リサイタルに寄せて       小林道夫

 芸大に、30年続いたバッハカンタータクラブがあります。大勢の優秀な演奏家たちが、在学中に籍をおいてくれていました。現在は、恐らく今までで一番勢いのある時機のように見えます。桐山建志君は、在学中このクラブの中心的メンバーの一人として、現在の隆盛を築く非常に大きな力でした。今でもOBとして、他の沢山の演奏家達と一緒に、我々のクラブに積極的に力を貸してくれています。

 コンサートマスターとして合奏をまとめてゆく力や、カンタータの中の独奏部分、協奏曲のソリストとしての演奏には目を見はらせるものがあり、一時期、日常の練習での指揮者にえらばれて活躍しました。学外での仕事で一度、小さなリサイタルをお願いしたことがあって、その時も、音楽の面での出来は勿論のことですが、飾らない開放的な人柄が、集まった人達にとても喜ばれました。

 コンクールでの素晴らしい成果は、むしろ当然のことかも知れません。しかし、桐山君は、バッハやバロック音楽ばかりでなく、それ以降の音楽すべても守備範囲として視野に入れていますし、独奏ばかりでなく、室内楽奏者として、本当に室内楽や合奏を愛する音楽家として貴重な存在です。

 今回のリサイタルは、若い、勢いに乗った「時分の花」を充分に味わわせてくれるに違いないのですが、長い経験を積んで、50代、60代になって円熟した演奏家になった桐山君、失礼、桐山氏を想像すると実に満たされた気分になります。たとえ、私自身はもはやその場には居ないとしても。

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