え 涙して。


狭い部屋の中で

あたしは、どうしようもないくらい泣きたかった。


泣きたくて、泣きたくて


泣きたくて仕方なかった。



少しでも気を抜けば

目尻に溜まった水は、為す術なく流れ落ちて

あたしの頬を濡らすだろう。



それだけは絶対にしちゃダメだ。





大好きな人が、すぐ近くにいる

こんな時に涙なんて流しちゃいけない。




彼の熱い呼吸。

真剣な眼差し。

滴る汗。



我慢、しなくちゃ。


大丈夫。

こんな辛いことは、もうすぐ終わるから。


あと、

あと少しで終わるから。



彼を悲しませちゃいけない。

彼のやりたいようにさせてあげなきゃ・・・・



あたしさえ耐えればいいんだから。





漏れそうになる声を必死で堪えて

ぎゅっと自分の服の裾を掴む。


それでもやっぱり、


どうしても。







巧い・・・。


上手すぎて、あたしもう・・・・






「もうダメぇーー!!あははははははッツ!!ぶぁーはっはっは!!」


今まで我慢していた分、

たがが外れたように、あたしは笑った。


大笑いした。


驚いて彼・・・・牧さんは、あたしを見た。



「どうしたんだ?」

「だって、だって・・・だって牧さん・・・・・なんでそんなにタキツバ極めてんですか!」

「いや・・今時の歌の一つや二つ歌えないと思ってな」

「だからって何でタキツバ?!マジで可笑しすぎて・・・あたしもうダメっす・・・・・」



ああ。

本当に笑い死にしそうだ。


だって

あの神奈川の帝王、牧が


王子様ユニットのタキツバを熱唱。

しかも振り付けも完璧に。



これって誰がどう見たって笑いどころだよね?



「仕方ない。それなら違う曲にするか」


ヒクヒクと痙攣しながらソファに蹲って、

もはや笑う力さえ残っていないほどに消耗したあたしのために


牧さんはリモコンを手にした。


そして検索もせずに直接曲番を打ち込む。



タキツバの軽快な音が途中で鳴り止み

代わりに流れてきた南国チックなメロディー。

画面には金ぴかの着物姿の女性たち。


マジっすか?

これ以上、これ以上あたしに笑えと申すのですか、牧さん。



そんなこんな考えてるうち

牧さんはすっかりスタンバイしてマイクを握りしめて・・・・



「歌えアミーゴ!踊れセニョリータ!」

「やめてー!!牧さんのイメージがぁああああ!!」



あたしの叫びもむなしく

牧さんはノッリノリでマツケンサンバを最後まで熱唱した。


そしてやはり振り付けまで完璧すぎるほどにマスターしきっていたことを


ここに記します。




もう二度と

牧さんとカラオケ行くもんか・・・・。







*あとがき*

久々のスラダンがこれっすか?
ヤバイ・・・・牧さんを間違ってとらえてるよ自分。

世の帝王ファンに本気で土下座いたします。