620日 決勝リーグ1戦目 vs湘北 ラスト5秒




88−90





「あっ!?」







試合は




「あ―――――つ」






湘北の桜木のパスミスで






「試合終了――――!!!」







ウチが勝った。












「勝っっっったぁぁあああ!!!!」


あたしは持ってたスコアノートを頭の上に振り上げて飛び跳ねた。


汗だくの選手がベンチに走って戻ってくる。


「ノブ勝ったよ!ウチが勝ったんだよ、解ってる!!?」

「ったりめーだ、かーかっかっか!」



興奮状態で点数のところを何度も指差してノブに見せる。


テンション最高のノブもあたしの髪をグシャグシャ撫で回す。




「清田、整列するぞ。とくっつくのは後にしろ」

「牧さん!別にくっついてなんかないっスよ///」



顔を赤くしながら牧さんの後ろを犬みたいに走ってくノブ。




はは、本当に勝ったよ。

みんな凄すぎ、牧さんも神さんも高砂さんも宮さんも

ノブもカッコよかった



バスケしてる姿はみんなみんなカッコいい


あれ?ノブが三井さんと何か喋ってる…


最後の3Pのことかな?

あたしからはノブの背中しか見えないから、何してるのかまでは分からない




「これで終わりじゃねえ、決勝リーグはまだ始まったばかりだ」


ノブを見てたあたしの耳に入ってきたのは、湘北の赤木さんの男らしい声。



「泣くな」


誰に言ってるかは、見なくたってわかる。




ごめん、桜木


でも…ありがとう








「それでは両チーム整列!!」


「「「ありがとうございましたっ!」」」


終わった。

結果だけ言えばウチの勝ちで、湘北の負け

だけどそれだけじゃないのは…この試合を観てた人なら誰だって

誰だって…







「お疲れ様でしたー!」

目頭の熱をふききる思いで笑って、コートに出た選手みんなにタオルを配る。


「ありがとう、ちゃん」

「神さんお疲れ様です!」

っ、タオルくれ」


試合後なのにやたら元気なノブ。


「アンタには一番最初にあげたじゃん」

「いーからもう一枚寄こせ」


ずいっ、と右手を突き出してくる。

初めに渡したタオルはしっかり左手に巻かれて…



巻かれて?




「ノブそっちの手見せて」



あきらかに不自然極まりない。

汗だくなのにタオルを首に引っ掛けないで手に巻くなんて

何かあるって言ってるようなもんだ。



「…やだ」

「怪我したんでしょ、突き指?」

「イイって!!」


嫌がって逃げる手から引き剥がしたタオルは、一部分だけ赤くなっていた。

バツが悪そうに顔を背けるノブ。

爪か…


「爪くらい自分で切りなよ」

「自分で切ると深爪するから嫌だ」

「だったら夕べのうちに来りゃいーでしょ」

「行ったら寝てた」

「なら起こせ!ったくもー…ん?」


ふと気づくと、ベンチから引き上げる準備をしていたみんなの視線がコッチに注がれてる。

一番近くに居た監督は、折れた扇子を広げるが扇子の意味は限りなくゼロに近い。


「…清田」

「何すか?」

「お前まさか高校生にもなって に爪切ってもらってるんじゃ…」



何でか監督は恐る恐る聞く。

みんなからも、変な緊張感が滲みでている。



「そ〜っスよ」



あっけらかんとそう答えたノブの声は、そんな空気の中によく通って聞こえた。




「牧さん、あたしノブ水道に連れてきますね」

「あっ…ああ、俺たちは先に戻ってるからな」

「はい!んじゃ行くぞ猿」

「こんなん痛くねーよ」


この期に及んで子供みたいなことを…


「痛い痛くないの問題じゃないの!ですよね、牧さん」

「行って来い清田」

「ぃ嫌ッス…」

、早く連れてけ」

「はーい」


ノブの背中を押して、出てきた時と同じ扉をくぐりコートを後にする。

誰かのため息が聞こえたのは気のせいだろうか?






「よけーなお世話なんだよ」

「はいはい、すみませんね」


血の出ているノブの中指を引っ掴んでセット。

そっと蛇口を捻る。

水についた瞬間、ピクッと反応したとこからして痛くないってのはウソ

どーせ消毒するのが嫌だったんだろーな。



チョロチョロ流れ落ちる水には、赤い血が混じっている。



「痛そ…」

「だぁーから!」

「ノブが痛くなくても見てるあたしが痛いの」

「…そか」



今更だけどノブの手、熱い

さっきまであんだけ走り回ってたんだもんね



の手冷てー」

「あんたの手が熱いんだって」

「あ〜、やっぱイテぇかも…」


かも、じゃなくて痛いんでしょ。



それだけ必死だったってことか…



「最後の、ナイスプレイだったよ」

「トーゼン!何たって神奈川のゴールデンルーキーだからな!」

「最初のダンクも…でも」

「でも?」




「牧さんへのあのフォローはヒドいでしょ〜」

「ありゃ赤毛ザルがっ!」

「にしても『これでもれっきとした』ってのは追い討ちだよ」



「怒ってねーよな牧さん…」

「怒ってないだろけど、きっと傷ついたよ。『じい』だもん…ぷっ」



笑いが堪えられずに顔がほころぶ。


だって、ねぇ?


「でも始めて見たときは、あたしも先生かと思ったし。桜木くんの気持ち解るなぁ〜♪」

「牧さんに言ってやる」

「Σげっ、待った!今のナシナシっ!!」



けどホントに、試合中あんなに笑えることなんて滅多にあるもんじゃない

面白い経験できたよ。

桜木って変わってる、とつくづく思う。

桜木…


「…泣いてたね、」

「可哀想とか言うなよな」

「言わないよ。勝負だし」



そう、勝負に可哀想もくそも無い

勝ちたいのはコッチも同じだし、何より勝ち負けあってこそスポーツ



努力すれば勝てるなんて甘いもんじゃない。




でも、あたしも泣きそうだった





あたしが湘北のマネだったら泣いてた。






もしあれが信長のことだったら泣いてた。





「ノブがあそこで桜木をからかったら、殴り行ってたかもしんない」

「…するかよ、そんなの最悪じゃねーか」

「うん」



知ってる


ノブは馬鹿だけど、人の涙を笑うような馬鹿じゃない



負ける悔しさを知ってるから。



負ける辛さも知ってるから。



全力でぶつかって、それでも負けた時の痛さを知ってるから




流川に負けたときも何回も何回も泣いたから



最後の最後でのパスミス。


桜木もノブと同じだったんだろーな



自分が情けなくて


負けたのが悔しくて悔しくて悔しくて…





「赤毛ザルのヤツ、くやしかったろーな」



ポロっとノブが伏せ目がちに言った。


凄いさり気なくだったけど、確かにそう言ったのを聞いた。


ノブが表現できる精一杯の優しさなんだと思う



「そだね」って同意したら、大げさな声で「だからって別に応援なんかしねーけどなっ///」って付け足した。



「何はともあれ、1勝おめでとう」

「…賞品」

「は?まだ優勝してないよ?」

「今日勝った賞品くれ!!」



いつもはボールを掴んでダンクしてる両手

それがあたしの頬をふんわり包んだ。

左側と右側の頬でノブの体温が違ってる。

なんか変なカンジ。



「ひひっ、スケベ〜」

「賞品もーらったあ!」



ノブの手に自分の手を重ねて、笑う時と同じふうに目を瞑る。

目の前のノブが屈んだのか、あたしの場所に影ができ…




「賞品ってことは俺も貰えるのかな?」


後ろから声。


あたしもノブも、目を開けずにはいられなかった。


キス直前の近さでバッチリ目が合って恥ずかしい…


なんて、呑気なこと考えられない。



「ノブ…あたし後ろ向けない」

「俺も顔あげられねえ」



じんわり汗が垂れる。

固まってるあたしは、後ろの誰かの手で真上を向かされた。



そこには…あたしとノブが慕ってやまない先輩の、素敵すぎる笑顔がありました。



「俺も欲しいなvv ちゃんのキス」

「神さんっ本気すか?!」

「俺はいつでも本気だよ信長」



既にあたしは、完全に神さんの方に振り向かされて、肩を抱かれてる。


ちゃん上向いてみて」

「はい?狽チっ///」




んぎゃあああ――――――――――――――――――っっ!?!?!?!?!?

神さんのベビーフェイスが5cm先にぃぃぃいい!!!!!




「だぁぁあー!神さん近い近い近い!!」

「キスするのに近いも遠いも無いと思うけど?」

「うあぁあっっ!!!神さんストップ、ストォォオッップっ!!」



絶叫を聞きつけた牧さんが来て、その場が収まったのはそれから間も無くだった。



牧さんは半分呆れてて「ほどほどにしろよ」とだけ残して、神さんを連れ帰ってっくれた。








「ふう…助かった〜、牧さんマジ感謝!!」


「どーかん、神さん心臓に悪いんだよねぇ…」




「ノブそ〜いや血止まった?」

「おう、いつの間にか止まってた」



左手をまたタオルで、ぐちゃぐちゃにくるむ。

キレイなタオルだけど清潔感はないぞ。



「んじゃ、控え室戻って消毒しよっか」

「拍チ毒なんかココでやりゃ…」

「ざ〜んねん、救急箱忘れたから無理だ」

「ちぇっ」



拗ねてる、拗ねてる。



「帰ったら爪切ったげるから」

「自分で切るからキスさせろ〜」

「本当に切るの?」

「いや、 に切らす!」






左手はタオルでドラえもん化。

右手はあたしの左手と一緒。

戦後のヒトトキ。





END