音楽の友2021年12月号

■ピリオド楽器で聴く ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ集V
10月18日.東京文化会館〈小〉桐山建志(vn)、小倉貴久子(fp)
ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第9番《クロイツェル》」「同第10番」

 解説表記とは異なる演奏順になり'これが大正解。「第10番」卜長調が素晴らしかった。

 《クロイツXル》は曲が始まった途端、驚いた。「ピリオド」とされていたが、ヴァイオリン本体は指板や顎当てなども含め、いわゆる「古楽器」というより現代仕様との中間、ハイブリッ卜に見える。弓もバロックボウとは先端の形が違い、ピッチは「基準音430ヘルツ」くらいにきこえ、現代標準とは4分の1音ほど低い感じだった。演奏のテンションも低い。日頃イメージしている《クロイツエル・ソナタ》とは別の作品に聴こえる。初演者ブリッジタワーがひいた《ク□イツェル》がこのようなものだったとは思えない。とはいえ緩徐楽章の第2変奏以後は'フォルテピアノの軽快な音と変幻する音色など、確かに発見があった。

 後半の「第10番」は本当に良かった。曲そのものが「形式なしの幻想曲」のように作られていることもあり、弓を軽く当てたヴァイオリンの音、なめらかに鍵盤の上を滑っていくフォルテピアノが非現実性を高め、不思議な感動にとらわれる約28分だった。最終楽章第5変奏に現れるフォルテピアノの短いカデンツァとそれに続く間奏(144小節以降)など、まるで夢のなかにいるよう。この日の成果は間違いなく「第10番」にあった。

 楽器については主催者経由で演奏者に質問を出した。ヴァイオリンは1720年頃フレンチの由。ただしラヴェルには「1724年グァルネリ」とあるが「本物ではない」との鑑定があった由。弓は現代フランス作で18世紀後半のスタイル、演奏ピッチは「425」だったという。  渡辺和彦

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