さて、ここで問題です。
Q1…今日は何の日でしょう?
答え。
四角関係幸福論
「あーッ!チキショー、流川め!!」
「ちなみに前半終わったトコで流川16得点、ノブは8得点。…見事にダブルスコアだね」
「うるせー、後半3分で追い越してやっから見てろ」
15分あって8点なのに3分でそんな取れるか。
はベンチで騒ぐ清田の相手を止め、ベンチの隣のパイプ椅子に腰掛けて
自慢の扇子を扇ぎながら嫌な汗を流す監督の正面に立つ。
その表情はなんとも不服に満ち溢れていた。
「監督、そろそろ神さん温存すんの止めません?」
「ぐ…しかし赤木くんの居なくなった湘北相手に…」
「負けますよ。こっちだって牧さんも高砂さんも武藤さんも宮さんも引退してんですから」
「だが…」
「新チームになった早々負け星でいいんですか?!」
先々週、冬の選抜も終わって、3年生は本格的に受験体制に入るため男バスを引退した。
神がキャプテンを受け継いで、新たな海南バスケ部のスタート。
そして今日は新チームにとって初の練習試合。
相手は湘北。得点現在は36対31。
湘北リード。
「今負けてんの余裕ぶって神さんを温存してる監督のせいてすよ」
さっきは厳しく当たってたが5点差で済んでるのは、清田が流川にマッチしながらも
他のカバーまで頑張ってるおかげだ。
3年の抜けた穴を埋めようと清田なりに必死なんだろう。
だがそれも限界。
今までロクにやったことの無い周りのカバーという負担で、かなり疲労しきっている清田に、
向こうのマネージャーの活が入ってパスの冴えて出した宮城や
時間がたつごとに動きがよくなる流川
加えて流川に対抗して闘志を燃やす桜木
その3人を同時に止められるわけがない…。
相手は曲がりなしにも全国1位と戦ったやつらだ。
そんなの相手に清田が一人で足掻いたって、後半に行けば点差は開くだけ。
それは監督もとっくに分かっているはずだ。
他のメンバーに経験積ませたい気持ちは分るが…、
清田以上にの方に限界が来た。
「監督…10点開いたらあたしが出ますよ」
監督の額に脂汗がにじむ。
ある者は顔を拭く手を止め、またある者はドリンクを口から溢す。
暴れ喚いていた清田も引きつった顔でを見た。
常識から言えば、試合にマネージャーが出れるわけ無い。
だがは一度出たことがある。
まだ3年が居た頃の話であるが、
あれは…正式な練習試合を終えた後でやった、流しのゲーム…ようは遊び試合の時だった。
ベンチで出たいと騒いでいたを見て相手校の監督がOKをだしたのだ。
それで仕方なく俺も監督も許可した。
それが間違いだった。
が湘北ベンチに狙うような目を向けると、焦った清田がの前に立ちはだかる。
表情は脅えているが…
「っ、試合してーなら帰ってから俺が相手してやっから!だから今は大人しくしてろよ」
「やだ。出るッたら出る」
「また練習試合の相手してくんなくなったらどーすんだよッ」
「湘北は平気だよ、だから安西先生のとこ行って聴いてくる!」
「あ―もうッ!神さんも監督も止めて下さいよ!!コイツ本気っすよ」
清田の言うように、どの選手よりも20cm以上小さかったが、自慢の機敏な動きと技で
相手校を捻じ伏せた。
その高校は2度と練習試合の申し入れを受けなくなった。
なにもが俺たちより強かったわけじゃない。
ただ、は巧かったのだ。
俺たちとの連係や、相手の裏をつくプレイが…コート上の誰よりも。
「………仕方ない…神、後半いくぞ。…もこれで文句無いな?」
「はい、ありませーんv」
パタパタと疲れたようすで扇子を扇ぐ監督にニコニコ返事をする。
一安心の一同。
そんな中、一人だけと同様に満足そうに微笑んでる人物がに話しかける。
「ありがとうちゃん。出番来なくて退屈だったんだ」
「お礼なんかイイんですって。あたしが負けるのヤなんですから」
「俺が出てるだけじゃ勝てねぇみてーに言うな!」
神との会話に清田が不満全開な声で割り込む。
自分を過小評価してることに怒っているのか
あるいは自分の彼女と仲良さげに話す神に怒っているのか
はたまた両方なのか。
「でもノブの個人プレイだけより、神さんとノブの連係プレイもあった方がいいじゃん」
「まぁな。俺と神さんが揃えば県で最強だぜっ」
怒っていた清田を上手い具合に言いくるめるの話術は、相変わらず見事なものだ
再認識すると、思わず笑いがこぼれた。
「それじゃあこの試合、絶対負けられないな」
「そーですよ、新星海南バスケ部の初試合は白星って決まってんです」
「信長、ちゃんのためにも頑張らないとね」
「ったりまえっすよ!俺の華麗なプレイちゃんと見とけよ」
後半線開始のブザーが鳴り響く。
コートに出た清田は早速流川にケンカを売りに行って桜木と口論になっている。
肝心の流川は無視してサークルにつく。
「清田信長ーッ!ケンカなんかしてないで、さっさと位置付け馬鹿!!」
ベンチからが叫ぶと、2人はこっちを見る。
「馬鹿っつーな、恥ずかしいだろっ」
「恥ずかしいんだったらケンカすんな、後でトイレでやれ!」
「それじゃリンチじゃねーか馬鹿!」
「お前に馬鹿って言われたくない馬鹿猿!!」
言い負けして悔しそうにする清田の肩を桜木が楽しそうに叩く。
弱みを見たりと言いたげな目。
「ははは!さては尻に敷かれてるな、情けない。所詮は野猿だな」
「あんだとー!!彼女もいねーお前に言われたかねーっつの!!ふられ男!」
「ぬっ!この天才に向かって、俺には…ハっはは、は春子さんという…」
髪の毛と同じくらい顔を赤くして、湘北ベンチを横目で見る桜木。
視線の先に居た一人のマネージャーが桜木にエールを送っていた。
あれが例の赤木の妹か…本当に似てないな。
宮城と神がうるさい2人をいさめて、やっと後半戦が開始された。
さて、俺もベンチに行ってみるか。
こんなところに居たら誰にも気付かれないしな。
ベンチの真後ろの扉に寄りかかっていた人物が、ゆっくりたちに近づいていった。
「ったく、進歩しないなぁ。あの2人」
「それはお前もだろ?」
桜木と信長のコント染みた言い合いにカリカリしていたが、何気なく呟いた独り言に
後ろから降りかかる声が答えた。
こないだまで毎日のように聞いていた声。
低くて含みを持った
妙に落ち着きのある…
「……。」
考え込んだ後、ベンチに深く座ったまま顔だけ上を向いたの目に映ったのは、
「どうした?」
「Σまっ牧さん?!」
元キャプテン牧紳一…その人だった。
は、大急ぎで立ち上がって背後の牧に向かって敬礼する。
それにつられて他のメンバーも大きな声で挨拶をすると、試合中の選手も気づいたらしくベンチに注目する。
中でも信長はマッチアップしてるにも関わらず、意識を相手から完全に離していた。
「牧さん!なんでココに?!」
「ノブ!あんたは試合に集中!!ほら流川にやられるぞ」
「Σ誰がヤらすか!!おらぁッ」
信長はシュートフォームだった流川にチェックを入れるが、勢い余って突っ込んでしまった。
豪快なファアルだ。
「こら清田!シュートチェックは‥」
「シュートチェックはもっと早く!!そんなトコで無駄なファアルするなッ」
高頭の言いたいことを代わりに言って信長を叱咤する。
出る幕無し。
中途半端に立ち上がったまま、監督としての役目をに取られた高頭は、黙って椅子に座りなおした。
牧もコレには苦笑いするしかなく、の頭をポンと叩く。
「あっ、ごめんなさい今すぐ椅子用意します!」
頭を叩かれたことに何を勘違いしてか、一目散に湘北のベンチに走り、
アヤコから受け取った椅子を担いで戻ってきて、監督席とベンチの間のスペースに置いた。
牧は監督に挨拶してから『すまんな』とに一言添えて座る。
「でもビックリした〜。制服なんで一瞬どこの父兄かと思っちゃいましたよ」
「最初の間はそれか…」
「そんな顔しないで下さいよ、ちょっとリーマンと間違えただけなんですから」
そっちの方がショックだ。
それはさて置き、試合に目を戻せば点差がなくなっていた。
が牧の相手をしている間のスコアボードを見ると、神が3点を信長が2点を決めていた。
「頑張ってるみたいだな」
「そりゃ3年生が居たチームより強くなろうと必死ですもん」
「特に清田は…か?」
ギョッとして牧を見る。
その顔はどうして知ってるのかと聞いている。
「お前を見れば分かるさ、清田の練習に随分付き合ってるんだろ?」
「なんでそんなことまで知ってんですか?!」
「そんなに湿布を貼ってれば誰だって気づくぞ」
「……ノブ毎日『牧さんを超える!』って部活後も頑張ってますよ」
白状するようには緩く笑いながら言った。
多用される天真爛漫な笑い方でなく、どこか成長を見守る母親のような穏やかさを含んでいる。
「だからタマには部活顔出してシゴいてやって下さいね」
「落ち着いたらな」
「それまではあたしが調子乗らないように厳しく躾ときますから」
今度はいつもの明るい笑顔。
マネージャーで動いてるとはいえ、毎日ハードに鍛えてる信長の練習に付き合えば
筋肉痛になるのは当たり前。
それでも相手になっているあたり、も楽しんでいるのだろうと牧は思う。
「ところで牧さん、なんで試合してるの知ってんですか?連絡してないのに…」
「ああ。それなら図書館の帰りに聞いたんだ」
「へぇ〜」
監督命令で今回の試合のことは3年には知らせなかった。
知らせれば大切な勉強時間を削ってでも全員が見にくるだろうとと見越した監督の配慮だ。
しかし来てしまったのを追い返すわけにもいかない。
それに牧は色んな大学からのオファーもあるので問題ないと高頭も何も言わなかった。
も誰に聞いたのかは知ってもしょうがないと思い聞かなかった。
「もし腑抜けてるようなら激励でもしてやろうと思ってたんだが…余計な心配だったか」
「腑抜けてんのなんか居たら、あたしが根性叩きなおしますって」
「頼もしいな」
「なんたって敏腕マネージャー目指してますから!」
横でシャーペンをクルクル回しながら、定期的に選手を応援するを見て微笑む。
何も心配する必要は無さそうだ。
よく働いて、よく気がついて、よく声を出す。
こんな頼りになるマネージャーに恵まれてこいつらは幸せだ。
「かーっかっかっか!!この清田信長がいる限り、新星海南にも敵はなーし!!」
「神さんのが点取ったのに、なーに偉そうにしてんだバーカ」
「2人とも周りの家に迷惑だ。静かにしろ」
「クスクス、牧さんその格好だと、俺たちの保護者みたいですね」
「「ぎゃははは!神さん言い過ぎ」」
「笑うな」
解散後、いつもの3倍比で華やぐ信長の自意識過剰な発言と、それに比例して鋭くなるの突っ込み。
2人を注意する牧に、確信的にヒドいことを言ってのける神。
OBの目も加わったことで、コートの選手たちには良い刺激になり、試合は熱戦を極めた。
時間が過ぎれば過ぎるほど点の取り合いに拍車がかかり、
ラスト3分は練習試合とは思えない盛り上がりだった。
だが、盛り上がりに反して、点を取り合えば取り合うほど、その点差は広がる。
理由は2点と3点の差。つまり、
シューターの有無。
三井の引退した今、湘北にシューターは居ない。
試合は6点差で海南の勝利に終わった。
「つーか牧さん、なんで試合してんの知ってたんすか?」
と同じコトを聞く。
「それあたしが聞いた」
「俺は聞いてねえ」
「図書館帰りに試合のこと聞いたんだって」
「誰にだよ?」
「えっ…それは〜……」
牧の代わりに信長の質問に答えていたの口が止まる。
助け舟を求めるべく牧の顔を見た。
「湘北の応援に居たあの4人だ」
「あ〜、前に赤毛猿とパチンコしようとしてたやつらか」
「あの不良っぽいやつら?」
「そ〜そ〜、そいつら」
並んで歩きながらケラケラ笑う信長と。
そんな2人を微笑みながら見守る神と牧。
傾いた夕日が4人の影を引き伸ばす。
灰色のアスファルトに濃く映る影法師の一つが、横の一番小さい影法師に同化する。
「ノブ!重いッ、あたしだって自分の荷物持ってんだよ」
「俺は試合で疲れてんの!!たまには労わってくれたっていーだろ」
「信長がのしかかったらちゃんが潰れるよ」
「練習試合なんかで疲れてるようじゃ流川には勝てないぞ」
「そっそんなコトないっす!今日だって後半アイツ抑えましたよ!!」
から離れて牧に弁解しだす。
信長の背中にお返しとばかりにが飛びついた。
「テメッ!!馬鹿、さり気に膝蹴りすんな!」
「女にテメエなんて言うもんじゃないぞ」
「やーい怒られてやんの、やっぱ野猿だね」
「ちゃんもスカートで膝蹴りなんてしちゃ駄目だよ」
「そーだそーだ!もっと女らしくしろ」
「お前こそ少しは人間らしくしてみろ、そしたらあたしも女らしくなってやるから」
街頭に明かりが灯る。
オレンジ染みた暖色系の光が薄暗い空に包まれながら淡く輝りだす。
冷たい空気の中には声がよく通る。
「ぶぇっぐしょん!!」
「オヤジくせぇくしゃみ…スカートなんか穿いてっからだ」
「制服なんだからしょーがないじゃん…うあ〜サビィ…」
冬を示す乾いた風が露出された肌には痛い。
口から出る白いもやは子供だましの温かさだけを手に残して消えていく。
ガラにもなく足を閉じて…と言うか、擦り合わせて寒さを少しでも誤魔化そうとする。
その行動は少しづつエスカレートしていき、どうにか体を温めようと
3人の歩くスピードに合わせてモモ上げをやりだす。
このまま行けば数秒後にはフルマラソンでもやりだすのでは…。
「、これをしてろ、少しは違うだろ」
「これもどうぞ。ちゃん」
制服に良く合うグレーのマフラーを首に巻きつける牧。
材質のいい白い手袋を握らせる神。
はまだ温もりの残るその防寒具を慌てて返そうとするが、
2人の笑顔を見て黙って甘えることにした。
特にマフラーを貸してくれた人は次の春には甘えられなくなる人だから。
持ち主の体温の移った防寒具を幸せそうに装備する。
「神さんも牧さんも、どーもありがとーございます」
「女の子が体冷やしちゃ大変だからね」
「神さん優しい〜!そ〜れに比べて…」
「なんだよ、その目。寝坊した自分のせいじゃねーか」
そう、今日は大寝坊をした。
こういう日に限って信長は先に駅までランニングがてらに走って行ってしまい交通手段も無い。
高校は行ってから整備してない自転車は使える状態じゃなかった。
仕方なしに駅まで走ったが、駅入り口に着いたとき電車は既にホームに到着しており、
人を何人かひいたり、階段を5段抜かしで飛び降りたり、走り出した電車のドアを叩いたりして、
なんとか乗り込んだのだった。
急ぎのあまりコートもマフラーも手袋もカイロも持ってこなかった。
走ってたせいで汗だくだった朝とは違い、まともな神経の今は寒さを体感する。
今は冬真っ盛り。
制服だけでは寒すぎたので、先輩2人のプレゼントは救いだった。
「あ〜、あったけぇ。幸せ〜」
「お前なぁ、牧さんと神さんが風邪引いたらどうすんだよ。ほら返せよ」
「あっ…そっか。牧さん受験生だし神さんもキャプテンだもんね、風邪引かせたら死刑もんだよ」
最もなことを言われて素直にマフラーをはずしだすが、牧はその行動を制止させて、
はずしかけていたマフラーを丁寧に巻きなおした。
神もそれに便乗して、まだはずして無かった手袋もしっかりとはめさせた。
「清田、お前は余計なことを言うな」
「俺たちは鍛えてるし平気だよ、だからちゃんがしてて」
手袋の上から手を握って言う神は今の時期に似合わないくらい優しく温かい。
は厚手の布越しに感じる体温に甘えそうになる気持ちを抑えて、マフラーと手袋を取り払った。
「駄目です!!牧さんはともかく誰が見たって神さんよりあたしの方が頑丈ですよ」
そう言うものの差し出す手は寒さで無意識に震えている。
そんな手から返してもらうわけにはいかず、2人して困った顔をして受け取るのを躊躇してると
の頭にバサッとなにか被さった。
「代わりにこれ貸しといてやるぜ」
「はぁ?!コートなんか脱いだらノブが風邪ひくじゃん!」
「が着りゃいーんだよ、彼氏命令だから言うこと聴け」
「なんだそれ、んじゃ彼女命令!ノブが着ろ」
「が着ろ」
「ノブが着ろッ」
コートをめぐって譲りあいの口論が勃発。
まるで小型犬と大型犬がケンカをしてるようだ。
「まあまあちゃん、信長だって彼氏していたいんだろうから甘えておきなよ」
「でも…ノブだって一応レギュラーだし…」
「一応じゃねえ、あとただのレギュラーじゃなくってエースだっつの」
「それに風邪引くとここぞとばかりに甘えてくんですよ、一緒に居ろとか、お粥食わせろとかって…」
「清田…」
「時々ですよっ!ホントたま〜に!!」
「病気を利用するなんて信長も結構ちゃっかりしてるね」
「コイツが優しいのなんか風邪ひくか、誕生日くらいなんすから、いーじゃないっすかァ!!」
必死で自分の正当性を通そうとする犯罪者のごとく言い訳する。
その間、神がに信長のコートを着させボタンを留めていく。
兄が幼い妹にするような行為に、は顔どうしたらいいか分からず困り果てていた。
「あ、あの神さん。自分でやりますよ…///」
「あれ?着れるの?いつまでたっても着ないから、てっきり一人じゃ着れないのかと思った」
「俺がコート貸したのに…これってイジメだよなぁ」
の頬が寒さとは違う理由で赤くなる。
なんともご満悦そうな神は、自分に向かってチリチリと嫉妬の炎を燃やす信長の視線すら楽しんでいる。
牧は自分いた頃(と言ってもたった2週間前だが)と何一つ変わらない3人に懐かしさと、
「(俺がいなくなっても何も変わらないか…)」
疎外感を覚えた。
「華の女子高生を、幼稚園児扱いすっか……ちょっと切ない」
「だってちゃんも信長も一個下には思えないし…ね、牧さん」
「っ、…ああ、そうだな。お前等小学生くらいからやり直したらどうだ?」
いきなり話を振られるも、出来るだけ平然を装った。
不敵な笑顔を向けてくるこの後輩に感ずかれたくない一心だった。
「ほら、牧さんだって俺と同じ意見だった」
「牧さん酷すぎッ!」
「嫌なら歳相応の行動をとるんだな」
「それ牧さんに言われたくねーッすよ、牧さんだって歳不相応じゃないっすか」
「ノブだめっ!?それ禁句!!」
「やべっ!!!」
慌てて口を塞ぐ信長。
牧はどんよりした空気を背負いながら『やっぱり老けてるのか…』なんてぼやいてる。
バックで誰かが『そんなの今更じゃないですか』とか言ってた気がするのは、きっと気のせいだと思う。
「クスクス…はい、出来た。やっぱり信長のじゃ大きいね」
マフラーまで可愛く巻きなおした。
なんで女子高生巻きが出来るのかはかなり疑問だが、あえて突っ込むまい。
「すんごい動きづらい…」
「そんくらい我慢しろよ、俺が貸してやったんだから」
「うん。ありがとー」
身長180cmにピッタリのコートは、当たり前だがにはダボダボで、その上…重かった。
それでも寒さは緩和されて確かに温かい。
の鼻を仄かなミントの匂いが突付く。
余ってる袖口を空気が入らないように閉じて、温もりを堪能する。
「あったか〜、ぬくいぬくい」
「それ俺の愛なv」
「清田、俺たちが居るのを忘れてないか?」
「俺って目の前でイチャつかると壊したくなっちゃうんだよなぁ…知ってた信長?」
「すんません、勘弁してください…」
「あ〜あ、早く帰ってコタツでゴロゴロしたい〜」
「そーいや昨日愛媛のおじさん家からミカン送られてきたぜ」
「もっち食べ行く〜♪」
「神さんと牧さんも寄ってって下さいよ」
「ノブのおじさん家のミカン美味しいんですよ」
先を歩いていた後輩2人が同時に振り返ってきてニコやかに笑いかけてこられて、思わず頬をかく。
向けられる笑顔が嬉しくもあって、寂しくもある。
横を見るとやっぱり笑ってる神と目が合った。
「どうします牧さん」
「いいんじゃないか?清田の家に迷惑じゃなければだが…」
お互いに顔を見合わせ分かりきってる意見が確認された。
「「よっしゃー!!」」
目の中に星を灯した2人が勝ち試合後にやるようにバチッと手を合わせた。
何がそんなに嬉しいのかと戸惑う。
それも飛び跳ねて喜ぶと信長を見ていれば説明がついた。
「実はこないだとダンレボ買ったんすよ、しかもパネルセットの!」
「そんで牧さんのダンレボ姿をぜひ拝見したくってv」
「それなら4人でリーグ戦形式でやろっか。罰ゲーム付きでね」
「神さんさっすが〜!それ面白そう」
「いいっすよね、牧さん」
「ああ、やったことは無いが見たことはあるし、なんとかなるだろ」
一度OKしてしまった以上、今更断りづらい。
しかも、こんなに喜んでる姿を見せられてしまっては、嫌とはいえない。
それに可愛い(?)後輩とこうして帰ることも話すことも間々ならなくなる今後を考えれば、
牧とて断る気は起こらなかった。
むしろ嬉しいとさえ感じる。
自分が完全にこの関係から居なくなった時に、一体どんなやつが代わりに入るんだろう…
考えるだけで悔しくなる。
この幸せな時間が止められないなら、せめて、今を楽しみたい。
そう思わないとやっていられなかった。
「それに牧さんが大学行っちゃったら、ろくに会えねーもんな」
「あたし4人で帰ったりバスケすんの好きなのに」
「大丈夫だよ、2年経てば嫌でもまた4人揃うよ。信長が1回で卒業できればね」
「出来ますよ!…多分」
正体不明の不安が…消えた。
こいつらは俺の心が読めるんだろうか?
欲しかった言葉をあっけなくくれる。
あまりにも自分らしかぬ、その感情から
救い出してくれる。
「お前ら…今からそんなことでどうするんだ」
口では偉ぶって、今更ながらに先輩風を吹かせてみるが、
「清田もも2年になるんだ、神はキャプテンだしな。まずは高校でやることをやっておけ」
嬉しくて嬉しくて…嬉しくて堪らない。
4人で居ることを望んでいたのが自分だけじゃなかった。
それだけで、さっき3人を見ていてふくらんでいた孤独感が疎外感が消失感が…
全ての不安が幸せに変わる。
「でも、牧さんが卒業するまで出来るだけ一緒に居たいんすよ」
「バスケだけじゃなくって、どっかに遊び行きせん?」
「今度4人で遊園地とか行きましょーよっ、牧さんの推薦決まったら、お祝いに!」
「あたし山行きたいな、人里離れた山奥地!」
蛇口を捻ったように話がと清田の口から流れ出す。
出てきた話はどんどん飛躍していく。
いつ行くか、本当に行けるかも分からない遠出の計画に、あっという間に華が咲いた。
「行くならやっぱ泊まりがいいっすね」
「が居るからそれは無理だろ、問題になる」
「牧さんかったーい。合宿とかで寝食ともにしてるんですから、もう今更ですよ」
「それとこれとは話が別だ」
「日帰り旅行なら俺は春スキーがいいな」
「俺は露天風呂に入れるゆっくりできるところが…」
「カニ!カニ料理食えるとこ!!」
「んじゃあゲレンデのある露天風呂つきで夕飯がカニ料理の旅館に決定!!」
清田の家までの10分間
体も空気も寒かったが、不思議と心だけは温かかった。
俺にとってお前たちの代わりはいない
お前たちにとって俺の変わりはいない
点の位置が変わっても四角形は四角形のまま
これを幸せと呼ばずにはいられない