Q & A

バロック楽器とモダン楽器の違いについて教えてください。  時代と伴に広くなった会場、大編成になったオーケストラ、等のため、より音量が出るように改造され、まだ管楽器の場合は、出しにくかった音も容易に出せるようにするため、キーが付け加えられ、弦楽器の場合は演奏を容易にするために、肩当て、顎当て、エンドピンなどが発明され、現代の楽器ができあがってきました。

 以下は、ヴァイオリンについて、私が2年ほど前に書いた文章です。

 ヴァイオリンという楽器の、はっきりとした起源、発明者はわかってはいない。恐らく、16世紀前半に、それ以前に存在していた様々な弦楽器、ルネサンスフィドル(fiddle)、リラ・ダ・ブラッチョ(lira da braccio)、レベック(Rebec)などの特徴を、併せ持つ楽器として、完成されたものと想像される。既に16世紀中ごろには、楽器本体は、現在のヴァイオリンとほとんど変わらない、高度に完成されたものが出来上がっていた。現在でも、最も良い楽器として使われているものは、16世紀から17世紀にかけてのクレモナの制作者たち、アマティ(Amati)、ストラディヴァリ(Stradivari)、グァルネリ(Guarneri)一族等の手によるものである。

 18世紀以降、楽器に加えられた改造(ここではあえて改良という言葉は使わない、なぜならこの改造によって失われたものも少なくないと思うからである)は、

  1. ネックが長くなり、胴体に対して角度がついた(右図参照)。
  2. 駒の形・高さが変わった。
  3. 魂柱や、力木が太くなった。
  4. 指板が長くなった。
  5. 顎あて、肩あてが発明された。

などである。音域の拡大のために、指板は長くなり、楽器をより簡単に支えるために、顎あてが使われるようになったが、そのほかは、大ホールでの演奏やオーケストラ編成の大型化、などの理由によって、より大きな力強い音が求められた結果、このような改造がなされたのである。そして以前に作られた楽器にも、特にすぐれた楽器ほど、このような改造が施され、バロック時代のままの姿で残っているものは、残念ながらほとんどない。そのため、現在バロックヴァイオリンというと、一度モダンに改造されたものを元に戻して使うか、バロックのスタイルで新しく作られた楽器を使うことになる。

 より大きな音を求めた結果、楽器よりも大きな変化をしたのは、弦と弓である。 弦は、最初はガット(羊の腸)弦が使われていた。低い弦(ヴァイオリンではG線)では、早くからガットに金属などを巻いた、巻線が用いられていたが、次第にほかの弦も巻線が使われるようになり、今世紀に入ってから、主にE線は、スチール弦が使われるようになった。また最近では、ナイロン弦もよく用いられている。これは、スチール弦やナイロン弦は、ガット弦に比べて湿度や温度変化の影響を受けにくく、より安定した性能が望め、切れにくいという理由もある。

 弓は、18世紀後半フランスで、トゥールト(Francois Tourte 1747-1835)によって、ほぼ現在の形のものが生まれるまで長さ、重さ、形など定められたものがなかった。下図にバロック、クラシック期の典型的な弓の形を示すが、このほかにも年代によって、また制作者(というよりは奏者)によって、また演奏する曲のジャンルによって、様々な形が存在した。バロック時代のものは、概して現在のものよりも短く、軽く、張りが弱いものであったが、より力強さと操作性を求めて、いろいろなタイプの弓が試されていったものと思われる。

2000.2.17

 私には以前からの最大の疑問があります。

 それは調のニュアンスです。つまりロ短調は****を表現する。ニ長調は****の気分を表す。などと言われていますが、私が聞いた体験では、確かに短調・長調の違いはありますが、初めの音が高いか低いかだけで、みんなおなじ様にしか聞こえません。

なにか、昔のヨーロッパの人達には、そう聞こえる理由が(宗教的?)があるのでしょうか?それとも、調律などの関係で、じつは違う旋律だったのでしょうか。

 調性によるニュアンスの違いというのは、もちろんあります。

 それは、ただ単に音の高さの違いから来るものではないのです。その理由は、一つは調律法の問題があります。

 現在は、ピアノは12平均律に調律されていますが、昔は違いました。同じ半音でも、広い半音と狭い半音と、在ったのです。したがって、例えばニ長調の主和音は、明るく響きますが、変ホ長調の主和音は、それと同じようには響かなかったのです。

 もう一つの理由は、楽器にあります。弦楽器の場合、開放弦は、指で押さえた音とは、明らかに音色が違います。管楽器の場合、それぞれの楽器に鳴りやすい音、鳴りにくい音、というのがありました。モダンの管楽器は、沢山のキーをつけることによって、その不均一さが、減ってきていますが、昔の楽器は特にそれが顕著だったのです。当然、くすんだ音しか出ない調、というのも存在したのです。

 ほかにもいくつかの理由があるのでしょうが、私がわかるのは、このくらいです。

 中高生のころの私は、部屋を暗くしてヘッドホンをフルボリウムにして、フルトベングラーの新世界よりや未完成をききながら、お箸をタクトにして振り回していました。チャイコフスキーもレコードがすり切れそうなくらい聞きました。

 この辺の時代のモノは現代オーケストラでも違和感を感じないのですが、桐山さんはいかがですか?

もちろん、私はバロック専門ではなく、何でも演奏します。オーケストラに、エキストラに呼ばれることもありますし、現代曲も弾きます。時々、ポップスまでやっています。

 モダン楽器による演奏も、素晴らしいものは素晴らしいのです。たとえバロックの曲でも、モダン楽器による素晴らしい演奏というのも存在します。

 大切なのは、どういう楽器を使うかではなく、その曲にどんなアプローチをするか、どんな気持ちで演奏するか、何を表現するか、ということだと思っています。その作品が書かれた当時の楽器に接することで、その作品にどうアプローチしていったらよいか、ということが見えてくる、そのことの方が重要だと思っています。

 あとは、個人の趣味の問題、私としては、今は、バロックの作品はバロック楽器で演奏する方が音の響きが好きです。でも、モダンの楽器で演奏しても、演奏の仕方が良ければ、それは素晴らしいものだと思います。

 「ブルージュ国際古楽コンクール」というのは、どんなコンクールなんだろう?
という話題になり、みんなよくわからない。

 ロンティボー、ショパン、チャイコフスキーコンクールについては、テレビでもドキュメンタリー番組が放送されましたので、少しは想像が付くのですが、「ブルージュ国際古楽コンクール」については、いまだそういう番組の記憶がありません。

 このコンクールの創立のいきさつと、桐山さんが受賞された年のエピソードなどお話してくださると、大変有り難いと思います。

 ブルージュ国際古楽コンクールは、1964年から毎年、行われています。ここ数年は、オルガン部門の年、チェンバロ部門とピアノフォルテ部門の年、その他の楽器と声楽の年、が順番に回ってきています。それに、時々室内楽部門も行われています。

 日本では、テレビなどで宣伝はされていないので、一般の方々は知らないと思いますが、古楽界では、有名なコンクールです。毎年日本人は何十人も受けるのですが、なかなか入賞できません。昨年3人入賞というのは、すごいことだったのです。

 過去、日本人でソロ部門1位をとったのは、1975年フルートトラヴェルソ部門の有田さん、1995年ピアノフォルテ部門の小倉貴久子さんだけです。

 昨年は、すべての旋律楽器、リュート属、声楽すべて一緒に審査、124人(うち日本人17人、ヴァイオリン13人)が応募していました。一次予選が三日間行われ、二次予選に進んだのが19人(うち日本人3人、ヴァイオリン3人)、本選出場者は7人(ヴァイオリン、フルートトラヴェルソ2人(2人とも日本人)、リコーダー2人、声楽2人)でした。

 伴奏者は、連れていっても良いのですが、お金がかかるので、公式伴奏者に頼みました。公式伴奏者との練習は練習室で一回30分ほど、それと会場練習だけなので、ちょっと不安でしたが、特に二次予選の時の伴奏者はとても上手で、こちらがどんなことをやっても、すぐに合わせてくれて、弾きやすかったです。

 あらゆる楽器が一緒なので、何を基準に審査しているのか、審査する方は大変だと思いますが、受ける方にしてみれば、課題曲の難易度など、不公平だ、と感じる部分もあります。今回の場合、ヴァイオリンはすべて課題曲が決められ、選択曲はなかったのですが、声楽やリュートは作曲者や、時代だけ指定されていて自由に選べたり、ヴァイオリンは本選にバッハの無伴奏の、しかも一番難しい曲で20分以上かかるのに、リコーダーは、ヴィヴァルディの短い協奏曲だけだったのです。

 結果は、その辺も考慮してくれたのだと思います。本選での私の演奏は、完成度はそれほど高くなかったと思いますが、あの難曲をこれだけ弾いた、という評価もあったのではないかと思っています。

 コンクール期間中、ブルージュ市内の学生寮のようなところに宿泊していたのですが、毎年のことだそうですが、蚊がすごくて、大変でした。火気厳禁なので、蚊取り線香はダメで、電気蚊取り器を使うように、ということだったのですが、ぼくは、蚊取り線香を持ち込んで使っていました。もう一つ困ったことは、シャワーがぬるま湯しか出なかったことです。

 それから、ブルージュは海に近い町なので、遊びに行こうと思って水着と水中めがねまで用意していたのですが、本選まで残ってしまったので、それどころではありませんでした。

2000.3.16

 海外と日本では湿気がちがいますが、ヨーロッパのほうがバイオリンの響きがよくなることがありますか?

 バイオリンのコンディションどのようにして守っているのですか?

 温度、湿度によって、ものすごく左右されます。基本的に、日本の夏は、楽器にとって良くないのです。湿度が高すぎるので、鳴りも悪くなるし、弦の傷みが早くなります。一番細い弦は2〜3日で切れてしまうこともあります。その点、ヨーロッパの気候の方が、楽器にあっているのですが、逆に冷房が完備されていないので、暑さで苦労することはあります。控室とステージで温度差があるときは、ステージに出て、弦を手で暖めるなどしてから、調弦する事もあります。
 私が中高生のころのバロック音楽では、とにかく同じメロディーを繰り返していてやや面白味のない演奏がありました。最近の演奏では、あれ!いままで聞いたのとちがうぞ。でもこのほうが面白いな、いきいきしているなと思える演奏が多く、長生きしてもっともっと未来の演奏を聴きたいと思っています。

 桐山さんは、毎回即興部分の演奏を変えて演奏されているのですか?

 繰り返しで同じ事をやることは、さけるようにしています。基本的には、だんだん装飾を増やしたり、派手にします。

 また、装飾をつける以外にも、強弱や音色の変化、アーティキュレーションを変化させたり、いろんな事が出来ます。

 日本でも、スタンディング・オーベイションしてもいいようになると、うれしいですが。ただし、よくないときは、私は拍手もしません。

 演奏する側としては、どう思われますか?

 もっと、聴衆も自分が感じたことを表現してくれて良いと思います。

 ミュンヘンなどでは、ブラボーと、ブーイングが、同時に起こることもよくあるみたいです。

 ただ、どこへ行ってもお国柄とかあるみたいで、オランダでは、たいていみんな立ち上がって拍手するみたいで、誰も立たなかったときは、相当ひどい演奏だったのだと思った方がよいらしいです。

 コンサートマスターとして、オーケストラの中で、特別の役割と責任とは、どんなことなんでしょうか?いつかレクチャーしていだだければうれしいです。

 コンサートマスターの本なる分厚い本があり、上智大学オーケストラでは、歴代コンサートマスターに、引き継がれているとか。

 プロの場合はどうなんでしょう。

 明文化された決まり事のようなものは、特にありません。

 主な仕事としては、弓遣いを決めること、指揮者とオーケストラの仲介役をすること(指揮者の手助けをすること)など。

 ただ、大事なのは、そういう仕事が的確にこなせるかどうかではなく、オーケストラのメンバーにどれだけ信頼されているか、ということだと思います。

 私は、オーケストラシンポシオンのメンバー、特に弦楽器のメンバーには、ある程度信頼されていると思うので、何とかつとまっていますが、他のオーケストラのコンサートマスターが自分につとまるかどうか、それはわかりません。