部屋で過ごす時間は静かだ。
静かなのは嫌いじゃない。だが賑やかなのも嫌いじゃない。
仲間と騒いだり俺に飛びついてくるアイツの賑やかさが好きだった…。
「…ッ……刺さった」
親指に赤い水滴ができる。
染みを作ってはアイツに着せられなくなってしまう……
Σっ!!
「…持たせれば…よかったか……」
既に出来上がった服を見て焦燥感が溢れた。
「…まったく突然来てなにかと思えば……」
「おっ、終わったか?」
「アンタら人の職場でなに勝手な事してんですか」
士官学校の保健室。
特戦部隊はを抱えて全員でここまで押しかけていた。
診察終えた高松がカーテンから出てきたのは
ちょうど一服し終えたときだった。
「そこの垂れ目、その苺のカップを使ったんじゃないでしょうね」
「使わせてもらったぜ、つーかお前も垂れ目だろ」
「きちんと熱湯消毒しておきなさい。さもないと…殺しますよ」
ギラッと殺意を灯した目をする。
ロッドがカップを見ると裏底に手書きで『高松へ』と書いてあった。
どうやらグンマからの贈り物のようだ。
「お前よくキれなかったな、グンマからのプレゼント使われたんだぜ?」
わざわざ火を熾そうとする隊長。
「仕事場を血で汚されたくないだけです…!
熱湯し終わったら、そこのアルコールに漬けておいて下さいよ。3日間は殺菌しますから」
「バイキン扱いかよ」
「あの、それでは?」
コーヒーのおかわりを命じられて薬缶が沸騰するのを待っていたリキッドが
落ち着かないようすで高松に問う。
「ああ、あの子だったら全く心配ないですね。するだけ損です」
「はっ?倒れてからもう1日以上過ぎてんだぜッ、てめーヤブだろ?!」
「…ハーレム、アンタ自分の部下の躾もできないんですか」
「マーカー、リキッド黙らせな」
「わかりました」
マーカーは言われたとおり一瞬でリキッドを黙らせた。
すぐにプスプスと焦げた音と焼肉のような臭いがしだす。
「嫌ですね、焼肉の臭いは残るんですから」
ふぅっ、と不機嫌そうに眉をしかめながら火元のマーカーを見る。
マーカーはそれに気づきながらも謝罪を述べることはない。
高松に背を向けて送られる視線を遮断した。
そんなマーカーの態度に不機嫌になることなく
高松は自分の椅子に座って
「それはそうと、あの子が倒れた原因ですけど…」
回転式の椅子をキィッと鳴らして机に向き直り
ハーレムたちを見ないままパソコンの電源を入れた。
「初潮ですよ」
高松のこの一言で、整った男達の顔が一気に崩れた。
「…は?」
「赤飯の一つでも炊いてあげたらどうです。
でも男所帯でそんなことしたら軽くセクハラですね…まあ貴方たちなら今更でしょう?」
「待てよ、が……なんだって?」
「だから初潮だって言ったんですよ、アンタ更年期障害ですか?」
すました顔で失礼極まりない発言をする。
一族の者以外でハーレムにこんなことを言えるのはこの男くらいだろう。
普段ならこんなことを言われれば
子供のようにムキになって勝てない口喧嘩を始めるハーレムだったが、
今日ばかりはそうはいかなかった。
最もハーレムだけではないが。
ロッドとリキッドは口を締まりなく開けて呆気にとられているし
マーカーも閉ざしていた目をこれでもかと見開いている。
Gに至っては見た目には全く解らないが
実は口に含んでいたコーヒーが鼻から出そうになるくらい驚いていた。
「マジ…?」
「初…潮…だと」
「ええ、間違いありません。でしたっけ?あの子いくつなんです?」
「……12…だと、聞いてる」
「それなら普通ですね。てっきり8歳くらいだと思ってたんで私も少し驚きましたよ」
高松は机で何かを書き出す。
その内にキーボードを叩きながら手元の紙と画面を交互に見る。
「まったく、貴方たちは健康診断も定期健診も来ないせいでカルテが更新されてませんよ」
「「「「「………………」」」」」
「新入り2人は作ってすらないじゃないですか」
「「「「「…………………」」」」」
「一応作るだけ作っときますよ。無いとなにかと不便ですからね、私が」
「「「「「……………………」」」」」
「…そう言えばこないだ作った寄生植物『New主Get』の実験がまだでしたね」
「「「「「………………………」」」」」
「折角ですから全員していきなさい、健康診断」
「「「「「いやだ!!」」」」」
5人の声が揃った。
自慢ではないが、この5人で気が合うなんてことは滅多にないことだ。
「いい年こいて我侭ですね。人の都合くらい考えたらどうですか」
「オメーのは都合じゃなくて道楽のマ・チ・ガ・イ・だッつの!!」
ハーレムは中指を立ててドクターに突っかかる。
だが高松はそれをあっさりかわして一定以上近づけさせない。
「その古典的すぎる挑発方法はもう古いですよ。年代の差を感じます」
「同期の桜がなに言ってやがる!」
「そもそも指で大きさを表すだなんて信憑性もくそもありませんね。
誰が言いだしたんですか、そんなしょーもないこと」
「俺が知るか」
ガンマ団きっての頭脳派、高松にかかれば話題のすり替えなんて楽なもの。
相手が肉体派のハーレムならなおの事だ。
「さてと、どうでもいい話題はこの辺にしときますか」
椅子から立ち上がったドクターは
カツカツと一定のリズムを刻んで歩き、ちょうど人が一人通れる程度に
ベッドを囲む、白く、良質なカーテンを開けた。
奥の窓を開けたらしく、外のヒンヤリした風が吹いてきて、滞っていた部屋の空気を換える。
ふわりと涼しげにカーテンが靡く。
「騒いだやつから実験体ですよ」
それだけ言ってカーテンの中に姿を消した。
ハーレムから手前に居た順に全員中へと入ると、狭い空間は人口密度が一気に上がった。
男達の中心には、柔らかそうなベッドで寝息をたてる少女。
「でかい男が5人も入るとムサいですね」
「自分も数に入れろや」
「私は医者ですよ」
「………」
Gは穏やかに眠っている顔を撫でるように触る。
僅かに目頭が動いたが、すぐにまた柔らかな寝顔に戻る。
まるで子犬のようだと思った。
「メンスねぇ…まあ当たり前だな」
ハーレムの言葉にGの手が止まった。
「こーしてると、ちゃんと女の子に見えるよなv」
「1年前に比べれば…だがな」
入隊後、数ヶ月間は男と思い込んでいたが
既に成長が止まった者の1年と、成長期の子供の1年とでは、
外見の変わる速度が全く違う。
が寝返りをうつと、その髪が枕に吸いつくようにもたれる。
ロッドが痛んでいると言って切ることになった髪。
今となっては痛んでる部分はほとんどなく、代わりに天使のような輪ができている。
光が透けた薄茶の髪は、を普通の少女のように見せる。
髪だけではない。
ふっくらしてきめ細かい肌触りの頬や、薄紅色の唇、ツンと上向きに沿った睫毛など
を構成しているパーツは、1年前で随分と少女らしくなっていた。
「どうするんですか?」
「……何がだよ」
「まだ連れまわすのかと聞いてるんです」
「そんな気にすることじゃねーだろーが、男だろーと女だろーと…はだ」
言い切る隊長の意見に部下の一人は無言で、
ある者は薄く笑いながら、ある者は歯を見せて、
またある者は意気込み強く
全員合致でうなづいて見せる。
だが、ドクターは呆れたような口調で話し出す。
「貴方たちはそれで良いでしょうけど、この子はそうはいかないですよ」
「不自由はさせねーさ」
金髪の男が胸ポケットから当たり前のように取り出した煙草は
火をつける前に男の手を離れ、
無残にも窓の外に投げ捨てられた。
一連の動作を行った黒髪の男の目が、ここが『禁煙場所』であると訴えてる。
「病人の前で煙草はNGです。そんな事も気遣えないのに、よく格好つけられますね」
「ぐぅ……;」
「そんなに気になるんですか?」
眠るをチラリと見て、
「この子供がどんなふうに咲いて、どんな実をつけて、その実がどんな味なのかが…」
妖しい微笑を含んで目を細めた。
「なっ!?そんなことねーよッ、ねぇ隊ちょ……ぅ…」
汚名を晴らそうと強く言ったリキッドだったが、リキッドと同僚上司の目が合うことはなかった。
ショックを身体全体で表すリキッドと、感心したように顎に手を当てる高松。
「見事に好色中年が揃ってますねぇ」
「隊長たちはともかくGまで……は俺が一人で守ってやる…!!」
軽蔑の眼差しを頑ななものにしたリキッドの恨みがましい視線を受けながら
Gは内心『を見てて目を合わせなかっただけなんだが…』
と弁解した。
口に出さないので全く無意味で終わるのだが。
「とにかく、この子が起きるまでに考えることですね」
「わぁったよ」
「マジック総帥とも相談したらどうです?」
「そーだな。が起きる前に…行ってくっか」
「それがいいですね。この子が起きたら飛空艦に戻るよう伝えといてあげますよ」
「いや、リキッド残してくから世話ねーよ」
「俺?!別にいいっすけど…」
「んじゃおめーら行くぞ」
ハーレムは性格通りの派手な手振りでバサリとカーテンを開ける。
マーカー、ロッドもそれに続く。
Gは最後にをもう一度見て、寝返りで乱れた布団をかけなおす。
「リキッドちゃん、せいぜい実験体にさないよーにねんvG、行こーぜ」
「………ん」
「心配しなくても監禁なんかしないで、ちゃんとそっちに帰しますよ」
名残惜しむようなGの動作に高松は珍しいものを見たとでも言いたさ気に笑った。
「よろしく頼む……」
「一応患者ですからね。それなり丁重に扱うつもりです」
白で統一された部屋にルーキー2人を残して
Gは部屋を後にして先に行ったハーレム等を少し早足で追った。
最後に閉めた扉が、やけに重く厚く感じた。
next→