25、ためらわない、迷わない
「そのうちの一人が、今、この私の目の前に居てくれている人で、もう一人が、私が 選ばなかった人よ。」 そう、マリアに想いの丈をぶつけられてからいくばくかの時が経った。 そのマリアからの一世一代の告白を、元々から彼女に好意を持っていた僕は すんなりと受け止める事ができ、 ―――そして次の瞬間に自分の腕の中に飛び込んできた彼女の様子に、この想いは間違いでは無かったと確信したものだ。 それから僕達は、ヴァンガード二号星にて一緒に暮らし始めた。 ・・・『運命』なんて大それたものからは切り離された、ごくごく平凡な人としての 未来を築くために。 もっともそこに落ち着くまでには、 皆からの盛大な祝福、 大人気なく泣くクリフの成敗、 狂乱のソフィアが杖(※ATK1000×2+バトルブーツ×6)を振り上げ追いかけてくるのを マリアが犬神家の一族に処したり、 きっと感動のせいだろう、リーベルが泣きながら走り去ったり、 ・・・とにかくそういった多少の騒ぎはあったものの、結果的には全てが 何の問題もなくすんなりといったのだった。 「う〜ん・・・」 柔らかい布団の中で、脳が眠りからの覚醒と、眠りへの執着、 その2つの狭間に飲み 込まれている心地よいようで苦しいような、 相反する気持ちを味わっていると、隣にいる筈の愛しいひとがいないのに気付いた。 おそらくもう先に起きて、キッチンのある一階で家事か何かを始めているのだろうか。 「・・・・・・家事・・・うーん・・・・・・」 なんとなく、マリアって低血圧かなあとか今までは思っていたのだがそうではなく、 意外にも早起きだ。 一応二人で時々戦闘訓練はしているものの、 専業主婦に近い役割をこなす事になった彼女は、家事を色々と・・・・・・ 家事を色々と・・・・・・・ 家事・・・・・・・・・・・・? 「っつうぇっ!?」 焦りからいきなり出した声が間抜けだとは自覚しつつも、 そんな事を気にしている事態ではない。 マリアが家事!?いやそれ事態は別になんともないというかそういう事をやってくる 機会が無かった彼女の不器用な姿を見るのが可愛かったり、 とにかく平凡な生活を味わうスパイスとしてお互いに役立ってくれているので何の問題もない。 問題なのはその内容。今は体が目覚めたばかりだから朝なのだが、朝にする家事といえば、 @洗濯・・・別に何の問題もない。 A食器洗い・・・昨日、洗っていなかったらやるだけの話だ。 B朝食の準備・・・・・・ コ レ だ !! WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!と、体内の危険信号発信サイレンが久方ぶりの警告を発するッ!! あ、ちなみにこのサイレンが働くのは以前ソフィアに睡眠薬を飲まされネコミミを装着させられて迫られた時以来だ。 その時はその危険信号を何故か外部からキャッチしたマリアが飛び膝蹴りをソフィア にかまして窓から叩き落した(そしてやっぱり犬神家の一族に)。 それはともかく、マリアは料理がはっきり言ってしまえば下手である。 さり気なくアルベルよりは上のスキルレベルを保っているとはいえその手付きは見る からに危なっかしく、 いつ野菜ではなく見知らぬ誰かを三枚おろしにしてしまわないかとかなり不安。 おまけに・・・味覚がその、かなり個性的だ。 僕が作ったものは何でもかんでも、お世辞ではなく本当にうっとりとした表情で「美味しい」と言ってくれるのだが、 マリアが自分自身で作った薄緑(蛍光色)のナニカを「食べにくい」でぺろりと平らげてしまった時には色んな意味で不安になったものだ。 そしてそんな彼女が朝食ッ!?やばい、最高級にやばい! 目玉焼きはプルっとした食感の心地よい白身ゼリーとなり、トーストはイカスミソー スに改変される!いやむしろ改悪。 そんなものは断じて朝食として認められるべきではないと検察側は最高裁へ上告する次第でありますッ!最高裁って何さ。 彼女を止めなければ。この思いにためらいはない。迷いもない。僕の生命が懸かってるから当然だけど! そう・・・正に彼女こそ、 「マ、マリア!早まっちゃ駄目だ!!」 仰向けに寝転がったベッドの上で背面飛びを一発打ち、自慢ではないが、昔からバスケットボールで鍛えられた筋肉はいとも簡単に体の上の布団を跳ね飛ばす。 そのまま空中でくるりと一回転してして、木の床に「ズダン!」という音を立てて両 足で着地する。 そしてついお約束で両腕を上げて、体操選手の、イェーイ成功したぜー、のポーズ。 「ってそんな事してる場合じゃないよ!?」 遅れてその事に気付き慌てて駆け出そうとして――― 「・・・そういえば。」 勢いよく地面に素足を押し付けた事で、頭部の方にまで伝わった振動がいい具合に寝 ぼけた脳を直撃してくれたか、一つの忘れていた事実を思い出した。 そういえば自分は、ここに来たばかりの時に彼女の料理の腕を見かねて、色々と教えたのだった。 正しい包丁の持ちかた、常識的な味覚はどんなものか、美味しい味噌おでんの作り方、エトセトラエトセトラetc・・・ 「・・・失礼な事考えちゃったな。」 一人で勝手に暴走してしまった事に赤面する。まあマリアに見られていなかったのを せめてもの慰みとして、 寝巻きから普段着に着替えて一階へと降りていく。 すると丁度マリアが台所にいるところで、黒い色で右胸のあたりに刺繍のある、大人 しいデザインのエプロンをつけたマリアが朝食を作っていた。 エプロンは僕がプレゼントしたもので、それから料理の時には必ず付けてくれているのには嬉しさを感じる。 「あ、おはようフェイト。」 「おはよう。マリア。うーん、いい匂いだね。」 「今日は味噌汁にお魚とご飯で・・・純和風にしてみたわよ。」 そういって、もう出来ていたのかすぐに台所からそれらを運んで来てくれる。 うん。本当に美味しそうだ。いい香りの湯気を立てる味噌汁、程よく焼けた魚、艶やかなお米。 何もかもが申し分ない。 「じゃあ、食べようか。」 「うん。」 「「いただきます。」」 声が重なった。 「ところでさっき二回から物凄い音が聞こえてきたけど一体何だったの?」 「あ、う、えーと、寝ぼけてたから気付かなかったけど、僕がベッドから落ちたん じゃないかなあ。あはは。」 ―――本当に何だったのかなあ?という顔を取り繕うのは案外難しい。 ■ 長年クォークのリーダーとして「己」を殺してきて、常に他人のために動いてきた癖なのか、 マリアは何か悩みがあっても自らに溜め込んでしまい、それを吐き出す手段もないままに己の中で消化不良を起こしてしまう事がある。 今もほら、マリアは胸を両手で抑え、何事か考え込んでいた。一人で悩む、その事による孤独な胸の苦しさを味わっているのかもしれない。 そういう時は僕に遠慮なく相談して欲しいと言ったお陰で彼女は心なしか明るさが増してきたような気がするが、 またたまにこういう事があるから安心できない。 ―――今まで苦労ばかりだったマリアに、人並み以上の幸福を与えてあげたい。 そのために。僕は彼女のためにこの人生を尽くす―――この思いにためらいはない。 迷わない。 だから、今も正に胸に手を当て何事悩んでいる表情のマリアに、自分から声を掛ける事にした。 彼女の方から言う事を失念しているのであれば、僕の方から問うてあげるのが一番いいだろうから。 「マリア、いくら小さくたって、胸は胸だよ?」 ・・・そして僕は知る事になる。 ビンタで人は死ねると。 視界に映るもの何もかもが紅い、美しい世界の中へと叩き込まれつつ僕は思った。 「これって、トリビアになりませ・・・・・・・ぐぷぅ!」←トドメ (※執筆者あとがき) やっちまった!感が強いです(笑)シリアスお題でこれだけの悪ノリ。 フェイマリファンの皆様が許して下さると嬉しいです(死) あ、ちなみに自分的フェイマリ夫婦新婚生活はこれが毎日な感じです。 いくら破壊の限りを尽くされてもしぶとく再生して、いつの間にか仲直りしてます(ぁ 一応、甘々推奨派な人なんで・・・w |