サントリーホールメンバーズクラブ機関誌MUSE
vol.84 September 2001

 

武久源造/コンヴェルスム・ムジクム
桐山建志ヴァイオリニスト

この時しか聴けない、1回限りの
モーツァルトを楽しんでください。

昨年のメンバーズ・クラブ特別コンサートがきっかけで生まれた、古楽アンサンブル「武久源造/コンヴェルスム・ムジクム」。
実力ある若手演奏家たちが集うこの団体が9月、モーツァルト・プログラムで二晩連続の演奏会を行います。
中心メンバーであるヴァイオリンの桐山建志さんに古楽器の面白さを教えていただきました。 聞き手:神倉健

 数年来、彗星の如く立ち現われ、その知的で幅広い対応力こよって、今や我が国の古楽界になくてはならぬ存在となったバロック・ヴァイオリンの貴公子、桐山建志。先頃リリースされたデビュー・ディスクは、いきなり「レコード芸術」誌の特選盤に伍された。現在4つの演奏団体で重要な一翼を担うほか、ソリストとしての活躍も目覚ましい。その彼が9月に、武久源造率いる“コンヴェルスム・ムジクム"の中心メンバーとして登場する。

 目下のところ、活動の大部分はオリジナル楽器だが、現代楽器も巧みにこなす“両刀遣い"だ。
 「僕にとって、どんな楽器を使うかは、それほど大きな問題ではありません。自分が弾こうとする作品、自分が目指す表現に最も適した楽器を選択しているのです」

 バッハやモーツァルトの時代の楽器には、現代のとはひと味違った魅力があるという。
 「現代の楽器では、なるべく均質な音が出せるように作られていますが、オリジナル楽器はそうではなく、不均質な一面があります。ところがある意味でその分、微妙なニュアンスを表現することができ、それが多様な表情の面白味に繋がってくるのです」

 だがオリジナル楽器さえ使えば、それでよいのかと言うと、そう簡単な話でもない。
 「現代の楽器を金属バットに例えるなら、オリジナル楽器は木製バットのようなものです。芯に当たればボールは遠くに飛びますが、その芯に当てること自体が難しいのです」

 コンヴェルスム・ムジクムの主宰者である鍵盤奏者、武久源造と出会ったことで、自らのうちに眠っていた未知の可能性に目覚めた。その契機となったのは、ほかならぬメンバーズ・クラブ特別コンサートだった。
 「コンヴェルスム・ムジクムのメンバーたちとは、あれこれ細かい打ち合わせなどしなくても、その場で瞬時に気持ちが通じ合います。自分の抱いているアイデアを即座に演奏に反映させることができ、ここでは一番自分が自分らしくいられるのです。反面、一瞬でも気を抜くと、ほかのメンバーに喰われてしまうので、常に自分にシピアでなくてはなりません。彼らとの演奏では、いつもよい意味での緊張感があります」

 9月のステージは、この団体にとって初の古典派プログラムとなる。
 「今回の曲目には、よく知られた作品が含まれていますが、聴き慣れた名曲から今までにない新しい面白さを引き出してみせたい。きっとその時しか聴けない、1回限りのモーツァルトでしょう。どんな演奏になるのか、僕らも楽しみです」

 この5月には、数年来のお相手とめでたく華燭の典を迎えた。公私ともに充実の極みにある“宮さま"(その風貌と温厚な人柄から仲間うちでは、こう呼ばれている)が、いずれも“ひと癖ある手練ども"といかなる会話conversumを繰り広げるのか、努々お聴き逃しのなきよう……。

2001年6月、サントリーホールにてインタピュー

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