レコード芸術 2002年9月号 新譜月評

アルバムのタイトルが、『ヴァイオリン音楽の領域vol1』というのであるから、武久源造がこれまで『鍵盤音楽の領域』で全六巻までアルバムを作っているように、これからも次々と収録されるのだろう。この大変個性的なバッハがこの時代に現れてくるというのも輿味深い。

 かなりアフェットの濃い演奏である。ヴァイオリンとチェンパロのデュオの響きとしては大変に豊かな音楽世界を作り出している。しかし、デュナーミクもアゴーギクも、ひょとしたらバロックのものではないかもしれない。だが、別な聴き方をすれば、これはまさしくバロックのファンタジーのような性格を表現しているとも言える。

 桐山建志も武久源造も音楽史の時代様式には一家言もった演奏家であり、自己の解釈意図を的確に表現できるしっかりした技巧の持ち主だ。そうならば、ここに聴けるヴァイオリン・ソナタ集は確かに彼らが到達した新しいバッハ音楽像ということになる。今後のシリーズがどのように築かれてゆくか、また、どのように新しい表情をもった音楽を提供してくれるか、しばらく注目してゆきたい。 〈平野〉

「録音評]さえざえとしたヴァイオリンが印象強いが、チェンバロの豊かな響きもすばらしい。全体に演奏にやや近めに迫っての収録を感じさせるが、豊かな音場も伴い、清澄な雰囲気の収録でもあって爽快さを誘う。無伴奏曲は心持ちオフだが、ぎすぎすしないサウンドが快い。2001年1月と7月に、秩父ミューズパーク音楽堂での本レーベルの主宰者、小島幸雄がプロデューサー&エンジニアで収録。 〈93〉神崎

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