プログラム
Programm

G.F.ヘンデル:ヴァイオリンソナタ第4番ニ長調 作品1-13
Georg Friedrich Haendel:Sonate für Violine und bezifferten Baß Nr.4 D-Dur Op.1-13

Affettuoso − Allegro − Larghetto − Allegro

ヘンデル(1685−1759)は、ドイツのハレに生まれ、晩年はロンドンで活躍し、オペラやオラトリオといった作品を数多く残した作曲家である。

15曲の旋律楽器(フルート、オーボエ、ヴァイオリン)と通奏低音のためのソナタ集作品1の中に、ヴァイオリンソナタは六曲含まれているが、そのうち自筆譜が残っているのはこの第4番のみ、その他にヘンデルの真作と判っているのは第1番イ長調作品1−3の一曲、残りの四曲は、早くから偽作であることが知られていた。

このニ長調のソナタの自筆譜には、「独奏とチェンバロのソナタ」と記されているが、他のソナタと同様に、通奏低音を低音弦楽器(チェロやガンバ)で補強したり、またはチェンバロなしで、ヴァイオリンとチェロの二重奏として演奏することも可能であり、むしろその方がこの曲には相応しいと思われる。というのも、通奏低音のパートが単なる伴奏ではなく、フーガやカノンの技法を用いてヴァイオリンパートと対等に扱われているからである。

なお終楽章は、自筆譜に三カ所鉛筆で消されている部分がある。ヘンデル自身による書き込みの可能性があるので、その部分をカットして演奏されることも多いが、今回はカットしないで演奏する。

H.I.F.ビーバー:描写的なソナタ イ長調
Heinrich Ignaz Franz Biber:Sonata representativa in A

ビーバー(1644−1704)はその当時、ドイツ圏で最高の技術を誇るヴァイオリニストであった。彼はスコルダトゥーラ(変則調弦、通常と違う調弦で演奏すること)を多用した。代表作「ロザリオのソナタ」では、15曲すべて異なった調弦法を用いて、独特の神秘的な響きを得ている。また、その15曲のあとに続く無伴奏の「パッサカリア」は、世界で最初の、大規模な無伴奏ヴァイオリン曲で、後のバッハの無伴奏曲に、多大な影響を及ぼしている。

このソナタは、通常の調弦で奏されるが、様々な動物の鳴き声などを描写した、楽しい曲である。登場するのは、「ナイチンゲール(Nachtigal)」「カッコウ(Cu Cu)」「蛙(Fresch)」「雌鶏(Die Henn)と、雄鶏(Der Hann)」「ウズラ(Die Wachtel)」「猫(Die Katz)」それに「銃兵の行進(Musquetir Mars)」、そしてドイツの舞曲、アルマンド(Allemande)で曲を閉じる。

J.S.バッハ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタホ短調 BWV1023
Johann Sebastian Bach
Sonate für Violine und Bassocontinuo e-moll BWV1023

Allegro − Adagio ma non tanto − Allemanda − Gigue

ヘンデルと同じ年、ドイツのアイゼナハに生まれたJ.S.バッハ(1685−1750)は、ヘンデルの生地ハレから、わずか30kmほどのライプチヒなどで活躍したが、生涯ヘンデルと会うことはなく、またヘンデルとは対照的に、一度も国外に出ることはなかった。200曲を越えるカンタータや、多数のオルガン曲を残しているが、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタは、2曲だけ残っている。この2曲では、通奏低音の数字が単に和音を示すだけでなく、その和音の配置や、時には対旋律の音形まで現している。また、ト長調(BWV1021)のソナタは、バッハが弟子達に課題として与えたといわれている通奏低音で書かれており、他にも同じ低音で作られたソナタが残っている。

今日演奏するホ短調のソナタは、ト長調に比べて演奏される機会がとても少ないが、いかにもホ短調らしい内面的な深い感情を持った、それでいて強いエネルギーを感じさせる名曲である。

G.Ph.テレマン:トリオソナタ第6番 ヘ長調(1718)
Georg Philipp Telemann:Trio Nr.6 für Violine Violoncello und Bassocontinuo (1718)

Allegro − Soave − Presto

北ドイツの作曲家テレマン(1681−1767)は、当時もっとも人気があり、数千曲ともいわれる作品を残しており、たいていの楽器編成の曲はテレマンの作品を探せば見つかるともいわれている。また、彼はパリで活躍し、フランス風の作品も多数残している。

この曲は、1718年に出版された、トリオソナタ集の第6番である。このソナタ集は、ヴァイオリン、もう一つの旋律楽器(オーボエ、リコーダー、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ファゴットまたはチェロ)と通奏低音のために書かれている、一風変わった曲集である。チェロを旋律楽器として用いたトリオソナタは他にはあまり例が無く、また気軽に楽しめる作品である。

J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番ハ長調 BWV1005
Johann Sebastian Bach:Sonate für Violine Solo Nr.3 C-Dur BWV1005

Adagio − Fuga − Largo − Allegro assai

無伴奏ヴァイオリンのための作品は、ほとんどがバロック時代、または近現代に生み出されている。バッハ以前には、ビーバーの「パッサカリア」をはじめ、ピゼンデルなど、ドイツ圏の作曲家が作品を残しているが、バッハの6曲の無伴奏曲(ソナタとパルティータ)は、それらの集大成といえる傑作である。特にパルティータニ短調の終楽章「シャコンヌ」と、各ソナタの第二楽章におかれているフーガは、ヴァイオリンの技巧と対位法が高度に組み合わされた大作で、ヴァイオリン音楽の最高峰といっても決して過言ではない。中でも、このハ長調ソナタのフーガは、演奏時間が10分にも及ぶ長大なものである。

T.ヴィタリ:シャコンヌ ト短調
Tommaso Vitali:Chaconne in g

ヴィタリ(1663−1745)の「シャコンヌ」といえば、モダンヴァイオリンとピアノのために編曲されたものがあまりにも有名であるが、原曲は、謎の多い曲である。

まず、この曲がヴィタリの作品であるかという点にも、疑いがもたれている。作曲者の自筆と思われる手書きの譜面が残っているのだが、臨時記号の付け忘れはもとより、明らかに書き間違いと思われる箇所が多く、作曲者の意図したものが何であるのか、はっきりしないところも多い。また、ヴァイオリンと通奏低音というバロックのスタイルで書かれてはいるが、バロック時代にはほとんど見られないような遠隔調への転調など、内容的にはロマン派的な要素もある。

今回は自筆楽譜のコピーを基に、ベーレンライター社から出版されている原典版を参考にして、自分で作成した譜面を使用する。

ブルージュ国際古楽コンクール

  桐山 建志

 ブルージュ国際古楽コンクールは1964年から開かれ、ここ数年は、3年おきにオルガン部門、チェンバロ部門とピアノフォルテ部門、旋律楽器と声楽部門が、それと平行して室内楽部門が行われています。昨年は、声楽、旋律及び低音楽器、リュート部門と、室内楽部門が行われ、ソロ部門は124人がエントリーしていました。毎年日本人の参加者も多く、今回は17人でした。三日間の一次予選の後、二次予選に進んだのが19人(うち日本人3人)、本選出場者は7人(私の他にフルートトラヴェルソ、リコーダー、声楽が各2人)でした。

 伴奏者は、公式伴奏者に頼みました。公式伴奏者との練習はそれぞれの予選前に練習室で一回と、たった数分間の会場練習だけなので、ちょっと不安でしたが、特に二次予選の時の伴奏者は素晴らしく、私の能力を十二分に引き出してくれるといった感じで、とても弾きやすく、今回の受賞は彼のおかげでもあると思います。

 あらゆる楽器が一緒なので、審査する方も大変だと思いますが、参加者にしてみれば、課題曲の難易度など不公平だと感じる部分もあります。審査員もその辺を考慮してくれたのか、本選での私の演奏は、完成度はそれほど高くなかったと思いますが、あの難曲をこれだけ弾いた、という評価もあったのではないかと思っています。

 結果発表は普通、下位から順番にすることが多いのですが、ブルージュでは、一次予選通過者を表彰したあと、いきなり第一位から発表になりました。しかも、予選を通過した日本人は3人とも入賞(第二位に前田りり子さん、第三位に菅きよみさん、2人ともフルートトラヴェルソ)、お互いに以前から知っている仲間だったので、嬉しくて、もう四位以降の発表は、ほとんど耳に入らない状態でした。

 これからは、自分で道を切り開いていかなくてはなりませんが、この結果に相応しい演奏が出来るように、努力を怠らないようにしたいと思っています。

 

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