音楽の友 2003年4月号 今月の一枚

選・文 平野昭

バッハ音楽の普遍的な美しさを堪能

桐山建志と大塚直哉によるすばらしいバッハ演奏。彼らふたりの演奏を聴いたことのある人にとっては少しも不思議ではないだろうが,このディスクは想像以上にすばらしいのだ。第一に響きが美しい。この響きというのは音色も音量も,そして旋律の流麗さ,リズムの生彩すべてを含めてのトータルな意昧での響きだ。バッハ作品はいろいろな演奏家によるさまざまな解釈で耳にするが,そうしたものの中には往々にして時代様式に無頓着なものが少なくない。しかし,桐山と大塚は時代様式やバロックの演奏習慣,表現語法をしっかり把握している。だからと言って彼らの演奏が,いわゆるアカデミックな意昧でのオリジナル主義にのみ捉われているのではない。この演奏を聴けばたちどころに感じられるのは生き生きとした現代的感覚に溢れたスマートさだ。彼らの洗練された高度な演奏技術と大変に豊かな音楽性によって生み出されるバッハ音楽の普遍的な美しさが堪能できる。

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