってく。

その時だ。
部屋の扉が壊れるほどの勢いで開いた。





「なぁー!なんか傾いちまったんだけど、どーすりゃいいんだよ?!」












ありえねぇって…









なんで、








なんでコクピットにいるリキッドが
















「なんでお前がココに来てんだっての!!」
「リキッド、貴様なぜ操縦桿を離れた!!」
「えっ?だって上手く上がんねーから聞こうと思ってよ」
「だからって離れんじゃねーッ!」
「………堕ちるぞ……」
「リキッドォォオ!てめーはむこう3年ただ働きだ!!覚悟しやがれッツ」
「そんなぁァアアァア―――――……」








next→