音楽の友2005年3月号 渡辺和 ●弦楽四重秦を究める鬼才たち マーティン・ビーヴァー(vn) 思えば東京クァルテットは前例のない道を歩む団体だ。室内楽の伝統皆無の異文化出身の若者が、「総譜を忠実に再現すれば音楽できる」という一念で最初の頂点を極める。国際的大メディアの傘下でキャリアを始めたところで、第1ヴァイオリン脱退という前代未聞の試練に直面。カナダ人にスイッチし、危機を乗り越え黄金時代を築くも、病気で再び第1ヴァイオリンを失う。ロシア人を迎えた数年の模索の後、団の未来を委ねるべく迎えられたのがカナダ人ビーヴァーだ。老舗の第1ヴァイオリンに抜擢された若者は、コペルマン時代に確たる道を見出しかねた東京Qに、ウンジャン時代の黄金の中庸を再現するか。それとも晩年のグァルネリQの如き闊達の域に向かうのか。 桐山建志は、オランダ系が主流の日本古楽界にあって、ドイツ系ピリオド楽器アンサンブルのコンサートマスターや室内楽奏者として貴重な存在。モダン楽器ではヴィオラに持ち替え、エルデーディQの内声を支える活動も無視できない。メンデルスゾーン研究者としても、小倉貴久子とのピリオド楽器デュオでソナタ全曲を録音、来年はエルデーディQで弦楽四重奏全曲演奏を予定している。 モダンと古楽器との持ち替えどころか、ヴァイオリンとチェロまで自在に操る田崎瑞博は、異才中の異才。古典Qで、モダンチェロ表現を一定方向に突き詰め、古楽器を手に合唱も加わるBWV2001の実質的りーダーを勤める。タブラトゥーラでのフィドラーとしての顔も含め、全部が本音なのだからオソロシイ。 番外は、元クリーヴランドQチェロ奏者ポール・カッツ。現在はニューイングランド音楽院の弦楽四重奏養成講座主任およびパリのプロ・クァルテット講師として、世界の弦楽四重奏コンクールに入賞する若手のほぼ全員を手掛けるほど。門下生から目を離せぬ知る人ぞ知る名伯楽ということで、要注目の番外篇とする。3月には東京で講座を開くけれど、彼のお眼鏡に適いそうな団体が日本にあるのかしら。
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