心が帰ってこない。




、待てって!」

「いやっ!離してよ!」


捕まれた腕を

力いっぱい払いのける。


思いのほか、私の力が強かったことに

驚きが隠せない寿。
その目には、確実に不安が宿っている。

払われた自分の手と、

払いのけた私の顔とを交互に見て


寂しそうに私を呼んだ。



・・・・」

「ゴメン、でも・・・・私行かなきゃ」


「あいつか?」

「・・・・うん」


彼が。

ううん。

私が彼を求めてるから。



「俺じゃ、俺じゃあ駄目なのかよ・・・!」


叩きつけるように、

私に向かって

思いを叫ぶ。


それはとても居た堪れなくて、

悪いことをした気分になってしまう。


気分もなにも、実際に悪いのは私なのだろうけど。


寿がいるのに。

私は、彼のところに行こうとしている。


寿は悪くない。

悪いのは、私。



「寿。ごめんね」

「謝るくらいなら行くなよ」


行かないでくれ。

寿の目が、そう訴えてくる。


でも。

無理なの。


「私には彼が必要なの。彼だって私が必要なの!!」

「そんなのお前の思い上がりだ!」

「そんなことない!」

「ある!」

「ない!!」

「ある!!」


躍起になって言い返してくる寿が

どうしようもなく頭にきて


仕方ないじゃない、

私に必要なのは、貴方じゃないの。

彼なのよ。


「もういい!分かってくれなくていい!」

!!」


止める寿の声を振り切って

私は走った。


彼のいる所へと。


寿が私を呼ぶ声が遠くなる。

追いかけてくれないみたい。

どんどん遠くなる声。


戻って来い。

待ってる。


駄目。

そんな優しい言葉言ったら駄目なんだってば。

決心が鈍るから。

彼の元に直走る足まで鈍る。


裏切り者って口汚く罵ってくれればいいのに。

得意でしょ?

なんたって元不良だし。




「ごめん・・・・・ごめんね、寿」



一度だけ。


そう思って振り返ったら。






さっきまで私が居た場所には、

知らない人がいるだけで。


寿はいなかった。


悪いのは私。

なのに、寂しさが込み上げてきてしまうのは

私が我侭だから?



ふいに、寿とお揃いで買ったチョーカーのトップを触ったら

胸に後悔だけが残った。



「寿の、馬鹿野郎ぉ・・・・・・!」



自然と潤む視界。

馬鹿な自分に腹が立って、溢れる前に拭おうとした。



けど。



「どっちがだよ・・・・馬鹿野郎」



上から降りかかってくる大好きな声。

有無を言う前に振り向かされて


その顔を確認する前に、強く抱きしめられた。



「泣くくらいなら行かなきゃいいだろ」

「だって・・・・だってぇ・・・・」

「あー、わかったから。それより・・・・俺に何か言う事あるだろ?」

「ひさしぃ・・・・・・ごめん・・・ね」

「・・・仕方ねえ、許してやらぁ」


私の頭を撫でる寿の大きな手。

やっぱり、私は寿が一番好き。


改めて

それを感じた、とある日の出来事。








「ねえ彩ちゃん」

「なによ」

「三井さんとちゃん。何やってんの?」

「ああ、あれ?」


ちょいちょいと彩子が指差すのは・・・・

誰かが貼ったワールドカップのポスター。


ね、今日から始まるジーコジャパンの公開合宿を見に行きたかったらしいわ」

「ふーん。・・・・・って、それじゃあまさか・・・さっきのドラマがかった遣り取りって・・・」

「ほーんと流石は湘北きってのバカップルよねぇ、あの二人」

「確かに・・・。」

「あ、ほら見なさいよ。言ってる傍からまた・・・・」





「っておい!!お前行かないんじゃねーのかよ!」

「誰が行かないなんて言ったのよ!行くに決まってるでしょ!」

「お前はバスケよりサッカーなんかとる気か、この馬鹿女!」

「とるわよ!!今の私には寿よりも大黒さんや中村俊輔の方が必要なの!!
 そして彼らにも私という存在が必要不可欠なのよッ」

「必要なわけあるか!お前の応援なんか」

「う、煩ーい!!とにかく一回離れた心は帰ってこないのよー!!」

「あ!くそっ!!絶対ぇ行かせるか!」



今度は追いかけてくる寿。

大好きな人に追いかけられながら


私は福島行きの新幹線のチケットをぎゅっと握り締めた。




祝、ワールドカップ。

目指せ優勝ジーコジャパン。









あとがき。

ワールドカップ開催!!
代表合宿を見に行きたかったのは何を隠そう朝凪です。

悪質食堂はジーコジャパンを全身全霊かけて応援しております!!
頑張れ日本!!
バスケも好きだがサッカーも大好きだ!