てられないものほど 怖い。


「わかってくれよ、大学進学だってしなきゃだし、俺にとってはバスケも大事で・・・」

「うん。知ってるよ」

「どれか取るなんて俺には出来ない」

「・・・うん」

「何かを選んで何を捨てるなんて、いつか捨てたことを後悔するなんて嫌なんだよ」

「藤真・・・・」

「女々しいかもしれないけど、俺は、俺は、何かを捨てるのが怖い・・・」



「・・・あんたの言いたい事はわかった」

「本当か!?」

「うん。だけどさ・・・・」


ばしん!!


「それと自分のロッカーを片付けられないのとは別問題でしょーが!!」


あたしは物が溢れかえった藤真のロッカーを

渾身の力で張り倒した。


「うわ!何するんだ。中には俺の大切な物も・・・」

「大切なんだったら片付けんかい!!」

「だから俺は物を捨てるのが・・・・」

「言い訳すんな!!どーせ面倒くさいだけなんだろ!」

「ちぇ。バレたか」

「当たり前だ」


この汚いロッカー。

とてもとても神奈川バスケ界の王子様のマイロッカーとは思えない。


他の連中のが小奇麗に整頓されているせいもあってか

余計に・・・断トツで酷い藤真ロッカー。



張り倒したおかげで中の物はどんがらがっしゃんと崩れて

うわ・・・埃が待ってるよ。


転がった中身を指で摘み摘み漁れば

出てくるのはいらんものばかり。


封がきってあるスナック菓子。(中身は見ずに廃棄)

大量のプリント類。(宿題やら行事内容やらごっちゃごちゃ)

数か月分のマガジン。(意外?こいつ結構好きなんだよ、漫画)

未使用のようだが、薄汚れた気がする貰い物っぽいタオル・・・(おいおい、雑巾くらいにしかできねーぞ)

国数英の教科書・・・(裏返すと綺麗な字で一年三組藤真健司・・・)


「っておい!一昨年のかよ!」

「あ、そういえば持って帰ってなかったっけ」

「そういえば・・・じゃないの!!まだ去年のならわかるけど何だって二年越しの教科書なんかが」

「去年のはちゃんと捨てたぜ、自販機のゴミ箱に」

「あの名無しの教科書お前か!ちゃんと分別しろって、あたしが用務員さんに叱られたんだぞ!」

「そうだったんだ。サンキュー」

「爽やかに笑ってんじゃねーよ、このエセ王子様が」



「でも好きだろ、、俺のこと」




・・・・・・・・・・・・・。

ああ、ああ、ああ・・・・


なんで知ってんだよ馬鹿野郎・・・。



、顔真赤」

「・・・るさい」

「どうしたんだよ、いつもの威勢は?ん?」

「ーーーっ!!うるさいうるさいうるさーい!」

「のわっ、汚ぇッ!」


恥ずかしさに負けて

あたしは手元のゴミ山から次々に物を投げつける。

それを辛うじて避ける藤真。

あー、もう、ムカつく!


「ちょ・・・タイム、待てって」

「やだ!くらえ、いつのだか知らない飲みかけドリンクボトルーーー!」

「げっ!?」


流石にこれをくらうのは嫌だったんだろう。

お綺麗な顔がモロに歪む。

けれど情けは無用!


っ、

構えたあたしの腕が、捕まれる。

一瞬だった。

ぐるんと振りかぶっていた腕を回されて

体勢を崩したあたしの視界には床だけが広がった。


やべ、転ぶ!?

変な体制だから受身なんてとれないし、これじゃ鼻から顔面土下座じゃん。

カッコ悪っ!


意外と冷静に頭の中に巡って

けれどどうもできず覚悟を決めてギュッと目を瞑った。



「・・・・・おっ!」


少し高い藤真の声がした直後、柔らかな衝撃が身を包む。

すぐに抱きとめられたんだと気付いた。

部活中すっ転びそうになるたびに、時々タイミング良く近くにいるやつが同じことをしてくれるから。

けど、


「んっ・・・!?」


直後の唇への異変は、未体験ゾーンだ。

思わず瞑っていた目を見開くと

そこには毛穴一つ見当たらない真っ白な肌をした美少年。

床とキスするはずだった鼻は、今、藤真の鼻とキスしてる・・・。


っていうか、今あたし藤真とキスしてる。

むしろされてる・・・・・。


「ンゥ・・・っ、ふ、・・・じまァ!」

「あ、もうちょっといいじゃん」

「っ、よくない!あんた何を・・・ばっ、変態!!」

「変態は酷くない?転ばないように助けてやったのに」

「それはありがとう、でもキスはいらないでしょ!」

「ああ、・・・まあいいじゃん」


にこっと微笑みながら事もあろうに「まあいいじゃん」って。

この軟派野郎が!


「信じらんない!最悪だもうっ」


ごしごしと唇を袖口で擦る。

痛いけど、それよりなにより、今のは無しだ。

そう、無し!


「・・・・最悪?なんで?」


きょとんと目をまんまるくしてこっちを見る。

くっそー、可愛いじゃねーか。

そこらの女の子よかよっぽど可愛いわ!


「なあ、なんで最悪なんだよ」

「うわっ、顔近づけんな、離れてよ!」

「いやだ」

「やだって、・・・・こっちがもう嫌だよ、お前が嫌だ」


近づく顔を直視なんてできなくて目を背けると

ぐりんと無理矢理顔をそっちに向けさせられた。

両方のほっぺが藤真の意外と細くも華奢でもない筋張った手に包まれる。

そして濁りの無い茶色い瞳が真っ直ぐと・・・


「ーーーーーッ、」


とかなんとかしてたら、またキスされた。

何だってこいつはいちいち突然なんだ。

しかも、なんかヌルって・・・舌入れてきたぞ、マジか?!

あたしのセカンドちゅうが!!


いやいやいや、そもそもファーストキスもだって!


「・・・むぅっ、・・・・・んー・・ッん」


結構長く続いた(いやまあ、キスの平均時間とか知らないけど)キスはやっと終わってくれて

だけど相変わらず藤真の顔は数センチ先にいらっしゃった。


「なあ、わかった?」

「・・・・なにが」

「俺さ、やっぱ全部は捨てられない」

「は?いきなりなに」

「まあ、そういうことだから・・・・じゃあ先に体育館行くな」

「はいっ?ちょっとおいコラぁ!」


意味不明なことを喋るだけ喋って、さっさと出て行ってしまった。

ばたばた聞こえる藤真の足音。あいつ逃げやがった・・・。


ぽつんと部室に残された、あたし。



「・・・・・ふぅ・・・・・・・・」


吐き捨てた溜息。

なんなんだよ、あいつは。


いつまでもヘタリこんでるわけにはいかない。

あたしだって部活に行かなきゃ。


「取り合えず、片付けよ」

重い腰をあげて、いらないゴミばかりの山を片付ける。


「はい、これもいらない、これもいらない、これも・・・・・ん?」


積もった山の中から見つけたゴミの一つに見覚えがあった。

これは、確か二年の冬。

雪が降ってた日に、あたしが作った校庭の隅に作った雪だるまの目にしたマグネット。

わざわざマジックで真ん中に黒目が書いてあるから間違いない。


「なんでこんなのが・・・あれ?」


そういえばさっき見た映画の半券も、

テスト期間の金曜日で部活が無いからって、二人で観に行った映画だ。

それに、これだって・・・あたしがお土産をすっかり買うのを忘れた旅行土産・・・八橋の箱。
(ちなみに旅行先は九州)
(そうです、帰ってくる途中の新大阪で買いました)
(花形とか呆れて突込みの一つもしてくれなかったよ、普通にありがとうってだけ)

ん?

よくよく見てみれば、全部あたし絡み・・・か?

先月からのマガジンはあたし一緒に読んでたし

プリントは、あたしがコピーしてあげたやつかも。

お菓子は、そういえば先週あたしアレ部室で食べてたわ
(部活終わって戻ったら無くなってたからてっきり花形が捨ててくれたのかと9

タオルは・・・・あんま覚えてないけど、

教科書は、あたしと藤真が唯一同じクラスで隣の席になった一年の時のやつ。

よく忘れて見せてもらったっけ。



もしかしなくても・・・・藤真ってあたしのこと好きなのか?

まあ嫌われてはいないだろうと思ってけど、

うん、これは予想外だぞ。

普通に嬉しいぞ。


さあて。

この赤い顔でどうやって部活に出ようかな・・・。



まあ、取り合えず。

ナマモノは流石に捨てとくからね。


あと空き箱とか、食べ物関係。




ニヤケながら鼻歌交じりに藤真ロッカーを片付けるあたしを呼びに来た花形が

「やっとくっついたか」

なんて部室の外で言ってたのを、あたしは知らない・・・。











END


あとがき

藤真さーん、朝凪の中では、意外とズボラで、意外と大雑把で、意外と奥手で、だけど大胆で。
ギャップの多い彼です。
今頃彼はやっぱり顔を赤くしながら、でもやけにすっきりした雰囲気でビシビシ後輩をしごいてる事でしょう。
二年以上の片思いをぶつけて、しかも好感触で、しかも美味しい思いもできて
身も心もウッハウハだと思います。